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2015年7月25日 (土)

アテルイ【HPF高校演劇祭 金蘭会高校】150724

2015年07月24日 メイシアター (140分)

金蘭会高校はHPF観劇、4年目にして初。
相当なレベルの作品創りをされる高校だと噂には聞いており、しかもこの大作。
付いていけないのではないかと、少々、不安を抱きながらの観劇。人気もあるのか、また客も多く、それだけでちょっと引き気味に。

観終えた今、ちょっと想像していたイメージと違いましたね。
今回の作品のこともあり、いわゆる商業演劇風の洗練された高品質な感じの作品を創られるのかと思っていました。
でも、当たり前ですが、そこには情熱溢れる力を持って、作品と丁寧に向き合って創られた高校生の舞台がありました。
全体を通して、一番強く感じるのは、チームワークとか、ハーモナイズの魅力でしょうか。
一挙一動を統制して揃わせる迫力もあると思えば、個々が自由に見せ場を作る自由さも感じられる。
そこから醸される楽しく、どこか温かい空気は、ここはあの人に任せられるという互いの信頼や、全員の力を合わせた相乗効果で驚愕の演出を創り出すといったような一体感から生まれているように感じます。

作品は大和と蝦夷の戦い。
征夷大将軍、坂上田村麻呂は、蝦夷を討伐しました。
たったこの程度で記される歴史の一文の中に、戦によって失われた命や、そこにあった人の想いに気付かされる。
大義や欲望によって引き起こされる争い。それによって傷つけ合う人間。
遥か昔、今の私たちと変わらぬ人間が、国を、自分たちを、大切な人を守るために、引き起こすことになった一つの戦。
そこから、戦うことの本質、私たち人間が根底に抱いているはずの願いを見詰めてみるような話でした。

日の国。
帝、率いる朝廷は、都に住む大和の民による国家統一のために、北の地に住む蝦夷の民を滅ぼさんと帝人軍を組織し、戦をたびたび仕掛けていた。
都では、帝の寵愛を受ける御霊御前や御天御前、帝に代わって政をしきる右大臣、紀布留部の策略により、無碍随鏡を筆頭に蝦夷を名乗る立烏帽子党という盗賊集団を組織し、民たちを苦しめていた。
この蝦夷を名乗る立烏帽子党は偽物であると、本物の立烏帽子が立ち上がる。
この立烏帽子が北の地で襲われていた時、彼女を救わんと、蝦夷の信じる荒覇吐神の使いを殺めたがために、蝦夷の地を追放された北の狼と名乗る男が都に現れる。彼の名は阿弖流為。
都の民を苦しめる立烏帽子党の正体に疑いを抱いていた都の役人、坂上田村麻呂。
各々の立場は異なり、大和と蝦夷という今は敵対関係にある3人ではあったが、協力し合い、立烏帽子党の正体を突き止め、都の民を守ることが出来た。
阿弖流為と坂上田村麻呂は、互いに認め合い、どこか友情のようなものが芽生え始める。

立烏帽子は、阿弖流為を迎えに来ていた。
北の地を、帝人軍の攻撃から救うためには、今は追放の身であっても、かつては蝦夷の長であった阿弖流為が必要。
阿弖流為は、故郷を、蝦夷を守るため北の地に戻る決意を固める。
坂上田村麻呂は、帝より正式に蝦夷討伐の勅命を授かり、征夷大将軍の地位を得る。今回の偽立烏帽子党事件をはじめ、汚い策略をもって蝦夷を攻撃する右大臣や、実の姉である御霊御前らのやり方に疑問を抱きながらも、帝の命に逆らうことは出来ない。また、自分を愛してくれている踊り子、鈴鹿は、彼女の秘められた能力に目を付けられ、都の地下で幽閉されている。今、するべきことは蝦夷を討伐し、国家を統一すること。
坂上田村麻呂は、帝人軍の二本刀と名高い、飛連通と翔連通を引き連れ、北の地へと向かう。

北の地では、阿弖流為追放後、大嶽という男が長を務めていた。その娘、薊は、幼き頃から阿弖流為の良き理解者であり、この帰郷も歓迎してくれる。大嶽を長として慕っていた民たちも、阿弖流為を信じ、共に戦う意志を固める。
北の地に住む、阿毛斗を筆頭に4人の娘から組織される巫女たちの集団も阿弖流為への協力を誓う。
荒覇吐神の呪いは解けたかのように思われ、阿弖流為は再び、蝦夷の長として、帝人軍を迎え撃つ。
しかし、薊に想いを寄せる蛮甲という男は、阿弖流為を拒絶し、己の欲のままに、帝人軍に寝返る裏切りを見せる。
佐渡馬黒縄夫婦はもまた、右大臣に取り入り、自らの地位だけを守るがために、蝦夷たちを裏切っていく。
さらに、右大臣、紀布留部は呪いの力を使い、蝦夷の民に汚い策略を仕掛け続ける。
これに反発する坂上田村麻呂。
彼をただ守るために鈴鹿の化身のような仭明丸という新たな三本目の刀も現れる。
守るべきものを忘れてしまったかのような憎しみだけの戦い。獣のように戦っていてはいけない。
蝦夷にとって、この戦いは自分たちの存在を守るもの。都にとっては、獅子の国と呼ばれる強大な国から、この日の国を守るがために、国家を統一する必要があること。
互いを認め合った形で、この戦を辞めることが出来るはず。
阿弖流為もそんな坂上田村麻呂の考えに同調を示す。二人は、敵同士でも互いに認め合い、信じ合う関係を築いているから。
和睦。
全ては、これで終わるはずであった。
しかし、阿弖流為、坂上田村麻呂の二人には、抗えぬ運命が待ち構えており、それに翻弄されるように、互いに剣を交わすことになり・・・

都の戦の大義が、今の安保みたいに感じられたり、蝦夷の大義はマイノリティーへの弾圧からの解放であったりと、いつの時代も戦に導かれる要因は変わらぬものなのだなと。
そこに、いつの間にか、個人の欲が絡んだりと。
大義はいつの間にか、あいつが憎いとか、あいつのためにとか、自分のためにとかに変わって、何を滅ぼし、守るのかも分からないような戦いへと変わっていってしまう。
阿弖流為は、鬼でも無く、蝦夷でも無く、ただただ人間です。人間だから、同じ人間が襲われていた時に救おうとした。相手が神であっても。
鈴鹿が実は、立烏帽子だったようです。その救われた立烏帽子もまた、大和でも無く、蝦夷でも無く、ただただ人間です。だから、坂上田村麻呂を愛した。田村麻呂だって、人間。だから、その愛を受け止めようとした。
私たちは、人として、今、この時に、この地に居る。
ただ、そのことだけが、私たちは想い合え、通じ合えるのだという理由に繋がり、、滅ぼす、守るというだけの構図の戦から解放してくれるのではないかと感じます。
阿弖流為は、蝦夷である仲間の立烏帽子、互いに認め合うことができた坂上田村麻呂が、人として、これからの時を、想いを互いに抱きながら過ごして欲しいと願いながら、自らは、人であることを捨て、神になったかのようにこの地に封印されたような印象をラストは受けました。

話を追うのに精一杯で、個々の役者さんをどこまで見れたかは疑問ですが、少しだけコメント。
阿弖流為、片岡紗江さん。立ち姿じゃなくて、立ち回りと言うのかな。身のこなし方と言うのか。よく分かりませんが、動きに凛々しさを感じます。単純ですが、かっこいいという言葉が一番似合うでしょうか。
坂上田村麻呂、野口彩華さん。最初はおちゃらけた軽い感じが、話が進むにつれて、凛々しく。田村麻呂が様々な経験をして成長していく姿が見れたような気がします。
鈴鹿、仭明丸、有園果歩さん。踊り子は現代風の若い女の子、田村麻呂の守り刀は男前、最後の蘇る鈴鹿は人を想う大人の女性。大きく三変化。女優さんのなせる技ですね。
御霊御前、御天御前、北川明希さん、三好貴美里さん。御前という見た目の美しさと、綺麗に動きと言葉を丁寧に合わせる美しさが乗じて、非常に観ていて心地よさを感じるお二人でした。ただ、悪いことするので、好きにはなれませんが。
紀布留部、江川美乃里。上手ですねえ。どこかからベテラン引っ張ってきたのかと思うぐらい。声の抑揚、緩急の付け方、言い回し。おまけにちょっとコミカルで、かつ悪さはしっかり滲ませる。
佐渡馬黒縄夫婦、森田遥奈さん、井上比菜子さん。海賊みたいな独裁者風で、後半は自棄的な狂った悪さを醸す夫。妻は終始、悪い表情。その悪だくみをしている感が半端ない。ただ、カーテンコールでは笑顔に戻られていて、その変わりっぷりにそちらの方が印象に残る。
飛連通、翔連通、高山葵さん、高橋七海さん。凛として非常にかっこいいたたずまい。公演時間の都合もあったのでしょうか。このお二人の殺陣はもっと観たかったような気がします。
無碍随鏡、村田奈々さん。大悪にはなれない小悪人のくだらなさや愚かさを、醸す幼い駄々っ子ぶりで熱演。
立烏帽子、根本夏乃さん。最初の登場シーンから妙に威圧感があるなあと思っていたら、そういう役なんですね。実の荒覇吐神ですから。それに、これだけの部を仕切らないといけない部長さんという普段のオーラも出ていたのでしょうか。
薊、大久保汐里さん。あまり目立つキャラではないのですが、非常に村を守るという強い覚悟を醸されており、その姿が単なる村人に思えないくらいの凛とした姿として映りました。
大嶽、熊子、佐藤汐里さん。豪快だなあ、男らしいなあという言動をしておいて、実は違うというオチをつける剽軽キャラになっているようです。上記あらすじには書きませんでしたが、熊子もワイルドだけど、おバカという一貫した役どころをしっかり演じられます。
蛮甲、山口和咲さん。裏切り、裏切り。その根底には阿弖流為への妬み。クズのような役ですが、本当は色々と出来る力があったんだろうなと思わせるような、巧みな空気作り。私は、彼のような者を追い込むしか無いような余裕の無い世の中ではダメで、自由に泳がせてあげられる心の余裕をどこかにみんなが持つ世だといいなと思ったりしますが。
阿毛斗、戸高栞。非常に可愛らしく面白い方でした。すごいおばちゃんキャラになられていましたが。巧い役配置で、娘4人衆がとても幼い雰囲気の方々なので、濃いメイクの効果もあってか、豪傑ババアをしっかりと浮き上らせています。
他、偽立烏帽子党の面々、蝦夷の村人、巫女集団の娘たちの方々がいらっしゃるのですが、ちょっと多過ぎて、個々にまでは目がいかずで申し訳ないです。

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