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2015年3月29日 (日)

歌うシンデレラ【関西芸術座付属演技研究所第58期生卒業公演】150329

2015年03月29日 大淀コミュニティーセンター (70分)

学芸会みたいな感じでした。
と書くと、低次元だと馬鹿にしているような感じになるので、言葉を選びたかったのですが、他の言葉が見つからず。
褒め言葉として書いています。
舞台に登場する方々がイキイキしており、とても楽しそう。一つ一つの言葉や動きを、しっかりと熱を込めて丁寧に表現されようとしているのが、観ていて非常に伝わってきます。
話は別役作品だからよく分からなくても、終始、微笑ましく楽しい気持ちになる。これは、学芸会の舞台を観ている時の感覚ですよね。
少しだけダメ出しをしておけば、演技としてはそれは熱演として伝わるのでしょうが、ダンスとなるとまた違うみたいですね。ぎごちなさみたいな感じになります。まあ、これも初々しさとして、微笑ましく素敵だったと思います。

話としては、やはり訳が分からない。別役作品は不条理というより、奇想天外ですね。でも、ちょっとしたところで、色々と考えさせてくれるところがとても好きです。これを全部、繋げ合わせる力があれば、もっと楽しめるんだろうなあ。
題名どおり、シンデレラとか出て来て親しみやすいし、ミュージカル調な楽しいシーンも多いし、笑いのセンスもけっこうコテコテでドリフっぽい感じがして、子供の方が受けそう。
と思って観ていましたが、最後にこの考えは覆されました。
これは大人が観たい作品ですね。
あの頃、見た風景、出会った人たち、想っていたことをたくさん思い出して、今の自分を温かく見詰めてみる。
自分の心の中にはこれまで得てきたいっぱい大切なものが詰まっている。それはちょっと思い起こせば湧き出てきて、今の自分の幸せを感じさせてくれるような話でした。

森の中にあるよろず相談所。
所長は寝坊助の長靴を履いた猫。
しっかりした助手の兎に掌で転がされながら、やって来る人たちの悩みを解決する。
と言っても、空を飛びたい人には飛行機に乗れって程度の誰でも考えそうな解決策しか言わないのだが、本人は自信満々。
まずやって来たのは、ゴージャスなドレスに身を包む体も態度も豪快なシンデレラの継母に、遠目では綺麗に見えるが、しっかり見たらどう考えても男の姉妹。
王子様とどうやって結婚するかが悩みかと思いきや、いじわるをしてみんなに迷惑をかけるのをどうにかしたいという、ずいぶんと謙虚な相談。ついつい、人をつねったりしてしまうのだとか。
3人でつねりあえば、迷惑はかからない。なかなか、トンチの効いた解決策を提言して帰ってもらう。
次にやって来たのは老人。ボケているのか、自分は森だなんて言っている。適当にあしらう。
クマの姿をした王子とその侍従。いや、クマが王子の姿をしていると言った方がいいか。シンデレラを探しているらしいが、何か食欲の方が勝っているらしく、長靴を履いた猫は食べられそうになる。逃げるしかない。
空になった事務所にシンデレラと仙女とトカゲがやって来る。トカゲはカボチャを持っている。シンデレラは王子様を探している。せっかく舞踏会で出会ったのに、しっかりとガラスの靴を両方履いて帰って来てしまったのだとか。

そんなことをしているうちに、クマ王子が長靴を履いた猫をとっつかまえて戻って来る。
そして、継母や姉妹も、ちょっとあの解決策では自分たちが辛いと戻って来る。
一同勢揃いしてごちゃごちゃの中、長靴を履いた猫は、順番に相談に乗ると場を収めようとするが、いつの間にやら、みんなは長靴を履いた猫を食べるということでまとまってしまう。
どうやって分けるか。誰がどこを食べるか。どこがおいしいか。
みんなの議論が続く。
長靴を履いた猫は、何とかしようと意見を述べるが、みんな聞く耳を持たない。
りんごを食べる時、食べられるりんごの意見を聞く奴がいるか。食べる者がどうするかを決める。そんな理論らしい。

何か国際情勢みたいなもののメタファーだろうか。
長靴を履いた猫なんてさほどおいしそうなものではない。でも、欲に憑りつかれた者たちは、それを我先に手に入れようとする。奪われる側の意見などは全く無視して。
とにかく食べればいい。食べる側がたくさんいるなら、調整をして、誰がどこをいただくかを決める。食べないという結論が導かれるのは無理みたいだ。
弱者を奪い合う者たち。奪う者が必ず強いとは限らない。知らぬうちの流れで強者側に付くことになったからだけ。

そのうち、老人がやって来る。
老人はまだ、自分が森だとか言っている。
そして、森だから自分が食べるという訳の分からないようなことを言い出す。
一同、森の老人にも食べさせることにする。少しだけ。そうした方が場が収まると考えたのか。

このあたりは、環境問題みたいな感覚でしょうか。
森を自然と捉えて、自然からの恵み物を、同じく自然に生きる者たちがいただく。でも、全部食べちゃう訳にはいかない。自然にも一部返さないと。
それでも、こんな森みたいな老人にはやらなくてはいいんじゃないか。自分たちだけで食べちゃえみたいな冒涜を犯す人間に姿がイメージされる。

そして、何か分からないうちに、みんな我に返ったのか、食欲の呪縛から放たれて、本来、自分たちがしなければいけない目的にようやく目を向けられるようになったのか、互いの相談事を語り合い始める。
クマ王子はシンデレラを探している。クマの姿をしているから、王子だとは信じてもらえず、王子を探しているはずの継母や姉妹までも一緒になってみんなからバカにされる。
シンデレラは王子を探している。でも、目の前にいる王子は違うらしい。こんなクマみたいな人ではない。クマ王子も、同じく、目の前のシンデレラは違うと言う。クマ好みなのか、もっと巨漢な女性だったらしい。
話をしているうちに、どうも時代もズレていることが発覚する。
クマ王子が舞踏会でシンデレラと出会ったのはもう数十年前。シンデレラが言う舞踏会はわずか3年前の話。継母や姉妹は5年前だと言う。
よく分からない。分からない時は、神様に。
ここでは、森の老人。なんせ老人だから、昔のことをよく知っている。
彼を呼び出し、聞いたところ、舞踏会はもう千年も毎年開催されているのだとか。
ということは、各々、違う舞踏会に参加して、違う王子、シンデレラと出会っているようだ。
彼が言葉にしたのはここまで。残りは手紙をみんなに渡す。
手紙には今夜、森に行って探せば、0:00に目的の人に会えるのだとか。

各々が森に向かい、暗闇の中、目的の人を探す。
暗闇は怖い。お化けが出そうだし。
各々、探す人は別々でも、みんな一つになって探せばいい。
いつしか、そんな雰囲気になり、みんなは一体化して、森を彷徨う。
森の中の動物たちやお化けたちが眠りについた頃、0:00。
みんなの目の前に、あの懐かしき城が現れる。
別々の時に生きた者たちだが、みんな、あの城で行われた舞踏会のことを覚えている。
みんなは、この森で仲睦まじく踊り出し、あの舞踏会が再現される・・・

何やらよく分かりませんが、覚えている限りを書くとこんな感じ。
みんな各々、生まれてから違う時間を過ごしてきている。
歳をとって、欲に憑りつかれた言動に囚われてしまうようにもなる。
人生の目的も異なるので、心同じくしていた者同士が相反するようになることも。
でも、あの頃に見た風景、出会った人、想っていたことは、きっと、誰もがいつまでも同じなのかもしれません。
そんな大切なものが、心のどこかにあるのではないでしょうか。
どんな人たちとも手を取り合い、楽しく踊って夢を見ていた時間。
ほんの少し自分の心の中に住み着くようになった悪い獣やお化けを眠らせて、優しく静かに心を見詰めてみたら、そんな頃の思い出が、私たちの心の森の中に蘇るような感覚が温かみとして伝わるような話でした。

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コメント

おはようございます!
トカゲ役をさせて頂いた上沢拓也と申します!
ご感想ありがとうございます。
まだまだ未熟者なので、これを機に今後の励みにして頑張ります。
ご来場ありがとうございました!

関西芸術座附属演劇研究所58期生 上沢拓也
※5月1日より関西芸術座劇団員

投稿: 上沢拓也 | 2015年4月 4日 (土) 19時02分

おはようございます。関西芸術座劇団員
「歌うシンデレラ」では姉役をさせて頂きました前田英利です。この度は貴重ご意見ご感想をブログに挙げて頂きありがとうございます。又何らかの形で舞台等でお会い出来る様精進します。
これからも関西芸術座をよろしくお願い致します。

関西芸術座57期生劇団員前田英利

投稿: 前田英利 | 2015年4月 5日 (日) 00時55分

>上沢拓也さん、前田英利さん

コメントありがとうございます。
これからの関西芸術座を担うお若いお二人につたない感想を読んでいただき、とても嬉しいです。
今公演、とても楽しい時間を過ごせて心温かい気持ちを持ち帰ったことが伝わり、同時に今後のご活躍の糧に少しでもなれば幸いです。

関西芸術座は2009年に観に伺って以来。確か、酒面の月。
まだブログを始めていなかったので、感想は残っていませんが、人の優しさをしっとりと感じさせる素敵な話だった印象が今でも残っています。
なんか縁側にある靴を見せるだけで、その幕の家族構成や時間の経過が分かる演出に妙に観劇した覚えがあります。
この作品も、きっと子供のように楽しい雰囲気の中で、ふと大人になって忘れてしまっていた自分の大切な思い出や時間を思い起こさせられる素敵な作品だったと記憶に残ることと思います。

今後とも益々ご活躍ください。
また、舞台で拝見できる時を楽しみにしております。

投稿: SAISEI | 2015年4月 5日 (日) 16時35分

SASEIさん返信ありがとうございます。又のご来場心よりお持ちしております。この度はご来場ありがとうございました。

投稿: 前田英利(関西芸術座57期劇団員) | 2015年4月 5日 (日) 21時24分

公演の動画は、ありませんか?
もちろん、短時間の音声だけでも結構です。
というのは、私たち素人劇団でも、やることになったものですから、是非参考にさせていただきたいと思って・・・

投稿: エリオ | 2016年11月20日 (日) 11時00分

>エリオさん

コメントありがとうございます。

申し訳ないです。
残念ながら、全く持ちあわせておらず・・・

衣装とかけっこう凝っていて大変そうでしたけどね。
なかなか、楽しくも難解な作品に挑戦されるんですね。
成功を祈っております。

投稿: SAISEI | 2016年11月21日 (月) 16時20分

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