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2015年7月 7日 (火)

とりあえず、ボレロ【PM/飛ぶ教室】150706

2015年07月06日 アイホール (145分)

かつての劇団仲間であった男女三人が、20年ぶりに互いに変わった姿で再会する。
一人の男を巡り、三角関係であったこの三人は、青春時代を思い起こしながら、今の自分を見詰めていく。
愛、憎しみが交錯した三人の関係から浮き上がる、今の悲しみ、哀れみ。
それを受け止め、これからを生きていこうとする姿から、変わっていく人の中にある変わらぬ想いの強さ、時の流れの中で生きる人の覚悟を感じるような話でした。
心情表現がとても丁寧で、真摯で。上質で豊かな時間から感じる、人が生きるということは、深く重みのあるものでした。

海辺の町で写真館を営む、ふねという女性。
趣があるが、古ぼったい暗い感じで、どこか時代の流れから外にいるような寂しさも漂う。古き良きものを大切にしているような感じか。主流の銀版だけでなく、湿版を扱い、一部マニアが見学に来たりすることもあるらしい。
弟夫婦と一緒に住んでいる。
妻は、若くて天真爛漫な明るそうな雰囲気。
弟は人の良さそうな感じで、どちらかというと尻に敷かれているといったところか。姉弟の血なのか、趣味で、骨董品価値がありそうな様々な帽子を集めている。
そんな店に、一人の女性と、連れられた男がやって来る。

女性はしのぶ。男は沢田。おさむという名前からか、チャムと呼ばれている。
三人は昔、知り合いだったようだ。もう20年も前、まだ劇団をやっていた頃。ふねが二人を置いて、いなくなってしまって以来だ。
ふねとしのぶは当時から、口を開けば、互いに毒を吐き、ケンカに至るという関係だった。それは、この再会の時でも全く変わっていない。
そんな二人が、唯一、協力し合い、共同戦線を張ることがあった。チャムの起こす様々な問題の火消しだ。
チャムは、最初、ふねと同棲していた。その後、しのぶと同棲。最後は、ふねもしのぶも互いにチャムを愛しながらも、押し付け合うみたいな感じだったみたい。それもそのはず、チャムは、とりあえずボレロ、とりあえずバイロンというのが口癖だったみたいで、あまり深く考えない楽天主義だったのか、なかなかのいい加減な男。女癖も悪く、演出家の才能なのか、偉人たちの名言を組み合わせて、さも自分の言葉のように語り、自らの魅力が浮き立つようにデートも色々と演出する。ただ、パターンは数種類という、力の限界はあったようだが。
女子高生に手を出し、その子の叔母と兄妹が乗り込んできた時は、二人で得意の芝居を打って、チャムが異常者だと思わせるように仕向け、こんな男には関わらない方がいいと見事、撃退した。
ただ、そんな思い出も今はふねとしのぶだけのものになっている。
チャムは、劇団を辞めて、戦場カメラマンとなった。戦地で事故にあい、記憶障害を引き起こしており、二人のことをほとんど覚えていない。
そんなチャム、帽子が気に入り、ふねの弟のコレクションを見せてもらい、ちょっと気に入っている様子。

チャムは、記憶を無くしているといっても、今の自分の状況は把握できているみたい。
自分一人では生きていけない。
そして、しのぶは、もう自分を捨てようとしている。だから、ここに連れて来た。自分をここに住まわせて助けて欲しい。
そんなことを言い出すチャムの媚びた姿に、情けないと怒りを感じたのか、変わってしまい、先が行き詰まっているように見えるチャムの姿が今の自分とオーバーラップしてイラダチを感じたのか、ふねは、チャムを追い出してしまう。

ふねの弟は、急いでチャムの後を追う。彼が心配だから。・・・だけではないみたい。彼が大事な帽子を被ったまま出て行ったから。
捜索の時間、ふねとしのぶはあの頃を回想する。劇団仲間として送った、喜びや悲しみ、怒りが自分の中、相手とぶつかり合った熱き青春時代。そして、そこには、必ずチャムがいる。
しばらくして、チャムは見つかって戻って来る。
ただ、ふねの弟曰く、大変な状況らしい。
彼は遊園地で見つかった。その遊園地で事件があった。幼女にいたずらをした奴がいる。チャムが見つかった時、彼の服装は乱れ、明らかに彼の犯行の可能性が高い。
女性の目撃者もいる。

ふねとしのぶは、このままチャムと逃げることを考え始める。かつてのように三人での時間。
そんな中、女性とその息子らしき者が写真館を訪れる。
写真を撮ってくれと言っている。
警察に頼まれて、様子を探りに来たのか。外も何となく騒がしい。
逃亡生活がいよいよ現実味を帯びてくる。
しかし、親子は写真を撮って、いい記念になったとばかりの様子で満足して写真館を後にする。
しばらくして、本当の刑事がやって来る。先ほどの親子が忘れた手袋を取りに来たと、強引に入ってくる。
今度こそ捕まえに来たかと、牽制した態度を隠せずにいたが、手袋が見つかると、これで事件解決と笑みを浮かべて、刑事は写真館を後にしようとする。聞いてみれば、犯人は、あの母に連れられた息子だったようだ。

ふねは、何となく全てが仕組まれていることを感じる。
弟は、帽子仲間ができて嬉しかったのか、今の若い妻と幸せに暮らす自分との違いに同情したのか、今日、出会ったばかりのチャムを友人として、捨てられないようにと策略を練ったようだ。彼を助けてあげて欲しい、昔のように二人で彼のそばにいてあげて欲しいと涙ながら訴え、彼を自分の部屋へと連れて行く。
ふねは、さらに気付く。
しのぶも仕組んでいた。久しく会っていなくても、ケンカばかりで本音を語ることなど、ほとんど無くても、一人の男を通じて互いに分かち合っていたことは多かったのだろう。ふねがチャムを追い出すところまでは計算通りだったようだ。ただ、チャムにあんな友人が出来ていたことは想定外。でも、また、三人で時間を過ごせるようには持っていきたかったので、結果オーライではあった。三人で、どこまでも一緒に逃亡するのもいいなあと。
そして、何十年も一緒に過ごして、自分はある日、消える。かつてのふねのように。
この20年、しのぶは、自分の人生の中での大切なピースを失って、彷徨っていたのだろうか。ただ、時間だけは、流れていき、自分がもはや、女であることもあやふやな歳になり。
そんなしのぶを、ふねは、ただ抱き締める。
今日は色々なことがあり過ぎた。整理するのも大変。ましてや、これからのことなど考えるのは。
だから、とりあえず、二人はボレロを踊る・・・

舞台は、写真館の雰囲気を精巧に作り上げている。
部屋の電気をつけていても、妙に薄暗い。モノクロ写真のように、色が見えるものはほとんどない。帽子ぐらいだろうか。
それでも、そのシーンによって、舞台の明暗、色合いは変わっていく。
若い夫婦の会話のシーンでは、どこか明るくなり、色も少し鮮やかさが出てきたように感じる。過去を回想し、熱き青春時代を語り合えば、さびれた雰囲気の写真館が、なぜか活気溢れた様子を醸し出す。
この先のことを思い巡らせると・・・
そこには、蓄積した悲しみが滲み出て、哀愁というか、ノスタルジックな風景が拡がり出す。このまま、モノクロが暗闇へとフェードアウトし、この写真館自体が消えてしまうかのような感覚も得る。
そうなるじゃないかと感じた頃に、ちょうど、よく知らないが、あれがボレロなのだろうか、人影という役のお二人の踊りが入り込む。暗闇に落ちて消えていくことに抵抗するような感じ。
そして、話が進み、チャムを逃がそうとみんなで奮闘する頃、舞台は、かつての青春時代かのように、光を取り戻し始める。でも、その先のことを思い起こすと、その光も消え入りそうだ。ただ、絶対、この光は消えないだろうといった強さも見える。
最後に踊るダンスは、そんな強さを示しているかのようだ。過去を思い起こし、その悲しみから生まれる踊りではなく、これからの自分たちに、また訪れるであろう悲しみも喜びも全部受け止めて吸収してしまうような印象を受ける。

老いる。
時が経ち、人は変わってしまう。
その変化を喪失という点だけで見ると、この老いという言葉だが、逆に獲得という点で見れば成長でもある。
本当は区別する必要も無いのだろう。
得るだけが成長ではない。何かを失って、身を削いで成長することだってきっとある。
得るも失うも無く、ただ守り続けるのも、これまた老いであり、成長でもあろう。

ふね、しのぶ、チャムは、老いて、若さ、匂いや色、あの頃の青春時代の輝きを失ったかのように思っている。
あの頃には戻れない。それは事実であるが、3人とも、そんな喪失だけを思う必要はないだろう。
失った空間の中に、各々の歩みの中で得た何かが入り込み、今の魅力を醸し出している。
匂いが無くなり、色がくすんでも、それは変わることの出来ない造花では味わえぬ、生きた花の魅力なのだと思う。
そして、この20年もの間、憎しみ、妬み、愛、悲しみと交錯しているのだろうが、ずっと守り続けていた互いへの想いは、3人の誇りだろう。いくら変わろうとも、決して消えてしまうことは無かった。
チャムは抱き締めてくれる友を得たし、しのぶとふねは、あの頃には出来なかった抱き締め合いを実現した。
人の心を動かして、それを受け止めることが出来るような人になっているのだろう。
それは悲しみではなく、時を生きてきた者がその果てに得た、これからの時間への出発とその希望の瞬間なのだと感じる。

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コメント

月曜日にPM/飛ぶ教室を持ってきはりましたか…


私のこの土日は

4日(土)
STB138→劇団925のそとばこまち系観劇(笑)

5日(日)
PM/飛ぶ教室
猛き流星

火曜日はIN15トライアル2次に来られると思ってましたが…

投稿: KAISEI | 2015年7月 8日 (水) 23時33分

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