萩家の三姉妹【劇団未踏座】150710
2015年07月10日 龍谷大学深草キャンパス 学友会館3階大ホール (140分)
田舎の旧家、萩家の三姉妹の恋愛を通じて、男女差別が残る社会で女性が自立して生きていくこと、自分らしく生きることを見詰めていく。
そんな一年を描いた作品ですが、季節によって起承転結が明確で非常に分かりやすい設定になっています。
登場人物の背景を見せる春、不穏な空気が漂う夏、泥沼化していく様々な関係を目の当たりにする秋、これまでを見詰め、これからを見出そうとする冬、元旦、一年の計。
最後は、これまでの先人たちが築いた人として生きる上での大切な原点は決して捨て去ることなく、おかしな方向に流れている無用な差別は、新しい時代を生きる者で消していかなくてはいけないのかなといった感覚を得ました。
特徴的な登場人物の役を各々で掴み、それがぶつかり合っている様はなかなか見応えのあるものでした。
田舎の旧家、萩家。
大学でジェンダーの研究をしている長女、鷹子。今は教授となった男と不倫していたが、奥さんの妊娠発覚と共に別れることに。
次女の仲子は、歯科医と結婚して専業主婦。子供もいる。実家は出ているが、実家の庭に旦那がさくら草を植えているので、その世話も兼ねてちょこちょこ顔を出す。旦那はとにかくイベント好きで子供のよう調子に乗るので、妻と同時に母でもあるような感じ。
三女、若子は、いわゆるパラサイトシングル。自分の将来の姿が見えておらず、何をしても長続きしない、短絡的に日々を過ごす。性に関しても奔放なところがある。
お手伝いさんの女性は、萩家に50年来、務めてくれている昔気質の人。結婚もしておらず、三人を我が娘かのように可愛がる。もっとも、今は亡き、三人の父と関係があったようだが。
鷹子は、自分の経験もあってか、ジェンダーからの解放された生き方を強く訴え、次女や三女にも、口を開けば押し付けてくる。特に三女には、自分が生活費の面倒を見ていることや、先が見えないだらしない生活をしていることから手厳しい。
そんな萩家に、様々な訪問者が現れることで、三人の隠れた本性が浮き上がっていく。
鷹子の不倫相手であった大学教授。よりを戻したいのか、奥さんと子供を抱える生活に抑圧を感じるようになったのか、何かストーカーのようにちょこちょこ訪ねてくる。そのうち、共同研究と称して、自分たちの別れを題材に、ジェンダーが人の生き方に与える影響を鷹子と語り合うようになる。過去の恋愛から、二人の出会いやセックスまで、全てを曝け出すことで、ジェンダーの研究をしている自分たち自身もまた、それに囚われていることを知る。それにより、鷹子は少しだけジェンダーに対して幅広い考えを持てるようになったみたい。そして、大学教授はありのままの自分の姿で生きていくことを決め、鷹子の前に女装姿で現れる。
昔、東京に住んでいた頃の幼馴染の男。バイトの宅配便の仕事をしていて、偶然に再会。今は結婚して、脱サラ農業を厳しい中で営む。妻は妙齢にも関わらず、可愛らしいメイクにヒラヒラの服で、何にでもはしゃぐ。病気で子供を産めない体になった頃から、自分たち夫婦のことを描いた童話を書いたりと、現実を空想の世界のように捉えて楽しむような感じになっている。幼馴染の男は、ずっと仲子に想いを抱いていた。そして、この少し痛いほどはしゃぐ妻に違和感を覚えるようになっている。同じようにイベントではしゃぐ旦那を見て、仲子は今の生活に幻滅する気持ちが現れ始める。そんな二人が再会したので、当然、互いに惹かれ合い、一線を越えてしまう。幼馴染の妻はそれに気付いたようだ。自分の童話に、仲子やその旦那と思われる人物を登場させ、ある日、バッサリとその世界を終わらせて、自らも出て行った。関係は、ある日、突然終わる。そう常々考えていた妻は、不安の中で苦しんでいたのかもしれない。幼馴染は、気が楽になったのか、新たな生活を仲子と始めようと考える。離婚して一緒にと誘われるが、仲子は決心がつかない。全く、不倫に気付く様子もなく相変わらずの旦那、そして置いていくなど絶対に出来ない子供。仲子の心は揺れ動く。
昔から家の管理をお願いしていた工房の若い職人。兄弟のような関係である二人。兄貴分の方は若子と付き合いがあり、そろそろプロポーズするつもり。でも、弟分はそれを聞き、気まずそうな顔をする。実は、ちょっとしたことで若子と関係を持ってしまったのだとか。自分は付き合う気は無い。でも、そういう女と結婚することに心配しているみたい。結局、兄貴分は若子を見限る。そして、なんでか、弟分の心はぐらつき、若子と関係を持ち始める。やがて、弟分は将来が見えない工房の職を捨て、東京へ若子と一緒に旅立つ決心を兄貴分に語る。今度は、兄貴分がきまずそうな顔をする。若子とつい、また関係を持ってしまったのだとか。三人は関係を決裂する。というのが普通だが、新世代の考えは違うのか、結局3人で東京で共同生活をしながら将来を考えていく。しかし、若子は、これまで厳しかった鷹子に後押しされ、不倫をしている仲子に大反対されることで、自分がどうするべきなのか、心がぐらつき始める。
そんな色々なことがあった一年を描いたような話となっている。
その間に、お手伝いさんが脳梗塞で倒れて、麻痺が残る体となった。迷惑をかけるからと、この家を出て行こうとするが、三人はそれを許さない。家族だからだ。
といって、仲子は不倫して、あまり実家に顔を出さなくなっている。離婚して、幼馴染の男と一緒になれば、今以上に疎遠になることだろう。若子も家のことは鷹子に任せきり。そして、東京に行けば、なかなか家に帰ることも無くなるだろう。鷹子は大学教員の仕事をしながら、介護をすることが出来るのか。
自分らしく生きる。男女という性別を持ち、家族の一員である自分が、したいことをしながら、かつ、その責任を全うした生き方をする。
どうしたらいいのか。最後に答えは出さず、これまでの自分を見詰めて、そんな決心をしなくてはいけない新しく迎えた年の中の彼女たちの姿で話は締められている。
ジェンダーの議論は難しいですね。フェミニズムを唄っても、どこか突き詰めると、やっぱりジェンダーに囚われているなあということはよく感じることです。
男女とか関係なく、結局は自分らしく生きることを認める、多様性を理解することなのだとは思いますが、そう簡単なものではないでしょう。
自分らしく生きるということは、もちろん自分の勝手気ままに生きることではなく、生物学的に人間として性別を与えられ、家族や社会の一員として存在する自分が、その中でどう豊かに生きるのかですから、言葉にするほど簡単なことではありません。
思想が行動を縛る。思っていることそのままが行動に移せるはずもなく、ましてや男と女のこと。思想と行動の間に生まれるギャップが、思想の崩壊を起こしそうになるので、守ろうとする。その時、人を攻撃したり、憎んだり、怒りと負の方向に力が働く行動が生まれてしまっているような気がします。遊びが無いといった感じでしょうか。
思想に執着することなく、矛盾やギャップがあるのも仕方がないことだと考えて、行動を起こせればいいのでしょうが。それに繋がるのは、思想を正しい、間違いとオンオフの全肯定、全否定で捉えるのではなく、部分肯定、部分否定の積み重ねで、新しい思想を様々な人同士で創り上げていく方がいいように思います。
男だから、女だからという概念に苦しむ。今は、少しずつ変わってはきているように感じます。でも、その結果、男らしさ、女らしさを無くす過程で、一緒に人らしさみたいな根本的な大切なものを失ってはいないですかね。思いやりが無いとか、人の想いに寄り添えないとか、人に優しく出来ないとか・・・そんな大事なものが。
今、昔より男女平等の世の中になっても、何か生き辛い感じがするのは、そんなところに隠されているような気がしています。
ジェンダーとかに縛られずに、思うままの自分を目指して生きていこうとする新年を迎えた萩家の三姉妹の影に、家族であるお手伝いさんの姿がまだ、みんな見えているような空気から、変えなくてはいけないもの、どんなことがあろうとも人である限り、変えてはいけない、残し続けないといけないものがあるような感覚を得ました。
最後、若子の東京行きに関して、鷹子と仲子の考えがぶつかります。
鷹子の改革と仲子の保守の戦いみたいな感じで。
若子が、鷹子に従って東京に行けば、改革の勝利。仲子に従って東京行きを辞めれば、保守の勝利。といった感じでは、多分、今までと同じで何も変わらないのでしょう。
若子が自分で決める新しい道。新しい時代を生きる若者の新しい発想で生まれる新しい考え。
萩家は、恐らくは寡黙に父に仕えていたような亡き母、古き時代のお手伝いさん、妙齢の自立を目指す長女、子育てもしないといけない専業主婦の次女、まだ先が不安な若い三女と、ジェンダーに関して様々な考えを抱いているであろう世代の代表みたいな感じになっています。いわば社会の縮小図なのでしょう。
萩家の面々が各々自分らしく生きられるようになることは、豊かな社会が構築される基盤なはずです。
未来を創るのはいつでも、若い者たち。そんな若い者の代表である若子が、単なる自分のわがままな生き方を貫こうとするのではなく、お手伝いさんのことや、姉たちのことを想いながらも自分で決断する道を、よりよく進みやすくしてあげることが、周囲の年配の者たちの大事な役割なのだと思います。
役者さん、新人さんもいらっしゃったみたいで、まだぎごちなさが残るなあという感も多々ありますが、特徴的なキャラを掴んで、それこそ自分らしく、その登場人物らしくを実現できているように感じます。
圧巻なのは、鷹子役の丹波橋☆あーりんさんと、教授役の真芝尤さんの20分ぐらいに及ぶ二人の恋愛を曝け出す語り合いでしょうか。芝居じゃなく、普通の会話を聞いているような感覚に陥るほどに惹き込まれました。
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