文明ノ獣【劇団レトルト内閣】150605
2015年06月05日 近鉄アート館 (115分)
戦争から今の日本までの歴史を、数奇な運命の双子と共にたどる壮大な物語。謎解き要素も多く、話に惹きこまれる。
人は、より良き国、社会、時代を創るために必死に生きてきた。そして、文明や文化を発展してきた。でも、その生きる中で、人は獣になっていないか。
生きるために、殺し合い、傷つけ合い、そのことを正当化してしまう。人と想い合い、愛を育むことを忘れてしまっているのか、出来なくなっているのか。
文明を自らの手で、もしくは天変地異により破壊された時、そこに隠れていた人として大切な優しさや愛があったことに安堵を得る反面、結局、人はより良く生きることを考え始めると、原罪や呪いかのような獣の心が浮き出てしまうのかという不安も抱く話だった。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。謎解き要素が多いので、本当にかなりのネタバレになるので、重々お気を付けください。公演は日曜日まで>
島田公平、妻、東和子を残し、第二次世界大戦の戦地へ。噺家になりたくて逃げ惑っていたが、無理だった。
インドネシアの戦地では、同じ部隊の高村と親しくする。
戦況、思わしくなく、窮地に追い込まれた部隊は、食料確保のため、村を襲撃。
精神的に追い込まれていた公平は、その村の一人の男の子と女の子を惨殺する。
もう、人間ではなくなった。獣になった自分には呪いがかかるだろう。
公平は恐怖のあまり部隊から逃げ出す。
ポツダム宣言受諾により戦争が終結。
公平は、戦死したのか戻って来ない。
東和子は、本土空襲で孤児となった千代を養子に迎え、新たな人生を始める。
生きていくために、米兵に体を売るパンパン娘に身をやつす。
2年後、公平が突然帰還。
でも、まともに働ける身体、精神状態ではなく、東和子の稼ぐお金で、闇市で仕入れた酒を浴びる毎日。
二人のこれからのためにと、東和子は公平との間に子供をもうけようとする。
双子が生まれる。男の子と女の子。葉介と美登里。
あの時のことを思い出したのか、公平は自殺。
数年後、高村が東和子の下を訪ねてくる。
公平の死に哀悼の意を示し、戦地で何かあった時は妻を頼むという約束を果たすべく、彼女と結婚する。
大阪から三重に引っ越して、決して裕福ではないが、三種の神器も揃った団地でそれなりの暮らしを始める。
双子は中学生になり、いつも一緒の仲良し。フラフープで遊んだりして、不自由なく育ててもらうが、新しい父には馴染めない様子。もうしっかりした大人である千代は生きるためだと、二人に言い聞かせながら、新しい父になつく姿を見せる。
高度経済成長期に入り、工場がフル稼働する中、公害問題は深刻化していく。高村が四日市ぜんそくを患い、自分の身体が悪くなることで、その補償金により生活が維持できる現況や、いつまでたっても懐かない双子、本当は自分を愛してくれていない東和子に幻滅し、自暴自棄になる。
そして、唯一、懐いてくれて、病気の看病を真摯にしてくれる千代を、女として見るようになり、ある日、一線を越えようとしてしまう。
止めに入った東和子に対しても暴行を加える高村に双子は椅子で殴りつけ殺してしまう。
東和子は、全ては自分でしたこととし、入獄。そのまま獄中死する。
千代は、東京に出て、叔父を頼り、呪いから逃げるように一人暮らしを始める。
双子は、大阪で二人で暮らし始める。
叔父の援助もあって、葉介は大学に。美登里は小さな会社で働き始める。
自分たちのこの呪われた運命も、元を正せば全ては戦争が悪い。そんな考えからか、葉介は大学で学生運動に熱を入れ始める。
東京の学生たちとも交流を深め、崇高な革命精神を持つリーダーの直島、その彼女であるさとみ、まじめだけが取り柄の早坂と共に、葉介は学生運動に傾倒する。
美登里はかつての事件から、呪いなのか葉介に潜む凶暴性を危惧して、学生運動には反対していたが、止めることは出来ず。
自分は、職場の同僚たちと、ディスコで踊り、楽しむ日々を過ごす。
そんな美登里に早坂は恋心を抱き始める。
葉介も、さとみに想いを寄せ始める。そして、いつの間にか、ベトナム戦争や日米安保条約に反対する大義が、大衆を置き去りにした、自分たちだけの狂気へと変わっていく運動の姿に疑問を抱き始める。
直島は、さとみと葉介の仲には容認の態度を示し、もっと大衆も巻き込んだ運動を展開していこうと崇高な精神を高める姿を見せるが、実際は妬みや裏切りに支配されており、その学生運動の大義はどこかへ消えてしまっていた。
葉介は、直島に狙われている情報を入手し、逆に直島に暴行を加えて、意識不明の重体にしてしまう。
仲間たちからも狙われ、大阪にいれなくなった葉介は美登里と共に、姉の千代を頼って東京へと逃亡。
早坂は、美登里への愛なのか、葉介への友情なのか、二人を東京まで安全に誘導する役をかってでる。
出迎えてくれた千代は、もう二人とは縁を切りたいという言葉を発するが、すぐに二人を受け入れる。血は繋がっていない兄弟であるが、窮地に追いやられた二人を見捨てることなどは決して出来なかったようだ。
数年の潜伏後、葉介は再び大阪に戻り、大きな会社に勤め始める。
美登里も一緒に暮らし、スーパーで細々と働き始める。かつての同僚は、今や社長夫人となっていたりと、あれから各々の道を進んだみたいだ。
葉介は、会社の上司に気に入られ、その姪と婚約。ベネゼエラでの大きなプロジェクトを遂行するために二人で現地に赴くことになる。
美登里は、早坂と偶然に再会し、婚約。早坂は、葉介と美登里が双子以上の想いを寄せ合っていることを葉介に正すが、葉介は否定。二人の婚約を心から喜んでいることを伝え、美登里を早坂に託して幸せにして欲しいと願う。
ところが、この婚約は両方とも破滅する。
葉介の下に、さとみが現れる。あの頃のことは全て忘れたい葉介は、彼女を拒絶するが、さとみは葉介が逃亡してからどれだけ苦しかったかを訴える。さとみは会社の取引先の社長令嬢だったみたいで、上司は婚約を無かったことにするしかなかった。
美登里の方は、早坂の両親に団地での事件のことがばれてしまう。ばれたからと言って、早坂の美登里への想いが薄まったわけではない。自分にそのことを隠していたことが許せなかったみたい。そして、自分に本当の心を許してくれない美登里の姿に、再び、葉介への想いの深さを感じたようで、これ以上、一緒にいることは出来ないと決断する。
葉介は結局、ベネゼエラでの仕事は外されることなく、現地に赴く。美登里が付いていく。おなかの子と共に。
現地で生まれた子供は花と名付けられる。
葉介も大切に花を育てる。血の繋がりは無いが。
今の仕事は危険が付き纏う。いつ何があってもおかしくない。千代には、何かあっても、花をよろしく頼むことを手紙で伝える。早坂という男を頼ってくれと。
そして、やはり呪われているのか、その心配は現実のこととなる。
爆発事故で、葉介と美登里は死亡。二人の死体の下に、守られるように花はいたのだとか。
千代は花を引き取って育てる。
いつか、花が大きくなった時に、真実を話すべきかを悩みながら。
そんな花も大学進学を控えた高校生に成長する。千代も、生意気盛りの花を女手一つで育てながら、今ではダンススクールに通ったりと余裕ある生活が出来るようになったみたい。
物語は、そんな花が部屋で、ある手紙を見つけることから始まる。
花は高校生。
母である千代は、大学に行かせたいみたいで、口うるさい。
学校では、真面目な子であるが、最近悩みがある。人形が自分のカバンの中に入っていた。呪いの人形。自分がいじめのターゲットになった印。かつて、いじめられていた子は、先日、自殺した。
学校の先生は、見て見ぬふりなのか、趣味で始めたオペラにはまっているのか、無関心を装う。
そんな中、花はある手紙を見つける。
一人っ子だと聞いていた母だが、兄弟からの手紙。差出人は葉介と美登里。
そして、母の日記には、花が反抗期を迎え、困っていることが記されている。さらに、実の母親じゃないから、ダメなのかとも。
母は何かを隠している。真相を突き止めようと色々と探ろうとしていると、ある男が花に接触してくる。
学校のいじめの事件を探っている週刊誌の記者らしい。いじめのことを全て話す代わりに、花は自分の母親の隠している真相を調べてもらうことに。
母に出された双子からの手紙を基に、ただの記者にどうしてここまで分かるのか不思議なくらいに詳細な調査が始まる。
真相が明らかになってくる。
これ以上の詮索をすることに花は怖くなる。
自分の呪われた出生。その呪いの血を引き継ぐかのように、今、自分の身に呪いがかかっている。
千代は、花の様子がおかしいことに気付く。
そして、花と接触している記者を名乗る男の正体を調べる。記者だなんて全くの嘘。
久しぶりの再会。ずいぶんと変わったものだ。あの真面目だけが取り柄の早坂が。
早坂から、花が双子との手紙を読み、真実を知ってしまったことを教えてもらう。
でも、きっと、花はその真相を誤解して理解している。恐らくは美登里と葉介という呪われた二人から生まれた、自分は呪いを引き継ぐ子であると思っているのではないか。
花は追求することを辞め、大学受験に専念する。
千代は未だ真実を語らず、花もそれを避けようとしている。
1995年。受験のために、花は前日から神戸に宿泊。1月16日。
翌日、早朝、千代は震災のニュースを聞く。
記者、いや早坂に電話をする。
早坂は、神戸に向かい、花を探す。自分の娘なのだから、命に代えてでも守るつもりだ。
呪いがまたかと思われたが、連鎖はここで断ち切られる。
花は早坂に連れられて帰宅する。
千代は花を抱きしめる。
観終えてまとめて書くと、戦争から今に至るまでの日本と共に、ある双子の数奇な運命を描いた壮大な物語となる。
情報源は、双子がかつて千代に出した手紙だけ。その文章と、それを読んで、かつてを思い出す記者を名乗る早坂の回想から、過去の真相を明らかにしていく、謎解きを絡ませながらの引き込まれる話となっている。
戦後は激動の時代とか言われ、確かに生きるため、より良き国を創るためという中で、人々は必死になって生きてきたようだ。
この生きるためと、より良い国創りをするということが、作品名の獣と文明のような言葉として置き換えられているのかなと感じる。
戦争は国の勢力をより増すため、学生運動は社会をより良くするため、高度経済成長は国をより豊かにするため。でも、その文明発展のために、人は人を殺し、傷つけ合い、病になるまで働き、環境を破壊する獣の行動をとってきた。
同じ文明発展に繋がるのであろう、三種の神器、ディスコ、フラフープとかで楽しく時間を過ごす大衆文化の姿と、どうして異なってしまうのか。目的は同じはずなのに。
作品の中に、生きる手段として愛が存在しているように感じられるところが多々ある。東和子と高村の結婚とかは分かりやすく、パンパン娘やさとみの直島との付き合いもそんな感じか。花の学校での友達も、いじめから逃れ、狭い学校という世界で生きるための手段みたいな感覚に陥っているように思う。
じゃあ、そんな愛は偽りで幻なのかと言うと、そこには潜む想いがやはりあったり、誰かを愛するがための行動で、そこにはやはり愛があったりと複雑だ。
本物の愛なんてものを、社会で生きる中で見つけていくのは難しいことなのかもしれない。逆に愛なんてものは、汚されず守るために、自分自身や人を傷つけることで、そこにあることを確信するようなものなのか。
でも、この作品のラストは、呪いなどを超えて、きちんと人が人を愛する純粋な姿を見せているように思う。震災という悲しい出来事ではあるが、その時、早坂、千代の花への愛は、心の底から溢れている気持ちにしか見えない。
震災は多くの人と共に数々の建築物を消し去った。いわば、文明を破壊した。この時、社会に人の優しさや愛が見えた。人が獣から解放されたのだろうか。文明は人の大切なものを無くしてはいないが、隠してしまうのだろうか。
文明の発展と共に、私たち自身も成長し、獣から人間へと本当に進化を遂げているのかを問いただされるような感覚が残る。
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