トウキョウの家族【Theatre劇団子】150530
2015年05月30日 トリイホール (120分)
初めて観る東京の劇団ということで、知っている役者さんが全くいない。
もう観劇を始めて7年になるので、実はこれは珍しいことである。たいがい、どこかでお見かけした方がいらっしゃるので。
どんな作品を創られるのかも分からないし、観に伺うきっかけというものが本当なら無かった。
足を運んだ理由は、観劇仲間の熱いご推薦。
少なくとも私は、あそこを観に行けというお薦めはあまりしない。人によって、合う合わないは本当に様々なことを知っているので、薦めるからにはかなりの自信が必要なのだ。
それをあそこまで観てもらいたいと熱く語るのだからと、一度は経験しておこうと足を運んでみた。
で、結果は、これはかなりいいですね。
雰囲気的には、吉本新喜劇みたいな感じかな。
テンポよく、笑いあり、涙ありと、明快なストーリーを進ませながら、幸せで楽しい気持ちを沸上がらせてくれるような作品。
劇団を少し休むということになってから、2年半ぶりの公演らしいです。
その間に思われたことや、これからどうしようと思っているのかも込めたような話になっているみたいです。
家族の話。
家族だから、分かち、離れることになっても、どこかでその幸せを願い、心配している。そして、そんな帰るべき場所や人があることで、安堵を抱き、それが前へと進む勇気となる。
家族といっても、いつもずっと一緒にいるわけでなく、出て行く者あり、戻ってくる者ありと、離散集合を繰り返す。その時その時の写真は、その数や表情も異なるのでしょうが、そこに写っていない人の想いや、表情の奥にある信頼の心は実は常に刻み込まれているのでしょう。
それが家族であり、自分が生きる中での、いつでも出発点として迎え入れてくれるみたいなものなのかなと感じます。
<以下、あらすじがネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>
舞台は東京。と言っても伊豆大島の小さな旅館。
先代が、三原山の噴火で火山岩による怪我で亡くなってから、残された妻が女将さんとして、三人姉妹の長女と共に旅館を切り盛りしている。次女、三女は島を出ている。
そんな旅館に、劇団の作家がやって来る。ネットで見つけた1枚の写真。それは岡本旅館という看板を掲げた旅館の玄関先で家族が写ったもの。一人の女の子だけが、家族からちょっと離れたところでカメラから視線を外している。
作家の本能なのか、その子に、そしてその旅館に興味を抱き、そこに行けば、何か作品が創れると考えたみたいだ。
作家は、色々と思い悩み、自分が脚本を仕上げなかったために、公演を一度中止にしている。みんなで和気あいあいと楽しく、それこそ家族のようにやってきた劇団であったが、そんなこともあり、去っていく劇団員もいて、劇団として重要な岐路に立っているようだ。
女将さんは最近、ボケ始めているみたいだ。得意の三味線を弾いておとなしくしてくれていればいいのだが、オレオレ詐欺に引っかかったり、万引きで捕まったりと長女の苦労は絶えない。町の人は女将さんの今の状況のことを知っているから、あまり大事にはしないようにしてくれているし、旅館に昔からよく出入りしている人の良さそうな町議会議員の力で、何とか事を荒立てないようにしているが、それもいつまでもというわけにはいかなさそう。
長女はそんな心労がたたって、ついに倒れてしまう。昔の怪我で白内障を患っており、疲れもたまりやすいみたい。
そんな長女にいつも優しく接してくれるのが、お隣の酒屋の男。下心丸出しだが、岡本旅館のために、必死に頑張り続ける長女の力になりたい気持ちに嘘は無いようだ。と言っても、この男、次女の同級生で、幼き頃からずっと、その次女のことを追い続けている。それを長女も知っているから、私は島を出ていった次女の代わりではないと、相手にもしていなかったのだが、寂しさや辛さもあってか、ついつい心をほだされてしまったみたいで、ちょっといい仲にまで発展し始める。
三女夫婦がちょうど大阪から戻って来ている。三女は何か訳あって、戻ってきたみたいで、それにお調子者の旦那が一緒に付いてきた様子。
三女は妊娠三か月。その報告といったわけでもないようだが。
そして、旅館にさらに来客が訪れる。作家の劇団の看板女優。脚本ができないと行方をくらました作家を追ってきたらしい。
とにかく、脚本を仕上げて公演の準備を進めたい。それが自分にとって最後の公演になるから。
そんなことを作家に伝えにやって来る。
今回の公演で最後にする。劇団を辞めるし、役者も辞める。故郷に戻って、お見合いの話があるらしい。
作家と看板女優は付き合っていたみたいだが、いつの間にか、劇団を存続させるための同志、いわば家族のような間柄になってしまったのか、男女の仲としては、どうすればいいのかを見失ってしまったみたい。
そんな中、もう帰って来るはずもない人が戻って来る。
次女だ。明らかにいかがわしい匂いがするが、スラッと背の高い男前、仕事は経営コンサルタントをして海外を飛び回り、お金もたくさん持っている。先代、つまりは父にそっくりらしい。そんな男をフィアンセだろうか、次女は紹介して、幸せを掴んだとばかりの様子。
長女はイライラを隠せない。次女の勝手で、自分の人生も狂ったし、家族だって崩壊してしまったのだから。さらには、いい仲にまで発展した酒屋の男の様子もおかしい。帰って来るはずがないと思っていた次女の姿を見て、やはり忘れられない次女への想いが再燃したことぐらいは分かってしまう。昔からそうだった。次女は自分たち家族の生活のペースを乱す。
どうして帰って来たのか。次女は手紙をもらったと言い張る。母がボケて言動もおかしい。一度、顔を見せてあげて欲しい。そんな手紙を長女は書いた覚えがない。
険悪な空気が漂う。
でも、次女は決して、今、幸せなわけではない。男は本当は次女が貢いでいるホストだ。そして、DVも受けている。仕事も人にはなかなか言えない仕事だ。それでも、戻って来たのは、島を飛び出して、幸せになった姿を見せたかったのか。その姿を見せて安心させたかったのか。それとも、どこかに救いを求めているのか。
母と三女、議員が話をしている。
母の口調はとてもボケているとは思えない。
どうやら、これはこの三人の策略だったようだ。
母がボケたふりをする。それをネタに次女を呼び戻す。長女と顔させ合わせれば、昔のしがらみも消えるだろう。家族なんだから。
その考えはちょっと甘かった。二人の中に芽生えてしまった憎しみの感情はそんな簡単に消し去れないみたいだ。
議員は、作家に賭けてみる。
芝居を創って欲しい。
舞台はこの旅館。照明は部屋の電気をつけたり消したりぐらいしかできない。でも、音響は議員の力で町内放送とかを使える。小道具はここにあるものなら幾らでも使えばいい。
制作費は、オレオレ詐欺に引っかかったということになっている50万円がある。
作家と看板女優は、その話にのる。さらには、三女の旦那も、愛する妻のため、そして、大阪人のメンツにかけておもろいことに加担するつもりだ。
芝居を創るにあたって、これまでのこの家族のことが語られる。
次女は昔から気が強く、何でもはっきりと言う子だった。それに比べて長女はおとなしめで気を遣うタイプの子。
当時から付きまとっていた酒屋の男は、たびたび家を訪れ、長女をブス呼ばわりして、次女にアタックをかける。そんな男の想いを一蹴し、かつ大好きなお姉ちゃんの悪口を言うことに厳しく対応していた。
この頃は、むしろ仲のいい姉妹だ。
少し大きくなり、次女は石に興味を持つようになる。父は火山岩をお土産に持って帰ったりして次女を可愛がる。自分にはお土産が無いとふてくされる長女だが、いつもお前はお姉ちゃんなんだからで済まされてしまう。
三原山の噴火が起こる。次女は、あのきれいな火山岩がたくさん噴き出てくると思ったのか、噴火口に一人で行ってしまう。父は、その次女を助けに向かう。
二人とも無事に帰っては来たが、その時、噴火した火山岩に当たった怪我がもとで父は亡くなった。
そこから、残された母と三姉妹が生活していくのは楽な話では無かった。
長女は学校を辞めて、旅館を手伝う。次女は家族の中に自分の居場所が見出せなくなったのか、どこか離れたところにいるように。三女は幼いから何もできない。だから、少しでも家族の空気が良くなればといつも笑顔を作っていた。
崩れ始めた家族を戻すことは出来なかった。
長女は次女を責め、次女は家を出て行く。三女は学校を卒業した時に、母から島を出るように言われる。母だから分かっていたのだろう。自分が本当に笑っていないことを。本当の笑顔を作れるようになって欲しい。そして、その時、また家族が家族でいられるように力を貸して欲しい。三女はきっと、その時の約束を今、果たすつもりなのだろう。
そんな話を聞いて作家は脚本を創り始める。
でも、なかなかうまくいかない。早くしないと、次女がもう島から帰ってしまう。
犯罪スレスレだが、議員の力で何とか次女たちを足止めしたりするが、それももう限界。
そして、ようやく完成する。
家族を取り戻す。そのために作品の中に込めたいこと。
それは、家族なら相手の幸せを願いたいはずであること。このことは、劇団という家族を失いかけている自分自身にも向けられた言葉。
旅館に大阪から有名な占い師がやって来る。
三女夫婦が見てもらい、見事に当たる、凄いという演技をする。
次女にも見てもらえと吹きかける。
この人と結婚しないと幸せにはなれない。それどころか男は死んでしまうだろう。そう言う占い師の言葉に従って、そのあたりにたまたまあった婚姻届に男にサインさせる。
次女にもサインをさせようとする。
みたいな手筈だったが、この策略を知らない人が入り込んでしまう。酒屋の男。
こともあろうに、そんな場で自分の次女への変わらぬ想いを伝え始める。
急いで強制退去させるのだが、次女の様子がおかしい。
次女の本当の気持ちが外に出てきたことを母は見逃さない。
次女を抱きしめ、今、本当に幸せなのかを問い正す。
幸せなはずがない。この男に貢ぎ、暴力をふるわれて。次女の腕は青あざで染まっている。それでも、縁を切れないという辛い状況に追い込まれているのだから。
モタモタしている次女を見て、男が本性を現す。その姿に、今度は長女が行動を起こす。
男にビンタ一発。大切な妹を傷つける奴は私が許さない。今すぐ出て行けと男を追い出す。
そして、いつもそうして強がる次女を優しく叱りつける。
作家も、三女も島から帰ったみたいだ。
そして、次女も帰る。船までのお見送りは酒屋の男が担当するみたいだ。悲しいかな、その視線の先にもう長女は全く無いようだが。
長女と次女は言葉少なく、別れとまたいつでも再会できることを約束する。
三女からは電話。生まれてくる子供の性別が分かったらしい。
そして、作家からは一枚の写真が届く。
旅館の前で家族で撮った写真。もう一人だけ視線をそらしたりはしていない。
お姉ちゃんだからしっかりしないといけないと世話焼きの優しい表情を浮かべる長女、ちょっとぎごちないけど、自分のいつでも帰るべき場所に立ち、甘えていい人たちに囲まれて安堵の表情を浮かべる次女、本当の笑顔が作れるようになった素敵な表情の三女、三人をいつまでも優しく見守り、家族を取り戻せた喜びを滲ませる母。そして、そんな母と三姉妹を、きっとどこかで心配して見ていたのかもしれない先代の幸せな微笑みが影となって写し出されているかのようである。
切り離されてしまったかのような家族。
その家族を再び繋ぎ合わせたのは、ただ家族のことを互いに想い合う人の心だったようです。
一人だけそっぽを向いている家族写真。その中にある、互いを想う気持ちが、切り離されることのない絆を生み出していることを作家は感じたのでしょうか。
劇団が岐路に立ち、消えてしまうのかもしれないと焦って脚本を創っていた作家は、その一枚の写真から導き出された家族の強い繋がりを感じ、新しい出発へと踏み出せたようです。
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