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2015年5月 2日 (土)

僕らのチロルチョ教【劇団SHINKOUJI】150502

2015年05月02日 心光寺 (90分)

本当の寺の本堂で行われるドタバタコメディー。
ご本尊様が控えるこんな場所で、こんなことしていいのと思うほどの公演でした。
次期住職の跡継ぎ問題を抱える寺で起こる騒動。そこから、自分が生きる道を、数々の選択をしながら進むということの意味合いを仏教の教えを交えながら考えさせてくれるような作品となっているようです。
その教えは、深くは分かりませんし、完全に理解するまでには及びませんが、どこか安堵を得て、どのような道を進んでも、きっとそれは自分にとってより良きものであることは間違いないのだから、今を大切に想って時を過ごしたいなと感じさせるものでした。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は月曜日まで>

大阪の心光寺。
南無阿弥陀仏を唱える浄土宗。大阪市の指定文化財となる平安前期に彫刻された観音様がいらっしゃる。
住職は悩んでいる。跡継ぎはどうしたらいいのか。本来なら世襲で、副住職の一人息子が継ぐのだが、その息子があまりにも情けない。
今日だって、大事な檀家さんの法要中に、彼女からの電話なのか携帯を鳴らす始末。これまでも、法要を勝手に休んだりと、遊びに夢中。反省の色もなく、一向に精進しようとしない。このままではとても寺を任せられない。
そんな中、いつも明るく元気いっぱいの妻から、世襲オーディションという話を聞く。最近は、寺の跡継ぎを公募してオーディションで決めるのが流行りなのだとか。息子にもいい薬になるからいいんじゃないのと、お気楽に薦めてくる妻だが、住職はそんなことして息子が跡を継げなくなることを考えるとこれまた不安で、決断できないでいる。半ば妻に押し切られるように、ネットで公募することになる。
それを聞いた息子、丈徳。寺を継ぐのを当たり前だと思っていたので、大ショックを受ける。どうしようかと彼女に電話。息子なんだから、どうせ出来レースだよと励ましてもらえるものの不安でたまらない。彼女は彼女で、もし丈徳が住職になれなかったら玉の輿計画が破綻すると不安な顔をしているようだが。

しばらくして、寺に世襲オーディションコンサルタントを名乗る女が現れる。住職が呼んだらしい。
これまでの実績を語る。仏を愛する心を持つ、心身ともに健康、イケメンの3つを募集要項としておけば、必ず成功すると説明。
実は、この女性、住職行きつけの喫茶店の店員。彼女に事情を話し、ある計画を企てているみたい。妻は少し疑いの眼差しを向けるものの、すっかり女を信じ込む。さすがは悪人はいないという教えの浄土宗の寺の奥様だ。というか、無償ですという言葉に気をよくしたみたいだが。
計画はこうだ。
応募してきた人たちのオーディションを予定通り開催する。丈徳は参加させない。その中に、絶対に選ばれそうな抜群の人を1人用意しておく。もちろん、この人は知り合いで、計画のことを話しておく。
1ヶ月ぐらい、住職候補として寺で働いてもらえば、丈徳も本気で焦り、心を入れ替え、精進することを誓うのではないか。丈徳にライバル心をしっかり抱いてもらうためにも、丈徳が張り合いやすようなキャラになってもらう必要もある。丈徳が仏に仕えるための様々な勉強する分野で得意とするところを下調べする役割は丈徳の彼女に任される。
これは、住職と世襲オーディションコンサルタントの女、彼女、そして、選ばれる予定のアマノという男だけの秘密裏に進められる。

オーディションの日がやって来る。
ところが、丈徳もこれに参加することになってしまっている。どうやら、計画を知らない妻が勝手に入れ込んでしまったらしい。
これで、丈徳が合格したら計画は台無し。でも、それはそれで頑張ってもらえばいいのか。
ちょっと計画に狂いは生じたが、オーディションは開催される。
丈徳の彼女もオーディション会場の客席で見守る。
候補者は、仏マニア、それも撮影することが特に好きというトリ仏というオタクの男。寺にはふさわしくなさそうなチャラチャラとしたお調子者の男。仏像コレクターらしい、ちょっと天然風の痛い女。募集要項の二つは満たしているようだが、イケメンからは程遠い。
アマノは、特技披露で、丈徳も勉強していたらしい禅問答を完璧にこなす。みかけのイケメンさと、会場で魅せる聡明さが相まって、みんなの心を掴む。
最後に丈徳。住職は合格してもらっては困るので、適当にいなす。というわけにもいかないので、アマノと同じように禅問答をさせてみるが、これまでの不摂生や、アマノの力に萎縮したのか全くいいところをアピールできず。それでも、この寺が好きで、本気でこれから頑張ることだけは誓う。
結果は、アマノが選ばれる。
一応、予定どおり。これで、後は、新住職を本当に就任させる晋山式までの間に、丈徳が頑張る姿を見せてくれれば計画は成功だ。

ところが、おかしな方向に計画は動き出す。
まず、丈徳の彼女がアマノに本気で惚れてしまう。結果、アマノはフラれる。
アマノは、働くうちに、この心光寺が本当に好きになり始める。
ところが、指定文化財の観音様に目がくらむ。
闇取引をしている友人を呼び、盗みの計画を企てることに。
アマノは、もし許されるなら、本当にここで住職として働ければぐらいに思い始めているので、盗みを躊躇するが、昔も盗みを働いたらしく、それをネタにゆすられて逆らうことが出来ない。
アマノは母子家庭で貧乏だった。
母の入院費に困り、サラ金に手を出す。どうしようもなくなって、手を染めてしまった盗みだった。
仕方なかった。仏さまだって許してくれるはず。何の苦労もしていない奴らに、自分のことなど分かってはもらえない。そう自分に言い聞かせて、友人と手を組むことに。
ところが、その計画を丈徳の彼女、いまや元カノに聞かれてしまう。
でも、自分に惚れ込んでいることを巧みに利用し、壁ドン、頭ぽんぽん、結婚しようの連続攻撃で黙らせてしまう。

丈徳は住職の座は奪われるは、彼女にはフラれるはで不幸のどん底。
すっかり落ち込んでしまっている。
見かねた母は、怪しげな占い師、いや神託を聞くことが出来る人を連れて来る。
その人曰く、歌手で活躍できるのだとか。
オーディションに参加して不合格となった3人も、なぜか心光寺で働いている。すっかり、寺が気に入ったらしい。
その3人とバンドを組んで、芸能事務所入り。仏教の教えを説く歌を作る仏教バンドとして。
youtubeで流す楽曲がかなりの再生数を記録するようになり、大活躍。いわゆる、ユーチューバーとして新たな道を切り開いたようだ。
今では、力ある檀家さんの娘も大ファンに。
でも、こんなことをしていていいのだろうか。
自分は本当にこの心光寺が好き。住職として、これからきちんとやっていきたい気持ちは本当だ。
悩む丈徳の下に声が聞こえる。
幼き頃、住職になると誓ったことがある祖父。久しぶりにその声が天から聞こえる。
自分の人生は、自分で作ったシナリオ。自分がより良く生きる道しるべ。それを信じて、今、しなくてはいけないことに向かって進めと。

アマノの観音様盗みは手筈通り行われた。
友人の用意したレプリカとすり替えて、本物の観音様は運び出された。
その場にいた丈徳の元カノに再びやめようと言われるが、止めることは出来なかった。
彼女は仕方なく、全てを丈徳に告げる決断をする。
でも、そんな心配をする必要はなかった。
実は、この盗み決行の前日、観音様は、ある女性によって持ち去られていた。
それは、丈徳とバンドを組むことになったオーディション不合格の女。バンドのPV撮影のために、トリ仏オタクが観音様のレプリカを作っており、それで撮影が行われる予定だった。でも、女は本物じゃなくちゃとすり替えていたらしい。
つまりは、アマノは偽物のレプリカを盗み、これまた、友人が作成していたレプリカとすり替えていたということ。

それでも、アマノが住職としてふさわしくないことは分かった。
やはり、自分が住職として、この寺を守りたい。
丈徳は、住職とアマノの下に向かい・・・

最後は、アマノは自分の行動を悔い、懺悔します。
それを住職は許します。過ちを悔い改めるならば、もうこれ以上、責められることなく、再び自分の道を歩みなさいということなのでしょう。
そして、ようやく、自分の寺への気持ちを訴えかけてくれた息子の姿に安堵と喜びを表します。
まだまだ、未熟だった。でも、この寺を、仏を愛する心が本当であることに気付けた丈徳。そんな丈徳の姿に、住職は寺の跡継ぎとしてふさわしいと認め、丈徳に住職の座を授けることにします。
丈徳のバンド活動もこれで終わり。
檀家の娘は相当なファンだったので、悲しみます。
続ければいいんじゃないの。母からそんな言葉が。
住職として、仏に仕える人として、何を伝えたいのか。その伝える手段には選択肢がある。その選択肢には自由があっていいんじゃないのか。
何かに縛られることだけでは、伝えられないこともある。
心光寺が、仏を通じて、みんなにその心を伝える、そして、より良き生き方を自分自身で見つけ出していく。そんな新しい寺の始まりとなる日となりました。

自分の人生のシナリオは、生まれる前から全て決まっているそうです。
自分の前世の人がそんなシナリオを書いて、私たちはこの世に生まれてきているのだとか。
こんな言葉は、選択をしても意味が無いとか、決まった未来なのだから何をしても無駄みたいなネガティブな感覚を得ます。
でも、考えを少し変えてみれば、自分のした選択は、どうであろうとそう選択することに決まっていたわけで、それなら、その結果どうなろうとそれでいいんじゃないのかといったようにも考えられます。
自分自身で全て自由に選択し、決めたことには何の変わりも無いのですから。むしろ、それによって、どうかなったことに悔いたり悩んだりすることが無駄なような感覚になります。
未来は決まっている。抵抗がある気もしますが、それなら、今の一瞬一瞬、今するべきことを大切にしたいなという気持ちも出てくるような気がします。
丈徳が住職になることはきっと決まっていたシナリオ。前世の人が作ったシナリオでも、父である住職が計画したシナリオでも、この作品のシナリオでも。
丈徳が住職に自分はなって寺を守っていきたいのだと自分で意識するようになってからの、一つの選択であったバンド活動は、最終的には丈徳がより良く道を進むための道を切り開くことになっているわけです。それは、きっと、今、丈徳がしなければいけないことを大切に想い、それを真剣に悩んで苦しみながら、自由に選択した道だったからのように感じます。
どんな人が書いたのかは分かりませんが、自分の前世の人が書いた自分の人生のシナリオ。今、自分がする選択から、どんな未来が準備されているのか。当然、それは分かりません。人間万事塞翁が馬の意味合いはこんなところにあるのでしょうか。
今日は連休中も仕事でまずまず忙しいから、体を休めようと思ったけど、何かちょっと面白そうだし、予約も埋まりそうだし、どうしようかなと昨日迷いながらも、やっぱり行こうとCorichで予約をして、心光寺とかいうところに芝居を観に行きました。自分の自由な選択です。シナリオどおりの、自分がより良く生きるための最善の選択だったのでしょう。あ~、こんなもの観に行くんじゃなかったと悔いるのも、あ~めちゃくちゃ面白かったじゃんと喜ぶのも、本当は不要なことで、大切なのは、昨日の時点では今だった、あの時に自分が確かにした決まった選択であったことなのでしょう。
まあ、今回は後者ですけどね。

作品名のチロルチョコは、仏教バンド名で、一応、丈徳の好物という設定ですが、違う意味も込められているみたいです。
コンビニでレジ前に置いていて、手軽にこれもちょっと食べるかみたいに買ってしまうもの。
仏教の教えを聞こうとそんなバンドの歌を探す人はなかなかいません。でも、それなら、ネットでありがちな、全く違う曲を聴いていて、こんな歌もどうですかみたいな形で提示されたら、ついつい聞くことになるかも。
この公演も、寺の敷居を下げたいという意志もあって創られた作品のようです。
確かに寺には、用事も無く行くことはマニアぐらいしかいないかもしれません。でも、きっと、寺にはそこにある空気に触れることで、何かが得られる興味深い場所なのかもしれません。そんな寺に足を運んでみようかというきっかけになるための公演。私のように観劇をする者は、この公演があるから足を運んだわけで、それが寺のこれからに何らかの形で繋がるかもしれません。
でも、確かに寺って何かありますよね。数年前、ひどいフラれ方した時、一心寺で2時間くらい、ボーっとしたことがある。一心寺は私にとっては、観劇する劇場が近くにある場所。その時も、そこで観劇をした帰り道に、フラフラと彷徨って一心寺に行ったのでした。
仏教の教えを聞いたり、何かは分かりませんが仏像や寺院の建物を見ているだけで、どこか自分を見詰める時間というものが得られるような気がします。
この公演もそんな時間となるような作品であり、そこから寺の魅力も感じられるように思います。

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