走れ、マーメイド【七月ハリケーン】150831
2015年08月31日 芸術創造館 (110分)
人魚姫をベースにした、愛と成長の物語みたいな感じかな。
優しく温かい空気を漂わせながら、自分で囲ってしまった世界の中でただ立ち止まっていても仕方が無い。この世界は素晴らしい。それを信じて、自分の足で駆けて、世界を拡げていこうというメッセージが伝わってくるような話でした。
あまり見たことのない、豪快な人魚姫キャラはじめ、主要キャストの個性的なキャラ作りが非常に楽しく魅力的。
アンサンブルキャストによる多彩なキャラが創り出す、舞台の躍動感、綺麗な情景描写が、作品をさらに素敵に感じさせている。
港の国の王子、ハンスは船上でパーティーを開いていました。
ハンスの幼馴染であり、ちょっとお堅いところがあるけど、優秀な臣下、オモリ。
同じく、幼馴染で麦の国の王女であるマルグレーテ。ハンスの婚約者です。
二人の婚約をオモリはもちろん、マルグレーテのお世話役であり、ハンスやオモリにとっても、幼き頃からお世話になった良き教育者である老兵、ガラハットも喜んでいます。
マルグレーテの伯父である司教、グレゴリウスは、その立場からか、手放しで喜んではいないみたいですが、神へのご加護を祈っているようです。
招待してもいないのに、あまり役に立たなさそうな道化を連れて、勝手に入り込んできた鉄の国の王子、ピエールは、美しいマルグレーテを射止めたハンスに嫉妬しています。
そんな楽しいパーティーでしたが、海では嵐が近づいており、ハンスは船の外に放り出されてしまいます。
海の中では、海の王の下、恒例のサメレースが行われていました。王の溺愛する娘、人魚姫のエメラルドは、サメに乗り、颯爽と活躍。
姫ともあろうものが、こんな危険なレースに参加するとは。世話役のアンモライトは、王に会わす顔が無いと愕然とし、侍女のコーラルも頭を抱えています。
友達の詩人、パールは、そんな人魚姫の良き理解者らしく、、一緒に楽しんでいる模様。
そんな中、一人の男が海の中を沈んでくる。ハンスです。
エメラルドは、ハンスを近くの砂浜まで運んで助けます。
翌日、救出されたハンスは、オモリ、ガラハット、マルグレーテはじめ皆から、無事を喜ばれます。特にマルグレーテは王女の立場を忘れて、ハンスに抱きついて、喜びを見せます。
そんな姿をはしたないとグレゴリウスは咎め、マルグレーテに部屋に戻るように指示します。しきたりやその立場から、自分の思いのままの行動をしてはいけない。そんな窮屈さもマルグレーテにはあるようですが、ずっとそう育てられてきたので、逆らうことなく、ハンスと別れます。
ハンスは思い出します。あの暗い海の底に沈む中、天使のような美しい人に抱かれたことを。
酒場では、ハンスが無事だったことをネタに盛り上がっています。
娼婦たちも、目当ての男を見つけ、ひと稼ぎしようと群がっています。
一人だけ相手にされず、後片付けをしている娼婦、イチ。
彼女の下に、黒装束の男が近づいてきて、大金を見せながら、耳打ち。
どうやら、何か仕事を頼まれたようです。
エメラルドも、ハンスのことが気になっているようです。
あれから無事だったのだろうか。
思い立ったらすぐ行動。同じ姫でも、マルグレーテとは真逆のようなエメラルドは、パールを連れて、ハンスの城に侵入。
当然のごとく、不審者扱いされて追われる身に。
そして、マルグレーテの部屋にかくまってもらいます。
でも、追手が迫っている。今回は、とりあえず撤退。
エメラルドとパールは海の中へと消えます。
戻ったエメラルドは、アンモライトとコーラルからひどく叱られますが、いつものことらしく平然としています。
そんなことより、また陸へ上がるなら足が欲しい。
どうしたら足を手に入れられるのだろうか。
そんなことを聞いてくるアンモライトは、怒りを露わにして叫びます。あのオカマの魔女のことなど言えるわけないじゃないですか。
エメラルドとパールは、すぐさま、海の魔女のところへ向かいます。
海の深い底には、確かにテンションがおかしいオカマの魔女、パープルパープルがいました。
そして、かつて、サメレースに毎年勝利を収め、数々の武勇伝を持つ勇敢な騎士、カールが、セクシーな女性の姿になっていました。今は、ピンキーピンキーという名前みたいです。消息不明になっていたのは、こういう訳だったようです。
エメラルドは、魔女から足をもらいます。何となく怖いから、道連れにパールも。
ただ、想いを人に伝えたら、泡となって消えてしまうという呪いもかけられてしまいます。
エメラルドとパールは、さっそく陸へと向かいます。
足をはやしたその姿に、怒りと嘆きを見せるアンモライトとコーラルを置いて。
そんな頃、オモリは、イチに声を掛けられます。
ずっとあなたのことが。
お堅いオモリは、いちころで引っ掛かります。そして、イチの頼まれ事に協力することを決め、イチに付いていきます。
自分はハンスに弄ばれた。悔しい。謝罪の言葉を聞きたいから、ハンスをさらいたい。
そんな様子を影から見ていたピエールと道化。
ハンスの傍に、優秀なオモリが今はいない。
ハンスをさらって、その間に愛しのマルグレーテに求愛すれば、きっと自分になびいてくれるはず。
エメラルドは城に無事侵入し、ハンスと再会します。
その横には、以前会ったマルグレーテもいました。
ハンスは、エメラルドが命の恩人であることをマルグレーテに伝え、エメラルドにマルグレーテが自分の婚約者であることを伝えて、紹介しているところ、いきなり入り込んできたピエールと道化に殴られ、さらわれてしまいます。
追わなくっちゃ。エメラルドはすぐに後を追おうとしますが、マルグレーテは躊躇します。城から勝手に出てはいけない。
騒ぎを聞きつけやって来たガラハットからも、しかるべき者を追わせるから、マルグレーテはここにいるように諭されます。
でも、エメラルドはそんな言うことを聞きません。
自分のしたいことをする。
そんな姿に、マルグレーテは自分もエメラルドと一緒に行くと決めます。
ガラハットは、そんな覚悟あるマルグレーテの姿に何も言わず、恐らくはピエールが向かったであろう場所を伝えます。
エメラルドとマルグレーテは、ピエールの隠れ場である船に向かいます。
ピエールも道化も、所詮、大したものではないので、あっさりと捕まえ、ハンスを無事救出。
ところが、黒装束の男たちとオモリが現れ、ハンスを再びさらっていってしまいます。
いったいどういうことなのか。
マルグレーテは、ハンスを助けたい一心で、ピエールにむち打ち、ハンスの行き先を聞き出そうとしますが、ピエールは知らないと言い張ります。
どうやら、ピエールと黒装束の男たちは無関係のようです。
代わりに、逃げ遅れたいがぐり頭の黒装束の男を脅します。
どうやら、ハンスと知らずにさらったようです。女を弄んだハンスとそっくりな男をさらうようにと誰かから命令されたのだとか。
確かに、普通の人が、一国の王子をさらうなどと大それたことをするわけがありません。
どうやら、黒幕がいるようです。それがオモリなのか。
マルグレーテは、今度は自分から後を追うと言います。愛するハンスを救いたい。大事な友達オモリに理由をきちんと聞きたい。
エメラルドは、ガラハットから馬車を借りて、マルグレーテと共に颯爽と駆け出します。
向かう先は岬の教会。いがぐり男が、罪を許すことと引き換えに、そこにハンスを連れて行ったはずだと白状しました。
教会では、ハンスが目を覚まします。
弄んだイチに謝れ。ハンスはオモリの言葉が理解できません。
司教が現れます。
イチ、オモリ、ハンスを捕え、全員を始末する気のようです。
イチは、オモリを騙して、ハンスを連れて来るように言われただけだと訴え、その報酬を払えと訴えます。
司教は、初めからイチを騙すつもりだったようで、汚らわしい女に払う金などないと罵ります。これにオモリは怒ります。彼女を侮辱するな。
ハンスは、いまだ状況が掴めずにいます。
到着したエメラルドとマルグレーテ。
剣を振るおうとしている司教の姿を見て、マルグレーテは止めに入ります。
司教は、ビクトリアという名前を口にします。それはマルグレーテの母の名前。
司教は、兄である王の妻、マルグレーテの母に想いを寄せていたようです。その母の面影がある、マルグレーテをハンスに奪われることが許されないと気がおかしくなっていたようです。
と言っても、状況が変わるわけではありません。
司教は、今にもハンスたちを斬りつけようとしています。
そこに現れたアンモライトとコーラル。
二人は、足をはやし、勝手に陸へと行ったエメラルドを責めながらも、やはり心配だったようです。
そして、そのことは王にも伝えられていました。
従者としての失態。アンモライトは、償いのために自決を王に申し出ますが、王はそれを許しませんでした。
エメラルドが自分で決めた道を進むことを信じ、許したようです。単なる溺愛ではなく、本当にエメラルドを愛していたのでしょう。
王は、アンモライトとコーラルに、あるものを渡していました。
本当に窮地に陥った時、このボタンを押せと。愛と書かれたそのボタンが押されます。
いきなり、華やかな空気に包まれる教会。
歌や踊りのショーが始まる中、ピンキーピンキーが華麗に現れます。
数々の武勇伝は伊達じゃない。
あっという間に司教たち、黒装束軍団をやっつけてしまいます。
さあ帰りましょう。
そう促され、海に戻ろうとするエメラルド。
ハンスは、そんなエメラルドに声をかけます。
したいことをする。それは思っていることを伝えることにも繋がるのでしょう。
エメラルドはハンスへの想いを口にします。
エメラルドは、泡となり、消えていき・・・
といった、人魚姫をベースにして、愛を描きながら、一歩踏み出すという人の成長を同時に描いた話のようです。
ちなみに、人魚姫は、なかなかの豪快なキャラで、それにふさわしく、泡となんかになって儚くは消えません。
友人であった詩人、パールがエメラルドのいない世界の悲しみ、それでも、今あるこの世界は素晴らしいなどと語る中、泡から無事に体を再生して、これからもいっちょやったるぞと、エメラルドはたくましい姿を最後に見せます。
そんな簡単に消えてなるものか。
自分を縛り付けるものなんて、所詮、自分で作り出しているのではないか。動けないんじゃなくて、動かないだけだろ。
辛い思いをしたって、まだ先にある素晴らしき世界を信じていれば、いくらでも前へと進みだせる。
足を持つ人間なのに、自分を縛るものを振り切ることもせずに囚われ、窮屈な空間の中で立ち止まる。傷つくことを恐れ、一歩踏み出さずに、じっと待っているだけ。
足があろうと、無かろうと、堂々と駆け出すエメラルドとの出会いによって、自分の中に変化が生まれたマルグレーテル。
本当に足を手に入れたのは、マルグレーテルで、その足で歩み出す先にこそ、彼女を待ち受ける素晴らしき世界があるのかもしれません。
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コメント
めっちゃ好きかもしれないです。ここ最近では最高レベルでいろんな分野での好き度がビビビと反応しました。仕事前半休んで観に来て良かった(*^o^*)よくよく考えたら粗い部分もあったと思うのですがイロイロな工夫が目を楽しませてくれました。ただ観客の役者率も高かったのかな? もっとウケてもいい部分でイマイチウケてなかった感じはしましたが(笑)
今回一押しの役者さんはガラハッド役の高島理さん。出て来はった時から老人役うまいとは思いましたがあの杖を使った殺陣と演技完全に魅了されてしまいました。高島さんは本若では平維盛役で3度、この前のしろみそ企画でも拝見しているのですが… 今回で最高級評価の役者さんとなりました。次拝見するのが楽しみです。
布を使った演技は何度か観たことがありますが久しぶりなのかな? それもあるのかとてもよく感じました。
舞台もうまく作らはったみたいで。再現シーンのところなども好きでした。
オープニングの映像も舞台美術にうまく合わしたはりましたよね。
投稿: KAISEI | 2015年9月10日 (木) 09時58分
>KAISEIさん
人魚姫をここまで爽快な作品にまで創り上げたことに感服ですね。
様々な創意工夫、役者さんの輝きと私もかなりの高評価となりました。
高島さんは確かにいい。
あの空気は非常に味があります。
投稿: SAISEI | 2015年9月16日 (水) 20時11分