あの潮騒が呼んでいる。【スアシ倶楽部】150704
2015年07月04日 カフェ+ギャラリー can tutku (55分)
江國香織の有名な作品なんですね。
そんなことも知らず、チラシの砂浜にたたずむ男と女二人の爽やかそうな空気に惹かれて観に行ったらえらい目にあいました。
息苦しい。
こういった作品を観ると、いつも自分は男だから、本当のところは理解できず、分かりませんといった感じで書くのだが、それすら許さないような脅迫感がある。
寂しい人たちが、その寂しさから飢えて、愛を求めようと、自分のことを見詰めることもなく、ただ他人からそれを得ようとする。
その姿がまた、寂しく、孤独感を募らせる話でした。
夏の夜。
女は、先輩の女性の家に招かれ、波の音に耳を傾けながら、二人で乾杯する。
先輩夫婦。結婚って素敵だ。
でも、先輩は恋をしたいと、ふとつぶやく。
女は、引っ越しの荷物の片付けをしている。
それを手伝う男。先輩の夫だ。
女は、男の肩に頭を載せて、二人だけの時間に幸せそうな表情を浮かべる。
ふと気付くと、見慣れない荷物がある。
開けると中には見覚えのある麦わら帽子と日記。
女は日記を読む。
そこには、先輩の結婚生活が綴られており、自分もその中に登場している。
セックスレスで、互いに会話をすることもほとんどない。ずっと飢餓状態。
夫にじゃがいもの芽でも食べさせて心中しようかな。そんな冗談を言う先輩に女は、自分の田舎に群生するトリカブトを薦めた。
鈴虫。じゃがいもを切り刻んだものを食べさせる。こんなもの食べるのかと思いきや、仲良く二人で食べている鈴虫の姿が。
でも、鈴虫は共食いする。だから、籠を分けることにした。それを夫は不思議そうに見ている。
二人の愛を確かめるようなことを言うと、夫は恐れるような態度を取る。そういうことなのだろう。
あなたは恋をしているの。私は恋をしなくてはいけないと思う。先輩の言葉に女はただ黙って耳を傾ける。私、愛人なんですなんて冗談で返して場は笑いに包まれたが、空気はどこか変わった。
そして、先輩は麦わら帽子を女に被せて、部屋を出て行った。
日記を閉じる。
女は男にずっと一緒にいようと声を掛ける。
返事をしない男に、約束だと小指を突き出す。
しばらく考えた後、男は自分の小指を突き出し・・・
愛に飢えていると訴え、自分で愛することを忘れ、ただ愛を求めることに執着してしまった悲劇のヒロイン気取りの女性。
愛に貪欲で、そのために人を裏切るとかは頭に入らなくなるくらいに、ただ愛を得ることに執着してしまった巧妙な女。
自分のことだけを考え、今、一緒にいる人をどう想い、自分がどう想われているのかに全く無頓着で、そんな人と付き合うということに無執着になってしまった情けない男。
こんな三人の結婚も交えた恋愛模様を描いた話という理解でいいのだろうか。
愛を得られない状態を飢餓と表現するんですねえ。
でも、餌をあげても、共食いする鈴虫みたいに、そんなことを言っている女性には愛がたくさん注がれても、空腹だと言って、何かを食べるのではないでしょうか。要は、この女性は、食い続けないといけなく、恋をし続け、結婚という安定の地にはたどり着いてはいけないということになるように感じます。
自分の恋愛経験からの、妬みや憎しみが混じるのは仕方ないでしょう。
正直、何を寝ぼけたことを言ってるんだと、この先輩には大きな怒りを感じます。
じゃあ、男に同調するかというと、そうもいかない男ですね。
自分では、きちんと愛しているとかぐらいに思っていて、それでも、ちょっと自信が無く、正当化できるように、別れても言い訳を用意しているような感じがします。
真剣に問われた時、一瞬ひるむのが、そんなことを感じさせます。
汚い。情けない。目を背けたい。
多分、これは少し、自分の姿も映し出しているところがあるからかもしれません。
夫を奪ってしまう女はどうでしょうか。
笑顔が妙にあざとく、巧妙で重い女をイメージさせられ、先輩と夫が籠を分けられることになった鈴虫なら、その鈴虫を喰らう蜘蛛みたいな感じです。
それも、やはり弱い男の方を狙う。
先輩とは、きっと互いに全てを知っていても、暗黙の了解で戦わないという調停を結んだようですから。それが、あの麦わら帽子なのではないでしょうかね。
三人を見ていると、夫婦、友達、新しい男女関係であるにも関わらず、どこか距離感があり、というか、互いに孤独であるように感じます。
ぽっかりと穴が開いている。
そんな隙間を埋めようと、何かを求めているようですが、たとえ、一緒にいてもそんな寂しさは消えることなく、ただ、空虚な波の音だけしか聞こえないみたいな感覚が、作品名に通じているように思います。
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