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2015年6月12日 (金)

この町で、僕はバスを降りた【がっかりアバター】150612

2015年06月12日 シアトリカル應典院 (100分)

初めて拝見して衝撃を受けた俺ライドオン天使でのはちゃめちゃなエログロ、不謹慎さをかなり抑え込みながらも滲ませ、やっぱりがっかりアバターだなと思わせる。
ここはかなり魅力的な劇団だと確信したおしゃれな炎上と私が一番名作だと思っているあくまのとなりのような系統を引き継ぎ、生きる中での苦しさから、ほんの小さな幸せを見つけ出そうと懸命に生きる力強さを感じさせる。
そして、私は全く合わなかったが啓蒙の果て、で恐らくは描きたかったのだろうと思っている愛の交錯、そこから生まれる苦しみと対峙して、生き抜くという強い覚悟。
当日チラシにこれまでの集大成の作品だと書かれていますが、確かにこれらが全て盛り込まれているような感じです。
そして、エンタメ風の魅せ方にバランスの良さが出たのかな。それとも、色々な悩みが吹っ切れて、勢いが増したのでしょうか。何かはよく分かりませんが、非常に洗練された知的さや、音楽を組み込んでいるからか、リズムの良さと言葉の重みが感じられる作品として仕上がっているように感じます。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は月曜日まで>

話はDJのシーン説明のような観劇ガイドと共に、音楽にのせて、その心情を表現したりしながら進められる。これも、一種のメタという手法なのだろうか。
この町に住むぼく。
ぼくは、ある日、ようかいハンターに追われ、穴を掘って隠れようとしていたところ、子供に突き落とされて動けなくなっているようかいと出会う。
その奇怪な姿に、驚きは隠せないものの、ぼくは家へそのようかいを連れて帰ることにする。
お母さんは若年性何やらとかいう病気を患い、家族のことを認識できなくなっている時があるし、超能力があるとか飛んだことを言ったりする。
お父さんは、4コマ漫画を描くのが趣味。そのオチのコマを当てるというクイズにいつも付き合わされるが、そのオチは自衛隊に入ろうというシュールなものと決まっているから面白くもなんともない。笑うのは、人を超越したもの、例えば神様ぐらいじゃないだろうか。
そんなお父さんのクイズに毎日、付き合わされるお兄ちゃん。お兄ちゃんはそれだけではすまない。いつもちんちんを触られる。そして、お父さんのちんちんを咥えさせられている。
お兄ちゃんの友達のみーちゃんは、よくお兄ちゃんに相談をしてくる。毎日、お父さんに性的ないたずらをされているのだとか。その苦しみを、みーちゃんは、切なく暗い語りではなく、明るいラップに乗せて語っている。
お兄ちゃんは、みーちゃんは、まだましだと思う。それくらいのこと、普通だ。自分は良い子にしているのに、あんな悪い奴に、好き放題されて。
そんな想いは、ハイスクールララバイのメロディーに合わせてコミカルに語られる。

そんな家族だが、ようかいは鍋パーティーで歓迎され、一緒に暮らすことになる。
人に害を与えないように生きるのが信条だと言う、ようかいなので大丈夫なのだろう。
ただ、食べるものは人の脳みそ。立派な害だ。ようかいは、お母さんの脳みそを、できるだけぼくに見つからないようにこっそり吸う。見つかると、申し訳なさそうにする。吸わないで欲しい。そうとしか、ぼくは言えない。
でも、ようかいにとっては生きるために仕方ないこと。ようかいは、ハンターによってほぼ絶滅している。もうすぐ、この世からようかいは消える。だから、もう生きることにそれほどの執着はないようだが。
ぼくとようかいは、この町に住むかみさまに会いに行く。
空を飛びたい。そんな願いを安易に叶えるとすぐに言ってしまうかみさまだが、実際はそんなこと出来ない。出てくるものと言えば、おならぐらい。
神様ですらそんな程度の、退屈で何も無い町だ。
そんなかみさまの下に、お兄ちゃんが訪ねてくる。
お父さんのちんちんを食いちぎってしまった。もう、この町からどこかへ飛び去りたい。
かみさまはまた、安易にその願いを受け入れる。いつもなら叶わないはずだったが、この日はおならだけではなく、うんこまでまき散らす。その勢いか、お兄ちゃんは30年前の過去に飛ばされる。

お兄ちゃんは、その過去の世界で、昔のかみさまに出会う。
事情を話すと、かみさまは将来の自分の姿に衝撃を受けるものの、この頃はまだまともだったみたいで、夕暮れまでは、この世界に留まれることを伝える。
お兄ちゃんは、浴衣姿のハルカという女性と出会う。一目惚れ。
夕暮れまでのわすかな時間に高まる、お兄ちゃんのハルカへの想い。その好き過ぎる想いは、彼の姿をラブリーそのものであるハートに変えてしまうくらいに。
でも、お兄ちゃんは、現在に戻っても、ハルカとはもう出会えない。
現在の世界ではDJがある手紙を読んでいる。
それはハルカが、未来の自分宛てに書いた手紙。
そこには、あの日、出会った一人の男。、盆踊りの最中に突然消えてしまったけど、本当に楽しく素敵な時間を過ごした思い出が綴られている。
でも、その続きがある。
父が死んだ。自分と母、兄を残して。ずるい。辛いからと言って先にいなくなるなんて。
そして、自分は母と兄を殺す。その後、自殺をする決意をして。

DJは、ふと自分がようかいハンターであることに気付く。
このままではいけない。DJをしたいと言い張るかみさまにその仕事を渡して、ハンターはようかいの下へ。
ぼくはようかいを体を張って守ろうとするが、かみさまが実はようかいだとかいうすぐにバレる嘘をついたり、堂島ロール程度のお菓子に騙されて、ようかいは撃ち殺されてしまう。これで、この世からようかいは全滅する。同時にハンターは、自分の居場所全てを失うことになる。
お父さんは、ちんちんが無くなっても、性欲は残るのか、なけなしの金でみーちゃんと付き合う。でも、その彼女の体は、お父さんのちんちんの亡霊に浸食され始める。
お母さんは、DJになってかみさまポジションが空いたのか、かみさまとなる。
気がおかしくなっているので、ある意味、何でも出来る。
地球に星を落とす。そんな、本当にかみさましか出来ないようなことをやってのける。

迫りくる星。
その輝きを、ようかいという友達を失ったぼく、滅亡したようかい、二度と戻らないハルカとの時間を失ったお兄ちゃん、かみさまとなり家族でなくなったお母さん、ちんちんを失ったお父さん、ほぼチンチンの化身となってしまったみーちゃん、未来を自分で断ったハルカ、お母さんにかみさまの座を奪われたかみさま、自分の居場所を無くしたハンターたちが見つめる・・・

すじを書いていると、自分の気がおかしくなってしまったような感覚すら抱きますが、少し違うところはあるでしょうが、だいたいは確かにこんな話だったと思います。
非常に解析するのが難しいですね。
ぼくとようかい。
家族の様々な問題を抱えるぼくは、家族には話すことのできないその苦しみを誰かに語りたかったのか。ただ、横にいてくれるだけでよかったのか。出会って友達となったようかい。この世から存在が消え去りそうなようかいを認めてくれるぼく。
お兄ちゃんとハルカ。
性的虐待を受けているからか、恋愛への背徳感とかがあるのでしょうか。そんなものを過去の世界で吹き飛ばしてくれて、お兄ちゃんに愛する気持ちをあんなにたくさん抱かせてくれたハルカ。恐らくは家庭環境に大きな問題を抱えている中、自分をまっすぐに好きだと言ってくれるお兄ちゃんに安堵を得たのか、そのわずかな時間を大切で素敵だと死の直前まで思い出として持っていたハルカ。
お父さんとみーちゃん。
おかしくなったお母さんから目を背けたかったのか。性欲に囚われて、本能剥き出しの汚い姿を見せるお父さん。すべてはちんちんが悪かったのか。そんなちんちんが無くなって、一人の女性と心を通わせた会話ができるようになる。同じく性的虐待を受けていたみーちゃん。ちんちんが無いことは、その恐怖を緩和させるのか。お父さんと純愛風の仲睦まじい姿を見せる。
そんな3組のカップルの外側に、お母さん、かみさま、DJ/ハンターはいるような感じです。

登場人物は、みんな何かしらを失います。失えば、当然、辛く、悲しいわけで。でも、失わずに生きていけるような都合のいいこともないわけで。
お母さんは身近に降り注がれる破壊や喪失の要因、かみさまは救われることのない無力な世、DJ/ハンターは客観視して手を差し伸べることは無い周囲の人たちの象徴のように映ります。
そんな中でも、みんな生きています。
辛い別れや、不条理な悲しい出来事を、受け止めて傷つき、それでも、その中から楽しいことや嬉しいことを少しでも見つけ。
その繰り返しが、いつか本当に大きな幸せへと繋がるのかもしれません。

地球に落とされる星。
それを恐怖の大魔王みたいに、地球を破壊する悪魔と捉えることは簡単でしょう。でも、この作品の登場人物たちのように、辛さや悲しみと対峙して、そこから本当のほのかな灯りでも見つけ出したものには、それを自分たちを輝かしてくれる贈り物みたいに受け止めることもできるような気がします。この感覚は一番好きだった前々作に近いかな。
ラストは、この劇団の前々前作の作品でも見たことがあるような、輝く未来を想像させる美しく綺麗なシーン。
数々の悲しみを超えて、この町に住むぼくをはじめ、みんなは、きっとその迫りくる星を満天の星空へと変えて、これからの輝ける自分の未来へとしたように感じる締めでした。

どこか行きのバスに乗って、ぼくはこの町で降りた。バスの出発した町では、誰かと別れ、何かを置いていった。この町で、誰かに出会い、何かを手に入れる。でも、この町は、別に天国でもなく、大したものをぼくに与えてくれるわけでもなく、それどころか色々と災いをふっかけてきたりもする。もしかしたら地獄かもしれない。それでも、今は、この町で頑張る。日々、変わっていくこの町の中で、自分の居場所を見つけ、そこで輝くべく、そして幸せを見つけるべく、懸命に生きてみる。
前の町に戻りはしないし、きっと戻れはしない。違う町に行きはしないし、きっと行っても同じことになる。今、この町を受け止めて、そこで少しでも楽しく生きないと。
そんな感じのことが、作品名からイメージされます。

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