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2015年5月14日 (木)

愛と退屈の国【ドキドキぼーいず】150514

2015年05月14日 アトリエ劇研 (70分)

とても貴重な公演のように思います。
今、おかしな方向に進んでいるような我が国の未来を絶望へとこのまま導くのか、希望へと変えていけるのかを探り出そうとしているような作品でしょうか。
描かれる不気味な空気が漂う国、その中で不安や恐怖を漠然と抱えながらも、日々過ごしている人たち。自分たちの現実と同調できる、日本という国やそんな人たちの姿を見ながら、どうもがいていかないといけないのかを考えさせられます。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

ある島の人たち。
たとえ世界が終わっても、傍にいてくれるような金ではない愛を求める若い女。それを優しく受け止める若い男。
女性の兄は、この島のように太陽の輝きが無い国から久しぶりに帰郷。向こうでは、動けない人の介護を職としている。それを妹である若い女は優しさとして捉え、憧れており、自らの彼氏にも知らず内にそんな優しさを求めているみたい。でも、兄はそれは臆病なだけだと言う。これまで、助けてあげられなかった、結局、見て見ぬ振りをしてしまったことへの悔いのようだ。

叫び声を聞いたと主張する女性。西の森には恐ろしい魔女がいるとも言っている。
でも、そんなことを全て否定して信じない男。
何かが確かに迫ってきている。この国からは逃げた方がいいのかもしれない。よその国で働いていた男は、帰郷してこの国をどう思うのか。今日は、その男の帰郷パーティーが開かれる。
海辺にはいつの間にか黒い建物が出来た。箱舟だとかいう噂もある。

家を出て行くつもりの男。
男は帰郷した男に問う。
この国はいい国なのだろうか。何かが迫って来ている。戦争が始まろうとしているようにも思う。
忍び寄るもの。目に見えるものしか信じぬ者にはそれが祟りのように思えるかもしれない。何も信じない男は、まず最初に死んでしまった。
若い女は子供が欲しいとせがむ。でも、おかしな子が産まれてしまったらどうすればいいのか。
若い男はそれでも二人の子供だと、真実の愛を誓う。

島の人たちはみんな死んだ。
ある日、太陽では無い歪んだ光を放つ、飛んできた乗り物によって。
みんな逃げ惑いながらも、その爆発してありとあらゆるものを溶かす力の前では太刀打ち出来なかったみたいだ。偉い人たちは箱舟で脱出するという噂もあった。でも、その箱舟すら溶けたらしい。そんなことは初めから分かっていたみたいだが。
暗闇に包まれた、誰もいない島だけが残る。

当日チラシに書かれた作・演の方の文章がこの作品をそのまま語っているようだ。
今、日本の世の中はおかしい。何か悪い方向に向かっている。
高齢化や格差やらと、まともな解決策が見出せないままの数々の社会問題を抱え、先が見えない。おまけに、呪われているかのように震災みたいな悲劇も起こった。隣国との緊張やテロをはじめ不穏な空気を醸す国際情勢は、明日にでも日本で戦争が起こってもおかしくないくらいだ。景気が良くなって金の巡りが良くなっているから日本が良くなったなんていう考えは、この国への本当の愛ではないだろう。
みんな、きっと、このことには気付いている。知らないなんて言う人は見て見ぬ振りをしているだけだろう。
みんな、不安や恐怖を心のどこかに抱えながら、何に寄り添って安堵を求めているのか、平然と日々を過ごす。この寄り添うものは愛だったりするのだろうか。そして、そんな生活は退廃的でどこか退屈だ。
では、どうしたらいいのか。戦争と言っても、歴史で勉強した第二次世界大戦の話がまだお年寄りから聞けるぐらいで、現実味が無い。震災だって、関西にいるから、遠い東北での悲惨な姿はテレビやネットを媒介して見るしかない。
いつも第三者の立場でいてしまう、それに慣れてしまったような自分たちは、どういうスタンスで今の日本を見つめればいいのか分からない。
でも、今、抱いている、何かおかしいよ日本、先が不安だよ日本、という気持ちをぶつけて、抵抗の意志を示したい。
といった感じで出来上がった作品みたいだ。

作品は劇中劇の形式をとる。
話自体は、劇なので虚構だが、劇中劇は、今の日本をそのまま切り取った現実の世界に近い。少なくとも、あの出来事を言っているのだろうなということが容易に想像できるようになっている。
演じる役者さんは、劇の中では単なる個人の俳優さん。劇中劇の中で、今の日本への漠然とした不安を抱えた悩める日本人となっている。
第三者視点で物事を見るしかない者たちが、この劇中劇の中では、そうあることを許されず、この不気味な空気を漂わす今の日本に住む人たちとなる。
観客はそんな劇を見ているだけなので、第三者視点だろうか。でも、劇の中の俳優さんは、あくまで個々の自分とは異なる人たちであるが、劇中劇の中の登場人物を見れば、自分と似通った言動の人を見つけ出せる。さらに、自分の周囲にいる人とも同調させられる人物も。そんなことを通じて、この不気味な日本の中に入り込まされてしまうかのような作りだ。

あらゆる意志とは関係ないかのように勝手におかしな方向へと進むこれからの日本。
数々の難しい、自分では何も解決できないような社会問題を抱え、ネットで表面的な事実だけは簡単に見えてしまうような現代社会において、そんな日本とどう付き合うのかを、距離感を考えながら描いているようだ。
人と人が愛する姿は、この作品でも普通に描かれている。それだけでは、悲劇的な結末を迎えてしまうのだろうか。同じような感覚で国を愛することが必要なのか。でも、それはどういうことなのだろうか。
今の日本が行き着く可能性の一つとして、絶望的な姿をラストで見せているが、救われるのは、日本人が日本を終わらぜてはいないように感じます。登場人物たちも、日本、おかしい、不安だ、何か恐ろしいことが起こりそう、逃げた方がいいかもと言いながらも、最後まで日本と共にしています。どう変えればいいのか分からなかったからというのはあるのでしょうが、そこで立ち止まり悩むという形で、切り捨てて見放すことはしていないように思うのです。
私は、それが今の若い人たちの、色々と異常だとか、けしからんと腹立てるようなことがありながらも、先を見詰めて頑張ろうともがいてくれているんだなと立派に思っているところです。
数年前から、HPFという企画で高校演劇を見る機会があるのですが、高校生たちは実に懸命に真摯に作品を創り上げられます。今の高校生なんて、自分ぐらいの歳になったら、それこそどんな世の中になっているか分からない、不安の塊を抱えているだろうに、今、自分たちが見詰める日本、そこに住む人たちを丁寧に描きながら、これからへの光を見出そうとしているような作品が多く、そこにこのおかしな方向に向かっているのであろう日本は、いつか正しき道へと誘導されるような気がしています。
この作品も、今、感じる日本への違和感を、どうしていいのか分からなくとも、みんなで隠すことなく共有していこうという意味合いが感じられ、そのことがこの劇中劇のラストを何度かの繰り返しの中で変えていけるように思います。

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コメント

先週の木曜日(ドキドキぼーいず)から今週の火曜日(子供金巨人)まで完全に観た作品が被りましたね(笑)このドキドキぼーいずしか被りませんでしたが(笑)それぞれの感想を読むのが楽しみです(*^_^*)

投稿: KAISEI | 2015年5月19日 (火) 21時51分

>KAISEIさん

同じもの観てるのに、一度ズレると、全くお会いしなくなるんですよね。
まあ、またどこかでお会いした時にでも、感想を話し合いましょう。

投稿: SAISEI | 2015年5月20日 (水) 12時06分

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