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2015年6月 7日 (日)

ようこそアトリエ【こみかさ】150607

2015年 06月07日 Social Kitchen 2F Space (50分)

物と会話をして、きちんと心を通じ合わせながら作品を創る女性が、新しく見つけたアトリエで繰り広げる会話劇。相手が物なので、一人芝居の形態をとっている。
当然、物は喋らないわけだから、その会話は妄想で自問自答のような形になる。
これが、彼女自身が自分と対峙して、本当の自分の心の声を聞くということに繋がっているみたいだ。
自分と向き合い、本当の自分自身を理解することで、そこから発せられる表現が真のものとなり、人の心の深くまで訴えかける。
芸術家の自身を削る作品創りや、それを披露するアトリエという場に潜む表現者の信念が浮き上がるような話になっている。
演じる水月りまさんの、真摯に物に寄り添い、そこから想いを引き出そうとする姿が非常に懸命に映り、物に限らず、様々な人たちの想いを背負って、こんな一つの一人芝居作品が出来あがっていると感じさせられる。

窓も無く、薄暗い、湿気で蒸し蒸ししたガレージから、新しいアトリエを探す女性。
彼女の創り上げた作品を披露できるギャラリースペース。
女性は、ある日、ぴったりのアトリエを見つける。彼女の友達が望む板間の素敵なアトリエ。
その友達の名前はロドリー。古民家で見つけ出した杉の椅子に、鍵盤の模様やらパイプオルガンみたいな装飾を施して出来上がったお友達。
彼女は単なる物と会話をして、心を通わすことで友達となり、作品を創り上げるアーティスト。
ロドリーだけでは無い。同じ古民家から連れて帰った机のゴーちゃん。彼はどうも木目アレルギーらしく、この板間のスペースには置けなさそう。一階のカフェにでも置かせてもらおうと思っていたが、何やらアレルギーを克服するという強い意志があるらしい。もしかしたら、ロドリーと離れたくないのかな。
障子紙が貼られた箱の中に小さな灯り。頭にはガラス鉢。彼の名はルイス。ガレージでは、湿気で障子紙が濡れて大変だった。高級な和紙に貼り替えたこともあって、ちょっと高級感が漂っているようにも見える。
棒をクロスして、頭に工事現場のコーン。軍手をはめて、ブルーシートをマントのように被せたカカシみたいな奴はアンデュー。廃材置き場で出会った物たちから出来上がっており、カカシのように心が宿り、お地蔵様のようだ。
最新作は、棒にカゴを被せ、綺麗なレースでおおう。頭には草冠。これも廃材置き場の物たちだが、少しエレガントな貴婦人のようないでたち。スジャータと名付ける。

男が階段を登って部屋に入ってくる。
彼は純和風のカラクリ人形。和笛が得意なので、渡すと吹いてくれる。
・・・ではなく、彼はこのアトリエの管理人。
女性は、この素敵な空間にすっかりはまってしまい、現実と妄想の区別が出来なくなってしまっていたみたいだ。ノリにのって和笛を奏でる管理人の姿を見て、カラクリ人形が止まらなくなったと焦って、パンダのぬいぐるみで思いっきり殴ってしまう。
このぬいぐるみは元カレからのプレゼント。パンダが好きで、自分にまでプレゼントしてくれた。別れた後は、このぬいぐるみとも疎遠になったが、色々と話をする中で、今ではすっかり仲良しになった。
管理人さんは、幸い、人の良さそうな方なので、殴られたことは特に気にはしていないみたいだが、誰もいないのに喋っている姿に対して怪訝そうにしている。一人芝居の練習だとごまかす。
前の住人は収集癖があったらしく、部屋にはまだ色々な物が残っている。管理人さんは、全部処分すると言うが、自分がきちんと処分するという約束で引き取らせてもらう。
これから、また友達が増えそうだ。

部屋の奥にトルソーがいた。
いつものように話しかけるが、なかなか返事がない。
聴診器で心の声を聞いても、頑なに喋ってくれない。ピアニカで音楽を聞かせても無反応。
着飾ってあげようと、綺麗な生地を貼り付けても、拒絶するかのように剥がれてしまう。
可愛らしい柄のエプロンが見つかる。試しに着せてみると、サイズがピッタリ。エプロンにはYのイニシャル。ヨシエさんでいいかな。
デパート、それともセレクトショップにいたのだろうか。前の住人が持ち帰ってきて、大切な人に着せていたのか。女性は、ヨシエのこれまでのことを想いながら、想像を膨らます。
女性の今の彼氏。付き合って1年記念ということで、お揃いの指輪を買ったのに、その紙袋をどこかへ無くしてしまったらしい。そういうおっちょこちょいなところも好きなのだが、今回ばかりはちょっと。
前の住人もヨシエと、いい時も悪い時もありながら、関係を深めていったのかな。それをこのトルソーは見守っていたのか。そして、今、ここに置き去りにされて。
トルソーの心に寄り添うように深く潜り込もうとする女性。
電話が鳴る。彼氏から。指輪が見つかったのだとか。完全に諦めていたのに。
これは、ヨシエが起こした奇跡ということでいいのかな。
また、一人、心が通じ合った友達が、このアトリエに生み出された。
これからも、ずっと・・・

アトリエにある女性の創作物は、彼女自身の様々な表現形なのだろうか。
ロドリーは音楽という自分の持つ表現技術の造形アーティストとしての作品への融合。
ゴーちゃんは、その上で木材を切ったり、釘を打とうとすると、まっすぐ切れなかったり、ねじ曲がってしまうらしい。いい意味で、人の意見に左右されず真っ直ぐな信念を持ち、悪い意味ではちょっと頑固。木目アレルギーを克服し、少し、そんな頑固さを緩和させようと思っているのか。
ルイスは、自然や侘び寂びみたいな質素な中に潜む美しさを愛する和の心の象徴。
アンデューは、大切なものを穢すものに畏怖を与え、威嚇する力強さと同時に、その大切なものへの真摯な想いを宿す。
スジャータは、オードリーヘップバーンのように優雅で美しさを纏いたいという願いか。
出会ったものと会話をするという形で、自分を見詰めながら、自身を表現する形ある作品を創り上げているかのように見える。
それをガレージのような狭く閉じこもった空間に眠らせるのではなく、開けた明るい、自分を輝かせてくれるアトリエで表に出していこうとする姿が感じられる。

アトリエという空間は、そんな彼女の心の中を見詰めているようである。
パンダのぬいぐるみも、かつての彼への想いを、きちんといい思い出として、昇華させているのだろう。
そんなアトリエで出会ったトリソー。
何も着ず、一人っきりで置き去りにされているトルソーは、今の彼女の心の中に潜む不安や寂しさを表しているのか。
彼女は、そのトルソーに話しかけることで、自分自身と向き合い、本当の自分の声を聞こうとする。
彼女が妄想するトルソーの過去は、自分自身の心の深くにある傷から目を背けず、それを癒して前へと進もうとしているかのようである。
トルソーと会話をすることで、見詰めることができた自分の心と共に、彼氏とも心が通じあっていることを改めて知ることにより、彼女の不安の一つだったのだろうか、彼氏からの電話を受け止めることが出来たような感じのラスト。
最後、トルソーと心が通じ合い、友達となりながらも、トルソーは彼女を椅子からひっくり返すようないたずらをする。素直じゃないツンデレのような仕草は、これもまた彼女自身の姿なのかもしれない。

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