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2015年6月 6日 (土)

ミッドライフ乙女【劇団暇だけどステキ】150606

2015年06月06日 芸術創造館 (130分)

ちょっと、前2作の評価が高過ぎて、ハードルが上がり過ぎかな。
正直、満足はしませんでした。
転換期を迎える人の苦しみに同調し、そこにあるかつての自分の想いを見詰めながら、まだまだ前へと進む勇気を抱かせるようなことを優しく描く。そして、それを歌や踊り、個性的な役者さんたちによる華やかなエンタメ色で彩る。
そんな感じのいつものこの劇団の作品ではあったのですが、何か足りないなあと感じてしまいました。

作品は、廃墟となった遊園地で、今は動かない人形たちと、かつてその人形と触れ合った人たちを描きながら、そこにあった想いを呼び起こして、前へ進むことにちょっと躊躇してしまっている人の背中を押すような話。
遊園地自体が人間、そこにいる数々の人形たちが、これまでの人生の中で得た心の中に残る夢の欠片みたいな感じで捉えても、新たな人生を進もうとする人への温かい激励として感じることが出来る話だと思います。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

ドリームワンダーランド。
ドリワンと呼ばれ、夢の国として、多くの人に親しまれた遊園地も、時代の流れか、今ではそのゲートは閉ざされ、廃墟となっている。
スタッフや、遊園地を彩っていた多くのキャラ人形たちは、どこかの遊園地やイベントなどへと引き渡されたみたい。
遊園地のマスコットキャラだったドリームボーイ。赤いスカーフをたなびかせ、昔懐かしきヒーローのようないでたちの人形は、時代に合わないのか、引き取り手も無いまま放置される。いつしか、どこにいってしまったのか、台座だけを残して、姿を消す。この廃墟となった遊園地のどこかで、錆びつき、土や埃の中に埋まってしまっているのだろう。
その恋人というキャラのディアナ姫。少々、気は強そうだが愛くるしい可愛さがうけたのか、アニメのヒロインとして引き取られ、今ではイベント会場をあちこち回っているらしい。遊園地を去る時、最愛のドリームボーイ、そして多くの引き取り手が無いまま、ここに放置される仲間たちとの別れを惜しみ、その目には涙が溢れていたのだとか。
的が当たれば、そのセクシーな姿で踊り出し、多くの人を魅了するモンロー人形。
ギターを片手に素敵な音楽を奏でるイケメンのレッサーパンダ人形。
コミカルで、かつダイナミックな熱ある踊りを披露して、ポップコーンを作る人形。
名も無き幽霊だが、どこか怖さより、愛着を感じる不思議な人形。
今では、その4つの人形が、この廃墟となった遊園地で、その終わりの日をじっと待っている。
時計の針は、11時55分で止まっている。後5分、進めば高らかに鳴り響く音楽と共に、人形たちは存分に踊り出すはずだったのだが。

遊園地が閉園となる少し前。
併設されていた劇場では、ドリームボーイの妹分という設定で、ドリームガールズという3人のアイドルユニットが歌い踊っていた。
その一人が結婚を機に脱退。ディアナ姫に人気を盗られ始めたこともあり、そのまま、閉園を待たずに解散となって、消えてしまった。
今では、そのまま子供をもうけて主婦生活を送る者、芸能事務所に所属しているのか、マネージャーも付いて、ちょこちょこと舞台には立っているがあまりブレイクはしていない者、なかなか舞台に立つことも出来ず、それでも、舞台への熱意を捨てられず頑張っている者と、各々の道を進んでいるみたいだ。

廃墟の遊園地に管理会社の二人がやって来る。
妻と子供の家庭を持ち、会社で益々活躍しないといけない中堅の真面目そうな男と、新人なのか元気いっぱいで、元陸上部だからなのかすぐに突っ走る女性。
二人は、この遊園地の土地を再開発するために、遊園地の経営者だった女性の説得に来ている。
でも、女性はずっと、首を縦に振らない。何かを待っているかのように。
そんな中、二人はこの廃墟に入り込むおかしな連中と出会う。
うらぶれた姿に魅力を感じ、それを写真におさめるカメラマン。
持ちネタがあまりにもさぶい売れない芸人。
キュートな容姿だけど、かなり痛々しい地下アイドル。そのアイドルを神と崇拝し、親衛隊の隊長を務める男。
アニメのディアナ姫に想いを寄せる二次元絶対主義のオタク。
よく分からないオカマ。

ある日、親衛隊隊長とオタクが、ドルオタとアニオタのポリシーで激しく議論をし、感極まって、その情けなく膨れたお腹をぶつけ合った時に奇跡が起こる。
時計の針が進み、12時を迎える。
人形たちは動き出す。そして、そこにはイベントから逃げてやって来たディアナ姫も姿を現す。
ディアナ姫はドリームボーイがいないことに嘆く。
みんなでドリームボーイを探そう。でも、すぐには見つからず、やがて夜は明ける。

遊園地はまたいつもどおりの姿に。
人形たちは動かない。ディアナ姫も、またどこかのイベントへと帰っていった。
夢のような時間。
でも、決して夢では無かった。
そう、あの頃の楽しかった時間が、確かに蘇った。
みんな、この遊園地が好きだった。
カメラマンは、ドリームガールズのアイドルなのになぜか漂う、うらぶれた哀愁にカメラのレンズを向け、モンローのセクシーな姿に魅了されていた。
芸人は、ポップコーン人形の熱い踊りが大好きで、それで頑張る気持ちを高めていた。今あるギャグも、そのポップコーン人形を自分が動かし過ぎて、頭がパカーンと割れたことに由来している。
地下アイドルは、ドリームガールズの姿を見て、自分もアイドルになろうと決意した。
管理会社の男も、遊園地の、そしてドリームガールズの熱狂的なファンの一人だ。
もう一度、あの時間を取り戻そう。
みんなはドリームボーイを再び探し出す。そして、ドリームガールズたちを呼び戻そうと奮闘する。

ドリームボーイは、錆びつき、埃まみれの姿で発見される。
綺麗にその体を拭き、台座にセットする。
ドリームガールズの3人は、閉園前の解散のしがらみで、連絡を取り合っていない。騙して連れてきたものの、長年の間に拡がった距離はなかなか埋まらない。でも、あの頃、この遊園地が好きで、自分たちのやりたいことを、各々ががむしゃらに頑張っていたこと、そして、それを今でも、各々の形で続けていることを分かり合います。
だって、本当は、また3人で会いたいとずっと心のどこかで願っていたのですから。また、3人で会えますように。そんな願いが書かれた手紙が、ドリームボーイの胸ポケットの中にはたくさん詰まっていました。
一番、ふてくされていた女性も、レッサーパンダの人形の奏でる音楽に合わせて、ダンスの練習をしたあの頃を思い出したみたい。もっとも、イケメン好きだったということが大きいみたいだが。
時が経ち、歳の問題や体型の変化などの問題に不安を抱えるものの、もう一度、アイドル、ドリームガールズを再結成することを決意する。
イベント会場に連れ出されていたディアナ姫は、オタクが決死の覚悟で奪い取って来た。
ドリームボーイとディアナ姫は再会。
後は時を進めるだけ。
お腹をぶつけ合う。でも、奇跡は起こらない。
もう時間が無いのに。
管理会社の男は、会社から、明日にはもう開発を強行して進めることを通達されている。そして、そのことは、みんな、どこかで分かっている。

みんな、この遊園地が閉園となって、前へ進めなくなってしまっている、11時55分で止まった時計だ。
これが最後の夜。
ずっと、この時を待っていた。だから、管理人はこの場所を守ってきた。
みんながここに戻って来て、再び、自分たちの力で、時計の針を進め、新しい時間を刻み始める時を。
時計の針は、12時をさす。
人形たちは動き出す。
そして、ドリームガールズは、用意された素敵な衣装を身に纏い、再び踊り歌い出す。
あの頃の気持ちを呼び起こし、再び、新しい道へと時を進めるために・・・

最後はエピローグとして、開発後の姿。
管理会社の男は、気弱で真面目そうな男ですが、やる時はやるみたいです。もしかしたら、口がたつ新人の女性の力の方が大きかったのかもしれません。
開発地の一部を公園にして、人形たちが飾られます。
手を取り合うディアナ姫とドリームボーイ。4体の人形も仲良く、そこに飾られ、あの頃の気持ちを忘れることなく、前へと進む人たちのシンボルとなったようです。
ちなみに、どこに入れ込めばいいのか分からず、スルーしましたが、幽霊の人形は、他の3つの人形と比べて、これといった特徴も無く、名前もありません。だから、遊園地が解体され、新しい時が進むことになった時は、生まれ変わり、お姫様になりたいと願っていました。遊園地は解体されはしましたが、人形たちは無事に残され、生まれ変わることは出来ませんでした。でも、公園に飾られるその姿は、ちょっと可愛らしい衣装を身に包み、願いが叶ったようです。
そして、ドリームガールズの面々も、過去に縛られることなく、各々が今、出来ることをやり始め、活躍の兆しが少し見え始めたみたいです。
そんな、時が経っても、ずっと、来場した人たちの人生と共に、心の中に在り続ける素敵な遊園地のお話。

作品名のミッドライフは、自分もその頃を迎えており、もしかしたら、もう過ぎ始めているかもしれませんが、共感を覚えるところです。
若き頃は、この作品のように、毎日、12時になったら踊り出して、何か新しい道へと進んでいたのかもしれません。いつの間にか、11時55分という、あともう少し、進めればいいじゃんというところで、妥協なのか打算なのか、それとも、日が変わるのが怖いのか、そこで停めてしまうような感覚は何となく分かる気がします。
自分の心の中にも、こんな止まってしまった人形がいるのかもしれません。そんな人形たちは、いつか動かしてもらえるとずっと待ってくれているのでしょうか。
時折、酒を飲んで解放される自分の中では、そんな人形が少しだけ動いているのかな。
止まっている人形は、きっと、かつての自分を奮い立たせてくれたものなのに、いつの間にか、この廃墟となった遊園地みたいに、心の中で、ゲートで閉じ込めてしまい、そこで眠らせてしまっているかのような気もします。
動かすことは大変かもしれませんが、そんな人形たちをずっと守り続けてあげたいような気がします。
心の中に、そんな人形たちをずっと残し続ける。それは、この作品でも描かれる夢の欠片を大切にして、今の自分の人生を進んでいくことに繋がるように感じます。

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コメント

同じ回を観てるとどこに座って観ているかくらいしか違いがないので作品に対する感想が同じなのか違うのかblogを楽しみにしていました。


出だしは久々に良い印象だったんです。最近出だしが〔メッチャ〕いい作品に出逢わなかったもので。キホーさんのセリフの後オープニングダンスがあったからかもしれませんが(笑)ダンスや歌は七難隠す(笑)いや別に今回の作品が七難あったわけではありませんが(笑)

『トウシンダイ』に続いてこの劇団は2回目の観劇。前作はファンタジーとミステリーをうまく融合させた良品という印象でした。


今作は先週のしろみそ企画さんと同じで盛り過ぎた感があったのでは。あっちこっちに寄り道したせいで本道がぶれた…感じ。ただこの劇団は〔客演さんも含めて〕若手から中堅、ベテランまで能力(ちから)のある役者さんがいらっしゃいますよね? 盛り上げるときは盛り上げ、部分部分ではかなりいい印象。最後の場面も良かったです。それだけに全体通して良品と感じられなかったのが残念かな。〔中堅クラスの〕役者さんの演技もいいと感じた時とふつうの時と差異があったと感じました。


舞台美術はこの劇団さん絵が得意なんですかね? 前回も羊少女絵でしたよね。今回はお城が絵。オープニング映像も素晴らしかったです。あれだけのものを作るのは結構時間も労力もかかるんでしょうね。


前作品ではキホーさんの演技にベテランの味を感じてステキに思いましたが今回は若木さんにそれを感じました(ベテランと言っていいのかわかりませんが汗)。


おささんはお名前は以前より耳にしてましたが顔と名前が一致。かわいらしい感じの方なんですね(笑)


北さんの声量はスゴかった。重低音でよく通る声なんや、と初めて気がつきました。表情も好きでしたが○○○○が無ければ(笑)


西田さんは相変わらず魅力的。人外の役が相変わらずうまい。中盤はイマイチ(普通)な演技でしたが最初のダンスシーンらへんのとこや最後の方の姿勢を保ったまま運ばれるシーンの身体能力の高さは流石やな、と。


小出さんは久しぶりに人間やってるのを観ました(笑)カッパの着ぐるみとか犬とか猿の化物とか最近そんなんばっかで(笑)よく客演に呼ばれはる役者さんですよね。


太田さんも役柄でしょうがだら~とした物言いでしたがセリフが入ってくる役者さんでした。


ぐっちさんは長身でスッキリとした体型で今後期待したい役者さん

投稿: KAISEI | 2015年6月10日 (水) 00時28分

>KAISEIさん

だいたい、感じたことは同じみたいですね。
本筋を見失わず、盛り込み過ぎた寄り道部分のぶれも楽しむことは、観劇する側にも求められることかもしれません。
幅広い視点で、あらゆる作品を楽しめるようになれたらいいなあとは思っていますが、なかなか好き嫌いが出ますからね。

ここは昔からオープニング映像には定評があり、非常に評価されているところだと思います。
最近は北さんの影響か、ダンスも組み込まれ、出だしで惹きつける力は屈指の劇団ではないでしょうか。
また、役者さん含め、スタッフの方々みんなで作品を創り上げ、それを公演として客に楽しませるという感覚にも優れている感があり、それが長く公演を続けていることに繋がっているように思います。

役者さんは、太田さんは確かに良かったな。
西田さんは、ファンとしてもちろん。DVDは必ず購入するでしょう。
しろみそ企画もそうですが、ここにご出演される役者さんは、とても好印象の方が多いです。
ちなみに、おささんはキホーさんの奥様。お子様がご出演されたりすることもありますが、けっこう度胸座ってしっかりした演技されます。

投稿: SAISEI | 2015年6月10日 (水) 10時04分

早いコメ返ありがとうございますm(_ _)m 午前中に返ってくるとは(笑)


『トウシンダイ』ってオープニング映像ありましたっけ? 作品の記憶は今もあるのですが…


個人的には寄り道せず、という作品が好きです。寄り道はファンサービスの一環なんでしょうがやり過ぎると目の越えた演劇ファンはNOを突きつけることになるんでしょうね。ま、それも個人差や好き好きによるのでファンも勝手なものなのですが(笑)映画『パイレーツオブカリビアン』の3だったかなあ。盛り過ぎて「はぁ~」となったものもありましたね。近くは『ドラゴンボール』もその時々は面白いのですが全体通して読むと矛盾だらけ。読者アンケートに左右される悪例ですね。遠くは『里見八犬伝』も版元の意向で後半は間延びしてる由。大衆芸能の作品の勉強にはなっています(笑)


尻切れトンボでした。ぐっちさん(ポップ)は今後期待している方です。


あとオープニングダンスで気になったのが加島(幽霊)さん。ぐっちさんの高校の後輩ではないかと推測しているのですが身体の軸がしっかりしたはったのでダンスが得意なのかな、と思っていて今日暇ステblogの役者紹介見るとやっぱりそのようです。


おささんは釘を刺されましたかね(笑)終演後の挨拶時の発言から「度胸すわった」はる感じはしますね。

投稿: KAISEI | 2015年6月10日 (水) 18時00分

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