火曜日のゲキジョウ【劇団冷凍うさぎ×モンゴルズシアターカンパニー】150303
2015年03月03日 インディペンデントシアター1st (25分+25分 休憩15分)
今日はひな祭り。
私ぐらいの歳なら、まあ年頃の娘さんがいて、家に帰ったらちょっとしたお祝いをしたりする人もいるんじゃないだろうか。女の子の節句だから、食事でもしようかと彼女を誘い出している若い人もいるのかな。かくいう、私は、こういうイベント日は、スナックもちょっといつもより気合を入れた女の子がいるから、少し顔を出してお喋りを楽しむつもり。
まあ、この部分は帰りの電車の中で書いているから、感想本文を書く頃には行った後ではあるが。
楽しい日じゃないか。
で、何でこんな日に揃いも揃って、鬱々とせざるを得ない2作品を持ってきたのか。しかも、じっくりと深く話に入り込ませる本格的な力を持つような劇団を・・・
出来ることなら、ササッと感想を書いて忘れてしまいたい。
でも、こういう話はなかなか忘れられない。そして、こういった辛い事の方が忘れることが出来ない本能を持つのが人間なのか、その苦しみを描くような作品だったように思う。
<2015.03.04追記:すっかり忘れていました。劇団冷凍うさぎの作品、近々、京都で公演されるそうです。下記、若干、ネタバレありますので、そちらを観に行かれる予定の方はお気を付けください>
・「あくびの途中で」 : 劇団冷凍うさぎ
小さなテーブルに向かい合って座る男と女。
女が声にならない呻き声をあげながら、これでいいんだと覚悟したかのような男の頭を何度も何度もブロックで殴りつける。
また、いつものパターンだね。時間をまた巻き戻してみようか。男と女と赤い人では無きものが、嘆き、悲しみ、哀れみ、諦めを交えたかのような嘲笑を浮かべる。
もう何年経つのだろう。6年だったか。
ある家族の食卓で起こったカセットコンロの爆発事故。みんなでカニ鍋を楽しもうとしていた矢先の出来事だった。二人の子供は焼死した。夫婦を残して。
今、夫婦は自殺を決意して、この小さなテーブルに向かい合って座っている。
その夫婦を取り囲むのは、もはやこの世のものではなくなってしまった二人の子供。と、カニ。
夫婦は今、抱く想いを語り出す・・・
覚悟を決めたようで、どこかに救いを求めているのか、これが正しいことなのかと迷いの中に入り込んでいる夫。出てくる言葉は謝罪しかない。
そんな夫を突き放すかのような素っ気ない、非難的な態度の妻。でも、救いの手を差し伸べられるならそうしたい。でもそれは出来ない、していいことなのかと同じく迷いの中にいる模様。
そんな夫婦の不毛な会話を、冷静に、俯瞰的に眺めている子供たち。無感情で冷たく嘲りに近い言葉を夫婦にかける。でも、その言葉とは裏腹に二人の子供からは苛立ち、無力感、悲しみがうかがえる。嘲笑と同時に二人の表情は悲しく、目からは涙が溢れている。悲しい空間だ。
自責と断罪。
誰が悪いわけではない。でも、誰かを悪くするしかない。
でも、人を傷つけるのは嫌。だから、自分を傷つける。
自分勝手に、誰かを悪くしてしまえればどれほどいいか。夫婦の会話の中でも、相手を暗に責めて、自分を正当化しようとしているような言葉もうかがえる。
でも、従来、人は優しいのかもしれない。優し過ぎるのか。行き着く先は、断罪すべきは自分自身となり自責の念に苛まれる。
そんな人の優しさを逆手に取ったような辛さ。
夫は自殺で自分を罰する。妻は人を殺めることで自分を罰する。
バカなことをしている。早く新しく子供でも作ればいいのにと罵る子供たちのあきれ果てた笑い声は聞こえないのか。それよりも、二人の、時折、浮かべる悲しい表情や涙は、夫婦にとって射し込む光にはならないのだろうか。
どんな別れであろうと、親子であった事実、想い合って生きてきた時間までは消えることは無い。この作品は、それを証明している。
だったら、あなたたちが泣いていれば、子供たちはいつまでも、同じように悔い、悲しみ、辛さの中に身を囚われ続ける。
あなたたちと同じように、見つかるわけも無い悪い人を自分に照らし、自責の念に捕らえられたまま。そして、こうして永遠の時を彷徨う形で自分たちを断罪し続けるのではないか。
子供たちを愛した、そして今でも愛し続ける親だからこそ、今、出来ることは自分たちを許し、自分たちの人生の歩をまた進め始めなくてはいけないのだと思う。
といっても、それが簡単に出来ないのが人間。何かが悪かったとしないと歩み始められないのだろう。
書いていて思ったのだが、カニでいいんじゃないのかな。悪いのはカニ。夫でも妻でも子供たちでもなく。カセットコンロメーカーの人でもなく。だから、夫婦はこの憎きカニを貪り食う。あの時、食べられなかった子供たちの恨みを込めて。
何かそうすれば、この暗闇に少しだけ光が差し込むような気がする。
基準点5点に、役者さんの深みのある演技に、+1点の6点評価。
・鼠 : モンゴルズシアターカンパニー
地下鉄で働く二人の駅員。
一人はベテラン風。数年前までは、運転手をしていたらしいが、今は駅員として働いているみたい。
もう一人は若い男。転職して駅員となったらしい。前職は営業。トレッドミルとかいうルームランナーを販売していたのだとか。
そんな二人、今、暗いホームの下にいる。
飛び込み自殺があり、その死体を探しているのだが、一向に見つからない。死体特有の匂いはするし、監視カメラにも映っていたからどこかにあることは確かなのだが。
明るいホームの上では、サラリーマンたちが運行再開を待っている。各々、色々なものを抱えながら。自殺なんて他人事。自分は安全な所に身を置いて、上から目線でホームの下を眺める連中ばかり。
ベテラン風の男はあの日のことを思い出す。自分の目の前でニヤリと笑ったかのように電車の前に立ちはだかった男。急ブレーキのレバーを引いた後は何もすることは出来ない。衝撃音と轢音が頭に今でも響く。
いつの間にか若い男があの時の男に見えてくる。弟は適応障害で、あの日、事故にあいました。そんな言葉が聞こえてくる。全ては妄想なのか。
誰かが悪かったのか。答えのない暗闇の中で、気が触れそうになりながら死体を探す二人。
やがて、見つかる無残な死体が二人を現実に戻す・・・
ホームの下と上。
死と直面したことで生が揺らいでしまったような男と、死に現実性を感じずに生きる人たち。
せわしい会社の組織から離れてきた男と、未だそのせわしい世界を自分の生き場所にする人たち。
死へと向かった適応障害の人と、自分には関係ないと生ある日々を過ごす人たち。
どこに焦点を絞ればいいのか分からず、見ているうちに得る感情が分散する。特に、適応障害は、以前、この劇団の本公演を拝見しており、一つの大切なテーマとして取り扱っていることか理解できるが、この話の中で出て来る意味合いがよく分からない。この言葉を出すことで、描かれている生と死により分かたれた人たちが、その狭間で生きていることに苦しむ姿と恐らくはそんなものを意識もせずに淡々と生も死も感じずに生きている姿の相反する差がぼやけて、ホームの下と上の境界がそれほどはっきり見えてこないように感じる。
悪いのは誰か。誰も悪くない。このキーワードの一貫となっているのだろうか。
最後、現実に死はやって来て、誰かの心に突き付けられた。ベテラン風の男は再び。若い男は初めて。ホームの上の人にはそれは見えない。
受け入れることのできない死を知るということが、どれほど残酷なことか。それは、自らの生を揺らがすようなことにもなるみたい。
でも、そんな死は実は日常にも転がっているような気もする。マスコミとかを媒介するから薄れるのか、わざと目を背けて深入りしないでいるのか。
いつか来るかもしれない、死の突き付けに私たちはどのような覚悟を持って生きていけばいいのだろうか。
その答えを見出す光が無い限り、この作品はいつまでたっても暗く気味悪いものとしてしか映らないように思う。
評価は基準点の5点のまま。
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コメント
来られてたんですね(笑)前段ですか?私は後ろ2つ。8・8か7・7(たぶん7・7)をつけたと思います。冷凍うさぎは両親役のお二人の演技が良いと感じました。モンゴルズの方は脚本にひねりがないと思いましたが一明さんの演技が私の観た一明さん史上一番良かったかな。
投稿: KAISEI | 2015年3月 4日 (水) 18時07分
劇団冷凍うさぎの練間沙と申します。
ご来場誠にありがとうございました。この演目で京都での全国学生演劇祭も頑張りますので応援してくださると幸いです。
6月末辺りには本公演も行いますので、また都合の方よろしければよろしくお願いいたします!
長々と失礼しました。
投稿: 練間沙 | 2015年3月 4日 (水) 19時44分
>KAISEIさん
そう。いつものごとく、早い時間帯でしたが。
スレ違うかなと思っていましたが、けっこう混んでましたものね。
両親役のお二人は、学生劇団の頃の公演で拝見したことがあり、あの頃から、じっくり魅せるいい役者さんでしたわ。
一明さんは、さすがですね。ただ、どうも、この作品、深く入り込めなくてね。少し、引いた感じで観ることになったのがマイナスかなあ。
投稿: SAISEI | 2015年3月 4日 (水) 19時50分
>練間沙さん
コメントありがとうございます。
もどかしく、辛い話ですが、人の優しさが浮き上がるような作品だったように思います。
また、日程調整をして、お伺いできるように頑張ります。
と言っても、京都は既にちょっと厳しいのですが。
本公演の方は(゚ー゚)
投稿: SAISEI | 2015年3月 4日 (水) 19時57分
金曜日はお忙しかったみたいですね。私の土日の予定は(笑)
(土)芸創→十三BlackBoxx
(日)シアトリカル応典院→2nd→つくるビル一階
です。月曜日はジゲキにいきたいのですが予約は満席。当日券は出るようですが…
投稿: KAISEI | 2015年3月 7日 (土) 10時29分
>KAISEIさん
気合入ってますねえ。
私は、土曜日は近大でみうらーにょ観てからうんこなまずの予定が、仕事が長引きうんこなまずのみ。
日曜日は午前中仕事、夜は接待です。間に抜けて満月動物園を観ます。また、スレ違いですね。
2nd、ボンボドスは観たかった・・・
投稿: SAISEI | 2015年3月 7日 (土) 21時37分