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2015年5月 5日 (火)

お家に帰りたい【てんこもり堂&KAIKA劇団 会華*開可】150504

2015年05月04日 KAIKA (95分)

ヘンリー五世をモチーフにした、家族と町の物語。
・・・らしい。
ヘンリー五世の話がどのように盛り込まれているのかは、さっぱり分からなかった。
国家主義の誇りと美化。それに惑わされる群衆。といったようなところだろうか。よく分からない。

家族の話で、いつでも帰ることが出来る家があるみたいな、温かく優しい家族の絆みたいなことをイメージしてずっと観ていたが、どうも、その感覚は得られない。
むしろ、総勢、約50名の人たちがうごめく舞台の迫力や人の熱さに圧倒され、それが、もう戻ることの出来ない群集心理へと導かれる恐怖みたいなことを感じる。
人間の弱さが浮き上がり、歩んできた道を、もう戻って、在りし日の自分の姿にはたどり着けないのだなあという悲しき回顧に涙するような感覚が残る。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は水曜日まで>

毎日、絵本を読み聞かせ、すぐに諦めたり、投げ出したりしない立派な大人になるように幼き娘を教育する母。
ウサギとカメ。どうして、カメは走れないの。そんな娘の素朴な疑問にも、カメが走ったらおかしい。たとえ遅くてゆっくりでも、じっくりと諦めずに懸命に歩み続ける教訓が絵本の話にはあるみたいな答えをする。
そんな母娘の下に、父が帰って来る。家族なのだから当たり前なのだが、ちょっと事情が違う。この家での仕事を辞めて、数年前に町に出て行ってしまっていたのだ。その町での仕事も辞めて、戻って来たらしい。絵本の教訓から言えば、娘には見せたくない姿である。
確かに、この家は、父が出て行ってからは、荒野のように寂しいものとなっていた。また、みんなで暮らせば、森のように茂ってくるかもしない。母もずっと帰りを待っていた。でも、おかえりなさいとは素直に言えないし、父の町での生活やこれからのことに耳を傾けることが出来ない。
出した結論は、娘を連れて、街に引っ越すこと。
そう告げると、怒りもせずに、ただただ驚いて戸惑いの表情を見せる父を残して、母娘は町へと歩み始める。

町までの道のりは長い。必死に歩き続けるが、どうも父が跡をつけている模様。辞めろと捕まえてもこない。ただ、距離を置いている。
途中、疲れて娘が泣き出す。お家に帰りたい。そんな言葉を聞き、母は涙をこらえて、娘を抱きしめるしか出来ない。もう、そんな家は無いのだから。
その時、父が駆け寄ってくる。町の家へ行こう。父が暮らしていた家があるらしい。
しばらくして到着。まずまず、広い家。父は明日から、また仕事を探すと言う。母は家のことを任される。

翌日、お隣さんにご挨拶。何やらやかましく、少々デリカシーが無く強引なところがあるおばちゃんだが、町をみんなが安心して暮らせるように、より良くしようと自治体活動も熱心な、まあ悪い人では無いみたい。
父は職探しに家を出発する。
おばちゃんは、まだ母に町作りについて、語りまくっている。みんなの協力が必要。でも、ちょっと父はそれに非協力的な素振りを見せていたらしい。奥さんからよろしく伝えて欲しいと言われる。

父が帰って来る。
職は決まったらしい。といっても、辞めた会社に再就職。ちょっと、居心地が悪いけど、家族がいるんだから頑張ると宣言。ありがとう。そんな言葉が母娘から自然に出てくる。
さらには、フォルクスワーゲンも買ったらしい。営業員の男はちょっと変わった人で、応対するのが大変だったが、これでドライブにも行ける。

結局、おばちゃんに強引に誘われて、町内会にも参加することになったみたい。
父はそういうのは苦手だと、断っていたが、母は近所付き合いもあるのか、自分が頑張るからと説得して了承を得る。
記念すべき日。町の人が集まり、大宴会。次期リーダー候補のお兄さんとも挨拶をする。明るく礼儀正しい好青年。少なくとも、今のおばちゃんよりかは付き合いやすそう。
こんな町内会が出来て、みんなが協力するようになった経緯も説明してくれる。町を流れる川が、昔、洪水を起こした時、自然に川の掃除をして綺麗にしようとなったらしい。確かに、今、流れる川は綺麗で、みんなの力が本当に町の美化に繋がっているようだ。

家族3人で海にドライブ。
母も娘も喜んでくれている。幸せ家族の象徴のような姿。
ふと見ると、海は広いな、大きいな・・・と歌う一人の少年。
親がいないのか、一人ぼっちで海辺を彷徨っている。
連れて帰ろう。今日から、この子も家族だ。

今まで3人だったのに、急に4人になった家族。
おばちゃんはおかしいと、お兄さんと一緒に家族の下に問い正しにやって来る。
この子はうちの家族です。ぶれることなく、真摯にそう答える父。そして、それに素直に同調している母娘。
それなら構わないのではないか。お兄さんは理解を示すが、おばちゃんは不服そう。
疑いをかけたことを気にしているのか、お兄さんは家族を家に招待する。家族も喜んで、その誘いを受ける。

この家族はおかしいと町中で噂になってしまったみたい。噂を広めた張本人は恐らくおばちゃんだろう。
そして、この家族の肩を持つお兄さんを次期リーダーから外す。思いもよらない町の人たちの反発にお兄さんは戸惑いを隠せない。
そんなことを露知らず。家族はおめかしして、招待されたお兄さんの家に向かう。
途中、おばちゃん率いる町の人たちが待ち構えている。
この町の人たちが安心して生活できるようにするために、この町にはルールがある。それは、みんなが普通の生活をすること。それに反する、この家族は町追放。
でも、普通の生活って何なんだ。そう反発する父。
おばちゃんは、この町は美しい町であらねばならないと断言する。そういう場所で子供たちを育てたいはず。母に向けて発せられたその言葉は、母に響いたみたい。
町の人たちは宗教の儀式のように急に踊りだす。お兄さんがやって来る。お兄さんはその踊りに入り込む。自分の身の可愛さか。
母も踊り出す。より良き子供の教育のため。そんな言葉にいとも簡単に文字どおり踊らされている。娘は母が踊っているので、それに同調する。
必死に止めようとする父。止めても止めても、また町の人たちも我が家族も踊り続ける。遂に力尽きて倒れる。
行ってみたいなよその国・・・と、この大騒動を知ってか知らずか、そんな歌を唄う少年。そんな少年の下に純粋に娘はごく当たり前に近づき、手を携える・・・

父がいなくなったひっそりとした家で、裕福ではないにせよ、何かを恨むわけでもなく、誇りを持って時間を過ごしていた母娘。自分のために、何よりも娘のためにも、豊かな町で暮らしたいという憧れはあったのだろうか。
海辺で一人、大きな海を眺めながら、時間を過ごす少年。どこかよその国へ行ってみたいなという自然に湧き上がる純粋な憧れを抱いているみたいだ。
こんな人たちが、町を知る父によって、町へと導かれる。
そこには群衆がいる。これまでの寂しい荒野や海辺とは全く異なる。
私たちは町をより良くしていかなければいけない。そのためにルールを決めて、何が普通かは分からないが、一人飛び出るような言動は控えなくてはいけない。車のように発展した科学進歩や、自分たちの愛町主義の象徴ともいえる綺麗な川は、何よりも守っていかなければいけない。たとえ、個を犠牲にしてでも。
この家族は何を得たのだろうか。
憧れを抱いていたはずの町は、数々の自由を決まり事や町での常識で制限し、町のこれからのためという大義名分によって、協調し合う組織作りを強制する。

こんな毒が集団心理で消えているような感覚に怖さを感じる。
町の人たちは本当に約50名の大集団で形成され、舞台をうごめく。
率先して町をより良くしようと唱えるおばちゃんの異常性はいつしか見えなくなる。お兄さんも、この町のために、自分の主義主張は抑え込もうとしている。それに従う町の人たちも、個々を見れば、老若男女、個性的で、生真面目そうな人や、ちょっとおかしな人もいるのに、いつしかこの町の人というくくりでしか見えなくなる。
個が集団に飲み込まれてしまった感じか。
家族もその集団に中に入り込む。既に無くしている自由なのに、それを集団の中にいないと失ってしまうかのように追い込まれて。人間の弱さが垣間見られるようだ。
そして、唯一、反発する父が愚かで誤っているような錯覚を引き起こす。力尽きて倒れる父の姿に、悔しさよりも、自業自得ぐらいの斜に構えた見方しかできなくなってしまっている感覚も恐ろしさを感じる。
ラストシーンはどのような捉え方をしたらいいのだろうか。
少年がかつての海で、行ってみたいなよその国と唄っている。その手を携える娘。周りには同年代っぽい子たちが見守る。
新しい創造を生み出す次世代たちへの町の変革への期待だろうか。それとも、在りし日の悲しき姿。お家に帰りたい。あの頃に戻りたいという、もはや叶うことの無い切なき渇望を表しているのか。

戦い合えば、必ず勝者と敗者が生み出される。
勝利することで、異なる価値観を排除し、愛町精神に基づく心を持つ個がスクリーニングされる。
その結果、町に一体感が生まれ、幸せな町への道を進んでいるかのようになる。
そんな感じなのだが、恐らく、個をスクリーニングしているのではなく、個をどこかの基準にまで合わせてしまうのかもしれない。
ヘンリー五世の何をモチーフにしているのかはさっぱり分からないが、彼の名演説の中の、少数でも、その幸せのために絆で結ばれた同志たちみたいな言葉がそんなことを表しているように感じる。
群衆はそれで奮い立ったらしい。でも、それは個を捨てて、愛国の大義へと生きろと言っているように感じ、戦うための駆動力にするためのすり替えた言葉のように思える。
この町の人はどこかおかしい。おばちゃんとかは露骨におかしい。お兄さんもうさんくさい。
でも、そんな人の説く大義は群衆に認められて、人々を動かす。そして、よそ者排除へと先導する。戦争の異常な心理や人間の弱さが浮き上がり、どこか不安を煽られるような感覚が残る。

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