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2015年5月 5日 (火)

罪ツツミツツ蜜【カメハウス】150504

2015年05月04日 シアトリカル應典院 (175分 休憩5分含む)

3時間の大作。また、いつものように情報量膨大で思考崩壊になるんだろうと覚悟していましたが、不思議とまとまりのある話で、普通に楽しめて観れました。
上演時間が長いのは、所々に盛り込まれたエンタメ色の強いパファーマンスが大きいようです。元々、ここは凄いのですが、より一層、芸術性みたいなところに磨きがかかって、単に見ていて楽しいだけではなく、舞台セットの雰囲気とも相まって、その美しさに溜息が漏れるくらいのレベルになっていました。
そうは言っても、一度観て、内容を把握できるほど容易な作品ではありません。掴めていないところはもちろん、わざとなのか描いていないので、こちらで補填しないといけないところも多々あるように思います。
ただ、ここが魅力の一つのなのかもしれません。今回、今まで以上に、ご出演の役者さん方に大きな魅力を感じました。もちろん、回文や言葉遊びを巧みに組み入れた脚本も素晴らしいですが、際立つのは個々の役が生きていることです。舞台上で観た時間だけ、その登場人物が存在しているのではなく、これまでも、この人は時間を過ごしてきて、この後も、この人としての時間が流れていくんだろうといった感覚が得られます。恐らくは、この描かれていないところにおいて、その役の背景、そしてこれからを見詰めて出来上がった人たちが舞台にいるからのように感じます。
この遊び幅みたいなものの作り方が上手いのかもしれません。

話としては、何かに囚われて、彷徨う者が、その原因から解放されて新たな一歩を進めるようになるまでといった感じでしょうか。
自分を捕らえて離さないもの。自分がこれまでに犯してしまった罪、その罪への悔いや悲しみ、そして傷つけて別れることになってしまった人への想い。 そんな想いを断ち切れる時。それは忘れてしまうことではなく、自分の想いを真剣に見詰め、覚悟を持って、それを自分の心に刻み込み、受け入れるといった形のように描かれているようです。

男は目を覚ますと格子の中に包み込まれている。記憶が全く無い。ここはどこなのか。夢の中、脳髄の中なのか。
格子の外、もしかしたら内側に怪しげな精神科医を名乗る男がいる。男に患者以上の感情を抱いている様子。男は、医師により格子から解放され、記憶を取り戻す旅を始める。
同性愛の人たちがひしめき合う列車に乗って、風車のトンネルをくぐる。
出会った一人の女性、いや幼女。彼女は怪奇専門の探偵をしているらしい。見た目の幼き姿とは異なり、何かにとり憑かれでもしたのか400歳なのだとか。
そこに、凛々しい警察官もやって来る。探偵に協力を仰ぎに。
繭の織物で資産を築いてきた梔子家四姉妹の四女、ユリ殺人事件の犯人捜し。
男は梔子という言葉に反応する。蘇ってはいけない記憶なのだろうか。脳が拒絶をしたらしく、男は気を失う。

探偵と警察官は梔子家を訪ねる。
この二人、付き合いは長いようだが、あまり仲は良くないみたい。
各々、イケメンの助手がいる。でも、探偵の方は化け狸で、警察官の方は化け狐らしい。二人は、ずっと手を握り合っている。そういう仲みたい。上司は犬猿の仲、そして所詮は狐と狸。実ることの無い愛なのかもしれない。
梔子家の残りの三姉妹は美人揃い。
長女は織物をさせれば完璧で、今の梔子家の大黒柱となっている。ただ、その織物をしている姿は誰も見たことが無いのだとか。
次女は穏やかそうで、優しい笑みを浮かべる。でも、その奥にはどこか悲しみが醸されている。
三女は反抗的な態度を示す。梔子家の一員でいることに反発の意を抱いている感じ。何か隠れて行動していることがあるみたい。
使用人は、梔子家のありとあらゆることを知っている様子。そして、明らかに怪しげだ。
叫び声が聞こえる。母のいつもの発狂が始まったらしい。いつものことなので、誰も動じない。いつものこと。それはいつだったのか。ユリが死んでからだろうか。いや、もっと前からそうだったかもしれない。
探偵と警察官は、いったん梔子家を去る。
その帰り、化け狸は長女が織物をしているところを覗いてしまう。暗闇の中でぼんやりと浮かぶ長女の姿に恐れおののき逃げ出す。

気付くと男はベンチに座っている。また、さっきと同じだ。
たしか、自分は幼女探偵と一緒にいたはずなのに。
精神科医が現われる。
自分はいったいどうなっているのか。自分の記憶はどこにいったのか。脳の奥深くに潜り込んでいるのか。それとも、記憶は脳などにはそもそも存在しないのか。
自分が今、見ているものは。何を認識して、存在を意識付けているのか。
ただでさえ混乱しているので、男には難し過ぎる話。
精神科医は、自分の患者を例にして分かりやすく説明してくれる。
火星人の友達がやって来て地球を滅ぼすだとか言っている、かなりいってしまっている女性。見た目はとてもキュートなのだが、パワフルで柄悪いおっさんみたいなところも露骨に見せる。競馬新聞を片手に、一升瓶を煽り、タバコをくわえ、疲れて少しでも休憩したいだろう罪無き男たちを無理やり走らせ、正拳突きや蹴りを喰らわせて、その体力を奪う。最後は精神科医の噛んで分かりにくい語りにダメ出しをして去っていく。自分もゼーゼーと息があがっていたようだが。
おかげで、記憶や認識に関する精神科医の説明は誰も聞いていなかったみたい。
でも、少しだけ分かったことがある。
ユリはアマクサという男と付き合っていた。でも、それは結ばれることの無い愛だった。それに絶望した男は、ユリに渡した百合のペンダントで彼女を絞殺した。そして、そのペンダントは、今、男の首にかかっている。

長女の秘密の姿を見てしまった化け狸は使用人に見つかり、命を狙われそうになる。
彼女は千里眼の力の持ち主で、出会った人の過去も未来も全て分かってしまうらしい。梔子家の事情を全て知っているのもその力のおかげのようだ。
幼女探偵が助けにやって来る。
彼女はこの探偵のことも全てを知っているみたい。
彼女は、自分の言うとおりに、ある社へ向かえと指示を出す。それはサカサ教だとかいう逆のことしか言わない宗教の教祖。妖艶な雰囲気を漂わせ、神格化された女性。幼女探偵がかつて関わったことがある人みたい。
探偵は指示どおり、社に侵入し、教祖の寝室にまでたどり着くが、全て読まれていたみたいで捕らえられてしまう。

警察官は焦っている。
ユリの死体が消えたという報告が入ったから。
捜索する中で、化け狸から梔子家長女の秘密が伝えられる。
梔子家は同性愛の血筋。ユリ亡き後、次女は長女と愛し合う中で絞殺される。その死体が骨になるまで、長女は次女を愛し続けていたらしい。
警察官は社に向かう。
一同が集結する事になった社。
そこで、色々なことが複雑に絡み合ったこの事件の真相が・・・

ぐちゃぐちゃになっているので、上記あらすじもだいたいの感じ。三女が所属する死体愛好家みたいなクラブの存在や、ユリやアマクサを救えなかったことに悔いを残すような先生とかもいるんだけど、話の中に盛り込みにくくて飛ばしました。
まあ、色々と関連性は理解できていないところがたくさんあります。上記しましたが、千里眼の力を持つ使用人や、梔子家の同性愛が、どこに絡んでいるのかとか分かっていませんから。
最終的に、要はユリは結ばれぬ愛に絶望した男に殺された。幼女探偵は、過去、自分自身にも似たことがあり、その時、鬼にとり憑かれた。自分と同じ悲劇を繰り返さないためにも、男を救おうと考えていたが、実は男は、その後すぐに自殺して既に亡き者であった。だから、男は幼女探偵以外には見えていなかったらしい。
精神科医は男のしていた百合のペンダントの化身だったらしい。男を悲しき記憶から解放してあの世でユリと出会えるようにしたかったのか。
梔子家の発狂していた母は、ユリ。自分を殺めた男と再び出会い、愛し合えたことの感謝を伝え、男に救いを与えたかったのだろうか。
そして、本当の母は、サカサ教の教祖。彼女は神になるために、娘たちを捨てた。でも、ユリが亡くなったことを聞いて、母であることを押し殺すことが出来なくなったみたい。
全ては、相手への想いが残っていたことで、それに囚われ、彷徨うしかなくなった人たちの話のようだ。
この複雑に入り組んだ悲しみの連鎖を止めるのは、想いを断ち切ることしかない。
男は百合のペンダントを切って、全てを終わらせる。
幼女探偵は、まだ、この世で、とり憑かれた鬼を消し去るために、その想いと向き合い続けなくてはいけない。
でも、この一連の事件で出会った人たちと触れ合うことで得られた、切なくも大切で尊き想いの数々は彼女を包み込み、自分が犯した罪を昇華して、甘い蜜を持つ大きな花となる。
自分が生きる空間を覆うがく、その中で出会う周囲の人や想いが花びら、その中心で自分は実りを生みだす雌しべとして、一つの美しい花を咲かせるような感覚を得るラストシーンで締められます。

私たち、一人一人は美しく咲き、蜜を持つ花。その花は、喜びや楽しみのような華々しさを醸しますが、本当は自分が犯した罪の悔いや悲しみ、別れた者への想い、そして、そんな自分を許容してくれる数々の想いたちに包まれている、どこか悲しくも優しく、咲くことに誇りあるものなのだといった気持ちになります。

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