そこはかとなく優しくフィット【ユニットまいあがれ】150228
2015年02月28日 PLACEBO (65分)
温もりを、繋がりを得たい二人の女性が、偶然出会い、ちょっとした触れ合いから、自分たちの今の心に正直になるまでの話かな。
悲しみや辛いことを心の中に封じ込めてしまっていた二人が、互いにそれを解放していくまでの会話をコミカルベースにして、笑いをふんだんに盛り込みながらも、頑張って生きていくことを考えさせられるような作品。
凄く破壊的な面白さを発揮する中嶋久美子さんと、飄々としながらも妙な可愛らしさを醸す米山真理さんの作品名どおりのそこはかとないフィット感に心踊らされる楽しい時間でした。
父のネクタイを片手に夜の都会の雑踏の中に埋もれる女子高生。
カツコツと音を鳴らして歩く人たちは自分のことなど見てくれる訳もなく。
生きることに臆病なのに、死ぬ勇気がある訳もなく。
孤独と厭世感の中、女子高生はいつものゲームセンターへと足を向ける。
ふと、隣を見たら、取り憑かれたように太鼓の達人をする女性。
先生だ。担当の学年は違うけど私の塾の先生。話したことだってある。
先生は激しく太鼓を打つ。その腕前といったら最悪。あまりにもめちゃくちゃなので店員に注意されるが、逆ギレして帰ってしまった。
後をつける。コンビニでビールと焼き鳥を買って歩きながら飲み食い。そして、一軒のバーへと消えていく。
そろりと扉を開けると先生がひどい剣幕で出てくる。店はやってないんですけど。
その姿に、女子高生の心に衝撃が走る。これは恋だ。
その日から女子高生のかなり熱心なストーキングが始まる。
先生はもうすぐ結婚して、塾を辞めてしまうみたいだ。
こんなに好きなのに。
気付けば、女子高生は先生にネクタイを掴まれ吊るし上げられている。
いったい、どういうつもりなんだ。先生は酷い表情で、無言で訴えかけてくる。
そう、女子高生は先生のバーの玄関先で首吊りをかましたみたいだ。もちろん、先生の興味を惹くだけのために。
とにかく帰れ。警察呼ぶぞ。
でも、家には帰りたくないんです。
そんな相容れない会話が続く。
女子高生は何度も先生のバーを訪ねてくる。家出までしてきてしまったみたいで、お気に入りの枕持参で。
帰れ。嫌だ、ちょっとだけ。毎度、同じ言い合いを繰り返す中、徐々に二人は会話を交わし、互いのことが分かってくる。
女子高生の父親は、娘の前で毎日のように電卓を弾く。カタカタカタ。そして、最後には、あ~、子供なんて作らなければよかったの一言。母親は何も言わない。食事の時は、いつも自分の分をお盆に載せて自分の部屋に入り込む。女子高生は、電卓を弾く父親と一緒に黙々と食事。寝る時には、そんなカタカタカタが頭の中に聞こえてきて眠れやしない。
満員電車が好き。人と触れ合えるから。もたれかかっても誰も何も言わない。一人じゃないんだとちょっと安心する。
先生のバーは、親が残したものらしい。店はもうやってないが、家賃もかからないから、ここで寝泊りをしている。どうせ、忙しいから寝るだけだし。
毎日、同じことの繰り返しの忙しい日々。イライラが募ることも多い。
彼氏も忙しいみたいだ。電話をしてもいつも仕事中だから、連絡がつかない。だから結婚の準備も一向にはかどらない。挙句の果てに、来たメールは全部、お前に任すから。
こんなの優しさでも何でもない。
大した男じゃない。まあ、それなりではあるけど。いつも鼻毛が出ている。気になるけど言えない。プライドの高い人だから。
そんなどうしようもなく切ない会話の中で、女子高生は、自分の中に潜む悲しみに耐えきれなくなったのか、感極まって涙を流しそうになる。
泣くな。いいか、教えてやる。
さすがは塾の先生だけあって、女子高生相手に授業をし始める。人生ってやつを。
涙には種類がある。今、お前が流そうとしているのは情動性分泌の涙。これは生き物の中で人間だけが持っている。感情によって引き起こされる。そして、それは大脳辺縁系が支配する。でも、それは脳が勝手に決めていること。そんなものに惑わされるな。
先生は毛布で女子高生を包む。暗闇の中でローソクに火を灯す。なんか、悲しい気持ちになってきた。でも、涙なんか出ない。悲しいから涙が出る。それは脳に騙されているだけ。泣くから悲しくなる。女子高生は安堵の表情を浮かべながらつぶやく。何か嬉しい気持ちになってきた。
女子高生を帰らせ、一人になった先生。
彼氏に電話する。いつものごとく、留守電メッセージが聞こえる。
また、連絡ください。
・・・、あと、あんた鼻毛、いつも出てるよ。
翌日、先生は、またやって来た女子高生を連れて、ゲームセンターに向かう。
私たちはこれからだ。寂しかっても、辛かっても、頑張って戦い抜いて生きていかないといけないんだ。
その決意を思いっきりぶつける。もちろん、太鼓に。構えよし・・・
人は人を求める。
肌の温もりだろうか。
どこか孤独の中を彷徨っているかのような二人の女性。
父から、彼氏から温かい言葉を求めた二人の女性は、こうして出会う。
二人は互いに慰め合ったり、温かい言葉を掛け合ったりはしない。今の自分の気持ちを不器用だけど、率直に素直に伝えているだけ。
涙は感情の前に存在しているのかな。その涙一粒一粒は、自分の悲しい記憶そのものであり、それが流れるたびに悲しみを蘇らせているように感じる。悲しみを求めて、涙を流すみたいで、そんなことはとても辛い。先生の言うように、そんなことをしてくる脳、つまりは自分なんだろうが、惑わされずに涙を振り払ってしまいたい。
涙が悲しみを引き起こすなら、人が喜びを得るためにする生理的な行動は何だろうか。喜びとはちょっと違うかもしれないが、二人の女性が得たかったのであろう温かみを求めるならば、やっぱり触れ合うことなんだと思う。
二人は触れ合って、もしかしたら、触れ合う前から、互いの内側にある温かさを感じ合って、偶然の出会いがここまで発展したかのようである。
そして、こうして触れ合って掛け合った言葉一つ一つは、その人の喜びの記憶となるのではないだろうか。
辛いとか悲しいとか寂しいとか。
そんな苦しい時、人はわざわざそれを確認するような行動を取って、その世界に自分をはめ込んでしまうみたい。
泣いたり、ひたすら我慢したり、自暴自棄になったり、閉じこもったり・・・
本当は誰も悲しみを手にしたいなんて思うわけがない。得たい感情を手にするために、どんな行動をすればいいのか。
それは笑うのだったり、思いのまま言葉にするとか、自分の魅力を見つめなおしたり、外の世界に飛び出てみたり・・・
そんなことに二人は気付き合ったように思う。
そして、まずしないといけないことは、鬱積していた怒りを、昇華してしまうことだったみたいだ。
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コメント
結局赤色エレジーは行けず…トホホ アリスインプロジェクトは良かったです。えん魔さんの手腕に脱帽。アイドル達を舐めていたこと反省です。
投稿: KAISEI | 2015年3月 1日 (日) 21時04分
>KAISEIさん
あら、残念。
アリスは好評だったみたいですね。
日曜日が空いていれば、職場近くだし、行きたかったんですが。
投稿: SAISEI | 2015年3月 2日 (月) 16時18分