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2015年4月 4日 (土)

7人のテノヒラサイズ【テノヒラサイズ】150403

2015年04月03日 SPACE9 (110分)

繋がっていく話に、回収される伏線。
この巧妙さに最高の心地よさを感じられる作品。
様々な過去を持つ人たち。
各々、境遇は違えど、生まれの問題や不運が重なったりで決して幸せではない。
そんな人生を幸せに出来ないだろうか。どうやってすればいいのか。
過去は当然、変えられない。でも未来も神様に運命を握られているから無理なんじゃないの。これまでだって、ずっと神様に与えられた運命に従って生きてきたんだから。もっと言えば、神様だって無理なのかもしれないし。
いや、そうじゃないだろ。運命を変えるのって誰なんだ。自分の人生の作・演は誰なんだ。
といったような話。
切り開かれるこれからの人生があることに幸せを見出せるような感覚を得る作品でした。

<以下、あらすじがネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

25歳だというのに、よほどの苦労をしてきたのか、頭もそのオーラも寂しさを漂わす男、馬場。遂に電車の中で恐らくは歳上だろう同世代の男に席を譲られてしまう。無理矢理、座らされるが、この容姿がために降りかかるこれまでの数々の不運を思い出して頭にきてしまったのか、席を譲った男に怒声を浴びせてしまう。すぐに言い間違いでしたとその場を取り繕うが、恥ずかしくて次の駅で降りる羽目に。
ところがその駅は何やら暇そうにブラブラしている駅員がいる、あり得ないくらいにさびれた駅で、次の電車が来るのは8時間後。
いつもこうだ。また、不運が降りかかってきた。そう思ったところに、同じように間違って降りてしまったのか、どこかのお嬢様らしき清楚な綺麗な女性が。母親と似ていて、完全に一目惚れ。いきなり告白というとんでもない行動にも笑顔で接してくれて、自分のことを色々と聞かせて欲しいなんて言ってくる。生まれて初めての幸せが訪れたのか。

二人の男女が、ある家を訪ねている。お金の無心なのか、なんか入りづらそう。
軽い諍いをしていると隣の人が出てくる。
お隣さんは宝くじに当たって引っ越しされましたよ。
そうか。よく考えれば当たり前か。
でも、あんな風に幸せなんて突然訪れるものなのかもしれないな。俺らも頑張って行こうか。二人で。
いいムードになった二人を祝福するように、空に轟音。花火。いや、美しい流れ星みたい。
二人は手を取り合って、二人の未来の幸せに向かって駆けて行く。

手術を控えた小学生の子供から手紙をもらったプロ野球選手。
さして活躍しているわけでもなく、ファンなんてほとんどいないからか、すっかりテンション上がって、手紙に返事をすぐに返して、病室を訪ねてきたみたい。
次の試合、ホームランを打つよ。だから、君も勇気を持って手術を受けるんだ。と言うために。
本当はそれほどの実力は無い。それには、きっと自分も周囲も気付いている。
ちょっとというか、かなり想像と違ったのは、待っていたのが32歳の少し歳下の同世代のおっさんだったこと。
お前は人気が無い。ファンなんてきっと自分ぐらいしかいない。でも、ずっと応援している人もいる。だから、そんな自分を認めて受け入れて、その上で活躍できるように頑張ればいい。
クソ生意気なことを言われてケンカになりそうになるが、その言葉は、残念ながらプロ野球選手が訪れるまで命が持たなかったこの男の息子の伝えたいことだったらしい。
息子の父親である男は非礼を詫びて、真実を語る。
プロ野球選手は自分自身を振り返り、見つめ直す。何かいいものをもらった気がする。
頑張ってみよう。精神的には大ホームランを打つ気で明日の試合は臨もう。
そう誓うプロ野球選手に男は言う。いやいや、物理的にも是非、特大ホームランを。天国にいる息子に届くくらいの。二人は互いに幸せの笑顔を浮かべて別れる。

と、既にだいぶ長くなったが、冒頭の30分ぐらいでこんな3つの話を観る。
話を創っているのは一人の男。いや、人の人生、運命を司る神様なのだろうか。
幸せが足りない。誰が幸せになったの。
厳しい口調で男を責める女性。上司なのかな。
いや、まあまあ、みんな幸せになったと思うのですが。
男はそう反論するが、確かにはっきりしない幸せだ。幸せが薄っぺらいし、一過性で未来にその幸せが続くような感じがしない。
幸せにしなさい。世界みんなをなんてことは言わない。7人でいいから。ちょうどテノヒラサイズぐらいのレベルなら出来るはず。
あと、こいつだけは不幸にしていい。幸せは誰かの不幸の上に成り立つものだから。女性の指す先には馬場がいる。
女性の指示に逆らう余地は無い。
出来るだろうか。前回、短編を一緒に創り上げたとはいえ、今回、初めての長編なのに。座付の作家さんに相談した方がいいか。
悩みながらも、筆を執る男。
やるしかない。今はこんな風に神様となって、いや神様になる試験を受けているような状況だが、かっこいい役者さんに憧れて、役者を目指すものの、目立たぬ斬られ役者としてその生涯を終えた自分としては頑張ってみるほかはない。

馬場は生まれた時から、不運を保証されたような男だった。だって、5歳の時点で、もう今と変わらぬ姿だったのだから。
おかげで父は家を出ていき、世間には内緒にした方がいいような仕事をする母手一つで育てられる。
小学校3年の時だったか、一度、父が母に内緒で会いに来てくれたが、別れた瞬間、交通事故で亡くなってしまう。
葬式では、兄の存在を知る。父は、自分の母と出会う前に既に女がいたらしい。要は、母との生活は浮気だったということ。

そんな馬場の身の上話を興味深そうに聞くお嬢様。
何百人もの爺やを従え、お金は腐るほどあり、家族旅行と言えば宇宙旅行といった人生を過ごす。趣味は読書らしく、今、馬場から聞く話は、きっとどんな小説よりも面白いみたいだ。
駅員が割り込んでくる。
ブラブラするのにも飽きてしまったらしく、自分の身の上話もしたいと言い出す。
馬場はせっかく、お嬢様の気を惹きつけたのにといい顔をしない。またしても、自分はないがしろにされる。すっかり卑屈さが身についてしまっている。

駅員はいつもつるんでいる仲間がいた。男三人組。
そのうちの一人が面白い仕事を持ち込んでくる。
銀行強盗の対策訓練。
警察が準備した銀行には内緒で行われるものらしい。日当もかなりいい。
男たちは綿密な計画を練り、その日を迎える。
もう一人の男が自分の彼女を連れて来る。どうせ嘘の銀行強盗なんだから、遊び半分だ。
この仕事を持ち込んできた男は、ふざけるなと追い返そうとする。元カノらしく、何となく空気が悪いこともあるのだろうが、それだけが理由では無いみたい。
結局、仕事を持ち込んできた男と元カノが外の車で待機。実行犯はもう一人の男と駅員ですることに。
綿密に計画を立てていただけに、スムーズに事が運ぶ。
お金をいただき、車に載せる。そして、実行犯の二人も乗り込む。
が、車はその前に急発進。実行犯の二人は、銀行員にカラーボールを好きなだけ投げつけられ、確保される。
いっぱい喰わされたらしい。これは本当の銀行強盗。
逃げた男は、手に入れたお金で豪遊。金が欲しかった。金があれば何でも出来るから。幸せを手にできるから。
その後、男は捕まり、懲役10年となる。
駅員は罪には問われなかったものの、世間を騒がせた代償か、今ではこんなさびれた駅で駅員を細々としている。
と、そんな話をし終えて、立ち去る。
次の電車が来るまでの間に病院に行かなくてはいけないらしい。手術を控えた息子が入院する病院へ。

さらに一人の男がやって来る。
次の駅から歩いてやって来たらしい。
馬場には見覚えがある顔だ。席を譲ってくれた人。
話を聞けば、昔の彼女のことを思い出していたらしい。
銀行強盗に巻き込んでしまい、迷惑をかけた女のことを。
ボーっとして、前の席の女の顔をずっと見ていたらしく、睨みつけられる。
焦って、思わず、席を立ってしまったのだとか。
そして、降りる馬場を見ていた時、見覚えのある顔の駅員が目に映る。それで次の駅で降りた。
でも、これも運命だったのかと感じた。馬場と出会い、馬場に席を譲り、馬場にどなられたことが。
馬場に感謝の意を表し、これまでのことを全て詫びる決意をする。
既にここに残りの二人も呼び出しているらしい。元カノと今でもきっとその女と付き合っているだろう仲間の男を。

とこんな感じで、神様が描く最初の3つの話が繋がっていきます。
舞台は対面円形回転舞台。白子が時折、舞台をクルクル回したりします。
対面という形の出会いや、巡り巡って回る人生みたいなイメージでしょうか。
この後、銀行強盗事件の仲間三人と元カノは再会し、想いをぶつけ合うことで、過去に縛られることなく、生きていけるようになります。
駅員は息子が悲しい人生の結末を迎えますが、まあ、幸せとは時間ではないでしょうから。過去の仲間の裏切りに囚われ続けていたことから解放され、息子と最期の時までを充実して過ごしたのでしょう。
元カノと男は、一緒に逃亡したとか、元々、あいつと付き合っていたとかで、口には出せないわだかまりがあったみたいです。でも、そんな過去は変えようもなく、大切なのはこれからをどうしていくのか、今がダメならどう変えていくかしか人生は出来ないことを悟り、それなら、これからを二人で歩んでいこうみたいな感じになったようです。
張本人の男は、仲間からの許しを得て、これで本当に罪を償えたようです。今は無理でも、またいつの日かみんなと出会える日が来るようにこれからを頑張るつもりなのでしょう。幸いなことに無職でしたが、お嬢様の爺やとしての職も得ます。
お嬢様は、世間知らずでしたが、こんな話を聞く中で、人それぞれの幸せの形を感じることが出来て、一歩成長を遂げたようです。

これで五人。幸せになったのが。
それは金でも地位でもありませんでした。想いだとか経験が、人を成長させ幸せにする。というか幸せを手に入れるべく、充実した人生を進もうとする状態こそが幸せなのかもしれません。過去を受け入れて、これから出会う運命の数々に立ち向かう自信を得るような。
まだ、二人足りない。
馬場は不幸にしていいという条件でしたが、幸せにはやはりなれないのでしょうか。
彼のおかげで、銀行強盗の仲間たちは再び出会えて、分かち合いの時間を持てた。お嬢様も貴重な経験が出来た。
人を幸せにすることが、幸せであると言えるなら馬場も幸せなのでしょうが、やはりそれは綺麗事なのか、今の馬場はそんな状態では無いみたいです。
みんな幸せになって、また自分だけ置いてけぼり。すっかり卑屈になって、完全に荒んでしまっています。
お嬢様に金をくれと言い寄る始末。醜き人の姿とはまさにこれといったような感じになっています。

見かねた神様は遂に自分を彼の人生に登場させてしまいます。
本当は、ちょっと前にも登場というか、同じ時を過ごしていたのですが、彼は気付いていないことでしょう。
まあ、これだけ不幸が重なる人生だったから、馬場が腐ってしまうのも仕方が無い。
彼には兄がいます。その兄も同じような境遇だったのですから、馬場と同じような人生を歩むはずです。
でも、彼の兄は誰からも憧れの存在である役者となり活躍します。
その役者に憧れ、斬られ役者として一緒の舞台に立ったのが、神様だったのです。
神様は独り取り残され、くだをまく馬場と接触します。
馬場は覚えていました。神様のことを。
あの日、兄の舞台を観に行った時に、目立たぬ斬られ役者ながらも輝きを放っていた神様のことを。
神様は自分のことを観ていてくれた人がいる。そんな事実に感激して幸せな気持ちを得たみたいです。
馬場も幸せにしてあげないと。
神様にはそれが出来るはずです。
神様は筆を再び執り、彼に宝くじを当てます。
馬場はその金で宇宙に飛び立ちます。お嬢様の影響なのか、金持ちがすることを真似るように。
そして、その宇宙船に小さな球が直撃。
その爆発して燃えながら落下する宇宙船は、地上からは美しい流れ星として、一組のこれからのカップルを含め、多くの人を幸せな気持ちにさせたようです。

幸せになった六人目は恐らく神様自身ですね。
では、七人目は誰なのでしょうか。馬場ではきっと無いはずです。
人それぞれの幸せの形だから、そう捉えるのかなあ。
でも、それでは、そんな一時の金では幸せは手に入らないという作品の根底を覆してしまうことになります。それに厳しそうな神様の上司。最初の条件である馬場は不幸にということを無かったことにするとは思えません。
プロ野球選手でしょうか。
これなら筋は通るのですが、役者さんが被るんですね。銀行強盗の仕事を持ち込んだ男と似ているという設定なので、同じ役者さんが演じています。
ここがどうもしっくりこない。
色々と考えたのですが、七人目はこの作品を観た私たち一人一人でしょうかね。
各々、過去は違えど、今、こうしてテノヒラサイズと出会い、その公演となる劇場に足を運ぶ。
そこで、えらい巧妙にうまく出来た素晴らしき面白い作品を観て、人の幸せなんかにもちょっと想いを馳せる。
この作品で、作・演である神様が、書き記した過去を変えることは出来ずとも、これからが変わりながら、その作品の中の人たちが幸せになっていく。そして、さらには自分自身も幸せを手に入れる。
私たちもこの作品の登場人物のように色々と異なる。決して普通の人ではない。
だからこそ、自分たちで運命を変えて人生を進めて行けるはず。きっと、神様のような人に与えられた脚本から、個々の役者さんも一緒になりながら、話の運命を変えていくように。
神から与えられた運命は、当然、過ぎ去ったことは変えられないけど、これからはいくらでも変えることが出来るし、幸せだって手に得ることが出来るようなことを伝えているようです。
運命は神にゆだねられるものの、自分の人生の作・演は、きっと神様にお任せではなく、役者である自分自身も一緒になって切り開かれるべきものなのだろうと感じさせられるような話でした。
その気持ちがきっと幸せに通じるのでしょう。

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コメント

4日11時半~観劇。テノヒラサイズは初。おぼろ'14の後に松木さんの話で12月の公演を教えていただいたのに夜公演のみで行けず。他劇団の公演では川添さん、田所さん、上野さんも拝見していますが。田所さん、上野さんは今日で名前と顔が一致。椅子をうまく使った演技でしたね。演劇とは想像と創造やなあ、と思う公演でした。最初は湯浅さん(笑)そして田所さんが印象に残ったかな。まあでも皆さん上手い。脚本も巧みでしたね。早起きして後半少し眠くなったのが残念f^_^; 今日はこの後十三のハルミン。仏壇観音開きは取れませんでした(〃_ _)

投稿: KAISEI | 2015年4月 4日 (土) 14時19分

>KAISEIさん

テノヒラさんも初でしたか。
安定した実力を感じさせる面白い劇団だったでしょ。
観たい劇団が増えていきますね。客演の役者さん通じたりして、ねずみ算式に。

座付の作家さんがいらっしゃり、この方も今回と同じような巧妙な脚本を創られるので、初期の頃からずっと変わらず安心して楽しませていただいている劇団の一つです。
パイプイスは十八番みたいで、ちょっとしたものなら形作ってしまうようです。

ハルミン、観音開きともに観たかったのですが、あっという間に前売り完売。
今週は仕事に専念する週末となりました。

投稿: SAISEI | 2015年4月 5日 (日) 16時14分

ご存知かと思いますが一言余計なお世話を(笑)
完売してても連絡いれれば前売ムリして取ってくらはる場合ありますよwホンマに無理な時ありますが。私ごときで大丈夫なので況んやSAISEIさんならそとばさんも観音開きさんも迎え入れてくらはるでしょう(笑)

投稿: KAISEI | 2015年5月 5日 (火) 23時00分

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