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2015年4月24日 (金)

親愛なる凸と凹へ【浪花グランドロマン】150424

2015年04月24日 シアトリカル應典院 (100分)

この劇団として、初めて浦部喜行さん以外の方が演出をされた作品らしいです。
浦部さんは直接、お会いしたことはありませんが、かなり年季の入った演劇人だということで名前を存じ上げております。
そんな方に代わって演出されたのが、25歳の細原愛美さんという方。今作品にもご出演されていますし、これまでも、舞台で可愛らしいお姿を拝見したことがあります。
そんな若手演出デビューを前面に押し出しているからでしょうか。
どんな違いが出るのかをどうしても注目して観てしまいました。

確かに若いという感覚はあります。そして、女の子が描いた作品だという感覚も。
ラストなんて、久しぶりに心がキューっとなる甘酸っぱさがあり、心地いいやら、気恥ずかしいやらで。
ものすごく、純粋に人や現実を見詰め、そこに若い人たちが夢だなんてものを背負って生きていくことへの悩みが露骨に隠れず噴き出しているようでした。
今の自分は何者なのか、どこに由来があるのか、進もうとしている道の原点を自分は分かっているのか・・・など、未知のこれからを生きる不安を漂わせながらも、自分のこれまでを見詰め、そこから自信と勇気を得ようとしているような感じでしょうか。
今まで経験してきたことや、出会った人たちから得たことは、自分が本当に進みたいと思っている道、夢という言葉で置き換えていいと思いますが、そんな夢を自分が掴み、実現へと向かって進む大切なものであったことを思い起こすような感謝と覚悟の想いが感じられるような話だったように思います。
ただ、同時に古臭い感覚も残ります。
来週に唐組の大阪公演があるから、そう感じたのかもしれませんが、ちょっと昭和色やアングラ色も滲んでいるなあと。
無茶苦茶にシュールだったりするシーンの雰囲気が、妙にそんなアングラ芝居を観る時に感じる空気と似ているような気がします。
若い女性が描く甘酸っぱい乙女心を含め、ファンタジーとアングラを融合したような、新たなジャンルとして考えてもいいような新感覚な作品だったように思います。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

美大に通う女の子、ユキ。名前の由来は優しい希望。
おかしな夢を見る。
郵便屋さんいらっしゃいとかいう縄跳び遊び。子供たちに誘われて、1回だけねと参加したら、急に動けなくなってしまった。一枚、二枚、三枚と郵便屋さんが現れて頭上から手紙を落としてくる。
体が動かない。子供たちは縄で縛ろうとしてくる。
やめて。そう叫ぶと目が覚めた。
バイト先の喫茶店の中。
口より先に手が出る女性マスターから、しっかりしなさいとメニューで頭を叩かれる。そんなマスターに頭が上がらない男は夢占いの本を持ってきて、今の夢を分析しようとしてくるが、仕事をしてとマスターに叱られる。

卒業危うし。サボり過ぎたのか、単位がギリギリ。
今は、バイト先の喫茶店で先生から恩情をかけられて、レポートを書いている最中。
そんな現実が蘇る。
喫茶店に同級生の女友達がやって来る。
なぜか懐かしい気持ちになってしまうことは、どうしてか分からない。
卒業できないことを実家に帰った時に親に言えなかった。
だから、友達に手紙を書けと言われていたことも思い出す。

知らぬ間にまた夢を見る。
妖精たちがやたら自分にじゃれついてくる。
自分を上品なお姫様のように仕立てようとしているらしい。
それは無理だ。
怠惰で、がさつで、いわば女子力に欠けている私には。そんな純粋なお姫様なんかには夢でもなれないだろう。
そのうちに悪そうな魔女が現れて、なぜかシャープペンシルの芯が刺さって死んでしまう。
気付いたら、また喫茶店。
喫茶店に後輩の女の子たちがやって来る。
後輩からは、なぜかものすごく慕われて、成人式に着る服をどうしたらいいかなんて相談をしつこくしてくる。付き纏われてうっとおしい。さっきの妖精たちみたいだ。
自分の時はめんどくさかったし、その時はインフルエンザで熱を出して式にも出なかった。
あの時のインフルエンザはきつかった。今と同じくらいの熱が出たかも。
今と同じ?今は元気だけど。どこかおかしな感じがする。
先生もやって来る。悪い魔女じゃないか。思わず口に出してしまって、先生を怒らせる。
単位を取らせようとしてくれている先生。今、一番、気を遣わないといけない人だ。
同級生の男も。
この男は要領がいい。自分と同じくらいにさぼっていたのに、卒業は余裕みたい。こんな男のことが、同級生の女友達は好きだと言うのだから不思議なものだ。だいたい、一緒に旅行の計画を立てて、その日を間違えるような人なのに。
でも、この男、卒業後は海外留学してグラフィックを学ぶのだとか。
卒業、そしてその後の道も決まっていて羨ましいような、置いてけぼりをくらったような。
そういえば、先生の娘も同級生。彼女は才能に恵まれているのか、人気の絵本作家だ。きっと、このまま活躍するのだろう。自分も絵本が好きだけど、ずいぶんと差をつけられたものだ。

また、眠ってしまったみたい。
今度はウサギが現れ、お茶会を開こうなんて言っている。
自分はアリスなのかな。
そんないいものではないみたい。
可愛らしいアリスが現れる。不思議の国を冒険して、色々と活躍するのはやっぱり、あの子なんだろう。

浦島太郎。
カメを助けるのは誰なのか。
もらった玉手箱。
何が詰まっているのか。この小さな箱に。幼き頃の夢でも入っているのか。開けてしまえば、その夢はどうなってしまうのだろう。

白雪姫。
せっかく、可愛らしいお姫様になったのに、魔女に渋柿を食べさせられて、すぐに夢の中でまで眠ってしまった。
募集をかけるものの、7人揃わない小人たちが起こそうとしてくるが、目は覚めない。
王子様もやって来るが、さしてやる気はなさそう。
自分にそれほど興味が無いのか。
結局、自力で目を覚ますが、狸寝入りだったんだろう、狸が化けている、なんて言われてみんなに責められる。
私は人間。
でも、人間だってどう説明したらいいのだろう。

夢と現実の狭間なのか、どこを彷徨っているのか。
眠っては目覚めて、そこはまた眠りの中の夢のようで。
そんな不思議な世界を彷徨うユキ。
最後に気付いた現実は・・・

ぐちゃぐちゃになってしまって、実際に進んだ話の流れとはだいぶ異なっていると思いますが、だいたいこんな感じの話。
ユキが夢の階層を彷徨いながら、その夢での出来事をちょっとファンタジーっぽく可愛らしい感じで描きながら、今のユキの置かれている状況を浮き上がらせているようです。
才能恵まれている人を見て、自分に劣等感を抱いたり、嫌な奴を見て、こんな奴の方が巧く生きられる世を恨んだり、自分も若いけど、まだ人生分岐点に差し掛かっていない若い者を見て、妙な苛立ちを感じたり。
自分の道をしっかり進む。夢を持って、その夢に向かって前へ進む。
それは分かるけど、その夢ってどこにあるのよ。
そりゃあ、幼い時は、何でもかんでも夢だったけど、今は卒業すら危うい現実が突き付けられてしまってみたいな感じでしょうか。

夢と言っても、その中の人たちは全然、思い通りに生きていない。
不条理、思いのままにならない世の中の象徴でしょうか。夢も現実もそんな差は無いようです。
それでも、その夢の中で、各々、楽しく生きていこうとしている姿が映し出されます。
ユキにとっては絶対的な存在だったのであろう、人気の絵本作家の同級生だって、自分たちと同じように恋に悩み、自分の進むべき道に迷い、満たされていない日々を過ごしているようです。
自分が幼き頃に描いていた夢。そんな夢が詰まった玉手箱のような小さな箱は、未だ開かれて、彼女を大人へとはしてくれていないよう。
でも、そんな夢がユキを今の自分にまで導いてくれたことは確かでしょう。
夢ばかり見ていても仕方ありません。掴もうとせずにただ、見ているだけだから。
本当はそんな夢は自分の中に既にしっかりあるのかもしれません。それを見詰めて、その夢を自分の人生の中で開放してあげる。
それを実現するには、今、目に見えている障害だけを乗り越えて進めばいいわけではないでしょう。まだ見ぬ、苦境をも乗り越える覚悟を持って、前へ進んでいく。
その先に、本当の夢の実現への入り口が待っているような感覚を得ます。

ラストは25歳を迎えるユキがインフルエンザの熱も下がり、眠りから目覚めたところ。
全てはあの頃のユキ、そのユキが見た夢の夢だったみたいです。
お世話になった喫茶店の人たちや先生、同級生、後輩たちがバースディーサプライズのために待ち構えています。
郵便屋さんは絵本作家からの手紙を届けます。
本当はあの頃、ユキと同じように踏み出せないでいた彼女は、今、一足先に夢ある人生を駆け巡っているみたい。
今、少しずつ、前へ進もうとしているユキへの想いを伝える手紙でしょうか。
そんな繋がり合う人の想いを拾って、届け、受け取らせることで伝える役割を果たすべく、いつでも傍にいるのがそんな郵便屋さんのようです。
ユキは、郵便屋さん自身にも、自分の想いを伝えようとします。25歳となって、多くの人から祝福され、これから夢を見詰めながら、前へと踏み出す今日。
その今日に至るまでに経験したことや出会った人たちのことを、夢に見て、大切に感じられるようになったのでしょうか。
その今日、みんなの想いがこもったバースディーケーキの上に載った甘酸っぱそうなイチゴはユキが女心を魅せるようにまで成長した証のようです。

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