Spare【HPF高校演劇祭 工芸高校】150727
2015年07月27日 シアトリカル應典院 (55分)
金曜日の金蘭会に続き、この工芸高校もHPF4年目にして初。
失礼ながら、全くどういった作品を創られるのかを知らない状態で、オリジナル脚本ということを非常に楽しみにして足を運ぶ。
人気が高いようで、客席は満席。
開演前に、講評委員の先生と少しお話をさせていただいたが、歴史があり、私が普段観劇する小劇場の世界でもご卒業生の方々が活躍されているのだとか。
冒頭の高校生にしては珍しい、抽象的な踊り。続いて登場する、怪しげな空気を醸す役者さんの雰囲気から、脳内世界を描くかのような不可思議な世界であろうと判断。
早い段階で設定を把握しないと、何を描いているのか分からないということになるぞと、ひとり気負って観劇開始。
で、そのまま1時間が経ってしまった感じです。
これから生まれる魂のようなものたちの姿を描いた胎内世界、閉鎖された空間で記号化された自分たちの存在を見詰めるような話・・・
と、巧みな脚本に翻弄され、ミスリーディングを幾度としながら。
恐らくは、臓器移植とクローン問題をベースにしながら、自分の中に入り込んでくる他人、幾らでも補充されるスペアの取り込みから、自分自身のオリジナルを喪失する不安みたいなものを描いているように感じます。
その中で、今、自分というものが、互いにはっきり確信を持てていないけど、未知なる多様な力を秘めた仲間たちと共に過ごした時間が、そんな不安を解消し、外の世界へと羽ばたけるようなことを伝えているように感じます。
細かな感想は、思い起こしながら、頭を捻りまくって、下記に記しています。
舞台は、こことは違うもう一つの世界。
黒と白のまだらな服を着て、黒い腕輪に0の番号を付けた怪しげな謎めいた男(河上和紀さん)が語る。
そんな世界を覗き見するかのように話は進む。
部屋には、白い服を纏って、黒い腕輪に1から5の番号を付けた5人の男女。
明るく元気で、ちょっとお気楽でノリのいいリーダーのような女の子、1(松澤日葉里さん)。自分の感情が素直に言動に現れ、隠し事が出来なさそうな感じ。
冷静で、理論的な考えをしているから、冷めている雰囲気を醸す女の子、2(篠原愛実さん)。今の楽しさよりも、現実的な先のリスクを鑑みて、一歩引いて慎重に行動を考えていしまうような感じ。
お調子者だけど、場を盛り上げようと必死。少々空気を読まない感がある男の子、3(塚本龍斗さん)。KYと言っても、みんなと楽しくいたいという気持ちが大きいみたい。そのためにはまず自分が楽しくという姿が、少し空回りすることがあるのか。
少し変わった不思議ちゃん。喋れないのでジェスチャーで意志を伝えている女の子、4(前尾虹夏さん)。ずいぶんと抽象的なジェスチャーだが、3以外とは、きちんと通じ合えているみたい。マイペースって感じ。
眼鏡をかけているその姿からか、真面目そうで賢い雰囲気の女の子、5(畔地七海さん)。実際に、みんなのことやこの状況をきちんと全体的に把握している感がある。ただ、人に合わせる、その場の空気を読むといった性格が、自分をあまり前に出さないようにしている感じ。
部屋から出られるのは、健康診断の時ぐらい。基本的には出られないので、する必要もないのに毎日、点呼を取り合っている5人。
何で? 楽しいからだろうか。したくないとは思わないけど、する必要も感じない。
答えを2は1に求めるが、分からない。
これが普通だから。普通って何? Wikiに定義はあるけど。
当たり前のことだろうか。こうして、みんなと一緒にいるのも。
何かして遊ぶ。
たけのこニョッキ、絵本、人形遊び。
最後は夕食のメニュー当て。
言う順番を決める。
ジャンケンに弱いというか、癖を読まれている3は、いつも負ける。今回は、気合を入れて、準備体操しても同じ結果。
順番が決まる。3は1番で、1は2番で・・・
混乱。
名前が欲しい。
何で名前がないの。私たちは普通じゃないのか。
0がこちらの世界から語る。
これは医療革命。ドナー
代用人間。ドナー。
部屋の扉が開く。
入ってきた無表情な二人AとB(江藤菜津美さん、長崎伊万里さん)に、4、5が連行される。
5は覚悟を決めている。4は理解していないのか抗う。
1は助けようとするが、2が止める。
今までにもあったこと。止めるのは無意味。エゴに過ぎない。
それでもやってみないと分からない。
二人は議論し合う。
3は、ただ傍観することしかできない。どうしていいのかは分からない。
でも、抗うことは、これまで我慢したことが無駄になる気がする。
0が語る。
犠牲者が出た。
かわいそう。いや、それは自分じゃなくてよかったからじゃないのか。
結局、大事なのはみんな自分だから。
3も連行される。
こうなることは分かっていた。だから、最後まで笑う。みんなと一緒にいる最後の時間を笑って過ごす。そう言って、笑って去っていく。
1は決意する。3のように最後まで自分をやり遂げる。自分は、最後まで抗ってみる。
その夜、眠っている間に2も連れて行かれる。
1だけになってしまった。
0が語る。
心停止音が聞こえる。
オリジナルがいなくなったらどうなるのか。
スペアは作り続けられる。誰かが止めないと。
自分のような存在を生み出してはいけない。
外の世界。
場所は病院のようだ。
2は事故で頭を怪我。3はこの歳で肝臓をやられている。
二人とも、今日、退院。
4、5は、病気なのか怪我なのかは分からないが、とにかく経過は順調のようだ。姉妹なのか、晩御飯のメニューについて楽しそうに話している。
1が現れる。2、3を見て、懐かしげに話しかけるが、二人は1を覚えていない。
1は、そのことに納得した表情で、二人に別れを告げる。
設定が臓器移植とクローンの問題のようになっているが、その是非を問いかけるだとか、科学ネタを基にしたミステリー風の作品というわけではない。
揺れ動く感情に依存するのではなく、こうしたサイエンスの視点で、冷静に客観的に今の自分自身を見詰めるという意味合いでの設定のような印象を受ける。
一言で言えば、自律を描いているのだろうか。
白い染まっていない1から5の人たち。まだ、何色にでも染まることが出来る。同時に、それは、既に色を持つ人たちに、利用されたり、取り込まれてしまうことも意味する。
自分の経験も踏まえた科学的な視点からだと、心臓、皮膚、肝臓とかの臓器や組織として形作られた細胞と、最近、流行りの何にでも分化し得る幹細胞のような感じか。
幹細胞は何にでもなることが出来る。自分の未来は自由だ。ということだが、その多能性を利用されて、どこかに移植でもされたら、実際はその体内の環境に応じて、どうなるのかの使命を持つ。行き着く先は、心臓、皮膚、肝臓のような既に存在する臓器の中の一つの細胞として働くことになる。
何にでもなれるんじゃなかったのだろうか。そもそも、何かにならないといけないのか。未知なる能力を秘めたままの幹細胞として、楽しく生き続ける選択肢は無いのか。
話のイメージはこんな感じ。
1から5の人たちは、変えられないものを持つ。黒の腕輪は、違う色には染められない。恐らく、名前として考える。ただ、その名前ですら、まだ、自分というものが未知であるので、番号化して自分自身では捉えているようだが。
0は黒白まだら。黒はもう変えられない部分なのか。オリジナルの白に、臓器移植かのようにスペアを取り入れた場所なのか。こうして、自分、オリジナル性は少しずつ小さくなっていくようなイメージ。
上記したような観点だと、幹細胞が取り込まれるのは、臓器や組織が傷ついた時。0は傷つくたびに、そこを補修するために、スペアを呼び寄せ、そのオリジナルを失っていった。自分の細胞で修復すれば、まだそこは白色だったはずだ。
多感な時期に、様々な経験から、傷つけられ、痛みを感じた時、自己修復の能力にも限界があり、そこを自分では無いスペアで補修する。そんな繰り返しが、いつしか、自分が自分で無いような感覚を得るのだろうか。
でも、ちなみにこうして補修された黒の部分も、幹細胞ならばやがて自分の細胞として機能し始めるので、0はまた白い姿へと変わっていくのだと思うが。
幹細胞ならばの話。凝り固まった価値観しかないような大人の細胞で補修されたなら、本当にそこはその人のオリジナルを失わせる。下手したら、その細胞の方が、その人を拒絶して、違う人を創り上げてしまうかもしれない。
どんな時でも取り込むのは、多様で柔軟な考え。
悩み苦しみ、自分でどうしようもなくなった時、その傷を埋めるのは、自分と同じ価値観を持ち、共に時間を過ごした仲間たちの言葉や振る舞いなのだというようなことを伝えているように感じる。
結局、1から5の人たちは、スペアにされることなく、オリジナルを追求する道を歩めるようになったのだろうか。
みんなどこか傷つき、病院で治療を受けていた。
傷ついた場所を、何かのスペアで埋めることもなく、自分でその傷を埋めようとした。それは、きっとあの閉じ込められた部屋で、一緒に過ごした仲間たちとの経験も大きいのだろう。未知なる力を秘めた、まだ自分が何者であるかも確信を持てない者たちが、自分というものを互いに見詰め合った時間。
そこから、半ば強制的に放り出されたり、時間切れで外に出たとしても、その外の世界では、各々のオリジナルを大事にして、これからの時間を過ごすのだろう。
個性的な服を纏い、新しい仲間と出会い、別れながら、絆を育んで、これからを生きようとする5人の姿が、いつか自分の名前に込められた想いと共に、自分自身を確立して、自律する生き方を歩むように感じさせる。
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