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2015年4月19日 (日)

COLLAPSAR【ルドルフ】150419

2015年04月19日 アトリエ劇研 (120分)

今の自分にとって大切だと思っていることが、道を進む制約になっているのかもしれない。
気付かないうちに、それを捨てたら進めないみたいに思っていませんか。
それは本当に、これからも自分にとって大切であり続け、自分をより良き道へと導いてくれますか。
それを壊して、そこから解放されて、新たな自分の道を進んでいる人を見詰めてみませんか。
そして、今、自分が、これまでをさらに積み上げていく道を進むのか、壊して新しい道を創り出すのかを決めてみましょう。
人間と人造人間により築き上げられる架空の国家の姿を見ながら、何か、そんなことを問われているような気になる作品でした。

周囲を砂漠に取り囲まれたエネルという小さな国。
7年前に国王を亡くして以来、女王陛下と次期国王としての素質に恵まれた第一王子が中心となり、国政を司る。
以前は地下に眠る資源により繁栄していたみたいだが、それも枯渇し、砂漠なだけに農業を営むことも難しい。そのため、隣の大国、ビルデの援助を受けて、アルバと呼ばれる人造人間の生産により国を守っている。
アルバは人間と似た身体を持つ人形のようなもので、ある特殊な腕輪をさせると起動する。人形本体自体は20年ぐらいで廃棄処分となるが、腕輪は数十年の間、使用できる。人格や記憶も蓄積できるらしく、そのため、本体さえ変えれば、また同じ人造人間を継続して作り出すことが可能だ。
アルバは様々な用途で使用される。家事労働はじめ、危険地域での作業員、戦争の兵士など。実際に宮殿の警備や女王陛下、王子たちの警護や身の回りの世話も、アルバが採用されている。
先代から仕え、もう20年くらいになる、少々、血の気が多い熱血漢の男と、どこか飄々としていながらも的確に業務をこなし、第一皇子に好意を抱く女のアルバがその中でも重要なポジションを担っているみたい。

エネルは、そんな有用性の高いアルバを隣国のビルデ中心に様々な国へ輸出して資金を得ている。
この国の生命線とも言えるアルバ生産を統括指揮しているのが第一王子。最近、体調が思わしくない49歳の女王陛下の跡を継いで、そろそろ王としての仕事をしなくてはいけない時期にさしかかっている。
となると、アルバ生産の統括指揮を誰かに任せなくてはいけない。国の大事な仕事なので、アルバに任せる訳にはいかない。王族でなければ。
第二王子。本来ならば、それが一番いいのだが、彼は自由奔放だ。
と言って、ただ好き勝手にしている訳ではない。祖父が研究していた天体に興味を抱いて、日々、天体観測をしている。それが天候の予測に役立ち、いつの日かこの国で農業を営むことができると考えている。彼は彼で、この国の新たな基盤を作り上げたいと思っているみたいだ。
今日は、女王陛下49歳の誕生セレモニーを抜け出し、自分の天体観測の結果から、大きな流れ星が夜空を駆け巡るとか言い出したりする。もっとも、女王が50歳だと勘違いしていたため、そんなものは一切夜空に現れなかったのだが。
こんな調子なので、女王陛下も気が休まらない日々を過ごしている。恐らくは体調が思わしくない理由の大半は第二王子にあるみたい。
いつもなら、お叱りを受けてお終いなのだが、この日は違った。我が母の歳を間違った罪は重かったようだ。女王陛下は一切の天体研究を辞めて、第一王子のアルバ生産指揮業務を継ぐように厳しく命じる。

まだ幼かった頃。
兄の第一王子と自分の身の回りの世話をしてくれる優しいアルバがいた。第一王子は女王にアルバも人間と一緒。みんなで食事をして、家族になればいいと話す。女王はアルバは人間とは違う。単なる人形だからそれはできないと優しく丁寧ではあるが、反論は許されないような厳しい口調で兄を諭すのを見た。そのアルバは父である国王の情婦だったなんて噂もあり、やがてそのアルバは処分された。人のために尽くし、人に認められないといけないアルバだが、人と一線を超えて仲良くなってはいけないみたいだ。
第一王子は国のために、こんなアルバと人間の関係のおかしさを考えないようにしたのだろうか。今では、何の疑問も抱いていないかのようにアルバ生産の指揮をとっている。今の国のアルバの扱い方にまだ違和感を覚えている第二王子にとっては、そんな業務は気が進まないが、もはや年貢の納め時のようだ。

そんな中、熱血漢の男のアルバが急に倒れる。
そう、女王陛下がこんなに焦って、アルバ生産業務を気にかけているのには、理由がある。
最近、原因不明の感染症がアルバに蔓延している。感染症に罹患したアルバは、即、廃棄処分となる。
もちろん、腕輪さえあれば、また別のアルバ本体に取り付けて再生することは可能だが、その本体生産が追いつかなくなるのも時間の問題だ。
そうなったら、この国の存亡の危機である。
熱血漢の男のアルバは、アルバ専用の栄養剤を飲ませても復活しない。女のアルバは、平然と腕輪を回収して、違う本体に取り付ければいいと言うが、第二王子にはそれが理解できない。ずっと、一緒だったこのアルバをどうしてそんなにあっさりと切り捨てられるのか。でも、アルバにとっては、それは当たり前であり、自分たちがそんな存在であることに疑問を抱いていないようだ。

どうしたらいいのか、悩んでいる中、一人の女性が宮殿内に入り込んでくる。
道に迷って、彷徨ううちに、ここに入り込んでしまったらしい。
どこか遠い小さな国から来たらしく、宮殿や王族も初めて見るのだとか。
女性は薬を手にしており、その薬を倒れているアルバに飲ませる。
すると、そのアルバは目を覚まし、立ち上がる。
旅を続ける中、自国で生産するこの薬が、アルバの感染症に効果があることが分かったのだという。
復活したアルバは、いい意味ではまっすぐで正直な頼れる男だが、融通が利かないところがある。国を守るという使命に固執するアルバは、自分を助けてくれた女性を不法侵入者とみなし、彼女を牢獄へと幽閉する。

半年後、ようやく、女性は国に認められて、釈放される。
彼女の持っていた薬は、アルバの感染症に著しい効果を示し、国の危機を救った。
女王と第一王子は、エネル名産のカメレオン酒をふるまい、彼女に最大の感謝の意を示す。
そして、あることを彼女に依頼する。
それは、薬の製造方法の教授。
女性は、遠いラスカという国からやって来て、そこで育てる薬草から薬を作っているらしい。天文学を駆使して、天候を予測し、難しい薬草の育成を成功させたのだとか。
無理やりに、アルバ生産の指揮業務をさせたものだから、ちょっと頭がおかしくなってしまった第二王子を派遣して、その製造法を学ばせ、この国に持ち帰らせる。
そうすれば、今後もこの国は安泰だというものだ。さらには、奇行が目立つようになり、さらに女王の気を悩ますようになってしまった第二王子を女王から遠ざけられる。要は厄介払いも兼ねて、一石二鳥というわけだ。
女性は、自国は小さな国で王族が暮らせるようなところでは無いと断り、また、第二王子もせっかく天文の研究を諦めて、与えられた仕事をしようと決心したのに、いまさら冗談じゃないとその申し出を断る。

翌日、女性はエネルを去る。
その後ろにある男が荷物を抱えて付いてくる。第二王子だ。
やっぱり、このチャンスを逃すわけにはいかないという決断をしたらしい。
祖父の天文研究資料も持ち出し、必ず自分は役に立つと売り込む。
さらには、その護衛として、熱血漢の男のアルバも付いてくる。
第一王子の指令を受けているみたいだ。
女性はどうも怪しい。もしかしたら、今のアルバに頼る国の政策に異を唱える反対派の一味かもしれない。
とりあえず、女性の本拠地を探り出し、薬を手に入れる。
薬の製造の方はそれほど期待していない。それよりも、今は女王を悩ます第二王子が邪魔なだけ。

女性、第二王子、アルバの旅が始まる。
いつまで経っても、ラスカに着かない。
女性はもうすぐだからといつも笑顔で巧妙にはぐらかす。
さすがは、半年も牢獄に幽閉されながら、平然としていただけある。肝っ玉の強さは半端じゃないみたいだ。
そして、ついにラスカの地に到着する。
そこには、何やらカメレオンやウサギの気味悪い人形を操り、自作の物語を創るという遊びのような日々を過ごす女と、それに嫌々ながらも付き合って、かつ薬草の栽培をしている女がいた。
不思議なことに、その女たちは、かつて別れる頃になった優しいアルバや今、宮殿で仕えているアルバにそっくり。
そして、女性から重大な事実が語られることになる。

この女たちはアルバ。
でも、腕輪はしていない。
今は亡くなった女性の父が不法投棄されていたアルバを持ち帰ってきたらしい。
腕輪を外させて、数年放置していたら、目を覚まし、あたかも人間のように普通に動き出したのだとか。
熱血漢の男のアルバは、そんなアルバたちを見て反感を抱く。
そんなことはあり得ないし、アルバとしておかしい。アルバは人に仕え、人の命令に従う。自分の意志は持ってはいけない。
この事実は、エネル国に伝えられる。

エネルでは、薬も底を尽き、アルバの感染症対策に悩まされていた。
そんな危機的な状況の中、隣国は大量のアルバ供給を要求してくる。
小国のエネルがそれに逆らうことは出来ないが、この状況で、もし、アルバに大量感染が起こったらそれこそ、もうお終いだ。
要求に従うしかない。
しかし、そんな中で知る驚愕の事実。
この事実を知った今、今までのようにアルバを扱っていいのか。

そして、ついに女王の命も尽きることになる。
女王は、国の主幹となるアルバ生産に目を背け、自由奔放に新しい農業の道を進めようとした第二王子のことを最期まで心配してこの世を去った。
国のために全てを犠牲にして頑張ってきた第一王子としては複雑な気持ちだ。
目の前に突き付けられた数々の問題、全てを背負うことになった第一王子は錯乱する。
人間となったアルバを連れて、帰還する第二王子。
熱血漢の男のアルバはいない。自ら腕輪を外し、長年の眠りの後、自分の意志で動く人間として再生するためにラスカに残ったようだ。
第二王子は、人とアルバとの付き合い方を変えていく必要性を第一王子に問う。
何とかなる。何とかしていこう。二人で。
これまでのアルバの呪縛を解き放ち、新しい国家を育成するため、二人の王子は・・・

といった感じで、最後はこの国の新しく生まれ変わろうとする姿を映して、話は締められます。
ハッピーエンドみたいなものではないでしょう。
アルバは腕輪を外せば、長年の眠りの後に自由になれます。でも、それは絶対ではありません。そのまま、朽ち果ててしまうかもしれない。
それに、自由な人間となっても、今度は人間として何かに締めつけられることになるはずです。何をもって自由というのかという話でしょう。例えば、これまでは指示に従うことと引き換えに当たり前に与えられていた衣食住は、自らの力で手に入れていかなくてはいけません。そのために金を稼ぐための労働をしなくてはいけないことに変わりはありません。
また、想いを寄せていた人と付き合うことも可能になります。でも、目を覚ました時に、その想いがどうなっているのか、相手がどうなっているのかは分かりません。
なにせ、もう記憶の蓄積である腕輪が無いのですから。
要は、当たり前ですが、保証無き、決断をしなくてはいけないのです。

それでも、腕輪を外す決断をするアルバはいるでしょう。逆に現状を維持する選択を取る者も。
どちらが正しいかは分かりませんが、変わるということに、これまでを壊すということは、避けて通れないことなのだと思います。
仕事なんかでも同じでしょうか。
私は研究のような仕事に従事していますが、これまでの科学を変えるような発明をする時は、たいがい、これまでの積み重ねの延長で生み出されることは少ないような気がします。
これまで当たり前にしてきたこと、当たり前に考えていたことを一度リセットして、そこから始まるように思います。
と言って、積み重ねが意味の無いものだというわけではありません。
壊すには、築き上げてきたものがあるからこそです。
これまで積み上げてきた努力の成果を、さらに積み上げていくか、どこかで壊して新しい選択の道を創り出すのかみたいな感じでしょうか。
そして、その積み上げが大きければ大きいほど、壊した時に生まれる新しい道は広く長く続いているように感じます。

言葉にすれば単純ですが、壊すのは怖いですね。もったいないですし。
保証されていないということが一番の理由だと思います。覚悟がいります。
多くの場合は、本当に壊れてそれでお終い。それでも、その壊れた残骸に価値を見出し、前へ進むことの糧に出来るのかもしれませんが。
糧になるなら、その残骸は多い方がいいはずで、やはり積み上げていくことの大事さは確かなのだとも思います。
まあ、生きるということは、積み上げるにせよ、壊すにせよ、悩み、苦しみが付きまとい、その先に何があるのかなんて分かるはずもなく、不毛の道なのでしょう、
だからこそ、止まるのではなく、進み続けるしか無いという結論には行き着くように思います。

書いていてちょっと思いましたが、仕事や人生、もっと大きく捉えれば、今の社会なんてものには、壊すことからの改革なんてことは当てはまるように思いますが、恋愛とかはどうでしょうかね。
愛を育むなんて言いますが、その育まれた愛は壊して、何か生まれますかね。
好きだから、相手を束縛し合う。それを壊すというか、解放し合った時に、もっと大きな愛が生まれるかなあ。
愛とか想いだとかは、その育んだものが蓄積する腕輪を外したらダメで、ずっと持ち続けておかないといけないような気もしますが。
きっと、そんなものは、腕輪に刻まれるのではなく、自分のもっと別な心のようなところに刻まれるので、どうなろうと残ったままなのかもしれません。

この作品の腕輪は何なのでしょうか。
最初からアルバは放置しても人間にはならないのだから、命みたいなものかな。
動き出す、生まれた瞬間に吹き込まれる血や命。同時に生まれといった家筋なども。
それはある意味で、これからの時間を進む中で、自分を制約してしまうもののように感じます。
制約は同時に自分を守るようなものでもあり、それを外すということは、一度、これまでの自分を捨てるようなことになるのでしょうか。
自分を見詰めて、また前へ進むなんてことはよくありますが、そんなことでは甘い時もあるのかもしれません。
残しておくなんて言ってないで、潔くポーンと壊して、前へ進む。
不安もあるだろうし、その先に棘の道があるかもしれないが、それでも、そんな人生の分岐点に差し掛かった時に覚悟をする。
そうして生まれ変わった先にはきっと何かが待っている。
作品のラストは、例えアルバであっても、これまでとは異なり、各々が自分の意志で決めた道を進み、何かいい方向に変わっていくような空気を醸しているようなことから、そんな決断をする者たちへのエールのように感じます。

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