竹林の人々【OFFICE SHIKA PRODUCE】150813
2015年08月13日 HEP HALL (105分)
テンポの良さだろうか。
陰鬱なコンプレックスワールドを描いているのに、笑いが絶えない。
前半は、こういう卑下する自分ってあるよなあと心の中でモヤモヤしながらも、ほぼ笑いっぱなし。
後半は、泥臭いけど、熱いエネルギーがあるから、鬱蒼とした中でも光が見える。
家族を愛する気持ち、自分を見詰める想いが、様々な人生の葛藤の中で、溢れ出してきて、未来に繋がる。飲み込まれそうなくらいの溢れる感情の流れに、必死に抗い、受け止め、懸命に生きる男の姿が突き付けられる。
家族の再生、自己改革といったような、周囲の想いを受け止めながら、成長する人の姿を描く普遍的なテーマでありながらも、やたら人間臭く、リアルな心の葛藤やぶつかりが心に響いてくる作品だった。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>
舞台は中央に大きい黒い箱のようなものが置かれる。
回転させると、部屋や教室となっていて、シーン転換する。と同時に壁の面は黒板になっており、風景や登場人物の心情を絵で表現できるようになっている。
また、天井に登ると、その黒い箱は川の氾濫を防ぐ防波堤となる。
小説が原作なだけに、少し語り調の部分も盛り込んで、イメージが損なわれないような作りにもなっているよう。
大阪のとある町の、ある家族のお話。
天パで背も低く、ちんちくりんの梅竹。
家族は、父、母、兄、それと魔物。
要領のいい父、綺麗でいることに気を使う母。
何でも出来る子だと皆から大切にされてきた兄。
魔物は、幼き頃、兄が竹林で拾ってきた。母親に捨てられた犬のようだ。
家の近くを流れる川、天竺川。名前とはえらい違いでドブ川。氾濫するたびにコンクリの堤防が高くなる。その工事で財を成したのが、この家族。今は、そんな工務店の仕事にも見切りをつけ、会計士とやらをしているみたいだ。
残されたものは、母屋とは土間で仕切られた、現場の作業員が仮住まいしていたはなれの部屋があるぐらい。今でも脚立などが残されて、当時を思わせる。
昔は、川が氾濫するたびに下水も混じり、浮かぶウンコを掃除したのだとか。父から聞かされ、みんなで笑い合った。
いつからだっただろうか、家に重苦しい空気が漂うようになったのは。あの魔物がやって来たからじゃないだろうか。
息苦しい。暗い。孤独だ。
雨が激しく降っている。
濁った泥水が堤防を越えて、全てを無くしてしまえばいい。梅竹はそう思う。
兄はイケメン、文武両道。背も高く、直毛。女もとっかえひっかえ。
優秀だった兄は、両親から勉強をさせられまくっていた。反抗するように家出。すぐに見つかり、縛り上げられる。でも、自分の小指を切って脱走。
大学受験。わざとなのか失敗。はなれの部屋にひきこもった生活を始める。時折、母に金をせびって暴れる。暴れ馬だ。
梅竹は、最近、流れで10年来好きだった同級生に告白した。なびくポニーテールが綺麗な子。
困った顔をされる。でも、少し期待もした。後から同級生に聞かされる。彼女はバスケ部の先輩と付き合っているのだとか。
バスケ部の先輩。ペガサスのように輝く人。兄と同じだ。
わきまえる。あの人たちは日の当たる人。高望みした自分を恥じる。
孤独。暗闇。本当に兄と兄弟なのだろうか。拾われた子じゃないのか。
魔物の下へ向かい、自分を確認するかのように暴力を振るう。
暴力を振るわれている時、生きていると実感する魔物。
彼もまた孤独で暗闇の中にいる。
父が浮気。松竹は、父に問い詰めようとするが、威圧され、聞くこともできずにボコボコ。兄もただの人だった。
兄は、もう自分はこの家族を捨てると、はなれの部屋に完全にひきこもる。
梅竹は微笑む。あの時もそうだった。小指事件の時も。
梅竹は告白した同級生に呼び出され、正式にフラれる。
出来るだけ爽やかに去った。
負け戦。出来るだけ傷を浅くする。それが自分のようなダメな人間の生き方だ。自分なりの戦い方。
母が乳がんになる。摘出手術に抗がん剤。自慢の黒髪も抜け落ちて頭皮が顔を覗かせる。
父は少し人が変わったように弱気になった。
梅竹は母の面倒を見る。
ふと見ると、母の頭から少し髪の毛が生えてきている。チリチリの。
ずっと、ストレート矯正をし続けていたらしい。
梅竹の心にほんのりとあかりが灯り、心が温かくなる。いつもは、ぶつかり合って、燃えるような熱さしか感じなかったのに。
梅竹は魔物を外に連れ出す。
竹林。ここで拾われた。そして、ここで魔物は母と共に生きていた。自分の生まれた場所。帰るべき場所なのか。
梅竹は魔物とお別れする。
魔物は、梅竹にしがみつく。
暗闇から抜け出せても、まだの残る不安、孤独。魔物は胸を熱くして、竹林の中にたたずむ。
母の容態急変。
父はあり得ないくらいにオロオロしてしまっている。
梅竹は兄を呼びに行く。家族だから。
兄も呼ばれる前から、母の下に駆け付けるつもりだったらしい。
救急車で運ばれる母を前に父も兄も泣き叫ぶ。
この人たちもただの人だ。
涙腺の堤防が決壊した。涙が溢れて流れ出す。
母が意識を取り戻し、逆にしっかりしなさいなんて叱られて。
家族みんなで笑い合う。
あの頃が戻って来た。
魔物はあれから、家に戻って来た。
何で帰って来たのだろう。梅竹には分からない。
魔物は思う。お前らが閉じ込めたからだろう。
暗闇から抜け出しても、そこはまた孤独で暗闇だった。だから、帰って来た。だって、ここは自分の居場所、家族だからだ。
願わくば、梅竹は抜け出さた暗闇の先に光があって欲しい。この薄暗い大事な風景を目に焼き付けながら眠りにつく。
ふっ切れた梅竹は、バスケに燃えてみる。
先輩と対決。シュートはなかなかうたせてもらえない。
かっこ悪く転倒して、流血。
血だ。半分は父と母、家族の血。残りは自分。その中には魔物がいつも潜んでいた。
それでいい。
母はあれから体調を取り戻した。父は少しだけ優しくなったような気がする。もっとも、浮気が本当だったのかは分からない。兄の虚言だと思うことにしている。
兄ははなれで同棲生活を始めたが、水回りも無い部屋なので、結局は家族に依存している。
みんな、自分の暗闇、孤独に息を切らし、苦しみながらも歩いている。
梅竹は、その血を感じながら、ゴールに向かって、また走り出す・・・
自分を卑下して生まれる負のエネルギー。
魔物は悲しい。
人間が生み出したもの。それを消さないと暗闇から一歩踏み出しても、またそこに戻ってしまう。
常に前へ進み続けるには、魔物とお別れしないといけない。でも、大切な想いをもって。その暗闇で息苦しさの中、必死にもがいた証は、その人の血そのものなのだろうから。
不安や挫折、家族への歪んだ想い。自分を孤独、暗闇に追い込む、流れ込んでくる負の感情。
挫折にめげず、頑張ることで不安が無くなればいいな。家族だから、無償に想い合っていることを分かち合って、笑いが浮かぶ幸せな家族であればいいな。孤独に負けない強い自分になれればいいな。暗闇にいても、その一歩先が光射し込む明るい未来だったらいいな。
そう願うのは、誰でも無い自分自身。負の感情を持ち、暗闇の中で鎖に繋がれ、自分の能力にもがき、孤独に苛まれ、あがく自分が願っている。
自分の願いを叶えるのは、自分以外の何者でもない。
梅竹は、共に過ごした魔物から、自分の醜さ、愚かさ、弱さを見ながらも、そこに揺るがない自分の想いがきちんとあったことを見詰められるようになった気がする。
自分を生み出してくれた両親。同じ血を流す兄弟姉妹。自分の弱さから生まれてしまったような魔物。みんな家族だった。そこが出発点だった。無条件に帰ることのできる場所だった。
そのことを受け止めることが出来た時に、人は大きく成長し、新しい道へと自信をもって踏み出せるように感じるような話だった。
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コメント
この劇団、家族の話多いですよね?
あの箱見事でした。あんな風にシーンによって切り替わるとは(驚)
投稿: KAISEI | 2015年9月 3日 (木) 01時18分
>KAISEIさん
そうですね。
有名な電車は血で走るとかも家族を描いているし。
劇団もファミリーなんて意識も高いのかな。
あと、東京に行っても、関西ローカル地名が出てくるのも何か親近感が湧きますね。
投稿: SAISEI | 2015年9月 7日 (月) 18時07分