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2015年5月10日 (日)

N.Y.の天使→【ももちの世界】150509

2015年05月09日 芸術創造館 (110分)

前半は、幼き頃の恋だとか友情を、NYという華やかな地で、切なく描くような話だと思いきや、いつの間にやら社会問題を想像させる話に切り替わってくる。
日本のとある町で起こった、共に楽しく過ごしていた人たちを分かつ事件。その構造が、実は宗教や人種などから戦争を引き起こすアメリカの構造と同じみたいなことを、ドッペンゲルガーなどを用いて描き出しているような作品か。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

友人が交通事故で亡くなる。
飲酒なのか、居眠り運転だったのかは分からないが、一人の男に怪我を負わし、一匹の猫を轢き殺した形で、自らの命を失ったらしい。検死では、背中に羽根を取り除いたかのような傷跡があったらしいが、この事故ではなく、だいぶ前のものらしい。男もその傷跡は知らない。もう、長いこと会っていないから。

男は目を覚ますと、どこから入ってきたのか猫がいる。追い出してもしつこく部屋に戻ってくる。困っているところ、一人の女性が訪ねてくる。朝の4時だというのに。
友人の母親。友人とは昔からの付き合いだったので、久しぶりとはいえよく覚えている。よく家にも遊びに行ったから。通夜にも伺ったのだが、とても声をかけることはできなかった。だから、母親とも久しぶりの再会である。
母親は男に信じられないことを語り出す。死んだのは息子ではない。息子は、今、NYにいる。あれから、少し精神に異常をきたし、引きこもりになった。それで自分を変えようと息子はNYに行ったらしい。
母親は息子が暮らしていたNYの住所を教え、パスポート取得の手筈を整え、多額の金を渡してくる。息子を探してくれと。

男はNYに降り立つ。
英語が不自由なので、黒人に絡まれたりしながらも、タクシーに乗り込む。なかなか怖い思いもしたが、タクシーの運転手さんは人が良さそうだ。子供の写真を見せてくる。男と同い年ぐらいなんだとか。生きていればの話だが。亡くなって、今は天使になっているのだろう。
途中、タクシーの中から雪を見る。今は季節はいつなのだろうか。ぼんやりしていたら、夢を見たようだ。

友人はちょっと変わっていた。まっすぐで純粋。悪く言えば、周りがすぐ見えなくなってしまう。馬鹿にする者も周囲には多かった。引っ越してきた男は不思議と友人と気が合い、毎日、遊んだ。
お互い、お姉さんがいた。男の姉はみんなからモテていた。見た目の美形もあるのだろうが、道路で轢かれた猫を平気で触って、埋めてあげるような優しさもうけていたのだろうか。普通は、正直、気持ち悪くてそんなことできない。
友人はかなり姉に想いを寄せていた。似合いもしない姉好みの髪型にしたりして空回りしていたが、頭をなぜられただけで興奮覚めやらずといった可愛らしい恋。
そして、男も恋をしていた。友人の姉。男の姉と大の仲良しだったので、よく会うことができた。自分の姉と友人の仲を取り持つ代わりに、友人の姉と自分もうまくいくように互いに頑張るというおかしな協定を結んだりして。

到着したアパート。人の好さそうなおばちゃんが出てくる。確かにここに友人は住んでいたらしい。そして、急に行方不明になってしまったのだとか。
雪を見たんだけどなんて言ったら、おかしな顔をされる。
夢だったのだろうか。雪が降って来る。同時に男の意識もおぼろげになっていく。

男の友人の姉への恋は残酷な終わりを迎える。
友人の姉には好きな人がいた。その好きな人が男の姉に告白したらしい。
友人の姉は、好きな人にフラれたことが辛いのか、男の姉が憎いのか、好きな人に男の姉を取られてしまうのが不安なのか、どれが本当の自分の気持ちなのか分からない状態にあるみたいだ。
それでも、その後も男の姉と友人の姉はずっと仲良しだったみたいだ。友人の姉が気をつかっていたのか、男の姉が無頓着なのか。
そんなある日、友人の姉は車に轢かれて亡くなる。道路で轢かれた猫を、男の姉がしていたように抱きかかえて埋めようとしていたところだったらしい。

その日から、友人は変わってしまった。
このあたりは、元々、猫がよくいた場所らしい。そこに人間が開拓して入り込んできたようだ。
だからなのか、猫は未だ、ここは自分たちの場所だと言い張るように道路に平気で飛び出してきて轢かれる。
友人は、その猫を毎日、埋める。猫が飛び出さないようにネットを張ったりするが、それを乗り越えて猫は轢かれる。それでも、友人はとにかく轢かれた猫を埋める。
そのうち、周囲も気味悪がる。噂は捻じ曲げられ、友人が猫を殺しているみたいな悪評までが飛び交うようになった。その頃からだろうか、友人が引きこもり、精神に異常をきたしたのは。
男とも疎遠になった。そして、男は、あの日以来、男の姉と一切、話していない。姉が猫を埋めるなんてことをしていなかったら、自分の好きだった友人の姉は死ななかったし、友人もこんなことにはならなかったはずだから。

男は手紙を拾う。友人からだ。
自分を探して欲しいのだろうか。
友人はジャパンソサエティーに所属していたみたいだ。
そして、まだ、ここにいることは確からしい。
訪ねると、そこには友人の姉とそっくりな人がいる。男の姉とそっくりな人もいるらしい。
昔、友人と話していたドッペンゲルガーなのか。
友人は、ここNYで、日本では亀裂が走らざるを得なくなった者たちと共に活動していたようだ。
友人の母がNYに訪ねてきて、男に息子が死んでいたことは嘘では無いことを告げる。
友人が残した手紙から、男に自分を見つけ出して欲しいという内容が読み取れたので、嘘をついてまで、男をNYに連れ出したらしい。
でも、今の男は、友人の生を信じている。彼は、ここでまだ自分のするべき活動を続けている。
向かった先は大聖堂。
そこで男は友人と再会し・・・

現在と過去、そして脳内世界みたいなところを行き来して、話を展開しているみたいで、ちょっと複雑。
ドッペンゲルガーの設定や、舞台に置かれた鏡が登場人物たちを実像なのか虚像なのかと錯乱させる。
この曖昧な世界で、確実に起こる人の死が、やがて、生死の争いを引き起こす社会問題にまで繋がってくる。
前半は、恋とか友情だとかを絡ませた、切なく悲しい絆物語の様相を見せるが、後半からちょっと変わってくる。
これは9.11のテロを描いているのだろうか。
毎日のように道路に飛び出して轢かれる猫。毎日のことなのだから、死ぬのは分かるだろうに。それでも、ここは元々、自分たちだけの場所だったから、思いのまま行動するといった意志の結果がそうなっているようだ。簡単に言えば、自爆テロみたいなイメージか。
猫たちを救うには、本当ならば車をここから追い出すしかない。でも、それは同時に人間がここから出て行くことになる。恐らく、それは出来ない。
中東の国に、アメリカの近代文化が入り込む。これまでの文化が壊されると反発するようなことと同調しているのか。と言って、出て行かれても困るだろう。猫だって、人間が入り込んだおかげで、食事などに関しては、恵まれるようになったはずだ。
結局、人間が出来ることは、放っておいて淘汰されるのを待つか、犠牲になったものを埋め続けるか。埋めるのは弔いなのか、見えなくするためなのか。

友人は日本で自らに起こったことを、NYでどのように結び付けてしまったのだろうか。犠牲となった猫をひたすら埋める。猫だけが犠牲になったのではない。その継続的な猫の行動は自分の姉を死に追いやることに繋がっている。
怒りや憎しみの矛先は、猫なのか人間なのか、それともそんな状況を作りだした町社会なのか。
そんな小さな構造が、アメリカという多宗教や戦争が身近にある環境で、もっと大きな改革の道へと導かれたような印象を受ける。
最後がよく分からないのだが、日本に戻った男が見るテレビ映像では、あの9.11の悲劇が映し出されていたのではないだろうか。
友人やその姉、男の姉。普通にちょっとしたいさかいがあったり、わだかまりを残しながらも楽しく過ごしていた。それが、日本のある小さな町で猫が道路で轢かれ続けるという事象だけで、3人は各々、生死を分かち、さらに進む道もすっかり変わってしまった。
アメリカで、この3人がいたら。ドッペンゲルガーを通じて、仮説を検証するかのように、それが描かれているように感じる。

最後に男は部屋に迷い込んできた猫と家族になる。
猫たちは道路に飛び込んできて、数々の命を失う。それでも、それが未来へと繋がると思っていたのか。
その死体を抱きかかえ、埋めてくれる人がいる。その時、人が変わる礎が少しずつ出来上がっていくのだろうか。
テロで亡くなった人は。当然、誰かがその亡骸を抱きかかえ、哀悼の意を示すのだろう。そして、その悲しみや憎しみは、いつの日か彼らが願った未来のための道となるのか。
ネットを張っても、それを飛び越え、ことごとく道路で轢死していた猫が、部屋にまでたどり着いた。友人の地道な活動は、ようやく、一匹の猫を救った。その猫は、様々な人と別れることになった男のこれからと時を共にする。
そんなイメージを持つラストなのだが、同時に友人のドッペンゲルガーが不注意な事故で猫を一匹犠牲にしている。
綺麗事では済まない、残酷な現実も突き付けられているような気もする。

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