ELDER STATESMAN'S GARDEN【THE ROB CARLTON】150417
2015年04月17日 HEP HALL(115分)
まだ、この劇団は2回しか公演を拝見していないのだが、シチュエーションコメディーというのか、舞台の幾つかの出入り口を利用したスレ違いや登場人物たちの勘違いを基に、巧妙な話の展開で笑わせながらも、その巧さに凄さを感じさせる作品がとても好き。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/post-7.html)
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2014/09/100-4945.html)
初めて観た時に、あまりにも気に入り、その時の作品は、昨年のベスト10にも入れさせていただいた。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2014/12/201410-8193.html)
恐らく、コメディースタイルでこんなにまで凄いと感動したのは、今は無くなってしまったコメディーユニット磯川家、昔のイッパイアンテナ、今も活躍中の中野劇団ぐらいじゃないだろうか。
これまでは京都公演だっただけに、大阪での公演で、私の知り合いも観に行ってその魅力を味わってもらえるのが嬉しくて。
さっそく初日を拝見しに伺ったが、客席もけっこう入っており、上々のスタートみたい。
スレ違いに勘違い。散りばめられた伏線。
上質な庭での、元老や総理といった日本の政治を担う上級のまともな人たちが、日本の将来を決めるような大きな外交問題に挑む。
そんな本来なら、真剣で真面目な姿までを面白おかしくしてしまう。
そして、たくさんの笑いの後には、巧妙な作りへの賞賛、衝撃が得られ、この庭で生まれた本当の分かち合い、一つの絆に少し涙も滲んでしまうという見事な作品でした。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで。笑いだけじゃ嫌。感動もしたいし、演劇作品としてのきちんとした作りも味わいたい。かっこいい人たちも見たい。騒がしいのはあまり好きじゃなくて、上質な雰囲気の中で観劇したい。とそんな贅沢わがままを言われる方がいらっしゃるなら、ここをお薦めできます>
舞台は、ある元老の家の庭。
内閣総理大臣経験もあるらしいが、立派な髭をたくわえ、穏やかで優しそうな雰囲気。
明日、海外からの全権公使を招き、園遊会を開く予定。
準備は、できる執事が食事からスケジュールと全てを完璧に整えている。
大きな外人が来るということで屋敷も少し改築し、公使が好きだというビリヤード場も用意した。
さらには、公使に喜んでもらおうと写真師も呼んでいる。失敗は許されないので、今日は、元老自ら被写体となって試写を行い、庭の撮影ポジションをしっかりと調べさせる予定。
こんなにまで、万が一にも失敗が無いようにピリピリしているのには理由がある。現政府の悲願である不平等条約の改正のための重要な足掛かりになるからである。いわば、国の将来が明日にかかっているといっても過言ではない。
ただ、大きな問題がある。
内閣支持率が低下し続けている。それも、総理の政治に関する手腕が問題になっているのではない。九一分けの髪型が気持ち悪いというのが世論。
内閣総理大臣は、この元老を含めた3人の元老たち、通称、元老'sによって決まる。
現総理は自分が最も推した同郷の男。何とか続けさせたいが、このままでは次期総理を決めなくてはいけないことになるだろう。
髪型を変える。たったこれだけで済む話。
しかし、元老が暗にほのめかしても、自分の精神だと言って頑なに拒絶する。
そこで、元老は元老会議を開くべく、残りの元老たちを召集する。そして、総理も呼び出し、はっきりと君の髪型を国民が気持ち悪いと言っていることを伝え、髪型を変えさせるつもり。
それでも、ダメなら仕方がない。その場で総理は辞職。新しい総理を推薦することになるだろう。その場合は、恐らく、もう一人の元老が推している現外務大臣を抜擢することになる。
元老たちがやって来る。
内閣総理大臣の経験が同じくあり、少し威厳が強く、威圧感のある男。この元老が現外務大臣と同郷で、彼を総理にしたがっている。
もう一人の元老は軍人あがりの大柄の男。だから元帥と呼ばれているみたい。参謀本部の長だったらしい。未だ、愛馬に乗って颯爽と駆けつけて来る。
政治経験には乏しいためか、性格は玄関のベルが鳴らないからと破壊してしまうような大雑把なところがある。おかげで明日のために、急いで修理を依頼しなくてはいけなくなった。
なにわともあれ、集まった3人は明日の園遊会のこと、今の内閣状況を確認し合い、総理と直接掛け合うことにする。
呼び出された総理に、元老たちは真実を伝えられない。厳しい世界に生きてきた男たちだが、さすがに人にキモいと平然と言えるほどの冷徹さは無かったようだ。
ゴチャゴチャの中、写真師がやって来て、平然と総理に髪型のことを告げる。みんな気持ち悪いって言ってますよと。
日本の未来は一人の写真師によって救われた。彼にはその場で勲章が授けられる。
これで一件落着だったのだが、総理はそれでも髪型を変えないと言い張る。自分の精神だからと。
その代わり、明日の園遊会で必ずや、公使に不平等条約改正の署名をもらう。そうすれば、内閣支持率は回復するはず。
確かにその言い分にも一理あり、推薦した元老たちの指名責任なども考慮すれば、総理にかけてみるのも一つの手段かもしれない。
元老たちは、総理に全てを託すことにして、政府の準備した公使に署名してもらう書簡をチェックすることに。
ところが、その書簡が無い。屋敷のどこかに落としたらしい。
みんなで手分けして探すことに。
ところがその間に、庭にある来客が。
公使だ。通訳を引き連れている。早く着いたので、明日の園遊会前に軽い挨拶をしに来たらしい。
勲章をしているがために、屋敷の主人と勘違いされる写真師。意味の分からないまま、公使たちにビリヤードをさせたり、写真を撮ったりして、すっかり気に入られる。
公使は意外に小さい外人で屋敷の改築が逆に失礼になることが発覚。屋敷の中には入れることができない。
出ていくタイミングを逃し、屋敷から見守るしかなくなった元老たち。
任されたのは自分だと、意を決して、公使と話をしに行く総理。用意した贈答品、至極のうまい棒が喜ばれ、いい雰囲気になるものの、それを交渉に活かしきれない。公使の通訳もいかがわしく、言葉が通じ合っていないのが苦戦の原因か。
元老に呼ばれてやって来た英語が達者な外務大臣。本来なら総理の通訳として、最大の助け船となるところだが、地位を巡って疑心暗鬼になっている総理には、自分の座を狙って陥れにやって来たと思い込んでしまっている。そんなわけで、総理と外務大臣の間に諍いが勃発。
そんな喧嘩を相撲をしているとごまかすために横綱になりきって庭に現れる元帥。
見つからない書簡。
事態を収めようと忍びのごとく影で奮闘する執事。
玄関ベルの修理確認の署名をたまたまいた公使に求める修理人。
スレ違い、勘違いが横行する中、果たして総理は公使から署名をもらって日本を救えるのか、そして彼は髪型を守れるのか・・・
といった感じで、いつもながらの引っ掻き回して無茶苦茶な状況からの、見事な伏線回収、巧妙な展開で話を締めます。
最後は、総理の自らの精神を国のために捨てて、あまり気持ち悪さは変わらなかった五分分けになった姿を、ラグビーなどにも通じていた公使が、その日本のスピリットを賞賛し、無事、署名をするといった形で終わります。
なぜか、書簡を見つけたのも写真師で、この日、恐らくは歴史に残るぐらいの活躍をした彼によって撮影された園遊会の写真が舞台に映し出されます。
何ともスマートで爽快、そしてふと真面目に考えてしまえば、人の心をぶつけ合ったことから導かれた分かち合いが生んだ両国の絆に少し涙を滲ませるなんて感じでした。
庭の存在。
時代によって変わっていく庭。
今は、単なる駐車場に少し花壇があるとか、利便性とかが重視されることが多いでしょうが、本来は確かにこんな人と人が触れ合う場だったんでしょうね。
自分自身を表現するような庭。元老だったら、やはり財力、地位、威厳を感じさせるものだったのでしょう。でも、同時に、そこは交流の場でもあり、自分自身を曝け出して見せるような庭だからこそ、来客も心を解放して、心を通じ合わせて、人と人を繋ぐようなものだったのかもしれません。
その人の精神を大事にし、また、そのことを尊重できる想いにさせる力があるのは、こんな人への想いを込めて造られた庭なのではないでしょうか。
大きく言えば、日本という国が、今そんな庭となっているのか。
髪型を変えさせて、勝利したような感覚を得るような者たちが集まっていては、本当の絆など生まれるはずもないような気がします。
冒頭の前説。
実際にこの作品創りのために、ある元老の家を訪ねた時の小ネタが語られます。
もっともらしく玄関先の道が傾いているのはなぜかと問われ、答えられないでいると、水をはけやすくする機能性という特に捻りの無い答えだったそうです。
確かにその機能性はあったのでしょうが、本当は、そこには、訪れる人に水たまりを避けて通らせたり、水たまりの中に足を入れざるを得ないような状態にしないようにしてあげたいという想いが込められているような気がします。日本の先人たちが考えた本当のおもてなしでしょう。
そんなことを思うと、その傾きにも趣があり、そこにいる人たちの間に何らかの想い合いが生まれるような気がします。
この作品のラスト。園遊会で分かち合えた人たちの姿は、様々な私利私欲といった大人の実情はあるものの、相手のことも互いに尊重して分かち合い、一つのきちんとした絆を作りたいと行動した人たちの正しき姿のようにも感じます。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
18日19時~観劇。ハートンホテルでの公演と大大阪博覧会で拝見してますが本公演は初めて。昨年の元立誠での公演にも興味あったものの他公演との兼ね合いで行けず。当ブログで絶賛されているのを拝見して後悔してました。ハートンや大大阪博覧会も面白かったものの最上級と言うほどでは無かったのですがこの激戦週の予定に組み込みました。結果は…メチャ面白かったです。全体でも受けてました。SAISEIさんの前説私の思ったことが全て入っています。作品の素晴らしさとそれを端的に表したSAISEIさんの前説に乾杯(笑)(この項続くかもw)
投稿: KAISEI | 2015年4月18日 (土) 21時26分
>KAISEIさん
ねっ、ここいいですよね(゚▽゚*)
けっこう、大阪の方で初めて観て、お気に入りになられた方も多いみたいです。
会場入る時から、招待状を配布したりと、その時だけの空間を楽しませることをモットーにしているのですかね。
前2公演も同様の演出をされていました。
大大阪博覧会も映像がここだけ非公開なんですよね。
だから、DVDも期待できないんだろうなと。
そこが残念でもあるし、こういったポリシーある劇団が素敵だとも思うし・・・
どちらにせよ、これからの注目劇団の一つとしての位置づけです。
投稿: SAISEI | 2015年4月20日 (月) 18時48分