« とりあえず、ボレロ【PM/飛ぶ教室】150706 | トップページ | 萩家の三姉妹【劇団未踏座】150710 »

2015年7月 9日 (木)

こどもの一生【神戸大学演劇部自由劇場】150708

2015年07月08日 シアター300 (115分)

完璧じゃないでしょうかね。
クオリティーの高さは、数回しか拝見していませんが、毎回感じるところで、今回はより向上して健在。
特にいいなあと思うのは、シーン切り替えのスムーズさ。その切り替え時にふさわしい、抽象的な動きを見ているだけで、知らぬ間に次のシーンに連れて行ってくれます。
あとは、よく分かりませんが、照明の影の作り出し方で、恐怖が煽られるようなところが多々あったように思います。そして、役者さんの、メリハリのある、しっかりとした役作りでしょうか。
素晴らしいの一言。

と、何も文句つけずにおきたいところですが、一点だけ。
会場から溢れるくらいに客が来ているので仕方が無いとは思いますが、既に座っている客席の前に追加の席を設けるのはご法度だと思いますけどね。
混み合うのを知った上で、なるべく早く伺って、観やすいポジションをキープしているのですから。
通路確保やら、そのために席確保の予約を準備しているとかは、もちろん理解していますが、あれだけスタッフもいて、公演数も200近い経験豊富な劇団なのですから、きっとやりようはあるはずです。

<以下、あらすじは書いていませんが、配役がネタバレしますので、ご注意願います。公演は日曜日まで。金曜日は休演みたい>

中島らもが好きだったので、小説では知っている作品。
今回、観劇するにあたり、G2演出の公演の感想をあらかじめ拝読して、観劇にのぞみました。
あらすじは、自分で小説を読んで知っているのと、ネットで調べたら詳細な記載のある感想が散在しているので省略。
役者さんのコメントに、作品の感想も交えて記します。

社長、まなてゐさん。G2公演では、吉田鋼太郎さんがされている役。どこか、いかつさと幼稚性の同居した雰囲気は似ているのかも。生え際とかもね。勝ち誇ることを正義として生きてきた男の横暴さと同時に、そのために犠牲とした人を思いやる心の喪失からくるのか、悔いるような哀しみやもどかしい人恋しさも味あわせてくれる空気を醸されているように感じます。哀しみは、子供になってから、幼稚っぽく出てきており、これがこの人の大人である間は出してはいけなかった抑圧された姿なのでしょう。そこを秘書の柿沼はきちんと感じていたのでしょうか。家のローンなど大人の事情は大きいとはいえ、彼から捨てられたくないし、捨てたくもないような間柄を感じます。外側からだけ見ていれば、腹の立つおっさんなだけなのでしょうが、一歩踏み込めば、意外に人間味があるのかもしれません。ただ、世でいうブラック企業が依然として成立するのは、こうした横暴さを完全否定せず、どこか許して正当化してあげるような善意の優しさがあったりするのも一因のような気がしますが。
柿沼、成田開さん。あのお辞儀の角度ね。あれ以上もあれ以下もない完璧な角度にちょっと感動でしたね。あれだけで従順をしっかりと表現されます。終始、虫も殺さないような生真面目さを前面に押し出していますが、抑圧されているなということも、ひしひしと感じさせています。そして、それは心の内で憎しみ、恨みとなって育っているかのよう。子供になることで、大人の時にあった社長への敬意や、そばにいなくてはいけないという憐れみも含んだ優しさとそんな憎しみ、恨みとのバランスが崩れたようです。心を解放すれば、そこに潜んでいた狂気的な化け物が現れる。周囲の煽りによる集団心理もあったのでしょう。山田のおじさんは、そんなこの人の分身でもあるように感じました。最後は、大人であることに気付き、それを自らで決着つけたようですが、化け物は既にしでかしていたようです。

医師、三ツ矢・M・たらおさん。トワイライトゾーンとか、何か謎めいた世界への案内人みたいな、すごくミステリアスな雰囲気のある方。だからでしょうか。一発ギャグもゾクっとするものでした。実際、この方は、最後まで謎のままです。この一連の事件は、もしかしたら国家が仕組んだかのような匂いも残します。上記したように、悪いことをしたりする経営者や、会社は後を絶ちません。本来ならば頼りにはあまりならない国家組織がせっかく動いても、逆に大人の事情で被害者であるはずの人たちが守ろうとして、検挙に至らないこともあるのでは。ここは、そんな会社にトドメを刺すために、狂気的な研究者と闇の契約が結ばれた機関のような感じがします。
看護師、藤島望さん。この方だけでなく、ご出演の女優さん、当日チラシの綺麗な美しさを漂わす写真と舞台での雰囲気が全く違いますね。化けるという意味では、山田のおじさんよりもよほど怖い。この方も医者と同じく、不可思議な謎めいた魅力を醸します。この方の場合、役柄から、そこにエロさとかも加わりますし、母のような優しさ、厳しさも盛り込まれる。要は何を考えているのか実体を掴めない。そんな怖さが後半になるにつれてじわじわと滲み出て、最後に恐怖の象徴として映し出されているようです。笑いの中から、じわじわとホラーチックな恐怖が浮き上がるこの作品と同じく、妖艶な中から浮き上がる狂気みたいな感覚でしょうか。黒幕はこいつじゃないでしょうか。社長と柿沼の関係とオーバーラップするような感じもして、医師をも操り、いつかは葬り去ろうとしているのではないかと疑心の目で見てしまうような怖さが残ります。

嫁姑の再現ドラマの脚本家で、自分の中に潜む鬼畜に怖れを抱くようになった男、田中千代之助さん。この方も柿沼と同じように、人を傷つけるなんてことは出来ないような感じを漂わせます。でも、そんな残虐性への憧れが潜み、それを脚本にぶつけていることで、現実化してしまうのではないかという暗黙の恐怖が感じられます。本当は善人ではなく、悪意が潜むこの人が子供に戻ることで制御が外れてしまったのは柿沼と同じなのでしょう。ただ、この人の場合、そんな悪意をぶつけるべき対象が、柿沼とは違い、明確に存在していません。誰でも良かったというような殺人は、こんな人間の潜む、どこにもぶつけられない悪意を、昇華する手段を失った時に生まれるのかもしれません。
家電量販店の販売員で、テーマソングを聞くとおかしくなる女性、朝霧セイナさん。会社に洗脳されて、その恐怖を漠然と感じ取り、様々なストレスを抱えているのにも関わらず、この仕事が好きだとか、会社に貢献すべく、いい接客をしようとするような善意の塊を感じる純粋さがあるからでしょうか。妙にけなげで可愛らしく映ります。同時に、ちょっとほわ~っとして、抜けているなあという天然さも。それだけに恐らく、完璧に子供返りの催眠にかかっていたのでしょう。最適の環境で、疑うこともなく、楽しい子供生活を過ごしていたようです。この人にとって、山田のおじさんは、大人の現実である、妬み、憎しみ、傷つける人がいて、その中で生きていくには、いつもその被害者側にいるのではなく、時には抵抗したり、場合によっては加害者ともならないといけないということを突き付けてくる存在だったように感じます。
テーマパークでテンション高いアトラクション案内をするうちに首が曲がってしまった女性、なりえるみさん。勢いが凄くて、ちょっと怖いですね。子供返りした時の方が、少し落ち着いているぐらい。大人の時のテンション高さは、自分の思い通りの人生を歩めていないことへのイラダチやら、自分への無理矢理な奮起の気持ちが込められているので、当然なのでしょう。単にワーワーと笑って泣いて、感情そのままの姿の子供は微笑ましいですが、大人が同じことをすると、そこにはやはり、そこに潜む辛さや悲しみが見えてきて、哀しい想いも湧いてきます。大人って大変なんだということを感じさせてくれるキャラです。気になるのは、この役、幻覚を見させるために食べさせられるキノコが嫌いで、多分、他の人よりかは食べている量が少ないんだと思います。社長にごはんを盗られていた柿沼が最後に、大人へとより早く戻ったように、この役も早く正常に戻りそうな気もしますが。戻りたくない、何も考えずに、明るく元気な本来の自分の姿でいたいという意志でしょうか。現実から逃避してでも、自分を取り戻したいという、そんな力が働くなら、今を変えるように治療を施さないと、精神療法の限界が見えてくるようです。
山田のおじさん、月本純暉さん。まあ、この方だけには限りませんが、役へのはまり方がどの方も見事でした。これから、きっと、この作品をどこかの劇団が公演をする時に観ることがあると思います。その時に、この山田のおじさん以上のはまり具合を感じられるかなあ。いかがわしく、不気味で、正常さが完全に消えた異常の塊。人はこんな化け物を、心に抱えているのかと思うだけで、スプラッターホラーの演出が無くても、十分怖く、心が凍り付きます。

大人社会において、地位、名誉、金なども絡む上下の中で、大人の事情をもって成立している人間関係。それを子供に戻して、無理矢理、上下を無くしてしまう。残るのは人間関係。そこには、内に潜んでいた悪意が見えてくる。それは化け物、この作品では殺人鬼として露出する。
子供はそれを制御することは出来ない。大人はそれを封じ込めることも出来る。
その封じ込めが出来ない時に、殺人鬼は残虐性となって世にはびこる。大人になれない、なりたくない人が増えた世の中で、日々、生まれる殺人鬼は、・・・
といった恐怖が最後に残るような話でした。

|

« とりあえず、ボレロ【PM/飛ぶ教室】150706 | トップページ | 萩家の三姉妹【劇団未踏座】150710 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: こどもの一生【神戸大学演劇部自由劇場】150708:

« とりあえず、ボレロ【PM/飛ぶ教室】150706 | トップページ | 萩家の三姉妹【劇団未踏座】150710 »