悪い癖【匿名劇壇】150523
2015年05月23日 アイホール (95分)
一人の女性の閉鎖空間からの脱出。人生行き詰まって、閉じこもった心が描く妄想世界を通じて、そこから一歩踏み出せるようになるまでの姿を描いた作品。
といった感想は書かせないよみたいな、こちらの観劇中の気持ちを読んでしまったかのような伏線の張り方が尖る。
まあ、この劇団はこれまでもずっとそうだが。なるほど、こういうことを伝えようとしているんだなと思いながら観ていても、そう思うだろうことは既に読んでますからみたいなところが、露骨に出る。客の気持ちを読むのは、どんな作品でもそうなのだろうが、これが顕著に出ていると感じるところが、いつもこの劇団の作品を破壊や暴力といった言葉で評してしまうところでしょうかね。
今回、いつもと違うなと思ったのは、ちょっと優しさが感じられます。行き詰まるに至る数々の若者の心情を吐露し、それでも、懸命に進み続けているのには愛があるからなんだみたいな。
この作品を、単に上記したことにだけ言及したような話とならないように、作品中にどういう話にするかが宣言されています。
そして、ラストは、本当にそこにストンと落とし込まれる。
いつものとおり、卓越した巧妙さを見せていますが、感想としては、優しさや可愛らしさを感じる作品でした。
多分、現実、妄想、妄想内演劇という構造から成り立っています。
妄想、演劇といった虚構の世界では、容易に人は繋がり合い、言葉は響き合います。若い人たちが思い悩む心情も、普通に伝わってきます。
でも、現実は、ストレートな言葉ですら、そこに込められた想いを感じ取り合うことは難しいようです。若い人たちの悩みも、何に苦しみ、何から逃げ出そうとしているのかが言葉の奥深くに隠されてしまっているかのようです。
でも、その虚構の世界を通じて、今の現実を見詰め直すことができ、そこから、現実を自分がどう変えていきたいと思っているのか、何を求めてるのかが分かっていくような感覚を、交錯する世界の中で得るような話だったように思います。
<以下、あらすじは書けていませんが、キーワードがネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は、本日、日曜日まで>
散らかった部屋。家賃滞納、ガスも止められている。
外に出ていないのか、食べ物はカップラーメンぐらい。お湯も作れない。
電子レンジがあるが、頭が悪くて考えが及ばないのか、もはや美味しく物を食べようという気力が無いのか、水でふやけた麺を淡々と食べる。
これが、今の柳瀬真由の現実。
啓太は、そんな彼女の家に入り浸る。
完璧主義が災いしてるんじゃないのか。一度、ちゃんと診てもらった方がいい。選挙に行こう。
なんて、彼女の今を少しでも変えようとするが、彼女は自分の創り上げた、現実とはかけ離れた幸せな日常を描いた妄想世界に入り込むばかり。
真由は、現実の社会の一員であり、誰もが夢を持ち、人生の主人公である権利を全て拒絶しているかのよう。
啓太の言うことも拒絶。でも、感極まってどうしようもなくなった時は、三文芝居のごとく、無感情だが互いに愛しているの一言を声にする。
この言葉が、彼女が頭の中で妄想する虚構の世界、その妄想の世界から生み出された演劇という虚構の世界での、どんな彼女に投げかけられる言葉よりも、真実であることが分かったのだろうか。
最後は、啓太の芝居でも嘘でも無い、愛の言動により、真由は現実世界に連れ戻されるといった演劇作品というようなメタフィクションになっているのかな。
妄想世界。カラオケで楽しむ若者たち。
佳奈と省吾は、このノリにどこか違和感を持ち、意気投合したのか、二人でどこかへ消える。
梨絵は、そんな省吾の浮気を耳にして、責めるが、省吾ははぐらかす。
佳奈と省吾は映画を観に行く。行き詰まった女性が部屋で首吊りをしようとするが未遂に終わるといった、真由の現実を覗き見するような作品。
省吾は劇団に所属しているみたいだ。
脚本家の柿崎は、工場に勤めている。リーダーみたい。
その職場を妄想した、若者たちの悩み苦しみを描いた不可思議な作品を公演したりする。
佳奈は、省吾の誘いで、その作品を観に行く。そこには、みんなが主人公で、どうなるか分からない中でもがく人の姿が面白おかしく描かれる。
現実世界。真由は、死ぬことも出来ず、日々することもないので、公園で鳩に餌をあげて不毛な時間を過ごす。
同級生だった美羽という女性がやって来る。
美羽は啓太と付き合っていたからなのか、互いに距離感がある。それでも、美羽は、今の真由を気にかけているのか、かつてはネイルをマスターするみたいな夢を持っていたことに言及し、また、しっかり人生を歩めばみたいなことを言う。
この日から、真由の妄想世界への入り込みはさらにひどくなる。
妄想世界。
柿崎は、織田というちょっと変わった子がバイトにいて、彼をモデルに作品を創る。
何かよく分からない悪い奴が、女性を監禁している。その子を救い出して欲しい。梨絵演じる女性は、そんな仕事を探偵の男に依頼する。この探偵が織田という男だ。
彼は超能力者。たいがいなことが出来る。でも、どれも、中途半端で突き抜けた能力と言えない。おまけに、肝心なビームが出ない。ビームが出ないから、色々なことを目指すにも制約があり、無理だとなってしまう。恐らくは、工場でも、実はなかなか出来るのに、変なところにこだわって、自分の道を狭めてしまうような人なのかもしれない。
それでも、梨絵演じる女性は、この探偵と監禁された女性を救いに行く。
梨絵は柿崎の脚本に手を加える。豊かな才能を思いのままに出す脚本が好きだったのに、本気をいつの日か出さなくなって、型にはまりがちな今の姿に苛立ちを感じていたみたい。
脳内世界に入り込んで、そこから、閉鎖空間から一歩踏み出すことが出来るようになった女性みたいな話にはしたくないのだろう。これは愛ある恋愛ファンタジーにしたい。例えば、白雪姫みたいな。
梨絵の想いは、そのまま手を加えた妄想内演劇の話を進行させる。
ところが、さらに、それは、意志を離れて、現実世界の真由と啓太に及び出し・・・
真由の現実世界があって、真由が夢見る幸せな妄想世界があって、その妄想世界で創り上げる演劇作品があって。その演劇作品は、今の真由の現実を基に描かれているみたい。だから、この演劇作品をハッピーエンドにすれば、現実も変わる。そのためには、妄想世界の人たちが、そうなるように脚本を創らないといけない。でも、その妄想世界を創り出しているのは真由だから、結局、真由自身が幸せになりたいと考えるようにならない限り、演劇作品はハッピーエンドには決してならない。
三層構造だけど、ループしているみたいな。それで、虚構世界の人が、現実に現れることを正当化して見せているような感じ。
そして、結局は、人生をどう捉えるのかは自分だし、その価値をどう見出すのかも自分にかかっているみたいなことになる。
今という現実が一番面白くない。なんてことを考える時がある。
過去には、こんなことが出来るんじゃないのかと思っていた結果を目の当たりにしているし、それは大概、思っていたほどでは無かったなという結果だ。辛く苦しかったこともあるけど、それは昔のこと。忘れてしまえばいい。あの楽しかった日々は、今となっては単なる思い出にしか過ぎない。いくら思い出しても、今の現実には蘇らない。
この先どうなるかは、いくらでも夢見れる。自分の未来はこうなるんじゃないかなんて考えることは、現実から目を離すので現実逃避になるのだろうか。それでも、自分中心に、幸せが導かれるような物語を創って、期待を膨らませることが出来る。
作品中の真由も似たような感じなんじゃないかなと感じる。ビームじゃないけど、いつの日か、自分が出来ないことや、持っていないことに気付く。それだけで、目の前の道はふさがり、狭まってしまう。
そうなれば、もうそこで眠りにつくぐらいしか出来なくなる。
でも、振り返れば、その時、白雪姫のごとく、王子様が現れて、眠りを覚ますキスをしてくれたんじゃないだろうかとも思う。そうじゃないと、今、歩いている自分が存在しないことになるから。自分で勝手に歩き始めたとも思えないし。
今、隣にある優しさに気付く。
それは、一番身近な自分も含めて、周囲の人たちを信じて、そこから幸せの時間が始まることに繋がるように思う。
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コメント
24時(日)13時~観劇。
今回は変化の公演かな、と思いました。『二時間に及ぶ交渉の末』でこの劇団を知ってこの劇団の絡む公演はほとんど行っていると思うんですがまず各役者のレベルが上がっていると感じました。特に抑えた演技が以前より巧くなった気がします。
元々メンバー全員のキャラが立っているのですが各役者の意識が高いのと他劇団の客演に出演されたりした結果なのだと推察します。
本公演は一年ぶりなのかな?『二時間に及ぶ交渉の末』は『ポリアモリーラブアンドコメディ』と間があまり空かずに上演されたので各役者のキャラがそんなに違わなかったイメージがありますが今回は少し変えてきたかな、と。
また今までは役者の力量だけで勝負していた感じですが今回はマイクを使うなど音響にも工夫を凝らした感がありますね。
今公演の物語は個人的には今まで観たこの劇団の作品の中で一番分かりにくくピンとは来なかったのですが(笑)
投稿: KAISEI | 2015年5月25日 (月) 12時47分
>KAISEIさん
まあ、見やすさとかの点だと、より巧くなったのかなと思いますが、基本は、いつもの匿名劇壇だったかなというのが私の感想です。
メタを利用して、自分たち、というか福谷さんの想いを尖り気味に露出しながら、物語は夢やら愛やらが実は詰まった優しい話であるような感じが。
ピンと来ないのは、きっと、この作品は、今、若者である人じゃないと創れないようなものだからじゃないですかね。
中年の私にとっては、もう過ぎ去った頃の感覚を得るところが多く、懐かしさすら感じました。そして、その自分の若い頃と、今の時代の世相は当然、変わっているわけで、そのあたりにギャップがあるような気がします。
微笑ましく、くすりとさせられ、まあ、頑張っていかないとしゃあないからね、人生なんてみたいな声を掛けたくなるような作品だったように思います。
投稿: SAISEI | 2015年5月26日 (火) 10時17分
う~ん。難しくなかったですか?物語を追うのが。最後でわかるんですが。2回観ないと、という声もあるようですね。私はチラシのあらすじや当日パンフの挨拶を読んでおくべきだった(チラシのあらすじは読んだがだいぶ前で忘れてる)かと思いましたが当日パンフはあまり助けにはならなかったかな。チラシのあらすじは当日目を通しておくべきでした。
投稿: KAISEI | 2015年6月 1日 (月) 16時29分