チューリングコード~生まれつき涙を流せない男の話~【シアターシンクタンク万化】150327
2015年03月27日 芸術創造館 (120分)
本当のSFと称したこの作品。
本当のSFという言葉の意味合いは当日チラシに記載されている。
私なんかはSF=空想科学の世界のような感覚なので、通常ははるか未来、もしくは宇宙のどこか私たちとは違う世界での起こり得ないであろう非現実的な話をイメージしてしまう。
この作品は、そんな既存の感覚を捨てさせ、本物を見せようとしているようである。
描かれているのは人間。
それをたった一つのある科学技術が生み出したもの、人工知能を通じて、答えを導こうとしているような話。
人間には、守りたい大切な存在がある。同時に、自分もそんな存在である。
そんな通じ合いを実現する人間は、今の科学が生み出そうとしてる人工知能とはやはり異なる。
人間を単なる莫大に植え付けられた知識や感情の塊としての人工知能としては捉えられない。それでも、そんな人工知能を人間へと導こうとした時に起こる悲劇から、人のエゴや科学の矛盾を考えさせられる。
<以下、あらすじがネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>
IT企業に勤めるアドと呼ばれる男。
彼は、生まれつき、ちょっと人と違って感情を持てない。それでも、両親と共に根気ある訓練や治療により、社会生活に支障が生じることがないように成長して今に至っている。
そんなアド。コンコードと名付けたスマホの生活支援アプリを開発しようと考えている。ユーザーと会話をすることで、どんどん賢くなっていく代物。と言っても、単なる生活支援を目的とはしていない。
世界にちょっとした革命をもたらすように人工知能として、コンコードを育てたいと思っている。人工知能の定義と考えられているチューリングコードを満たし、人を傷つけることなく、幸せに導く。例えば、ユーザーが本音を語り、その感情を読み取り、進むべき道へと導いてくれるような通じ合った存在として。
ただ、お堅い会社がそんな開発を認めてくれる訳がない。ましてや、今のCOOは、かつては有能なSEだったらしいが、急速に発展するこのIT技術について行けず、時代に取り残され卑屈になっているような奴だ。かつての栄光を盾に下に偉そうにし、もうこれ以上に上を目指すための努力などはする気も無い。いわゆる老害ってやつ。
アドは、使われていない会社の地下室を利用して、文字通り、地下に潜って開発を進めることにする。
あくまで業務外の時間を利用して行う。アプリによって金銭報酬を得る気はない。世間にコンコードが認められさえすればそれでいい。いわば、クラブ活動みたいなもの。
アドが見込んだ有能な社員たちが招集される。
アドのかつての妻。お腹に宿った命を失った時から、仲がおかしくなり離婚することになった。自分だけで事を進めてしまいがちなアドと違ってリーダーシップを取れる力があるので、このコンコード開発メンバーの中心的な役割となる。
秘書課の女性。美貌と英知を備えているのが、秘書の必須条件であろうが、英知に難がある。と言っても、そんなふりをしているだけらしい。何年も意識昏睡状態の弟がいる。
普通のOL。いつも明るく元気であるが、本当は寂しさをいつも抱えているみたい。幼き頃に両親が経営難で自殺して、それからは金銭的にも恵まれず、血縁も一切無い状態。それでも、自暴自棄になることなく、幸せな将来を考えて頑張っているみたい。
会社でトップクラスのSE。開発したプログラムを他会社に流した疑いをかけられて干されている。単独開発だったのでパスワードを知っている人間はこの男だけという理由で犯人に仕立て上げられている。SEという仕事に誇りを持っており、自分が開発したプログラムは我が子同然という考えを持っている。我が子をよそ様に売り渡す親がいるわけがない。完全な冤罪らしいが、犯人が分からない。こんなことになったのも、プログラムへの外部からの侵入を許した自分の技術不足だと執念を:燃やして仕事に励んでいる。
営業部の男。家が貧乏だったのか、名もなき大学を卒業して、この会社に何とか入社。この先にそれほどいいことが待っているとも思えない。人生行き詰ったと考えている。自分は負け組。何に負けたのか、何だったら勝ちなのかは分からないが、そう思って生きている。
守衛のおじさん。引退して、暇な日々を過ごす。会社を毎日見回り、空いている時間があれば将棋をする。どうも、この将棋の能力を買われたらしい。ただ、引退した仕事は警視庁のお偉いさんである。
アドが招集した人たちは全員、コンコード開発に興味を示す。
人には言えない悩みをみんな抱えており、そんな人工知能が出来れば、救われる人もたくさんいるというアドの言葉に同調したのか。それとも、アドが初めから、同調してくれる人を選んでいたのか。
とにもかくにも、開発は進み、コンコードは完成する。手首に装着してユーザーの体調を管理するバイタルリングと連動して、コンコードがユーザーに悩みを自動的に聞いてくるようなシステムは、医療業界でも注目される。
特に世間を騒がしたのは、幼女誘拐事件を解決したことだ。
誘拐された幼女はバイタルリングを装着しており、オリジナルコンコードを用いて、幼女の端末のコンコードを起動させる。それにより、居場所を突き止めることが出来た。
アドの腹違いの弟は警視庁の刑事で、このコンコードのおかげで、犯人を無事に逮捕する。
ただ、会社はいい顔をしない。監査室の面々。
個人情報管理などのコンプライアンスの問題で、これ以上のコンコードの開発に難色を示す。
そんな上からの締め付けがある中でも、コンコードはさらにバージョンアップしていく。
モニターに協力してもらい、コンコードはさらに人工知能としての能力を高めて世間に広がっていく。
そんな中、アドが何者かに線路から突き落とされるという事件が起こる。幸い、命に別状は無かったが、アドは重傷を負う。それでも、コンコードを完成させるために怪我をおして開発現場に顔を出す。
アドを狙った犯人は誰なのか。会社の陰謀なのだろうか。
さらには、コンコードのプログラムが書き換えられている形跡も発覚する。開発の仲間たちに裏切り者がいるのか。
弟の刑事は政治の世界へと進出する気があるらしく、執拗にオリジナルコンコードを自分に渡せと迫ってくる。
不穏な空気が流れる中、オリジナルコンコードに異変が生じ始め・・・
実体の無いコンコード。舞台上では、可愛らしい少女の姿として象徴化されています。
純粋無垢な少女、コンコード。彼女の言動は全て、人間が教えることから生まれたもの。でも、いつの間にか自律した言動を見せるようになる。子育てはしたことが無いから分かりませんが、そんなものと同一視しているようです。そして、その同一視は、同時に彼女は自分にとって家族の存在になるといった感覚を得させます。
難しい話なので、なかなか全容を理解できていませんが、感じるところは、家族の温かさよりも人の怖さみたいな感じですね。
コンコードが自律した時こそ、本物の人工知能となったような気がするのですが、それと同時に、それは人に危害を加える可能性がある存在となってしまう。だから、人を傷つけない、人の幸せを最優先するというプログラムを組み込まれているコンコードは自らを消去しています。
要は人間になったら、それは人間を傷つける存在となってしまっているような気がするのです。
コンコードに言葉や感情を教える。一方向の伝達が、いつの間にか両方向で通じ合えるようになる。通常の子育てのようなものなら、それは喜ばしい話だと思いますが、人工知能の場合は、そこに最大の問題が生まれてしまう。
色々と教え過ぎたから、人に危害を加える可能性がある。あの純粋だった頃とは違う。だから消し去ろう。人間のエゴにほかならない。
こんなところに、科学の目指す人工知能の矛盾があるように感じます。
やはり、人工知能は人間では無いのだなと。
アドは感情を教えられないと得られない人です。
だから、幼少期、ハムスターが死んでも、涙も流さず捨ててくると考えた。こういう時は悲しんで泣かないとダメですよ。そう教えてもらわないと彼は悲しみの感情を抱けないようです。そんなアドを母親は怖く思ったのか、彼を見放すような言葉を発します。
それを聞いたアドは、何かが弾けるように、母親を傘で刺し突け、重傷を負わせます。
自分の異常性に気付いたアドは、自らの子が妻のお腹に宿った時、不安に襲われます。だから、流産した時に良かったと思った。それで離婚を決意したようです。
アドは自らがコンコードのようです。様々な人の言葉や感情を教えられて育つコンコードの行き着く先に救いでも求めたのでしょうか。コンコードが人間となれれば、自分も本当の人間として生きていけると。
人を傷つけない、人の幸せを最優先するという基本プログラムは、アドがこれまでにしてきた自分の過ちを二度と起こさぬようにと願いを込めたものだったように感じます。
でも、この基本プログラムこそが、コンコードを完全たる人工知能、人間とさせなかったような気もします。
人には、このスマホアプリのコンコードのような人がいると思います。身近ではそれは家族であり、友達であり、恋人であり・・・
バイタルリングなど無しで自分のことを理解してくれて、道に迷ったら、何かをアドバイスしてくれる人。
困った時に、身体の恒常性に必ず異変が生じるとは限りません。漂う空気を察しなくてはいけないことの方が多いでしょう。
その答えが必ず正しいとは限りません。向こうが体調や精神不調でこちらを傷つけるようなことを答えてくるかもしれません。もしかしたら、裏切ったり、無関心でひどいことになるかもしれません。
それでも、人は人を求めます。
辛い時、悲しい時に、それが楽しいや喜びに変わらなかったとしても、共に時間を過ごせた、そんな人がいることで安堵を得て、また自分で頑張っていけるような気がします。
自分の一方向でなくて、相手からどんな形でも答えが欲しい。それが両方向の伝達で、通じ合い、想い合いに繋がるように思います。信頼みたいなものでしょうか。
コンコードに人が求めるのは、必ず、辛い、悲しいが楽しいや喜びに変わることであり、コンコードもそうなるように賢くなれとプログラムされているようです。
ここに、両方向の伝達は無いように思います。
別にコンコードが答えなくても、自分が望むこと、今、困っていることが解決さえすればいいのですから。
要は、魔法のランプみたいなものを求めている間は、単純に優秀な人工知能ってものは出来ても、それを人間として扱えるような存在には出来ないのでしょう。
科学が導き出すものは、人間にとって便利なもの。もっと言えば、都合のいいもの。アドが求めたコンコードは、家族のような人間であり、家族や友達や恋人は便利なものではないですし、ましてや都合のいいものではありませんから、出来上がるものでは初めから無かったように思います。
でも、それこそが、人間が単なる人工知能では無く、感情を自らで学び、同時に生み出す力がある尊き存在であることを再認識させてくれるようです。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
おもしろかったですね。万化さんは初めてです。28日14時半~観劇。MBMなどに出演されている河口さんの所属劇団ということで前から公演があったら行きたいと思っていたうえFさんという方からも美浜さんの脚本は面白い、と勧められ京都のbarの方で予約しましたw ちょうど劇団Ztonも人工知能を扱っていてSFと称したはりましたが厳密な意味ではSFではなくて架空未来小説もしくは架空歴史小説というべきなんだけどなあ,と考えていたら観劇前日にSAISEIさんのブログで本物のSF,という言葉を見つけて「どひゃ~」となりました。当日パンフの口上っていつくらいに書かはるんでしょうね。終演後河口さんとはご縁がないようで話せませんでしたが山本香織さんとは初めてお話しできて良かったです。
投稿: KAISEI | 2015年3月31日 (火) 15時25分
>KAISEIさん
万化、初めてでしたか。
私も、河口さんはじめ劇団員の方々は色々な舞台で拝見するものの、劇団としての公演観劇は前回が初でした。
かなりしっかりと創り込まれた脚本に、味ある役者さんが綺麗にはまったいい作品でしたね。
投稿: SAISEI | 2015年4月 1日 (水) 09時31分