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2015年5月15日 (金)

Born To Shine ~Reborn~【STAR★JACKS】150514

2015年05月14日 世界館 (150分)

この作品はDVDで拝見。
初めてSTAR★JACKSを観に伺って、気に入ったので購入した3本のDVDのうちの一つでした。
あの時代に生きていた若者の純粋で真っ直ぐな心情。今を生きる自分としては、もっと要領のいい生き方があるだろうとも思うけど、それよりも、その熱き魂に憧れや敬意を抱きます。
私が言っている要領のいい生き方とは、結局、巧く逃げるということと同意なのでしょう。それでは、自分の誇りは失われ、その先に自らが輝く場所があるとは思えません。

若手公演ということで、エンタメ色が強くなり過ぎて、お祭りのような作品になるように思っており、若干否定的な気持ちを持って劇場に足を運びました。
この浅はかで愚かな考え。舞台上の若者たちは、もちろん若さを活かした動的な見せ場を多々魅せますが、それ以上に、この時代の若者の強さを、凛と素晴らしく演じ切ります。
この時代において、生きることとはどういうことなのか。自分の夢、守らなくてはいけないもの、家族、仲間、恋人。人として生まれたからには大切にしなければいけない義の心。自分が捨てることの出来ない誇り。
そんなことと真剣に向き合いながら、自分の道を突き進んでいく。それが、反する考えを持つ人との戦いを生み出し、大切な人との別れに至り、そして、自らの命が絶たれるとしても。
全ては自分が信じるままに。命尽きる最期の時まで、私たちが願う未来が訪れることを信じて、輝き続ける。そんな生きた証を残した動乱の時代の若者たちは、この公演に全身全霊で向き合い、戦う決意をしたのであろう、若手役者さんの姿でもあるのでしょう。
確かに舞台で輝いており、背筋を正して観たくなるような、誇りある凛とした強さも感じたように思います。
若者の青春ドラマのような微笑ましさから、未来を担う者たちであるたくましさ、そのために身を削らなければいけない切なさ、悲しさが、ひしひしと伝わってきて、今を創り上げたかつての先人たちに想いを巡らせながら、今の自分の生き方を見詰めるような作品でした。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

1867年、徳川慶喜、大政奉還。
政権は薩長同盟率いる新政府の朝廷へと移る。
とは言っても、数百年間、政から遠ざかっていた朝廷が容易く、国を治められるはずもなく、江戸は御用盗と呼ばれる集団による略奪行為で大いに荒れ始める。
幕府は、老中の命により、勝海舟に御用盗を取り締まる組織を作らせる。名目は慶喜の警護という形ではあるが。幕府の思惑は、政を薩長同盟だけに任せられないことを世間に知らしめ、幕府の立場を再興させる意味合いもある。
勝海舟は、朝廷が、幕府がのようなどっちが勝った負けたではなく、迫り来る大国の脅威に日本が潰されぬためにも、もっと大局的な見方をして、日本自体を再興させようと考えていたようだが、巧くこの話にのったようだ。
勝海舟が目をつけたのは、二人の男。冷静沈着に物事を捉え、新しい日本のリーダーとして振る舞えるであろう渋沢成一郎。そして、徳川への忠誠に執着し過ぎではあるが、その揺るがない熱き魂で侍としての誇りを持つ天野八郎。
渋沢を頭取、天野を副頭取として、新しい世の中で、自らの力を発揮する場を失った若き侍、6名が集まる。兄弟が多いためいくら頑張っても家督を継げない名門藩出身の者、田舎から出てきてくすぶっている者、美味しいものをたくさん食べたいという楽しみがある者、商人の家の娘と婚約して侍を捨てようと決めていた者、新撰組で名を馳せながらも訳あってやって来た者、そして副頭取の幼き息子。
義心と誇り。この言葉を胸に刻み、彰義隊が結成される。

彰義隊は、江戸の風紀を守り、活躍を見せる。
侍の妻となることを決意した志士の婚約者も仲間になる。そして、新たに切れ者の兄妹二人も参入。新政府軍を率いる長州藩の大村益次郎の手先であることも知らずに。
彰義隊の若き志士たちは、共に生活する中で仲間の絆を深め、夢を語り合う。家父長制度に自分の人生を翻弄されながらも、侍としての誇りを捨てず、悩み、強がり。戦いの中で未熟な自分に傷つき、不安を抱きながらも、向上する気持ちを失わず。かなわぬ絶対的な父への憧れ、敬意と同時に、自分を認めてもらいたい狂おしい気持ちを募らせ。自分が正しき道を進んでいるのか、自分がしていることは日本の輝く未来のためになっているのかと常に思い悩み。
給金が入れば、おいしいものを食べに行き、男となるために遊郭に向かい、賊から助けた花屋を営む娘の下へ向かい、想いを器用に伝えることも出来ずにただ花だけを買う。
そんなごく普通の、今でいうなら青春を謳歌する等身大の若者たち。でも、彼らには日本を変えなくてはいけないという大義と侍としてのポリシーが常に心の中にあり、言動は全て、そのことに縛られる。

そんな中、新政府は慶喜に江戸城の明け渡しを要求。慶喜はこれに恭順の意を示す。ここで逆らえば、戦争が起こる。そうなれば、傷つかなくてもいいはずの若者が犠牲になる。今は、自らの、徳川の誇りよりも、より良き日本を創り上げるという誇りのために動かなくてはいけない。もちろん、これを機に新政府の力が強まり、幕府は完全に制圧される可能性もある。この大きな慶喜の賭けに勝海舟も賛意を示す。
勝海舟は、新政府を少しでも刺激せぬように、彰義隊の解散、少なくとも活動の縮小を頭取に伝える。頭取はこれに賛意。しかし、徳川への義をあまりにも重んじる副頭取はこれに反意を示す。説得する頭取に武力で決着をつけようとする。結果は、副頭取の勝利。頭取は脱退し、副頭取の下、彰義隊は新政府への反乱軍となってしまう。

緊張状態が続く彰義隊と新政府。
ある日、彰義隊の志士が酔っぱらって、新政府の者を斬りつける。
この事件が発端となり、新政府は彰義隊の完全制圧に乗り出す。全ては大村の思惑どおり。彰義隊に諜報要員として入り込ませた兄妹から情報は完全に流れてきている。
新兵器、アームストロング砲をはじめ、数に任せた部隊を率いて、彰義隊の壊滅を狙う。

決戦前夜、今や頭取となった天野は、自らの徳川への忠義、そして、侍としての誇りを志士たちに語り、勝てるはずもない戦いに最後まで挑む決意を示す。
明朝の決戦までのわずかな時間。思い残すことの無きよう、志士たちに自由な時間が与えられる。いつの日か、皆が手に入れようとしていた自由を、このような形で掴むことになる。
おいしいものを食べに行く者。
この戦いが終われば、夜通し、日本の将来を語り合おうと誓い合う親子。
遊郭で出会った愛する遊女に別れを告げに行く者。必ず、また戻って来て、その時に共に人生を歩むと会いにも行かない者。
仲間うちで祝言を挙げてもらい、夫婦となる者。
花屋の娘にずっと伝えられなかった自らの想いを、永遠の別れと同時に伝える者。
そして、確かに自分たちがここに生きていたことを残すために、みんなは写真を撮りに向かう。
みんなと言っても、一人だけ欠けることになった。遊郭に向かった者は、侍を捨てて遊女と共に生きる道を選んだ。誰も何も言わない。
頭取がみんなの下にやって来て、言っていた。戦いを止められなかった悔い。今、言えることは生きるために戦って欲しいということ。そして、必ず自分が輝ける場所を得て欲しいと。自分でその輝く場所を選んだ結果が、侍を捨てて戦わないということなら、それでいい。皆が自由に生きられる日本を目指す志士たちにとって、自分が今、大切にするべきこと、誇りとするものは、個々で異なり、どれも尊きものだ。

決戦が始まる。後に上野戦争と呼ばれる、わずか半日で彰義隊が壊滅に追い込まれた戦い。
志士たちは、もう無理だと口に出しながらも、励まし励まされながら、誇りを持って戦いに挑む。大村の彰義隊に放っていた刺客は、予定どおり、裏切り、志士たちを斬りつける。しかし、妹は新政府も彰義隊も、どちらも新しい日本を見据えているのに、互いに傷つけ合うことに疑念を抱き、戦うことが出来ない。それでも、幼き頃から育ててもらった大村への義のため、剣を抜く。しかし、戦いの場で、揺らぐ気持ちは死を招くのだろう。新政府軍の鉄砲隊の銃弾に倒れる。もし、こんな時代じゃなかったら、出会った場所がこんなところじゃなかったら。二人は共に人生を歩んでいたかもしれない。そんな妹に想いを寄せていた志士の腕に抱かれて命を絶つ。
志士たちの生きるために、誇りをかけた戦いにより、苦戦を強いられた新政府軍であったが、やがて時が経つと共に、その力の差は歴然となり、彰義隊は壊滅。
戦いの中で散っていった志士たち。捕えられ激しい拷問の末、獄中死した頭取、天野。
消息不明となり、後の函館戦争で活躍されたと言われている者。
援軍の手筈を整えていたが間に合わず、力を発揮できなかった元頭取。
逃亡後、商才をあらわし、財を成した者。
変わりゆく日本という動乱の時代、若者たちは自分たちの誇りを持って、義を尽くし、生きるために、自らの輝く場所に向かって駆けて行った。
そんな先人たちの想いの上に、きっと今の日本がある。

くすりとさせられる微笑ましく、可愛らしい若者の青春の姿から、自分の夢のため、守るべき人のため、未来のために、命を投げ捨ててまで戦わなければいけない厳しい姿が、そのまま真っ直ぐに描かれています。
散ってしまうことが分かっていても、戦いの場に足を向けた若者。日本の場合、この時代の出来事だけではないでしょう。
彼らは何を守ろうとしたのか、そして、残る者たちに何を託したのか。
自分たちの誇りを胸に抱き、自らは経験できない輝く未来を信じて、その自らの時を止めた。
今を生きる、そしてこれからも生きる私たちは、彼らの想いを受け止め、輝くことで返していかなくてはいけないように感じます。
彼らの想いが、そのまま舞台から伝わってくるような、熱さと共に、穏やかで揺るがない強さを感じる作品でした。

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コメント

SAISEI様


『じんない』『おぼろ'14』と観てきて一番良かった、という印象。この劇団に慣れてきたのかな、という感じかもしれませんが…


十字に組んだ舞台だったこともあり正直殺陣は今までの中で一番ヘチョかったですが勢い(熱量)と話の良さがあったと思います。


妹分ユニットのダンスパフォーマンス凄かったですね。あれほどのレベルとは!


スタージャックスが戦略的にしたのかどうかわかりませんが関西の劇団の中で頭一つ抜けるのではないかと思います。


どなたかのblogに指定席についての指摘がありましたが確かに(笑)あれなら自由席最前列の方が観やすかったかな。そこは反省点にしてほしいですが…


次回作は『じんない』の際に物販の方に見繕ってもらって再演のものを購入しましたが義理人情もので大衆演劇?などの要素が強いのかな、個人的にはイマイチでした。いや義理人情はキライじゃないですよ。ただ他所でも観たことあるな、と。

投稿: KAISEI | 2015年6月 1日 (月) 16時44分

>KAISEIさん

この劇団は、確実に関西を代表する劇団であり、若手の役者さんを中心に活躍の場を拡げる起点となっているように思います。
義理人情もののDVDもありますが、まあ定番と言えばそのとおりですが、なかなかいいですよ。安心して観れるというのか。

席に関しては、私は恐らく、そのブログの方よりひどかったと思います。
2列目の端っこで、照明器具に重なって一部舞台が全く見えないし、音響はうるさい。
ご指摘どおり、それなら自由席の方が倍の値段払ってもそちらに座った方がいいというものでした。
けっこうな方が指摘されているみたいだったので、私は静観していますが、自分の中では確実に大きく減点しているので、この作品は恐らくベスト10には、いくら良くても入らないと思います(゚ー゚;

投稿: SAISEI | 2015年6月 3日 (水) 18時09分

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