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2015年7月30日 (木)

オリジナルノート【HPF高校演劇祭 箕面東高校】150729

2015年07月29日 シアトリカル應典院 (65分)

初観劇。
チラシに記載されたあらすじ、クラリネット少女がうさぎと出会って不思議な世界に迷い込む話からは、当然、不思議な国のアリスをベースにしていることを想像する。
また、登場人物からは、赤ずきんちゃん、ヘンゼルとグレーテル、ブレーメンの音楽隊といった童話も組み込まれていることも。
歴史上の音楽家たちや、ドとかレとか音符もどういった形なのかは分からないが登場するようなので、クラリネットや作品名のオリジナル楽譜と絡んで、音楽がキーワードとなっていることをイメージして観劇に臨む。

童話をモチーフにしているだけに、全体の空気はとても明るく楽しく。ご出演の役者さん方の元気いっぱいな姿も相まって、可愛らしくもあり、自然に微笑みが浮かぶような舞台。
でも、そんな明るく元気いっぱいの空気に一人、溶け込めず、悩み苦しむ女の子がいる。それがクラリネット少女。
彼女は周囲の期待や人間関係から、自分の音楽を忘れてしまう。忘れるというか、音楽を、より向上したテクニックの集積からのみ生まれるものであると思うようになってしまっている。技術が足りなくても、少しリズムを刻むのが粗かったりしても、彼女の音楽はみんなの心を揺れ動かせていた。それはきっと、彼女が、音楽が大好きで、クラリネットでどんな曲を吹こうと、それは彼女にしか奏でられない、彼女の想いのこもったオリジナルであったからなのだろう。
大好きだから、上手になりたくなる。辛い時もあるけど、努力もする。色々あるけど、音楽が楽しい。クラリネットを吹いていると、とても幸せ。
そんな当たり前の気持ちを思い出すまでの話を描いている。

彼女は、不思議の国のアリスのように、ウサギに不思議な世界に連れて行かれ、その世界で様々な人と出会いながら、自分が忘れてしまった音楽の気持ちを取り戻す。
大きく3つだろうか。赤ずきんちゃん、ヘンゼルとグレーテル、ブレーメンの音楽隊。
その世界では、彼女自身の過去の姿を、その童話の世界のキャラと同調させているような印象を受ける。
彼女が確かに過去に抱いていた音楽への気持ち。
赤ずきんちゃんは、大好きな狩人、何か付き纏ってくる狼と歌い踊る。狩人は尊敬する先輩かな。当日チラシには、クラリネット少女役の方は自称、美少女と書かれているので、狼みたいに想いを寄せているような子もいるのだろう。そんな人たち、みんなと楽しく音楽を奏でる。
ヘンゼルは、泣きわめくグレーテルをなだめようと四苦八苦する。辛い中にいて悲しむ友達、兄弟姉妹がいるなら、一緒に歌おう。それだけで、きっと元気になる。音楽は幸せを呼ぶ。
イヌはバイオリンを持って、みんなと一緒に音楽の都、ブレーメンを目指す。個性と言えば良い言い方だが、変わった連中も多いので、みんなで奏でる音楽は不協和音だ。でも、みんなと一緒に音楽をするのが楽しい。心は協和している。きっと、みんなで楽しんでいるうちに、それが協和音となって形になるはず。それが仲間だから。
そんな、先輩、友達、家族、仲間といった人たちとを繋げていた彼女自身の音楽。
このことを忘れてしまい、そんな音楽を否定する中で生まれる違和感から、自分の本当の音楽を取り戻した感じだ。
気付けば、そこにはいつも身近にいた音符たちがいる。彼女によって奏でられるのを待っていたかのように。ウサギは、彼女が音楽を大好きな気持ちの象徴みたいな感じだろうか。ウサギの指揮の下、また彼女はオリジナルノートを刻む。

高校生のお話だが、社会に出てからの仕事みたいなものとして考えることも出来るかな。期待を背負わされる、人間関係はもちろんあるが、家族を養わなくてはいけないとか、歳の問題とか、足かせの要素はけっこう増える。
仕事を楽しめていた頃の時間を思い起こす。
あの頃、周囲の期待は単に自分が前へ動くためのエネルギーでしかなかった。自分はまだ未熟だし、経験も少ないから、仕事を進める上での様々な知識や技術は、自分を向上し、完璧にするための素材であった。
この作品でいう、クラリネット少女も、頑張れよという周囲の言葉はそうだっただろうし、上手に完璧にありたい気持ちは、こんなことになる前から抱いていたはず。
それでも、いつの間にか、そんな期待やこうあらなければいけないという凝り固まった価値観が、自分を縛り付ける。苦しくなる。
同じように仕事をしていて楽しそうにしている人を見て、妬みの気持ちを持ったりして、またそんな自分に幻滅してしまったりする。
要求される仕様に従って、物を作る。仕事をこなす。そこに楽しみは失われている。
物を作る時にあった、自分の想い。仕様からちょっとズレてるけど、満足して幸せ。次はもっといい物を作れるように頑張ろう。そのためには、ちょっと勉強して腕も磨かないと。
前を見ようとする目だろうか。今の満足より、明日の満足のために頑張るみたいな。
自分が失ってしまったのかもしれないものにちょっと想いを馳せてみる。自分の中には、まだウサギがいるだろうか。あの頃、自分と一緒にいた、この作品の音符みたいな奴らも。
元気に懸命に頑張る舞台での高校生の姿を拝見して、少しだけ自分も今を明日を元気に楽しく過ごせるようにしてみようと思ってみたり。

メタ的な要素もあるのかな。
個性が強いキャラが多いためか、決してまとまりある洗練された作品だとは思えない。演劇の技術的な観点からは、素人なのでよく分からないが、卓越した技術に頼った作品では無いだろう。
それでも、この作品は楽しい。そして、どこか心を動かされる。舞台に立つ方々の姿が素敵で輝いている。
高校生らしさを求められる、学校生活、将来設計、受験や恋愛など、この時期に降りかかる様々なことは、自分を楽しむことの足かせとして働いてしまうことも多いだろう。
でも、欠落させてはいけないものを知り、それを大切にしながら、自分たちが好きで楽しい演劇作品を創り上げた。
この高校の仲間たちが奏でる、オリジナルの作品。
クラリネット少女が得た作品名のオリジナルノートは、そのまま、この舞台として繋がっているようである。

クラリネットを吹く女の子、奏。
晴れのソロコンテストの舞台で、突然、音が聞こえなくなる。
チューニングは完璧。テンポもしっかりと取れていたのに。
そんなこともあって、奏は元気が無い。
クラリネットを吹いている尊敬する先輩も、疲れているのだろうと元気付けようとしてくれているみたいだが、原因が分からず、心もどかしい日々を過ごしている。
クラブはサボり気味だし、学校も遅刻をするように。成績も右肩下がりで先生も心配している様子。
でも、きっと、みんな期待していたのにと、残念に思っているはずだ。
今は、もう放っておいて欲しい。

奏は、気付くとおかしな者たちに囲まれていた。
ドはドーナツのド、レはレモンのレ、・・・
ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラを名乗る者たちが歌い出す。奏はシを振られるが声が出ない。だって、幸せじゃないから。
楽しく音楽を奏でる者たち。みんなのことを知っているような気がする。でも、思い出せない。
ウサギが現れる。そりゃあそうだろう。だって、奏の音はつまらないから。でも、大丈夫。奏はちょっと迷子になってしまって、大切なことを忘れているだけだから。思い出しに行こう。
ウサギに導かれ、奏は旅に出ることに。

今時の若い子風、赤ずきんちゃん。
何か使命があるのか、赤ずきんちゃんに想いを寄せているのか、付き纏う狼。
はっきりして。ウジウジしているのって大嫌いだから。これから彼氏に会うから忙しいし。そう、きつく言い放つ赤ずきんちゃんに、気弱な狼はオドオドしている。
陽気な狩人が現れる。
赤ずきんちゃんの手を取り、二人は歌い、踊り出す。狼も撃たれる役どころだが、一緒に楽しく。
奏はその姿を見て、呆れる。
ミュージカル気取りなのだろうけど、声が裏返っているし、音も汚い。こんなんじゃ話にならない。
でも、みんな楽しく歌ってるよ。音が綺麗だったらいいの。声が裏返らなければいいの。
こんな楽しいのに、一緒に楽しまない奏を、みんなが不思議そうに見る中、ウサギはそう問いかける。
奏は何も答えられない。忘れていることに気付かない限り。

森を彷徨うヘンゼルとグレーテル。
パンをちぎって、道しるべとして置いていきながら、森の奥へと入って行く。
でも、グレーテルがそれを全部食べちゃった。
どうしよう。
自分たちを元気付けるかのように歌い出す二人。
奏は、その音程の狂い方に怒っている。
困った時に、楽しくしようと歌っているだけ。それだけじゃダメなの。歌って自分が好きで楽しくなるから歌うんじゃないの。
奏は心の中で否定する。違う。歌は上手くないと。完璧じゃないと。それが私が考える音楽。でも、どこか心の底からそう考えていないような気もする。違う音楽があったのだろうか。私はそれを忘れているのか。

これは夢なのだろうか。違うみたい。ほっぺをつねると痛い。
ウサギは、奏に本当に夢を見させてあげる。あの日の出来事を。
奏は尊敬している先輩とお話。
先輩はかっこいいから、女生徒の人気の的だ。
でも、先輩はそのことをどうとも思っていない。ミーハーにチヤホヤしてくれるけど、自分がずっと頑張ってきたクラリネットをしっかりと聞いてくれる子はいない。
奏は先輩のクラリネットが大好き。それに憧れて入部したようなものだ。才能があったのか、先輩は、今では奏の腕にはかなわないようなことを言う。
もっと、自分の実力を認めてあげて下さい。そう、奏は先輩に返す。だって、今度のソロコンテストも、先輩は学校始まって以来の参加が決まったんだから。
そんな中、先生がやって来る。
ソロコンテスト出場は奏に変更。先生や校長が推薦したらしい。
先輩はずっと幼い頃からクラリネットを頑張ってきた。高校から始めた奏に負けるのはショックだが、奏に激励の言葉を優しくかける。
周囲から受ける期待。先輩への申し訳ない思い。そんなもの全てが、奏の足かせになる。

ブレーメンの音楽隊。
ちょっと面白いロバは太鼓、お嬢様のような猫はリコーダー、掴み所の無い不思議な鶏はラッパ。
おかしな仲間の面倒を見るのが大変な犬は、バイオリン。
音楽隊はブレーメンを目指す。
その途中、小屋で休もうとしたら、先客の人間が。奏だ。
音楽隊は演奏して、奏を追い払おうとする。
凄まじいひどい音。
不協和音。テンポもピッチもめちゃくちゃ。楽譜をしっかり見ないと。奏はここでも、怒り出す。

奏は、楽譜を見るが五線譜しか見えない。
ウサギが緊急ニュースを読み上げる。
少女に欠落した穴が見つかった。これにより、音が聞こえなくなる。
欠落したものに気付かないと、音を取り戻すことは極めて難しい。
ゲストに招かれた
歴史上の有名な音楽家たちもそう評論している。

忘れたんじゃなくて、忘れたかった。
迷っているんじゃなくて、逃げ出したかった。
クラリネットを壊したのは自分。
ウサギは奏の心を突いてくる。
そう、もう吹きたくなかった。でも、吹き続けないといけなかった。

お茶会が始まる。
ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラを名乗る者たちみんなが楽しく歌っている。
奏は帰ろうとする。楽しくないから。幸せのシの音はやっぱり出ないから。
みんなはいい。ただ、楽しくしていればいいのだから。
私は、上手じゃないといけなかった、完璧じゃないと許されなかった。期待に応えないといけないから。
楽しそうに奏でられる音楽が嫌いになった。不安で、目の前に壁ができて、そんな楽しいことのに外にいる自分。

自分の本当の想いを告白して、どうして音が聞こえなくなったのかが自分でも分かった。
気付けば、お茶会のメンバーは、奏がこれまでずっと奏でてきた音符たちだ。
奏の中で、止まっていた音が動き出す。
それは奏の自分自身の音楽となって奏でられる。
誰のためでもない、自分が大好きで楽しい、大切な奏のオリジナルノートとして。

感想は上記したので、簡単に役者さんにコメントだけ。
奏とウサギ以外は、多くの役を兼ねている。そのキャラ変はかなり巧みで、切り替えにメリハリがある。そのぶん、さっきのあの役の人が、今のこの役なのと、当日チラシで確認しながらだったので、ちょっと混乱気味。
奏、増田ののかさん。イメージ的に薄幸感がありますね。そのためか、不安を抱えているというのが表情からよく読み取れる。
赤ずきんちゃん・・・、仲野瑠花さん。ネコ役も含めて、漂わせているのは気位の高いお嬢様風のイメージでしょうか。
ヘンゼル・・・、荒木裕香理さん。芸達者ですね。ボケもツッコミも巧みに絶妙な間で入れ込むだけのさばき具合。
うさぎ、小山愛海さん。この作品の脚本を創られた方のようです。巧く童話と、日常に抱える悩みを同調させて描いたものです。表情豊か、言い回しの抑揚、自然な動き、素敵な笑顔と完璧じゃないでしょうか。
狩人・・・、志水直樹さん。三枚目キャラに徹し、コミカルな空気を醸す役割をきちんとこなされていました。
グレーテル・・・、下村有里乃さん。容姿と漂う空気を活かした無邪気な子供。幼児の純粋さと同時に、残虐性も秘めた感じがリアリティーを感じます。
ニワトリ・・・、藤川未咲さん。シュールで、アンニュイな感じも醸し。ちょっと妖艶でもあり。要は不思議で掴みどころがない感じか。
先生・・・、日野早貴さん。狼もされていますが、ウジウジ気弱な狼と、いい人なんだろうけど、何か土足でグイグイ入り込むような先生のギャップ。上記、混乱はこの方が一番。
先輩・・・、山崎文徳さん。何でしょうか。この余裕があり、穏やかで優しさも滲ますような独特の空気感は。まさに癒しの男で、役どころと同じくモテるんでしょうね。

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