夢ばかり【真紅組プロデュース】150523
2015年05月23日 HEP HALL (105分)
穏やかに心が澄んでいく。
真摯に夢を追う人、それを温かく見守る人たちが重なり合った空間と時間が、あまりにも美しく優しく描かれている。素晴らしく素敵な作品。
夢は見るものではない、叶えるものだ。
よく言われている言葉で、当日チラシにも書かれている。
実はあまり好きな言葉じゃない。
叶えようとするものでいいんじゃないのかといつも思う。叶えるものと決められてしまうと、その夢が膨らんでいかなくなるような気がして。
夢を見て、叶えようとする力は何事にも代えがたく、いつの時代も、時を前へと進める原動力になっているような感覚を得る。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は、本日、日曜日まで>
時は大正時代の始まり。
舞台は、大阪にある食堂からカフェに変わった店。
肝っ玉が座って優しく頼りになりそうな女将さん、男は金と、女の技を使って今日も獲物を狙う肉食系女子と、がさつで豪快、ツッコミにかけては右に出る者がいないほどの女の三人で店を切り盛りしている。
名物は茶碗蒸し。食堂からカフェへと変わらないといけないのに、未だコーヒーを注文する人は少ない。
店には、食堂時代からの常連客がたくさん。
人とコミュニケーションをとるのが苦手だが、いつも人の本質を見詰めて、その人の肖像画を描く青年。新しい自分だけの画風を追求して、ちょっと彷徨ってしまっている男。女の身なりをしており、これも、自由を尊重しようとする新しい時代の始まりだろうか。
何かいつも怒っていて、切れると怖い女。歌人で、自分の歌を新聞や雑誌に売り込もうと必死。勉強熱心で技術はあるのだろうが、どうも心に訴えかける何かが足りないみたいだ。このカフェに出入りしている、東京で雑誌編集者をしていた経験がある女性に売り込みをかけるが、担当が違うからとやんわりと断られている。編集者は、東京でがむしゃらに頑張り過ぎたみたいで、周りが見えなくなってしまったことを気にして、大阪でまだ職にはついていない。
妙齢の芸者。そろそろ、辞め時かもしれないことは意識しており、けっこう、いい家の後妻の縁談があり、心が揺れている。お金持ちの旦那はそんな芸者を昔から可愛がっている。温厚で、このカフェでも、いつもみんなに酒を振る舞い、これからを頑張る若者たちを応援している。
宝塚ファンの三人組。針子をしながら、将来は宝塚女優になんてことを考えている女。どう考えても年齢制限でひっかかるのだが、本人は夢を捨てきれない。大きな薬問屋の娘。女優になるなんて言ったら、恐らくお家が許さない。芸者みたいなことをしてどうすると言われるに決まっている。当時はあの宝塚ですら、そんな目で見られていたみたいだ。今は、外観はいま一つだが、大きな問屋の息子との縁談があがっている。大工見習の男。将来は設計もして立派な建築家になりたいと思っている。そのためにも学校に行きたいのだが、金が無い。それに親方が許してくれない。
ギター片手に、ミュージシャンを目指す男。ノリはよく、元気いっぱいだが、まだまだくすぶっているみたいだ。銀細工職人。自分で独立して店を開くためにも、日々、懸命に技術を磨く。今は、誰に渡すのか、ちょっと趣味の悪い指輪を製作している様子。その友達。特に何もしておらず、毎日プラプラ。いつかでかいことをしてやると言いながら、奢りで酒を飲み、くだを巻く。
この男が、自分は伯爵になるなんて言い出して、ちょっとしたケンカから引っ込みがつかず、東京に行ったことから、この話は始まる。
もう1週間も、その男が店に顔を出さない。どうせ、引っ込みがつかず、家に閉じこもっているんだろう。
みんな、特に心配することもなく、気になることと言えば、東京に本当に行ったか行ってないのかで賭けをしていることぐらい。
ところが、男は本当に東京に行っていた。
そして、とんでもない土産を持って、店に戻って来る。
その土産は、伯爵家の令嬢。家出をしてきたらしい。
家に帰そうとするが、そんなことをしたら誘拐されたと警察に言うと抵抗する。
仕方なく、店で面倒を見ることに。
さすがは、お嬢様だけあって、想定外の世間知らず。
何をするにも、一般庶民とは感覚が違う。おまけに、教え込んだ大阪弁もめちゃくちゃで、もはやどこの人かも分からないように。
でも、イラッとさせたりすることは多々あるようだが、酒まで覚えて、みんなの中に溶け込んでいき、本人もそれで楽しそう。
みんな、各々、やりたいことがあって、それに向かって悩みながら頑張っている。そんな空気が新鮮で楽しくて仕方がないみたい。
カフェに新たな客がやって来る。
東京から仕事で大阪に出てきているらしい。
見た感じ、とても紳士でお金も相当持っているみたい。
令嬢の接客では、とんでもないことになるので、なるべく顔を合わせないように店も気を使う。その代わり、男は金という店員は、完全に獲物を狙う目になってしまっているが。
そんな中、新聞に伯爵家令嬢失踪の記事が載る。
本人は、載っている写真の写りが悪いなんてことを怒って、平気で町に出掛けようとする。
しばらくは、店でおとなしくしておくべき。そんなことを聞き分けるはずもなく。
仕方なく、男装させて、町に出る。
初めての町は、やはり新鮮だったみたいだ。外で何かを食べるなんて下品だと教え込まれていたのだろう。でも、名物の饅頭をみんなで路上でほうばり、大満足。
令嬢は、みんなが絵を描いたり、歌を詠んだり、ギターを弾いたり、踊りを踊ったりと頑張っている姿を見続けてきて、ある提案が頭にあるみたい。
カフェで展覧会を開く。
展覧会にはみんな乗り気。
各々が、自分たちの得意とする力を活かし、その準備が進められる。
しかし、色々な問題が出始める。
自分の画風にまだ自信が持てない男は、言い訳をして参加を辞退しようとする。いつも逃げていると肖像画を描く青年に言われて大ゲンカ。
歌人は、編集者に厳しいダメ出しをされて、心を閉ざしてしまう。腹いせなのか、令嬢が大阪にいることを新聞社にリークしてしまったり。編集者は、過去にも同じように厳しく批評することで、芸術家を傷つけてしまい、雑誌社を辞めたことを思い出し、気に病み始める。
ギター弾きは歌詞がなかなか浮かんでこない。
芸者は好きな芸者を辞めての縁談にまだ迷いがある。
薬問屋の娘は、縁談相手がいい人なんだけど、かなり見た目が悪いみたいで、それこそ宝塚の世界とは程遠く、どうしたらいいのかと。
大工は、金持ちの旦那に学校に行くための借金を申し出る。了承されるが、大切なものを担保にしろと言われ、それは何かを考える中で、夢を追う自分の覚悟を見詰め直す。
銀細工職人は、出来上がった指輪を男は金という店員に渡し、プロポーズ。金も無い、おまけに指輪のセンスも悪い男は、相手にしてもらえない。
自分のやりたいことをした成果を見せる展覧会。
各々の様々な想いが交錯する中、展覧会は・・・
結局、展覧会は無事、開かれ、各々のこれまでの成果が披露されます。
自信が無かった画家の男は、奮起して絵を完成させます。そして、和でも洋でも無い、新しい画風を目指すため、パリに留学する決意を。肖像画を描く青年は、このカフェで輝く人たちの姿をたくさんスケッチブックに刻んできました。それを、さらに全国の人たちに拡げようと旅に出るようです。
歌人は、ギター弾きの歌詞を作るのに協力します。認められない自分に苛立ち、周りの人たちに対して疑心暗鬼になってしまったけど、やはり、ここのカフェの人たちは大切な仲間。技巧にこだわるのではなく、今の自分の想いをそのままぶつけた言葉を歌詞に込めて。
編集者は大阪で小さな雑誌社に勤務することに。このカフェで出会った数々の芸術を目指す人たち。そんな人たちの道しるべに少しでもなることが、自分が編集者を目指した頃の夢だったことを思い出したのでしょうか。
芸者はその道を貫くことに。お婆ちゃん芸者。そんな痛快なことは無い。贔屓の旦那も嬉しそうに笑います。
薬問屋の娘は縁談を受け入れ、もう今のように踊ったり、宝塚を観に行くこともなかなか出来なくなってしまうので、この展覧会がお別れ会のようなものに。
大工は、大工道具を担保にする覚悟を親方に伝えたら、親方が全てを認めてくれることに。学校に行って、その後、必ず、うちで活躍しろと厳しく言われたみたい。
銀細工職人は、もっとセンスのいい新たな指輪を製作することになりそう。今度は、受け取ってもらえそうな雰囲気です。
それもそのはず。東京から来ていた男を狙っていたその店員は、もうその男のことは諦めないといけなくなったので。
その男、身分は男爵。伯爵令嬢の婚約者だったそうで。
これで、誘拐騒ぎも収まり、ハッピーエンド。
そして、この先にも、きっと夢追い続ける人たちの、各々のハッピーエンドが待ち構えているでしょう。
各々が夢に生きる。
大正時代は、新しい時代の始まりと共にそんな時代だったのでしょうか。
輝き、ワクワクするような躍動感に溢れる人たちの姿が見られます。
それでも、夢には障害があります。
それは、自分自身の心構えに由来することもありますが、男女差や、お家の問題といった時代の風潮や、経済的なものまで様々。
それでも、自分の見た夢を叶えるべく、悩みながらも、それに向かって進んでいる人の姿を描いているようです。
このカフェに出入りしていた人たちは夢を叶えられるでしょうか。
きっと、みんな頑張ろうとしているので、何らかの形でその夢は叶うのでしょう。でも、夢はどこかでゴールを迎えて終わってしまうものではありません。夢を持ち、叶え続けること。
この続けることを、意識しないといけないように感じます。
このカフェで開かれた展覧会は、これまで頑張ってきたみんなが、障害が降りかかる中で達成した一つの夢のようなものなのでしょう。そして、それは同時に、各々の新たな夢の出発点ともなっているようです。
たくさんの夢を叶えて、その夢をさらに膨らませ、また、このカフェで大きな夢が描かれる日が来るのではないか。そんな夢が叶うことを願うかのようなカフェの女将さんの姿がとても優しく感じます。
にしても、伯爵家令嬢を演じるたもつさん(シアターOM「うしとら」プロジェクト)、凄かったなあ。凄かったというか、可愛らしかったなあ。
うしおととらで数回拝見、その他にもいくらか拝見したことあるけど、基本、やんちゃで明るく純粋真っ直ぐな男の子しか演じないと思っていた。
それが、まあ、根本的にはそんな感じなのだが、令嬢だものねえ。
お嬢様らしさはきちんと残しながら、滑稽な言動、掛け合いで可笑しさも出して。
なかなか、この変わりゆく時代のヒロインとして、味のあるお姿でした。
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