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2015年7月26日 (日)

数えきれないカルダーノの世界 【ALTERNAIT produce】150725

2015年07月25日 芸術創造館
                                     MaleSIDE (60分)
                                     FemaleSIDE (70分)

私生活に悩みごとを抱える看守。堅い性格なのか、職業柄なのか、なかなか思い切った行動を取れず、一歩踏み出す勇気に欠けている。
詐欺師として生きてきて、その経験から人の心に入り込めるかのような囚人。牢屋の中にいながらも、自由で余裕がある空気を醸す。
そんな看守と囚人が、互いに自分には無いものを相手から見出し、距離を詰めて友達となっていく。
互いに満たされていく時間。
その最後に待ち受ける二人の運命は・・・

といった、両編とも共通設定でありながら、どうしてこんなに違う結末が生み出されるのか、観終えた今でも不思議なくらいに異なる話でした。
話としては好き嫌いがあり、私は、感動したMaleSIDEに比べて、FemaleSIDEにはどうしても納得いかない感が残りますが、両編通じて、ほんまもんの役者さんがぶつかり合った見事な作品でした。

・MaleSIDE

舞台は牢屋。
御託ばかりを並べて、よく喋り、飄々としている囚人。詐欺をはたらき、投獄されたようだ。
生真面で神経質そうな看守はペースに呑み込まれて、イライラしている。
囚人は命じられた鶴をただ折るだけの生活。看守はそれをただ上司に届けるだけ。と言っても、囚人は高級そうな椅子に座って、ラジオやティーセット、チェスなど、刑務所の上層部に顔がきくのか、随分といいご身分だ。
政治家中枢、銀行頭取が面会に来たりと、どこか普通の詐欺師とは違い、看守も少し興味を惹かれる。
そんなところを巧く突かれたのか、囚人はゲームを持ちかけてくる。毎日、チェスでも、カードでも何でもいい。看守が勝てば、囚人はどんな質問にでも答える。罪に関わる重要な情報でさえも。囚人が勝てば、その日、看守は友達となる。
ゲームを始めると、看守はことごとく負ける。詐欺師のコールドリーディングのようなテクニックにはまっているのだろうか。
そんな日々を過ごす中で、互いのことが分かっていく。
囚人は詐欺師として非常に優秀だ。頭がいい。恐らくは、もっと別の職に就けば、もっと違った活躍をしていただろう。でも、親が詐欺師だった。その力には抗えないものらしい。
看守は小説家になりたかった。でも、親は法務省のお偉いさん。もちろん、才能の問題もあったが、当たり前のようにこの道に進んだ。上司の娘とも結婚して、今はキャリアとしてのエリート路線を歩んでいる。
ある日のゲームは、酒飲み対決。
囚人は水。看守には酒というイカサマ。でも、それに気付かず看守は酔い潰れる。目が覚めた時、怒り出すかと思いきや、看守はすぐに囚人の体を気遣う。そして、もう明け方なのに、家に帰らなくてはと急いで牢屋を後にする。そんな看守に囚人は心を溶かす。初めて、人として自分を見てくれる看守。
看守は、毎日、妻からDVを受けている。先日の酒飲み対決後の急いで家に帰る様、毎日、顔に怪我をしている事実。囚人はそう推測して、友達として忠言する。別れた方がいい。
でも、看守は別れることができないと言う。堅物で人付き合いが悪い自分でも認めてくれた女性。世間体。
凝り固まった価値観。もっと自由になれ。牢屋の中でも自分は自由だ。風が吹いている。
それでも、踏み出せない看守。
突然、看守の異動が決まる。この牢屋は閉鎖。囚人も処刑。
折り鶴には、囚人からの国家宛の経済政策の忠言が記されていたらしい。これが失敗して、国際的な問題を引き起こす大損失を被ったようだ。
看守は、囚人にあなたがそんなミスをするわけが無い、わざとではないのか。友達の立場としての言葉を放つ。
離婚も決意した。最後まで見届けて欲しいと。
囚人はその言葉を聞いて、満足気に処刑場へと向かう。
最後の折り鶴のメッセージは、看守宛。ここでの生活、看守と出会ったことで得られた人とし生きる時間への感謝の想いが綴られていた。
看守は退職することに。
囚人お気に入りの椅子をもらう。本当は廃棄しないといけないので法に触れる。ちょっとルール違反をして、悪いこともできる余裕も生まれたみたい。
その椅子に座り、小説家を目指す。
一歩踏み出せた看守のこれからの時間が始まる。

体感する時間。新しい経験が入る若き頃は時間が遅い。19歳を境に新しい情報が入りにくくなり時間は早くなるらしい。
牢屋で、人として扱われず、外界からの情報を基に、経済対策を支持する。親からの圧力かのように選んだ道、詐欺師。囚人は生きているという時間を体感できなくなっていたのか。ただ時間が淡々と流れていたのが、看守という友を得て、新しい経験が入り込む日々を過ごすことで、毎日の時間を体感出来るようになった。急に長くなる時間。囚人は、その途方も無い時間に絶望したのだろうか。
囚人は詐欺師として、イマジネーションの世界でもがいていたように感じる。自分が描く嘘の想像を現実化する。手に入るものは金だけ。小説家も同じようなことをして、作品を残す。金も入るが、自分の想像の産物を現実化したという誇りのようなものが形として残るような気がする。
もはやイマジネーションでしか得られなくなった囚人の自由。看守には手に入る本当の自由。その大切さを、人生最後の時に得た本当の友人に教えられたことを喜び、自分には出来なかった詐欺師という呪縛から一歩踏み出して逃れることを、囚われた私生活や価値観から解放されて自由に想像して、それを作品とする小説家の道を目指す看守に託す。苦しくても、自由に、自分自身の思うままに、自分の人生の解を見つけて欲しい。詐欺師でもあり、数々の才能を秘めたカルダーノみたいなこの囚人が看守に出した最後の命題の答えを導き出すために、人生の方程式を解き始めたかのような元看守の前を見詰める輝き、覚悟ある目をした表情で話は締められる。
役のはまり具合は最高。看守の河口仁さん(シアターシンクタンク万化)の鬱積する苦悩、そこから露出するイラダチ。凍った心が溶けて、解放されていく安堵。そこから浮き上がる希望の光。
囚人、早川丈二さん(MousePiece-ree)の人を煙に巻いた飄々感。その中にどっしりとある背負い続けてきたもの。苦しむ人の心を温めるような優しさ。自分の生き方へのけじめ、覚悟。最期の時まで失わない誇り。
どちらも、私の中では五本指に入るくらいのかなり好きな男優さんなので、当然、期待は大きかったのですが、それ以上に最高のお二人の姿を拝見できました。

・FemaleSIDE

舞台は牢屋。
オルゴールを聞きながら口ずさみ、子供のように無邪気な様を見せる美しい囚人。結婚詐欺をはたらき、投獄されたらしい。
勤務中に聖書を読むとか決して真面目ではなく、威圧的できつい、素朴な感じの看守は、こうした女っ気を醸す女性が嫌いなのか、攻撃的。
外の世界では、着飾って、その美しさを活かして、数々の男を騙してきたのだろうが、ここでは薄汚れた服でただ、時間を過ごすしかない。
うるさいから口ずさむなと命令するが、これは母との思い出の歌だと言う。偶然にも看守の母もそうだった。
少しだけ湧いた同情や共感を巧く突かれたのか、囚人はゲームを持ちかけてくる。毎日、ジャンケンでも、天気予報でも何でもいい。看守が勝てば、囚人はお喋りをやめて静かにする囚人が勝てば、化粧やヘアメイクなど、化粧っ気の無い看守を綺麗にする。化粧道具などの備品は、囚人が折り鶴に記して看守に渡す。看守はそれを上司に報告して許可をもらう。
囚人は詐欺師らしい小賢しい技を使ってきたりするが、まあ50vs50ってところか。
そんな日々を過ごす中で、互いのことが分かっていく。
酒飲み対決をして、互いの苦労話に花を咲かせることも。
囚人の父は蒸発した。その日から、母と二人の貧乏暮らし。劣等感。華やかな自分でいたかったのもあり、夜の街へ。いつしか、その目的は変わった。
看守は上司と不倫している。上手くいっているのかどうかはっきりしない。自分から踏み出して仕掛けないと。数々の男をものにしてきた囚人からの貴重なアドバイスだが、囚人はどうしても一歩引いてしまうみたいだ。
クリスマス。看守はネックレスを囚人に渡す。折り鶴に記されていたが、上司の許可が下りなかったもの。内緒で仕入れてきた。囚人も、支給物だが新しい聖書を看守に。年季が入ってボロボロだったから。
思いがけ無いプレゼント。二人は、どこか家に遊びに来た友達同士みたいな日々を過ごす。
バレンタイン。
美しくなった。あとは踏み出す勇気だけ。囚人は看守を勇気付ける。
看守は積極的に上司に告白。この一年で私は綺麗になったと思うと。でも、上司は、その綺麗になったことを認めるものの、らしくないと拒絶。
囚人の刑期が終わる。
ラストゲーム。ロシアンルーレット。おもちゃの拳銃だが、痛みを伴う。勝てば欲しいものをもらえる。
勝ったのは囚人。もらうものは、折り鶴に記されている。そこには、看守の不倫相手の上司の名前が。
全ては策略だった。オルゴールの曲で同調して近づき、メイクによって彼女の素朴な魅力を消す。
看守は上司の下に向かう。
看守は牢屋に投獄される。上司ともめて暴力沙汰になったからでは無い。囚人の支給物、聖書の横領。あのプレゼントですら策略だった。
真っ赤なドレスを着飾った囚人、今は元囚人がやって来る。今や囚人となった騙された看守は憎しみの言葉しか発せない。
牢屋の中で、美しくなることを知った、みすぼらしい素朴な姿の囚人のこれからの時間が始まる。

中盤までは、先のMaleSIDEと同じく、二人の間に女の友情が生まれ、互いに満たし合う時間が流れる。看守の不倫が話題にのぼったあたりでは、恐らくは男の酸いも甘いもを知った囚人が、看守に不倫を辞めさせるべく、たとえ憎まれてもそう振舞うのだろうと思っていました。私は最後の最後までそう信じていました。あんな男は、看守みたいな素朴で純粋な女には似合わない。いいようにされるだけ。だから不倫なんてするんだから。だったら、私のような女が引き受けよう。汚れた体と心を、外面の美しさで着飾り、隠して生きていく生き方しかもう自分には出来ないのだから。看守は、外面を美しく着飾る方法を覚えることで、その内面までもがこれから美しくなるような生き方をしてくれたらいい。そのうち、きっと、外面はもちろん、その内側の美しさに惚れてくれる男が現れる。
といった感じで。
今でもそうあって欲しいと思ったりしますが、どうやら違いますね。
業の深さでしょうか。ひどい結末が待っていました。
美しさを才能のように捉えるなら、囚人は数々の才能を持ったカルダーノと同調して見ていいのでしょうか。その才能は、決して囚人を本当の幸せへとは導いていないようです。むしろ、その才能を使って生きることを余儀なくされて、振り回されているような感じがします。そして、看守のように無理に身につけた美しさも、人に求められず。
その才能を活かせる人生のタイミング見誤ると、人は不幸へと落としこまれるような残酷な感覚を得る描き方のように思います。
不思議なことに上記した体感時間を身を以て理解しました。
最初はMaleSIDEと同じ形式で話が進み、情報が前と変わらないので、新しい情報を頭に入れることがないので体感時間が異常に短い。30分があっという間。
あれっ、話がおかしな方向に行っているなと気付いてからの体感は長い。先ほどとは違う情報がどんどん入り込んでくる。自分の嫌いな話で目を背けたいこともあったのか、なかなか時間が経たず。最後の10分は、もういいよ、早く終わろうよと思いながらも、終わらないといった状態でした。MaleSIDEの方の囚人の気持ちが少し分かった気がします。
MaleSIDEと同じく、役者さんの役にはまった力が強い。
囚人のSarahさん(ムーンビームマシン)は、イメージどおり。あんなの悪女といったレベルを超えて、化け物ですけどね。魔性の美しさ。平然とその空気を醸される方もなかなか少ないでしょう。
看守、山本香織さん(イズム)。毅然とした強さの中にある弱さ。不器用な可憐で清楚な内面を滲ませながら、威厳を保とうとするバランスが崩れていく姿が、意地らしく。 でも、最後はこの方の中にも潜んでいた魔性が露出します。溢れてくる憎しみから生まれた魔性の姿は、また最初の囚人とは異なる怖ろしき姿を見せています。

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コメント

SAISEIさん


いろんなものを剥ぎ取った感想は予想通りでした(笑)SAISEIさんやっぱりバッドエンド好きじゃないですね。私もMの方が好きでしたが理由は些か違うかな… ただ語りたいのはFですかね。


Mは早川さんやっぱりいいな、と。ああいう役合ってるし好きです。河口さんも確かに。ただ台詞とばさはったみたいですね(笑)私もそうかな? と思ったシーンがあったような。まあでも演技も良かったしあのレベルになるとごまかし方もウマイと思いますし忘れてました。あ、文中「支持する」は「指示する」ですかね。まあわかりますが(笑)


Fですがいつから囚人は上司を奪おうと思ったのか? いつ上司と囚人は会ったのか? 上司は囚人を犯罪者と知りながらなぜ選んだのか?(出世に響いたりするでしょw) 看守を陥れる必要はあったのか? 看守の恨みを買う必要があるのか?(軽い罪だと思うのですぐに出所してくる。あんなに挑発して大丈夫?)など話としてリアリティーさに幾つか謎の残るところが私にはありました。


Fも何のために損失を(SAISEIさんは独自解釈されてる?)? 詐欺師に経済政策をなぜさせる? など謎はあるものの話としては不自然なところが少なかったかな…


Mは伏線もなく突発的な感じやったので少し違和感はありました。

投稿: KAISEI | 2015年8月 1日 (土) 01時00分

>KAISEIさん

まあ、設定のリアリティーさを追求すると、色々とは出てきますよね。
そのあたりは見ない振りをしています(*^-^)

Fはループみたいなもんかなとイメージしていますけどね。
山本さんは、きっと牢屋で、これまでの関係があるからけっこう優遇されるでしょ。
そこにまた、手を出した看守を放り込めば、勝手に自滅してくれる。
釈放されたら、恨みを果たしにやって来るリスクがありますが、女性って、浮気した男を責めずに、その相手の女を恨むと言うじゃないですか。
こんな感じで、上司は好き放題しているのでは。

損失は、私はもう終わりにして死にたかったんじゃないかと思っていますが・・・
想像する自由と、現実の束縛のギャップに、もう厭世感が抑えられなくなったのかなと。

投稿: SAISEI | 2015年8月 2日 (日) 11時56分

とりあえず


前回最後の「突発的」なのはMではくFてすね。

投稿: KAISEI | 2015年8月 3日 (月) 23時14分

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