うたかたラプソディ【箱庭計画】150712
2015年07月12日 Cafe Slow Osaka (105分)
40を超えて、おじさんになっても、やっぱりこういう話が好きなんだなあと改めて感じた作品。
恋の心苦しさ、もどかしさ、残酷さを交えた上で、実に爽やかに恋愛を描いています。
どうしようもなく溢れる好きという想い。それを自分の心の中には留めておけない。見るのはその好きな相手だけでいいのに、こんな時に限って、自分自身を見詰めて、悩んでしまう。
客観的な視点が全く無くなる。
そんな時に、周囲の人たちから、様々な想いを得て、言葉をもらって、その悩みを昇華して、恋する自分を認めていく。
恋愛はするのもいいし、しているのに関わるのもいいですね。喜び、嬉しさだけでなく、辛い、苦しいもいっぱいあるし、必ず実るとも限りませんが、それでも、今の自分を知り、自分が一番自分らしく感じられる時であるように思います。
素敵な作品でした。
ラジオ局の新番組会議。
気難しそうなディレクターを中心に、ちょっといい加減そうな男、テキパキと仕事をこなしそうな女、まだまだ経験不足な若手の男女、ソウとメグが話し合いをしている。
ソウは、ある女性をパーソナリティーとして迎えることを提案する。ハナという女性。
Twitterで恋愛相談をしており、人気のある人だ。
視聴者の新規開拓にも繋がると必死に推し進める。まあ、やってみるかとディレクターや先輩たちの了承にこぎつけ、ソウはハナに出演交渉をすることに。
この女性、実はソウは昔から知っている。と言っても、彼女の恋愛相談のブログに匿名でコメントを寄せていただけだが。それでも、高校時代から、ずっと彼女の応援を続けており、その想いがミーハー的な憧れなのか、本気の恋心なのかは、自分でもよく分からない。偶然にもソウの姉がハナと友達らしい。会えば良さそうなものだが、勇気が湧かないのか。そんなソウの一途な姿を見て、姉もソウのことをハナに直接語ることはせずに、ブログにコメントをよくしていた子を覚えているかとか聞いてほのめかしたりして応援してくれているみたい。ハナは、昔から恋愛相談はするものの、自分の恋愛となるとからっきしなのを知っているので、姉はハナも心をソウに動かしてくれたらと思っているようだ。
ソウはハナと連絡を取り、出演の承諾を得る。
第一回目の放送。憧れのハナと会える。それだけでソウのテンションは上がる。
そんな中、メグの表情は険しい。そりゃあ、好きな男が、他の女にうつつを抜かしていたら、心穏やかにはいられない。
簡単な打ち合わせをして、本番を迎えることになったが、トラブル発生。
DJが病欠。代役にソウは立候補する。実はずっとDJをしたいと思っていた。単なる憧れではない。高校時代は放送部でDJをしていたし、ラジオ局に勤めてからも、先輩たちのDJをひそかに勉強していた。ただ、やってみようという勇気が湧かなかっただけ。今なら出来る。ハナと一緒なら。
ディレクターは、かなり無理な願いではあるが、ソウにチャンスを与え、勝負を賭けてみることにする。
ディレクターのこの番組への思いは大きい。自分の結婚秘話。幼馴染の女性といつも一緒にいたが、好きとは言えなかった。というか、好きなのかよく分からなかった。ある日、彼女が事故にあう。その時、初めて好きだという気持ちが湧き上がる。心の奥に潜んでいた本当の気持ちが溢れてくる。そして、プロポーズして今に至る。
恋愛でくすぶっている人たちを勇気づけたい、そして、今、自分と同じようなソウを見て、応援したい気持ちが芽生えていたのかもしれない。
番組が始まる。
最初の恋愛相談は、オタクの子から。
あるアニメのイベント帰り、いつものオタク仲間と語らった後、別れる。
雨が降って来る。オシャレなカフェの軒下で雨宿り。店員さんが、中に入られたらと声を掛けてくれる。
可愛い。
その日から、自分には相応しくないと思いながらも、そのカフェに通う。ただ、自分がオタクであることは言っていない。言ってしまえば、嫌われるに決まっている。せっかく、お喋りが出来るようになったのに。
でも、ある日、そのカフェでオタク仲間と会ってしまう。
ばれてしまった。男はカフェを飛び出す。
もう、カフェには行けない。もう、会うことは出来ない。
このまま、お別れしないといけないのか・・・
ハナの答えは、一歩踏み出す勇気。自分を卑下することなく、ありのままの姿で彼女に想いを伝えろと。
番組は終わる。
なかなか、良かったようだ。視聴率もまずまずいくかもしれない。
そして、ハナの言葉。一歩踏み出す勇気。それは、DJにチャレンジしたソウ自身にも響いている。
2回目の放送。
予想通り、初回放送は上々の視聴率。上層部も、このままDJをソウにさせて番組を盛り上げろと指示が出たらしい。
ソウは、ハナと一緒に番組が出来る喜びを隠せない。
メグは、それをやはり快く思ってはいないが、複雑な気持ちだ。だって、番組を一緒にするようになって、ハナとも話をしたが、とてもいい子だから。
今度の恋愛相談は、同性愛の男の子。
親友の同級生にどこか想いを寄せる自分に気付いていたが、その子に恋人が出来てから、その気持ちが好きなのだと気付いてしまった。そんな中、ある女の子から告白される。
付き合ってみれば、自分も変わるのでは。でも、長続きはしなかった。だって、その子は同級生が好きで、近づくために自分と付き合い始めたのだから。裏切られ、自分は、この想いを同級生に伝えてしまっていいのかと・・・
ハナの答えは、自分を認めて、自分で決める。マイノリティーである自分自身をちゃんと認めて、その上で、伝えるか伝えないかを決める。自分は手助けしかできない。決めるのは自分しかない。でも、本当の想いを、そのまま伝えられたらいいなと思うと。
この悩み相談を選んだのはメグだった。
ハナの言葉は、今、どうしたらいいのか迷っているメグの心を揺さぶる。
そして、その揺さぶりは、もどかしい、どこにぶつければいいのか分からない怒りとなって現れる。
最終回の1回前の放送。
長く続いたこの番組も終わりが近づいている。
ちょっとしたいざこざがあったが、ハナとメグも友達として接し合っている。
ハナは分かり始めている。メグがソウのことを気にかけていることを。自分の心は。それは分からない。
そんな自分の心も分からない自分が、人様の恋愛相談にのって、その人の心の中に入り込む。それは許されることなのだろうか。土足で入り込み、その人の心を傷つけてはいまいか。現にメグの心は、自分が安易に入り込んだがために苦しませることになったのではないのか。ハナは、今の自分に揺れてしまっている。
悩み相談は、不倫をしている女性。
同窓会で再会した先生。高校時代に大好きだった。
今は、結婚して、もうすぐ子供も生まれるらしい。
そんな先生から声を掛けられ、そのまま関係を持つことに。
楽しい日々が続く。でも、時折、不安が顔を覗かせる。高校を卒業した時に、こうなっていれば。今はもう遅い。
でも、どうしたらいいのか分からない・・・
ハナの答えは、猛烈な批判。自分が好きな人なら、こんな付き合いをすることで、最低な人にしないであげて欲しい。そして、自分を大切にして欲しいと。
奪う愛。奪われる人の悲しみ。奪って愛し合うようになった相手も苦しませることになる。タイミング。もっと早く出会っていれば。
ハナは、自分の心の中にソウへの想いが芽生えていることを自覚し始めている。そして、そのことがメグを悲しませ、ソウをも苦しませることになることを。
ハナは自分の答えを、自身で受け止めている。
ハナは、友達であるソウの姉に相談する。
この時、初めて、友達がソウの姉であることを知る。ハナからソウのことが気になると言われて、喜びのあまり、うっかり、口が滑ってしまったみたい。
そして、ソウが自分のことをずっと想い続けてくれていることを知る。ソウも想ってくれている。私もソウのことを。
自分がこれまでしてきた恋愛相談で答えた一歩踏み出す勇気を持って、ありのままの好きの想いを伝えてしまえば。それは、不倫する女性に否定した奪うことの愛の過ちと矛盾することになる。それでも、抑えられぬ気持ちに、ハナは困惑することしか出来ない。
ハナへのソウの想いは、今でも変わらず続いているようだ。
彼女は、今、恋愛相談をする自分にぐらついている。
彼女の心を穏やかにしてあげるためには。
これまでの恋愛相談をした人がどうなったかを知ることが出来たら。彼ら彼女らが、ハナの答えに勇気づけられ、一歩踏み出して、悩みから抜け出せたことを知れたら。
ソウは無理を承知で、悩み相談の依頼人たちのその後の追跡をすることを提案する。
めんどくさいなんて意見も当然、挙がったが、最終回はその特集を組むことに。そして、そのことはハナに内緒。一緒に頑張ってきた彼女へのサプライズプレゼント。
各々、取材に出かける。
メグは同性愛の男のところに向かっていた。
結局、好きという気持ちは伝えなかったらしい。今は大切な、出会えた友達でいい。でも、いつか、そう伝えることが出来るぐらいな自分に成長できれば。伝えないのは彼の意志。彼が自分でそう決めた。大事なのは、彼はハナの言葉により、自分を認め、前向きになることが出来たこと。
オタクの男は、その後、なぜかカフェで働いている。ハナの言葉で、意を決してもう一度カフェに向かった。すると、友達のオタク仲間が、実は店員さんの兄だったことを知る。それだけに、店員さんもアニメがけっこう好きらしい。友達の計らいで、バイトしながら店員さんと一緒にいる。いつか、自分の好きの気持ちを伝えられたら。そんな自分に成長できれば。
不倫の女性は、先生とは別れる。今、自分たちが大切にしなくてはいけないことに目を向ける。そして、互いにその道を進んでいく。出会えたことの喜びは忘れない。タイミングが悪かったのだろう。二人は、その想いを胸に、今、想うべき人の下へ戻り、想える人を探す旅に出る。
最終回放送前。
ドッキリが苦手なのか、みんなの言動は怪しい。
それでも、何とか気付かれることなく、番組を始められそうだ。
始まる前、メグはハナにソウに告白することを宣言する。あなたが、言うように、今の自分を認めて、一歩踏み出し、その想いを伝える。あなたも、奪うとか、悪いとかを考えないで欲しい。
放送が始まる。
予定通り、ハナにこれまでの相談主のその後が伝えられる。
決して、土足で入り込んで、人を傷つけたりはしていなかった。みんな、ハナの言葉で自分を磨こうと考え、各々の意志で、どうするかを決めた。その先の明るい未来、自分の成長すべき姿も見えている。
そして、番組は終わる。
終了後、打ち上げ。
店に移動する前に、メグはソウに告白する。
ソウはその言葉で、ハナへの好きという想いが自分の中にあることを確信する。ミーハーとか、憧れとかではない。ずっと好きだったことを。
きっと、メグはそうなることを知っていたのだろう。自分の告白が、ソウの中に潜むハナへの好きを引き出してしまうことに。誰よりも、傍でソウを見詰めていた人だから。
それでも、好きの気持ちを伝える。それが、今の彼女が決めた意志だ。同性愛の男へのエールにも繋がっているのかもしれない。
ソウはハナの下に向かう。
ハナの恋愛相談の言葉、姉や仲間たちの応援、そして、メグの背中押しによって、ようやく想いを伝え・・・
爽やかな恋愛物語。
想わずにはいられない好きという気持ち。そして、伝えずにはいられない好きという気持ち。
実りもすれば、終わりを迎えることも。
それでも、理由なんかない。どうしても、想ってしまうし、伝えようとしてしまう恋の醍醐味を清涼に描く、素敵な話でした。
ソウ、茶髪さん(劇団万絵巻)。どこかの公演で拝見して、安定感がある役者さんだなという印象があります。恐らく、芸名のチャラさと相反しているなあと感じたので覚えています。まっすぐ、ひたむき、熱さ、鈍感、・・・男の良さも愚かさも感じさせる微笑ましいキャラとなっています。
ハナ、マオさん。清涼感のあるたたずまいの綺麗な役者さん。基本、優しい雰囲気を出されていますが、女性特有の残酷さも匂わせます。恋愛は決して純粋な言葉だけでは語れない。様々な妬みや嫉妬などのドロドロも受け止めなくてはいけないことを感じさせます。
メグとカフェの店員さん、相田莉央さん。この人、あかんね。44歳のおじさん、最後、危うく涙腺切れるところでした。可哀想とか切ないだけではありません。彼女が冒頭からソウに向けていた細やかな視線や表情の積み重ねから、その想いの大きさ、そしてそれを伝える覚悟の強さを膨らませて感じたからだと思います。店員さんの言動も可愛らしく、私の中では名演で、後半は完全に目を惹かれて観ていました。
ディレクター、塚本拓也さん(劇団ちゃうかちゃわん)。ぶっきらぼうで冷静沈着だけど、実は、みんなのことをずっと見ている。そして、各々が良かれと陰ながら動いているところがあるようです。まさにディレクターという職そのままの姿なのかもしれません。
ラジオ局の人と不倫女性、ながたゆうかさん(MEHEM)。ラジオ局の人では、恋愛から身を置いて、今は仕事に身を任せる女性。不倫女性は、その恋愛に身も心も委ねてしまう女性となっています。共通するのは知的さでしょうか。その知的さから、恋愛を冷静に見詰めるような感覚を得ます。
ラジオ局の人と同性愛の男の子、入江文哉さん(劇団万絵巻)。こちらは共通点は見出せないか。いい加減と純粋。相反キャラでしょうか。とぼけながらも、ちょっと優しさも醸すラジオ局の人と、悩み苦しみながらも道を切り開いた人の持つ素敵な笑顔が印象的です。
オタク男、らむさん(劇団万絵巻)。いい味出してますねえ。ちょっと気持ち悪いくらいに。可愛らしく、誰もが心から応援してあげたくなる愛らしさを醸されます。
オタク友達と先生、シャツ太郎さん(演劇集団ゲロリスト)。消去法で同じ人だと気付きましたが、全く異なる役どころ。共通点は、うざいでしょうか。オタク友達では、友を想うところ、先生では今となってはどうしようもない恋心の悔いを滲ませ、うざさの中で、ちょっといい人なんだろうなと感じさせます。そのあざとさがまたうざく思わせるという、いい感じのキャラ作りだと思います。
ハナの友達、ソウの姉、ことねさん。自分は結婚が決まって、その恋の喜び、苦しさの一旦のゴールを迎えた人。それだけにどこか余裕があります。それに嫌味が無く、友達、弟への純粋な優しき想いを感じさせているのが、この方の魅力のように感じます。
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