ラストダンスは永遠に【劇団伽羅倶梨】150518
2015年05月18日 KARAKURIスタジオ (90分)
これまでと作風が異なるという噂がネットで流れており、どんな感じなのかと。ハートウォーミングな作品が好きな自分に合わなくなっているかもとか思いながら観劇。
確かにだいぶ変わった感はありますね。登場人物が淡々としており、どちらかというと冷たく描かれています。
でも、そこから浮き上がってくる、温かさはやはり感じる仕組みになっているようです。
そして、かなり現実的な話です。
少々、ご都合主義な展開でも、温もりのあるラストへとこれまでは向かっていましたが、現実を残酷に描くところも多々あり、温もりは感じるにしても、にじみ出る程度のラストに落ち着いたようです。
こんなのもいいかもしれません。ほんわかハッピーな話にとどまらず、より、人間を深く見詰め、そこにあるのであろう人の優しさを考えさせるようなところがあるみたいで。
片桐開発不動産社長、片桐瑛子。
夫であった先代の社長は、20年も前に亡くなり、その後、必死に頑張り、今ではかなり名の通った会社にまで大きくしてきた。
最近、体調がかんばしくなく、ついこの前まで入院。命に別状は無いものの、少し静養が必要な状態。
長年の付き合いで気心知れた秘書に仕事は任せられるので、気はだいぶ楽だ。身の回りの世話も、少し変わっているが有能な使用人がいるので、まあ安心。
でも、瑛子は思い詰めているみたい。
夜中、瑛子はあるところに電話をする。私を殺して欲しい。電話の先は殺し屋。
殺し屋はある条件の下、依頼を引き受ける。
それは、その人が殺すに値する人かどうかを調べた上で、殺しを実行するということ。金なら幾らでも払うという瑛子の言葉には耳も傾けない。裏社会に入り込んだ自分が、何人も人を殺す中で残った悔いからのポリシーらしい。
この日は、夫の命日。
お坊さんの到着を秘書と使用人が部屋で待っている。お坊さんが到着したら、社長を呼んで、自分たちは仕事に戻るという予定だ。
本当はやって来るお坊さんの応対は瑛子一人ですることになっていたが、思わぬ来客が現れる。
長男が5年ぶりに帰ってくる。しかも婚約者を連れて。家を出て、自分で会社を立ち上げた長男。命日に結婚の報告だろうか。
いや、違う。金の無心だろう。お久しぶりだと笑顔を見せながら部屋に入ってきた男の視線は鋭い。先代社長が見込んでいた男で、今もこの会社で力を振るう。社長と方針が異なっているため、早く後継者として、この会社をおさめたい野望を抱いている様子。
当たり前のように部屋に入ってきて、ピアノを弾く男。数ヶ月前から、この家に入り込んでいるらしい。長男は久しぶりに帰って来たが自分の部屋は無くなっていた。なのに、このどこの誰かも分からない男は部屋を与えられて、しかも住んでいる。疑いからか怒りを露わにする長男だが、社長が連れて来たらしく、誰も逆らえない。男は瑛子ちゃんだなんて社長のことを呼ぶ。いわゆる、つばめなのか。疑念は募るばかり。
亡き夫の愛人まで。そして、その人には娘もいる。社長である母はそのことを知っているらしい。
いつの間にか住み始めた男のことや、愛人のこと、知らないのは全部、自分だけ。ふてくされながら、長男は婚約者と共に、母に挨拶をするために部屋を後にする。
お坊さんがやって来て、車椅子の瑛子が、長男の介助で部屋に現れる。いつもと違ったお坊さん。どこか目つきも鋭いが、気にせずご挨拶。長男は、瑛子にどこか媚びを売っているかのよう。
せっかくなので、瑛子の提案で、今晩は結婚祝いのパーティーを開くことになる。
パーティーの中、長女が海外旅行から帰宅する。有り余る金で、暇さえあれば海外で好き放題しているみたいだ。
瑛子が呼んだ宝石商がやって来る。
長男の婚約者を呼び出し、好きな宝石を選ばせる。長女は、長男の結婚に驚くが、まあ、そんなことは自分とは何の関係も無いので、戸惑う婚約者と一緒になって宝石を選んでいる。
長男はしばらく、この家に滞在している。目的が果たされていないからだろう。
瑛子は少し、体調も良くなり庭の散歩。
滅多に部屋から出ない瑛子なので、庭師のことも知らない。世間話をする。どこかで会ったような会ってないような。けっこう影のある特徴的な顔立ちなのだが。
和洋折衷の庭を造っているらしい。主人は日本庭園が好きだった。私はイングリッシュガーデンが好きで、日本庭園など大嫌い。でも、それに従っていた。
部屋からピアノの音が聞こえる。
あの子との出会いは偶然だった。
仕事の帰り、気分が悪くなった瑛子は、外の空気を吸いたいと車から降りて、先に車は帰らせた。何となく、入ったバー。
そこでピアノを弾いていた男。古い曲にも詳しい、その男にラストダンスは私にをリクエスト。素敵な時間が流れる。
ずっと我慢の人生。主人と結婚したのも、生活のためだった。幸せになるとかそんなことは考える余裕も無かった。そして、早くに主人が亡くなり、後はずっと懸命に働く日々。金は腐るほどあるし、地位も得た。そんな自分にふと訪れた出会い。もしかしたら、初恋だったのかもしれない。
先代の社長に見込まれていた男は後継者の地位を得るために、長男を利用しようとする。
お金が欲しいんでしょ。だったら、今の社長には退いてもらわないと。
お前のエゴのために利用されていることが丸分かりなので、長男は反発するが、男は家に出入りするピアノ弾きの男をネタにして長男を煽る。
あいつに全てを取られてしまうかもしれませんよと。
そんな会話は婚約者の知るところとなり、婚約者は金や地位に目がくらんで、人が変わってしまった長男を心配して、本当は借金返済のためにお金を借りに来たこと、そして、男と長男の密談をそのまま正直に瑛子に告げる。
亡き夫の愛人と娘が訪ねて来る。金が欲しい。娘の東京での大学の生活のため。その権利があるはず。秘書は否定するが、娘はそれならば、あのピアノ弾きの男のことをマスコミにリークすると言い出す。
瑛子は金を渡す。それも法外の。
そして、さらに長男の抱える借金も全て肩代わりすると秘書に告げる。
瑛子は、もううんざりすることが重なったためか、久しぶりに秘書と一緒にお酒を飲む。かつては気心知れた友達同士だった。
みんな私のことが大好き。そう、金を持っている私が。
そんな自虐的なことを言う瑛子に、秘書はでも、あなたも昔はそうだった。だから、みんな同じなんだといったような言葉で励ます。
これに瑛子は反発する。同じじゃない。私はどれだけ苦労してきたか。全て、自分一人でやってきた。周囲に味方など誰もいなかった。
酔った勢いだったのか、その言葉がこれまでずっと一緒にやって来た秘書を否定してしまうことには気付けなかったのだろう。秘書は、そんな瑛子に別れを告げて部屋を出ていく。
一人残された瑛子は呆然としながら、部屋にたたずむ。
ピアノ弾きの男が帰って来る。今日はバーで演奏をしてきたらしい。私のためにピアノを弾きなさい。狂気的に束縛しようとする瑛子に、男は拒絶の意を示す。
楽しかったけど、もうお別れ。
金ならいくらでもあげるからと叫ぶ瑛子の声を背中で聞きながら、男は部屋を去る。
一人っきりになった瑛子。
気付くと銃を持った一人の男がいる。
遅かったじゃない。そういって、私を殺してと言う瑛子に殺し屋は答える。
あなたは、殺すに値しないから、殺せない。
そういって、彼女の手を取り、ダンスを踊る。そして、いつしか、部屋から消える。
残った瑛子は、ただ一人、最後のダンスを・・・
瑛子は、ずっと我慢だとか尽くすだとかの人生だったのだろうか。
あまり好きでも無い男と生活のために結婚して、夫亡き後は会社のために懸命に働き、社員や使用人、生まれた子供のために尽くす。その尽くす手段が、いつの間にか全て金になってしまったことで、自分の想いがどこにあるのか分からず、不安になってしまったようだ。
自分のために、いくら宝石で着飾っても、それは自分の心を満たすことは無かったみたい。そんな中、出会ったピアノ弾きの男は、自分の心に安らぎを与える人だったのだろう。見落としてしまったのだが、この男のことを時折、瑛子は違う名前で呼ぶ。この名前の人物はかつて瑛子が心から愛した人だったのか。
私は確かにここにいます。あなたたちが好きに振る舞えるように私は頑張るけど、そのことを忘れずに、私のことを想っておいて欲しい。そして、最後には私の下に戻って来て。
ラストダンスの歌詞や、作品中の瑛子の姿からはそんな感じだろうか。
瑛子は、金に執着し過ぎてしまい、不安になってしまったみたいだ。
金を渡しているから、人は私のことを想ってくれているだけなのではないだろうか。それは現実的にあるだろうが、それだけでは決してないはずだ。金だけで人は繋がらない。
一人でダンスを踊る瑛子。ここで話は締められている。でも、きっと、その瑛子の手を取りにやって来る人がこれから現れるはずだ。
秘書や使用人は瑛子が入院して心の底から心配していたのだし、先代の社長に見込まれた男だって、瑛子に何の想いも無ければ、もっと早くから独立している。
長男は、借金によって幅が狭い考えしか出来なくなっているが、母に対する嫉妬の感情も抱いていることを何となく感じる。婚約者は、そんな素直な長男の感情をこれから真摯に話し合って引き出してくれるだろう。
長女は海外旅行の土産をピアノ弾きの男に必ず買って帰る。母の寂しさや苦しさを漠然とは感じていて、そんな母を認めているからの行動だろう。
愛人や愛人の娘。愛人は先代の社長が瑛子を妻としても、ビジネスパートナーとしても認めていたことを知っている。自分にその力は無かった。だから、こうして慎ましく生きる道を選べたのだろう。そんな人が行き詰った時、同じ男を愛した者として手を携えるだけでもいいならそうするような気がする。娘は、金と共に、自分自身を瑛子に認めてもらうつもりでいたみたいだ。私は先代社長の血を引き継ぐ一人として。認めてもらえない者が抱く辛さは若くしてもきっと知っている。だから、瑛子に寄り添うことが出来るように思う。
ピアノ弾きの男は、自分の音楽を喜んでくれる瑛子だったからこそ、ずっと付き合っていた。自分に想いをくれたから、その想いをピアノで返そうとしている。その気持ちは、途切れることなくずっと続くように思う。
亡き夫が残す庭は、彼なりの瑛子への想いの表れだったのではないか。自分が好きなものを愛する者に見せたい。これは純粋に湧き上がる感情だ。
そして、数々の闇を知る殺し屋は、瑛子がまだ生きるべきという判断をした。それは、彼女がまだこれから、周囲の人に金だけでなく、何かを与え、彼女自身もまた周囲から想いを受け続けるべきだと考えたからなのではないか。
瑛子の周囲の人たちは、瑛子に与えられた金だけで、踊っていたのではない。彼女が自分たちのことを想ってくれていることをどこかで感じ取り、自由に踊り続けていたのだろう。だから、彼女が一人になってしまった時は、必ずその手をとって、一緒に踊るだろう。これまでだって、見えていなかっただけで、瑛子は周囲から手を携えられている。だから、自分も踊れていた。そのことに、気付く時間が彼女に与えられたように感じる。
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