赤ずきん The Labyrinth【ムーンビームマシン】150612
2015年06月12日 HEP HALL (110分)
今の自分は幸せ。もしくは不幸せ。
幸せの象徴のような赤い頭巾をかぶっていれば、お金があれば、地位があれば、健康があれば、可愛がられていたら、信じられていたら、愛されていたら・・・、幸せ。
不幸の象徴のような青い頭巾をかぶってしまうと、お金を失えば、地位を失えば、健康を失えば、嫌悪されていたら、妬まれていたら、恨まれていたら・・・不幸せ。
そんな単純な選択肢で人の幸せは決まらない。
様々な状態に身を置けば、自分自身や相手のことを見詰めることが出来るようになる。
その時、人には様々な色があり、それが混ざり、彩り合って、素敵な世界が生まれることを知る。決して、一人ぼっちで、素敵な世界は創られない。
今、生きている世界をより良くするために、何色の世界にするとかではなく、みんなで持ち寄った素敵な色で、世界を彩りましょう。
そんなことを、赤頭巾を脱いで、青い頭巾をかぶり不幸だと嘆く赤ずきん、その脱いだ赤頭巾に執着して、かぶり、幸せだと言い張るある者を通じて、童話風に伝えているような話かな。
少しややこしい話の展開の割には、あっさりとした結末で少し物足りなさは残る感じでしょうか。
舞台の魅せ方は、これまでどおり、卓越したレベル。ただ、贅沢な悩みです。昔ほど、衝撃は受けません。もう、この点に関しては、私の中では飽和しているのだと思います。
後は、もっと、凄いことをしてくれるか、それか、話をあり得ないくらいに感動するものにしてもらう。
求めるものは大きいです。
もうここは、自分で楽しむのはもちろんですが、それよりむしろ、人に薦めていくべき公演になったのかもしれません。
まだ、あまり観ていなかったら、それはもう衝撃を受けるはずですから。
月曜日まで公演は続くので、機会があれば、観ておくと、他の公演との比較ともなるので、いいように思います。
以下、若干ネタバレ。許容範囲だと判断して白字にはしていませんので、ご注意願います。
少女、アンヌは、屋根裏部屋で赤の書という歴史書を見つける。
その書には赤ずきんの真実が描かれているらしい。
その赤の書から、赤が全て盗まれる。
歴史書の番人であるシグナルによって、アンヌはその歴史書の世界へと引き込まれる。
その歴史書の中では、二つの世界が並行して存在していた。
一つは、喜びの赤の世界。
赤い頭巾をかぶった赤ずきん、リリィはパンとワインをおばあちゃんのところへ届ける。
町の人たちは、みんな赤ずきんを可愛がる。
途中、剣士と出会う。正義感に溢れた明るい剣士。
その時、怪しげな音が。狼が現れた。人間が好きな狼が近づいている。剣士は剣を構える。
もう一つは、悲しみの青の世界。
青い頭巾をかぶった、青ずきん、リリィはパンとワインをおばあちゃんのところへ届ける。
町の人たちは、みんな青ずきんを忌み嫌う。
途中、剣士と出会う。人に嫉妬する暗い騎士。
その時、怪しげな音が。狼が現れた。人間を恨む狼が近づいている。剣士は剣を構える。
アンヌは、そのどちらかの世界を選ばないといけないらしい。
そうして、この歴史書の中のまだ何にも染まっていない白の王女に、色を与えなくていけない。
アンナは、当たり前のように赤の世界を選ぶ。
これが赤ずきんの普通の話だと思ったから。
でも、赤ずきんは赤ずきんでは無かった。
本当の赤ずきん、リリィから、赤の頭巾を奪ったメルヘンという者の手によって、話は歪められていた。
赤ずきんを守るはずの狩人、トロイは登場するものの、赤ずきんと接することもなく、物語は終わる。
シグナルが現れる。このままでは、赤ずきんとトロイは結ばれることは無い。
そうなると、アンナは消えてしまう。
そう、アンナは本当の赤ずきんと赤ずきんを守る狩人が結ばれて生まれる、赤ずきんの続きの話の主人公だったみたいだ。
シグナルの手によって、時間は巻き戻され、赤ずきんは再び、選択の場に戻る。
青の世界を選ぶ。
しかし、この世界でも、青の頭巾をかぶる、元々は赤ずきんだったリリィによって、話は歪められる。
彼女は、自分を守る狩人を拒絶する。
彼女は、赤ずきんをメルヘンに奪われたのか、それとも手放そうとしたのか。
メルヘンの正体を明らかにして、歴史書の歪みを戻すべく、アンヌたちの奮闘が始まる・・・
色々とごちゃごちゃしている話ですが、結局は、この赤の世界も青の世界も並行しているのではなく、どちらも絡み合った世界だといったような感じみたい。
赤の世界には、赤ずきんや剣士、狼だけでなく、武器屋や仕立て屋などもいます。
温厚で明るく、人懐っこく、正義感に溢れ、腕がありプライド高く。
そんな幸せそうな世界も、不安、不満、妬み、悲しみなどにより、もう一つの不幸なものを生み出してしまうみたい。
それが青の世界の対象となるキャラとなっています。
冷たく暗く、人を憎み、嫉妬に溢れ、何も巧く出来きず卑屈に。
赤ずきんは、自ら赤頭巾を脱ぎ捨て、自分で青い不幸の頭巾をかぶってしまったようです。そして、脱ぎ捨てた赤頭巾を自分自身でもあるメルヘンにかぶらせる。
それで幸せになれたかというとそうでもなく、たった一人で、何事も拒絶して、ただ赤い頭巾をかぶっていることだけを心の支えにして生きるような悲しい状況に陥ってしまっている。とても、めでたし、めでたしではありません。
青い頭巾をかぶって不幸を知ったリリィは、本当の幸せを知ります。
それは、赤い頭巾をかぶることではありません。
自分の周りにいる人たちのことを信じ、互いに手を取り合って、今、生きている世界をより良きものへと変えていく。
そう考えることの出来るようになったリリィは、自分の一番傍にいてくれた狩人トロイの手を取り、結ばれるようになりました。
これで、アンナもこの世界から生み出され、世界は繋がることになります。
もちろん、どんな世界でも、裏切りや妬みは存在し、それに自分が傷つけられてしまうこともあるでしょう。実際にリリィは、変えようとするこの世界で、そんな裏切りや妬みを持つ男に傷つけられます。
それでも、今の世界を信じて生きていく。
幸せの赤、不幸の青とかで、自分や人を図るのではなく、各々が持つ素敵な色を持ちあって、素敵な世界を彩ろう。
そのリリィの考え、願いは、この歴史書の世界に新しい、七色に輝く世界を創り出します。
白の女王は、そんなたくさんの色に包まれて、本当の幸せな世界の象徴として存在することになるようです。
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コメント
15日(日)15時~観劇。
最初の方の映像でキャスト紹介のシーン。幕ではなく後の壁(本)に映すんや、と思ってましたがキャストの姿と被って観にくかった。MBMではこんなことは初めてです。ここはマイナスですかね。このキャスト紹介の映像は初めてMBMを観た時から胸ドキドキのシーンなんですよね~
プロジェクションマッピングの使い方はあれくらいがベストなのかなあ、と思います。最後のシーンは本が閉じた方が良かったですが(笑)
照明は今年ベストかなあ。綺麗でした。
殺陣は… 良かったです。技術的なことはわかりませんが不自然な動きはまあ(笑)無かったですし。スローモーションシーンのところの早川さんと尾沢さんの動きはキレイで安定してました。早川さん格好良く魅せる術をお持ちですね。池永さんも初殺陣なのかな? 違和感のない動きで。
歌は過去最高に良かったかな。特にSarahさん。今まで客席まで声があんまり届いて来なかったんですね。音響機器換えはったのかな? 池永さんも戸田さんの声もめちゃクリアに聞こえました。
ダンスは今回振り付けが少し変わりましたかね。華麗で優雅なだけでなくコミカルな動きみたいなのがありました。
作品の方は『ゲルダ』に 続いてやや抽象性の強い作品になったのかな、と思います。『月雪』や『ファンマメ』はとても分かりやすい物語だったので。世界観も『ゲルダ』と似かよっている感じだったのでSarahさんの興味がそっちに行ってるのかな、という感じ。
もし私が小劇場観劇初心者を誘うならばMBMを選びます。エンタメの色んな要素が詰まっていますし価格も手頃ですしね。必ず観に行く劇団にも入っていますし… その前提で書くのですがやや作品世界に物足りなさは感じています。まずはスマートすぎる点。2つ目は関西屈指のキャストが出演されていると思うのですが各キャストの魅力を引き出せているかどうか。これだけのキャストそれぞれの見せ場を作りキャラを立たせるには脚本が相当良くないとね~。難しいことだとは思いますが。MBMが今年の公演をこれ1本に限ったのもSarahさん自身がインプットの必要性を感じられたからかもしれませんが(ブログでもそんなこと書いたはった気が)
私の中では初めて観た『月雪』が未だに一番好きですね。劇中歌も好きやし。やはり前にSAISEIさんも書かれてた『ジャン・ジェンキンス』が評価高いんですかね?
投稿: KAISEI | 2015年6月23日 (火) 00時39分
>KAISEIさん
ここは、どの段階かは分かりませんが、元々、その核はあったとはいえ、急激に規模も魅せ方も成長しましたね。
もはや、商業演劇と呼ばれるぐらいの規模になっている感がありますが、それでも、小劇場特有の熱を残されているバランスの良さが好きです。
私は、どうでしょうかね。
どれも好みの作品ではありますが、少し、世界観が違って、静かにじわじわと話を魅せていくジャン・ジェンキンスの印象は確かに強く残っていますが。
投稿: SAISEI | 2015年6月24日 (水) 09時19分
イマイチっぽいコメントを書きつつMBMは購買意欲が湧く劇団なんですよね(笑)貢いでる劇団ベスト3に入りますわ。
今回は写真のセットを2種類とパンフレットを買ってしまいました(笑)
「買ってしまいました」というところがポイントなんです。「買おうかどうかは決めていなかった」ので(笑)
というようなことを追加でコメントしようと思っていたら池永さんがMBM退団のニュースが…
それで思い出したんですが芝居の時に今回主役やのに池永さんあまり出てないな、と思ったのを思い出しました。今さらですが;
フライヤーも『赤ずきん』から池永さんがピンで載ったはったのでこれからは池永さんでウルんや、と思ったわりに出番少ないやん、と。関係ないかもしれませんけどね。
『ゲルダ』から若手が主役にまわりベテランが脇を固める、という印象が私にはありますね。まだ4作品しか観てませんから。中ってますか?(笑)
投稿: KAISEI | 2015年7月 2日 (木) 01時14分