カレッジ・オブ・ザ・ウィンド【学窓座】150704
2015年07月04日 関西大学 有鄰館1階 多目的ホール (120分)
観劇していると、よくあることなのですが、始まって数十分ぐらいが、やたらもたつく。
でも、最高潮の盛り上がりをきちんと魅せてラストを迎える。
観終えた後から思うと、どうして初めからエンジンフル稼働でスタートしなったのかと思ったりすることも多いが、難しいことなんでしょうね。
だから、冒頭にダンスを入れたりするところもありますものね。
それに、よくよく考えると、最初から惹き込まされて観ることが出来るのは、一握りの劇団しかないかもしれません。
今回は、ちょっとその点が気になりました。
ただ、この劇団は初観劇でしたが、非常に登場人物の深くまでを見詰めて、ご自分方の個性を組み込んだキャラ作りが上手いなという印象を受けます。
それと元気さでしょうか。
溢れる元気な姿は、この作品での、想い合うことで生まれる家族や夫婦の愛や絆の爽やかさに通じているようです。
高梨ほしみ。
家族は、祖母、両親、弟と妹。
祖母はこの歳にも関わらず、クラブに通ってボーイフレンドを作ったりして自由気ままな生活。
父は大黒柱として家族の生活を支えるが、いまひとつ、頼りなく、まとめきれていない。
母は、自分が経営する会社が忙しいとあまり家庭を顧みない。
妹は、医者になるのだと、予備校の毎日。
弟は、クラブのサッカーに夢中。
各々が自分の好きなことに時間を使い、家族が揃って会話をすることなんてまず無い。
ただ、年に1回だけ、家族が揃う時がある。それは家族旅行。今年は盛岡にキャンプに行く予定。
母が仕事が忙しいからとか、妹が恥ずかしいし、予備校があるから行かないとか言い出すが、ほしみはこの家族が、家族であることを思い出させてくれる大切な時間であることを力説し、結局、今年もみんなで行くことになった。
道中、色々と愚痴ったりもあるが、みんな楽しそう。本当は、みんなこの旅行を、家族の触れ合いの時間を楽しみにしているのだ。
しかし、そんな家族に悲劇が降りかかる。
交通事故。ほしみ以外は全員即死。ほしみは東京の病院へと搬送される。
病室には、バイク事故で入院中だが、退院したらハーレーに乗るのだとか元気いっぱいの前向きな女の子。看護師の激務がたたって、ヘルニアを発症し、静養中の女性。白衣の天使などとは程遠い、妙に威厳があり、きつい雰囲気でとっつきにくいところがあるが、周囲をしっかりと見渡せる責任感の強い人みたいだ。
病室担当の看護師は、ちょっと痛い天然の空気を醸すが、家族を失い、意気消沈しているであろうほしみを少しでも元気づけたいと彼女なりに必死で気遣っている。
肝心のほしみは、怪我もそれほどではなく、笑顔で元気いっぱい。無理をしているわけでは無い。実感がわかないようだ。それもそのはず、ほしみのそばには、祖母も両親も弟も妹もいる。ほしみだけに見える幽霊として。
あんなに自分勝手にしていた家族が、今、一緒にいる。どうして死んでからなのか。そんな想いが溢れて涙が出てきそうになるのをほしみはこらえる。
時同じくして、ほしみの叔父、鉄平は刑事に追われている。
妻に渡したいものがあると連絡を取り、待ち合わせをするが、妻の同僚の男が刑事に付けられる可能性を考慮し、自分がその待ち合わせ場所に向かう。
鉄平は、妻への手紙をその同僚の男に託し、逃亡をしようとしたところ、追ってきた刑事と揉み合い、銃弾をうける。鉄平は意識朦朧としながら、その場を逃げ去る。
刑事は、鉄平が戻って来ると考えて、鉄平の家に向かい、妻と会う。
その時、ほしみの事故の連絡が入る。
鉄平の妻は、急いで、病院に駆けつける。同僚の男も一緒。
彼女はラジオDJ。病室の子たちも、たまに番組を聞いたりしたことがあるようだ。
同僚の男をほしみは覚えている。叔父の結婚式の司会をして、噛むわ、段取り悪いわ、スベるわでさんざんだった人。
そして、昔、聞いた彼女のラジオ。リスナーからの質問。二人好きな人がいるけどどうしたらいいかという悩みに彼女は自分の経験を交えてはっきりと答えていた。私には、私が好きになった人と、私を好きな人がいた。自分は、私を好きになった人とずっと一緒に過ごすことを決めたと。きっと、叔父が選ばれ、この一緒の男は友達となったのだろう。
ほしみは叔父のことを聞く。行方不明になったという連絡だけは家族旅行の前に入っている。幽霊となった家族たちもやかましく聞けとほしみを煽ってくる。
答えは分からない。警察に連絡した方がいいのではと言うほしみの言葉に二人はキレの悪い言葉を繰り返す。この時、始めて叔父が警察に追われていることを知る。
新聞記者だったので事件に巻き込まれでもしたのだろうか。
叔父の行方やその経緯が気になるが、今は、二人にほしみの家族の通夜に向かってもらう。誰もいないので、二人に任せるしか無い。
叔父がもし来たら、すぐに連絡をすると約束をして。
その夜、叔父がやって来る。
ほしみは元気そうな叔父を見て安心。幽霊となってしまったが、家族たちとも再会する。
祖母は口悪く不肖の息子を罵り、兄である父は安堵の表情。弟と妹はノリのいい叔父が好きなのか喜んでいる。母だけはどこかよそよそしい態度でそっぽを向いているが。
家族だからだろうか。叔父には家族たちが見えているようだ。
まずは、追われている原因を聞く。
発端は叔父の妻に届いたメモリーカード。その音声は雑音だらけだったが、よく聞くと、女性が不倫をネタに多額のお金を脅迫されている。
下手に動くとまずい。叔父は知り合いの刑事に連絡する。その時、気付いてしまった。その刑事の部下の声が、脅迫している人の声と同じだったことを。
刑事と会った叔父は、逆に狙われることになり、逃亡しているらしい。
とりあえずは、ベッドの下に隠れてもらうことに。明日になれば、通夜を終えた二人も戻って来るはず。暗い狭いとうるさいが何とかなだめる。病室の子にも気付かれてはいないようだ。
遂に、刑事がやって来た。部下も一緒で二人連れ。
ほしみは、この悪徳刑事たちに、叔父から聞いた話をぶちまけ、責め立てる。
病室の子たちもそれに同調して、この二人の刑事を警察に突き出す勢い。
しかし、刑事が語る事件の真相は全く違った。
叔父は、暴力団の組事務所に行っていた。何らかの理由で脅迫されていたらしい。そして、組員と揉めてしまい、発砲。重体だったため、殺人犯として、叔父を追っていたため、逃亡する叔父を撃った。
刑事はそれだけを語り、病室を去る。
叔父はいつの間にか消えていた。
翌日、叔父の妻が病室にやって来る。
ほしみは、ベッドの下にかくまっている叔父に声をかける。
その時、病室に隠れていた刑事が飛び出してくる。
銃を構え、叔父に投降を呼びかけ、ベッドの下を探るが、その姿は見えていないようだ。
刑事は、隙を見て逃亡したと考え、病院中を駆け回る。
そんなはずはない。叔父はここにいるのに。
ということは、叔父は既に・・・
そして、その姿は妻には見えていないようだ。家族、夫婦なのに。ほしみには見えるのに。
そんな中、ほしみの母が口を開く。
それを制する叔父。
叔父から、本当の真相が語られる。そして、叔父が妻に抱いていた疑念も一緒に。
母は浮気していた。それで脅迫されていた。叔父は、母のために暴力団事務所に乗り込んだのだった。
ほしみの家族はやはりバラバラだった。でも、今は違う。みんなが向き合っているから、こうして幽霊になっても互いに見えている。
叔父は妻が、自分では無く、同僚の男を見ていると疑っていた。結婚してもずっと片思い。自分だけが妻を見ているだけ。
それは違う。ほしみは知っている。叔父の妻はずっと叔父を見続けていることを。ラジオでもそう言っていた。
妻に叔父の姿が見えないのは、叔父が妻を見ていないからだと。
そんな言葉を叔父が受け取った時、叔父の姿が妻の目に浮かび上がる。
死んでからだけど、ようやく分かり合えた。
それはほしみの家族も同じ。
でも、もうお終い。家族旅行は2泊3日の予定だった。
これでお別れ。
ほしみの家族と叔父は、ほしみと妻を残して旅立っていく。また、来年の夏、会うことを約束して・・・
これだけ人が死んでいるのに、妙に爽やかに家族、夫婦の触れ合いが感じられる作品です。
死者を風として描くことで、自分の生きる中で、全身の肌で感じるその時の心地よさが、自分に振り注ぐ家族の温かさみたいな感覚で捉えられるようなところがあるからでしょうか。
ミスリーディングをするように、叔父の死や、事件の真相を描いているようですが、不思議とその伏線が簡単に分かってしまい、かなり早い段階で、オチが見えてしまうところに少し物足りなさは感じるところがあります。
感がいい方では無いので、たいがい、騙されて観るのですが、これはいいところなのか、悪いところなのか、役者さんの表情、視線から、ほぼ分かってしまったところがあります。ネタバレの演技と言うことも出来ますし、個々の登場人物の心情にしっかりと入り込んだ演技だとも言えますね。
初観劇なので、簡単に役者さんにコメントを。
ほしみ、SAY YOU!DJファラオさん。恐らく、作品に爽やかさを感じる源になっているのでしょう。まっすぐに家族を想い続ける。懸命でも必死でも無く、ただ家族だから当たり前という空気のような純粋な存在。笑顔の似合う素敵な方でした。
父、69696っ9さん。最初、ぎこちなさが気になりましたが、このキャラはこんな感じなのでしょう。頑張りが空回りするけど、それでも回らない訳にはいかない。大黒柱だから。そんな世のお父さんの姿が出ているように感じます。
母、咲くLOVE!∞さん。この作品は初めて観るのでどんな話か全く知らなかったのですが、最初から、どうもこの母がキーワードになるっぽいなと感じました。どういうオーラ、表情、セリフの抑揚でそう感じたのかは分かりませんが。多分、家族と楽しむのが好きで、家族が壊れるのを一番恐れている感じなのに、相反する行動を取ろうとする矛盾がどこかに露出しているだと思います。
祖母、カカト魔人さん。おばあちゃんでしたね。それも、ちょっとファンキーな。作品中の二つの家族の原点にある人なので、それが失われることに悲しみを見せそうですが、最後まで飄々としていました。死んでしまったけど、家族は失われていない。むしろ、生きていた時の方が崩壊していたので、再生されたのだ。だから悲しまず笑顔でと分からせるようなキャラなのかと感じます。
妹、しほーはっぽーぱぃなポウッさん。何か、芸名を書くのが面倒になってきた・・・幼さを見せますが、家族の中では一番知的なキャラで、誰よりも大人でしょう。母の浮気も全部気付いていたみたいですから。そんな冷静であり、かつ黒さが少し漂うキャラでした。
弟、ねむたいとしごろーさん。妹と真逆で、頭悪いんだろうなといったキャラ。勉強とかではなく、こういう揉め事とかに疎く、複雑な関係性にただ頭を抱えるしかできないような幼さを見せます。まっすぐで社交的っぽいけど、悩みは自分で抱え込んで悪い方向へと勝手に進んでしまうような、成長すると叔父みたいな感じになるようなキャラかな。
叔父、鉄平、海老反りコーチン丸さん。不器用な男でしたね。妻を愛し、ほしみの母の相談にのるだけなのに、自分で火種を巻いて、自分で火を付けて、自分で勝手に燃え広がせて。結局、逃亡と同じで、走り回っていたのは自分だけ。でも、きっとそれが彼の生き方だったのでしょう。この人は、周りから風を受けるのではなく、自分で風を吹き続けるような人。死んだ後、風になるのなら、残された人たちに素敵な風を届けてくれるように感じます。
叔父の妻、砂丘でヒッチハイクさん。美しさと温かさを同居させた素敵な方ですね。彼女の言動が、想い合うことで生まれる家族や夫婦の絆や愛の原点なのだと思います。いくら愛しても、愛されても、それが向き合って受け止め合えない限り、そこに関係は生まれない。だから、愛は残酷でもあり、素晴らしくもあるのでしょう。
同僚、ギャングロ番長さん。作品中で、どう捉えるべきキャラなのかが難しいですね。叔父の妻をDJとして、活躍の場に送り出すという使命感は、叔父の妻への愛情なのか、何をやってもいまひとつな自分への挑戦なのか。ずっと最後まで真意を隠しているようで、風を吹かさないという苦しみの中にいる感じがします。
刑事、いつもうしろに爆撃機さん。芸名のように、何かずっと後ろにイラツキを感じさせ、それで人を傷つけそうな空気を醸される。自分を律することに囚われ、それこそ、吹く風など感じる余裕の無い日々を想像させる。
部下、ロンギノスのようなものさん。この方も芸名のイメージが強いでしょうか。冷静沈着で崇高な空気の中に潜む、狂気的な激情があり、それが時折、顔を覗かせているようです。警察にすると一番厄介な感じがしますが。
ヘルニアの看護師、桜貴婦人さん。変わった空気を持つ方。高飛車で気取ってるけど、実はけっこうミーハーで、誰とでも仲良くするという気概はある。相反する性格が交錯して、おかしな人を創り上げてしまったかのような、少し怖さを醸されている。空気感が強過ぎて、話の流れを止めてしまうようなところも。制御する巧さを身に着けると、魅力を最大に発揮できるのかなと感じる。
バイク事故の子、ぷさん。やんちゃでひたすら前向きなところが目立つキャラ。細かなところは気にしないみたいな下町風情の空気が、ある意味、この人情話の中でははまる。
看護師、侘寂バイブレーションさん。この方も奇怪な空気を持つ。天然で、自由奔放みたいだけど、看護師としての使命感に熱く燃えている。この方も、天然や痛い空気をシーンによって抑えたり爆発させたりと自由自在に扱えると、もっと魅力的で、見た目では無く、演技として目を惹く存在になるのでは。
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