Take me out to the moon ムーン組【太子堂事務所】150328
2015年03月28日 シアトリカル應典院 (90分)
幼き頃、病気で死と直面した女性が、立派な大人になるまでの時間を描いている。
一度は失われかけた生。これを大切に守り抜き、この今の時までずっと繋げてきたのは両親、家族、恋人、友人たち。
そんな優しくも崇高な人の触れ合いを、月と地球のような宇宙の感覚で描き、生命誕生や成長の奇跡へと結びつけているような話に感じる。
ただ、観た感想はどうもしっくりこない。
人が触れ合うことの温かさや尊さは感じ、人生が宇宙のように数々の奇跡の連続で繋がっている時間であるような印象は受けるのだが、どうも深く入り込めず、淡々とした事象から無理に思わせているような感が残る。
たかが素人が脚本にケチをつけるようなことはおこがましいとは思うが、淡々とし過ぎていて、感動までたどり着かなかったのが正直なところ。
料理でいえば、料理のレシピやその調理方法にきっと、もっと巧みさを入れて、心震わせる作品にまで出来たように感じる。
ちなみに、料理とたとえるなら、役者さんは素材みたいなものだろうか。この素材は絶品だった。
主人公の姉の感情豊かな表現をはじめ、妹の姉とのナチュラルな掛け合い、姉妹を大切に想う心が自然に父として母としてにじみ出るような両親の役の方々。
話は単調で、やや退屈気味だったのだが、こんな素敵な役者さんの演技を見ているだけで、ある意味、感動はきっちりとしたと言っていいのかもしれない。
<以下、あらすじがネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>
娘誕生。
両親は当然のごとく大喜び。父は、高校生時代から女の子ならこの名前と決めていたユヅキという名をつける。弓月、いわゆる半月のことらしい。
そして、第二子誕生。本当は男の子が良かったみたいだが、無事に生まれてきてくれたのだから何の問題もない。姉妹なんてのもいいものだ。父はいずれ来たる娘の親離れを今から悲しんでいる。名前は男の子の場合でもつけられるようにカヅキ。下弦の月が由縁。
幸せな家族。・・・のはずだった。
しかし、ユヅキは、幼き頃、深刻な病気を患ってしまう。
医師は、命が助かるのは奇跡に近いと両親に告げる。
両親はユヅキにつきっきりになる。まだ幼いカヅキは、母方のおじさんに預けられ、さびしがっているようだが、こればかりは仕方がない。
このままなら死を待つのみ。手術をすれば治る可能性もある。でも、その確率は低い。それに手術によって、体力を失われたユヅキは今以上に苦しむ可能性もある。
悩む両親だったが、奇跡を信じて、手術を受けさせる。
結果、今、ユヅキは立派な女性として成長している。
ちょっとボーっとした感じの天然系ではあるが、月が好きな女の子。妹のカヅキも慕い、仲良くやっているみたい。
病気が再発する可能性もあるので食事制限や運動制限が必須であるが、可愛らしいので、母方のおじさんもついついお菓子をあげてしまったりして、母に叱られる。まあまあとなだめるのはいつも父だ。
すくすく育ち、親族では初の大学入学を果たし、親戚一同から祝福される。なかなかモテるようで男の子といつも電話。今度は父が怒り心頭。年頃の女の子なんですからとなだめるのは母。
就職して、父の娘可愛さからの必死の説得虚しく一人暮らしを始める。特に一人暮らしをする必要性は無かったのだが、両親から過剰に受ける愛情に窮屈になったのか、それとも妹にそんな愛情を少し返してあげたかったのか。
ユヅキは今はフリー。
彼氏がいたが、ちょっとしたスレ違いから別れてしまった。
それでも、言い寄ってくる男は後を絶たないみたいで、マンションの管理人は実家で獲れた野菜を毎日のように渡して接触を図ってくる。なかなか賢明な子のようで、野菜だけをいただいて、ほとんど相手にしない。得体の知れない男は家にすらあげない。厳重に鍵をかけて、管理人は一歩も踏み入れることができない。
たまにやって来るのは妹のカヅキ。彼氏とケンカしたと言って、泊りにやって来る。くだらないケンカだ。まあ、仕方ないので泊めることもあるが、厳しく謝って仲直りしなさいと厳しい姉に姿を見せることも。
仕事はまずまず順調。ちょっと自分勝手な上司がいるけど、怒りをこらえて何とかやっている。
同窓会では、初恋の人と再会。あの素敵だった初恋の人。
歳をとるという現実は残酷だ。もう二度と会うことはないだろう。
二度と会うことはないといえば、元カレ。そう思っていた彼から電話。
もしかしたら、よりを戻したいのか。
退院の時、入学の時、よく覚えていない時と色々な節目でプレゼントされた部屋のぬいぐるみたちと一緒にどうするかを議論。ちょっと、妄想癖がある。
結局、昔はよく一緒に行ったドライブからの月光浴。月がとても綺麗。
どうして別れたんだっけ。確か会いたいとメールを出したけど、仕事で会えなかった。あの時、会っていたら、今の私たちはまた違う姿だったのだろうか。
時は戻らない。互いに進むべき道をしっかり歩んでいかないと。いい時間だった。
家に帰ったら、珍しく父が訪ねてくる。母からはよく電話があるが、あまり家には帰っていない。
自分でしっかりと生きていく。それと親に顔を見せることは全く別物なのだろうが、なんか気が緩んでしまいそうで、疎遠になるなんて時期はどうしてもあるのだと思う。
とりあえず、卵しかないから、卵料理で一緒に飲む。父の夢の一つはきっといつの時も、子供と一緒に飲むことなのだろうか。父は夢が叶ったことがとても嬉しそう。つまみには難色を示しているが、栄養を取るために卵を欠かすなと言ったのは父だ。
そんな中、妹から電話がかかってくる。
父が・・・
ごめん。元気でと去っていく父。
小さくなった父を抱えて、姉妹は帰路の電車の中。
母は昔はかなりの美人で、父も射止めるのに相当苦労したのだとか。
射止めてなければ、今、私たちはいなかったわけで。
もしかしたら、ユヅキが今の小さくなった父のようになっていたかもしれないわけで。
ユヅキが男だったら、カヅキはきっとユヅキと名付けられたはずで。
戻ることのない時間の中、色々なことが偶然に起こり、今、自分たちがいる。
そんな自分たちを生み出し、育ててくれたのは、今は何も語ることのない小さな父と帰りを待つ母。
ごめんね。グッジョブ。そんな言葉しかかけられない。それと、今、こうして笑っている二人の姿で許してね。
きっと、それだけで十分過ぎるくらいに十分なのだろう。
両親、恋人、友人、ぬいぐるみ・・・と周囲の人たちに大切に想われて、今、大きく成長し、これからを生きる二人の月が優しく輝く姿で話は締められる。
月の誕生。
セリフで語られるが、全てを頭に入れることは出来なかったが、地球の欠片だったり、共に生まれたりと、要は親子や家族みたいなものなのだろう。それも、奇跡的に生まれた。
何かがなければ、こうならなかったかもしれないことの連続。その結果、きっと今の宇宙は出来上がっている。
そのことを人の人生と相関させているような感じの話だろうか。
月は地球に輝きを見せる。周期的にそれを失うことがあったとしても、必ず。何が宿っているのか、裏側を見せることなく。それを、とてつもない膨大な時間繰り返してきた。
そんな果てしない宇宙をイメージさせながら、人の命の誕生、その成長、その中での人との触れ合いの奇跡を見出そうとしているように感じる。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント