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2015年5月17日 (日)

名誉男性鈴子【笑の内閣】150516

2015年05月16日 シアトリカル應典院 (95分)

非常に面白い作品でした。
ジェンダーをはじめ、ナイーブな差別問題が、ふんだんに盛り込まれているのですが、ここまで突き抜けてしまえば、もう笑うしかないでしょう。
かなり不快なレベルの発言が好き放題ですが、これにずっと怒り続けたり、深く考え込んでいたら、多分、頭も体も持ちません。もう、笑うしかない。そのように捉える中で、この問題のおかしさを伝えようとしているみたいです。おかしさは面白さという意味では無く、異常であるという意味で。おかしく笑って、おかしさを知るみたいな感じでしょうか。この劇団ならではの、巧妙な構成になっているように感じます。
笑いっぱなしくらいな状態になりましたが、その笑いも単純なギャグから、役者さんの力技、テーマに沿った苦笑い、呆れ笑いと様々。
話としても、まとまりがあり、これまで何となく感じていた、急に議論の場に飛んでしまうようなところも実にスムーズだったような気がします。きちんとした流れがあるみたいな。
ラストは、ジェンダーなど関係なく、今の政治の形というところに葬られたようなブラックさ。
これまでの知的で巧みな作品に、さらに磨きがかかったかのような感じで、かなり見事に創り上げられた名作と言っていいように思います。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は月曜日まで。月曜日はまだ席があると言われていたが・・・>

舞台は岡山県、南アンタレス市長選の黄川田鈴子の選挙事務所。
コンビニ、レンタルビデオ店、パチンコ店とことごとく潰れてしまっているような、あまり景気の良くないど田舎みたい。
お年寄りも多く、有権者は頑固で閉鎖的。これまでの市長の政策からも、保守路線を走ってきたようだ。
今回の選挙の目玉はこの黄川田鈴子の立候補。何が目玉かって、それは女だということ。
市議会議員としては10年の実績があるが、特に目立った政策を実現した訳ではない。女性でありながら、男女平等やらジェンダーやらと声高らかに叫ぶこと無く、このままの封建的な保守路線を引き継げそうなところが、これを最後に長年勤めた市長を引退した後も、市を改革した立派な人だったと名を残し、さらにはまだ権力を保持することを考える現市長のお眼鏡に叶ったということらしい。

鈴子の選挙戦を応援する主たるメンバー。
甥っ子の秘書。趣味がお菓子作りというだけあって、実はこの書き方自体が差別的ということになるのだろうが、女性のように気遣いに長けた人。封建社会が根強く残る、この市では女々しい、頼りないなんて評価になる。だから、たとえ鈴子が市長になっても、彼に活躍の場を与えようと考えている者は少ない。
市議会議員2年目の、鈴子の妹分、出倉恵梨香。父子家庭だったらしく、鈴子には母のようにお世話になってきている。ただ、大学時代はジェンダー研究会に所属しており、鈴子の考えとは異にすることが多い。それでも、彼女に付いて行き、今回も応援するのは、女性が社会に進出するための基盤を作ることが大事だと考えているから。そのために必要な足がかりは、まず、誰でもいい、女が市長になること。そして、いずれは自分が市長になって、この市を変えようと思っている。鈴子の考えも、男のベテラン市議会議員の考えも、昔から変わらない市の今の姿も全部おかしい。でも、焦ってはいけない。今は、慎ましく、ハイと返事をして笑顔を振りまいておきながら、足場を固めるのが大事だ。まだ短い政治家経験の中でそれを学んだ。
恵梨香の後輩、現在、学生の女性。いずれは、恵梨香先輩のように政治家を目指している。今回は、誘われて、勉強も兼ねて、お手伝いをすることにしたらしい。大学時代は恵梨香先輩とジェンダー論を熱く語り合った。そんな尊敬する先輩の政治家としての仕事を見ることが出来る貴重な機会。彼女の意気揚々とした思いはあっという間に崩される。セクハラまがいの下ネタや女性蔑視の発言を平気でするベテラン議員。それを諌めることもなく、お茶まで当たり前のように甲斐甲斐しく用意する恵梨香先輩。我慢できずに反発の意を示そうとするが、逆に恵梨香先輩に諌められる。女性が、この社会で地位や権力を掴むことに対する認識の甘さか。日々、彼女は現実を目の当たりにして、意気消沈していく。
岡山県議会議員。選挙に詳しく、選対委員長として、現市長より任命を受ける。これまで培ってきた選挙ノウハウを活かし、とにかく、鈴子を圧勝させること。そのことで、重鎮である現市長に認めてもらい、自分の政治家としての立場を確立させようと考えているみたい。選挙に勝つ。これだけに執着した姿。本当は、自分がこの市長選には出たかった。自分の方が政治の腕があるし、これまでの実績だって十分。地盤だってある。やってやれないことは無いが、一つだけ問題があることは自分でも分かっている。それは、男であること。
現市長。長年に渡り、この市を治めてきた。この移り変わりの激しい世の中で、特に何もしなかったのだろう。そして、市民もそれを黙認し続けたのだろう。この市に輝く未来は全く見えない。それでも、そんなことは一切関係ないみたいだ。自分の名が残ればいい。そして、命尽きるその時まで、その権力が保持されていれば。
後援会会長。地元の建設会社の社長。あり得ないくらいに品が悪い。これまでも、現市長の下、おいしい汁をすすり続けていたのだろう。その後釜が鈴子だと言うのだから、応援するしかない。女ごときにまともな政治が出来るわけない。話題を呼んで、ちょっとでも市が盛り上がれば、会社が潤う。ずっと、そうして政治に絡みながら事業をしてきたみたい。票の数は持っているみたいで、議員たちにも馴れ馴れしい。

選挙活動が進む中、鈴子の戦況は良好。対立候補とはダブルスコアで差を付けているようだ。ただ、現市長はそれでも、満足していない。トリプルスコアだ。単に勝つだけでは、名が残らないから。
それを実現するためには、失敗は許されない。特に気を付けないといけないのは、やはり身内の不祥事であろう。気になることは幾つかある。
いわゆるニートである鈴子の長男は、豊かな教育方針を掲げる鈴子にとっては、かなり危険因子だ。出来る限り近づけないようにしておかないと。
そんな中、次男の高校の担任が選挙事務所にやって来る。
人の話を聞かず、自由奔放な振る舞いを見せる先生だが、何とか話を聞きだしたところ、次男が学校に来ていないのだとか。
各方面を探索するが、大阪で保護されたという連絡が入る。しかも、彼女と一緒に。
その彼女は児童養護施設の子。その職員が鈴子に謝罪に選挙事務所にやって来る。
鈴子は、まだ高校生の息子が女性と付き合うことに関しては容認する考え。でも、児童養護施設となると話が違う。親の愛情を受けずに育ったような子とはうちの子はふさわしくない。分相応の人と付き合えみたいな感じ。
さらに、その子が妊娠しているという情報も入る。
その子自身も、若い母がシングマザーとして産み、経済的な問題から施設に預けたのだとか。売女の子だ。暴言を吐き散らす鈴子。
しかも、この施設では避妊教育にかなり力を入れているいう。そんな幼い頃から、性教育とは。そんなことをするからセックスに興味を持ってこんなことになったとばかりに、その施設の方針に真っ向から反意を示す。

結局、妊娠は偽情報で、大阪に二人で行ったのも、駆け落ちとかではなく、イベントにどうしても行きたかっただけだったようだ。
とは言っても、これで丸くは収まらない。
鈴子があまりにも短絡的で感情をコントロール出来ないという政治家として不適格であることが分かってしまった。
もちろん、そんなことは初めから分かっていたのだが、その問題が露出してしまったということだ。
鈴子は、施設への感情的な怒りから、市が援助する予定だった増築の話を無しにすると言い出す。後援会長の会社が受け持つ予定の仕事。そんなことされたら、大損だ。でも、他の仕事は全て回すからと無理やり説得される。
現市長も、問題が多い鈴子に不安を抱えながらも、今更引くわけにもいかず、静観するしか出来ない。
そんな中、ある女性だけは違った。出倉恵梨香。鈴子に可愛がってもらったとはいえ、数々の侮蔑的な発言は許されない。あんな人を市長にしてはいけない。これまでの考えを覆し、今すぐに変えないといけないと、自らが市長に立候補することを決心する。
2年とはいえ、どこを押さえるべきかは分かっている。
現市長、県議会議員、後援会長。そして、鈴子の下では出世が見込めない甥の秘書、政治家になってから変わってしまった母を悔い改めさせたい長男。
裏でみんなの協力を仰ぎ、恵梨香は鈴子に決戦を挑み・・・

鈴子を演じるピンク地底人2号さんはじめ、ご出演の役者さん方のパワーが凄い。剥き出しです。
これだけの力が舞台でぶつかり合ったら、主義主張がうっとおしいやら暑苦しいやらになりそうですが、そのあたりは巧い具合に抑え込んで、むしろあっさりと話が進んでいます。
話に入り込み、濃い登場人物を楽しみながら、非常に観やすかった印象が残ります。

分相応という言葉が響きます。
程よく生きる、身の程を知るという言葉が私は好きなのですが、あまり同調してもらうことがありません。逃げだとか、頑張りを否定しているだとか、人生の幅を狭くするみたいな印象が強いみたいです。でも、これは、きっと分相応に生きるということの意味合いなんじゃないでしょうかね。
程よく生きるのは、自分のことをしっかり見詰めて知って、無理はしないし、無理をさせられもしない。そんな穏やか生き方がいいような意味合いで好きだと言っているのですが。
この作品を観ていると、程よく生きるは自己肯定、分相応に生きるは他者否定の下で成り立つ言葉なのかなと感じました。

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コメント

いつもありがとうございます。座間聖子ちゃん、凄く苦しんでやらせてもらってます。
久々にお顔が見たかったです。。。

投稿: 大牧ぽるん | 2015年5月17日 (日) 14時08分

>大牧ぽるんさん

コメントありがとうございます。

聖子、難しい役ですよね。
輝く女性の未来のためにと意気揚々と登場して、現実に落胆し、それでも、またそんな可能性が見出されて、でも、またそれも崩れるのだろうという漠然とした不安を抱き・・・
経験も少なく、何かの流れの中に身をゆだねるしか無い彼女が、自分で違った流れを創り出すまでに成長するのか、その流れの中で安定して身を保持できるようになっていくのか。
恐らくは、昔は聖子のようだった恵梨香。その恵梨香が鈴子のようになってしまうラスト。
同じ道をたどるのか、違う道を切り開くのか。この物語の先は、実は聖子にかかっているのではないかと思います。
ただ、違う道を切り開いたとしても、それは聖子の力なのか、恵梨香とは違った環境で生きてきたことが関わるのかといった問題も露出してくるようにも思え・・・
どちらにしても、この話は決して決着がついたわけではなく、問題を抱え続けていく。その繰り返されるような負の連鎖を、どの次世代が断ち切れるのかといった可能性を彼女に見たいようなキャラなのだと思います。

また、しろっとそん公演でお会いしましょう。まだ、日程調整できず、予約できていませんが(゚ー゚;

投稿: SAISEI | 2015年5月18日 (月) 10時45分

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