ぶた草の庭【MONO】150319
2015年03月15日 HEP HALL (110分)
世間から隔離され、見捨てられ、自分自身のこれまでの記憶も消えていき、この先にあるものは死。
過去も消え、未来も無い。
そんな極限状態に追いやられた人たちが、より良き今を懸命に生きるような姿を描いている感じかな。
生きている今日。その今日は、あらゆる人に与えられたかけがえのない大切なものであり、絶対に守られなければいけないものだという想いを抱く話でした。
深くは掘り下げていないものの、今、抱える社会問題が自然に浮き上がるような仕掛けがあり、妙なリアリティーを抱きながら、不安が頭から離れない作品。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は火曜日まで>
ある隔離された島の山深くの廃村で集団生活する人たち。
ちょっと保守的でバシッと決断してみんなを先導するような感じではないので、頼りにならなさそうではあるが、逆にみんなの話をしっかり聞いて、受け止めてくれるところがウケるのか、一応、リーダーの男。かつての職場でも部下たちのことを気遣うリーダー格で、仕事も担当する人たちに真摯な対応をする人だったので自然とそうなったみたい。
その部下だった男。こんな生活を強いられることになったのは、上司であるリーダーの男のせいである。だからといって、恨んでいるわけではない。リーダーの男に責任は無いと思っている。でも、責任は常に持ち続けていて欲しい。気持ちは分からないでもないが、少々、理屈っぽく正論を吐くややこしい人だ。
ほんわかしていて、何を考えているのかよく分からない男。嬉しいことがあるのか、心ここにあらずみたいな状態になっている。
明るく元気な女性。この集団生活では紅一点なので、そこそこレベルだけど、光り輝いているなんて言い方をしたりする者もいるが、みんなのムードメーカーとして活躍している。リーダーの男に想いを寄せている。
同郷の二人の男。移民というのか、差別されるような村出身だったみたいだ。少し、言語や文化も違うのか、他の人とズレたところがあり、接しにくいようなこともあるみたい。でも、まあまあ、みんなと仲良くやっている。
この廃村で暮らす人たちにはある共通点がある。
ヨコガワ病。この病気に感染した患者であり、伝染するのを避けるために、この島に連れて来られている。
最初、ヨコガワ博士が何かを研究していた国の研究施設の周囲で患者が発見される。
それ以後、その病気は伝染病のように広まっていった。
有効な治療方法はまだ開発されていない。記憶障害が起こり、体にある赤い斑点が紫色に変わると、ある日突然死んでしまう。
実際、この廃村でも、多くの人が亡くなった。
基本的に感染したり、死に至るのは老人が多かったが、最近では若者の感染も増え、刻々と迫る死は避けられない状況にある。
ブタ草がその感染を防ぐなんて説もあるみたいだが、信憑性は低い。
国は防護服に身を包んだ作業員を派遣し、食糧や生活必需品物資の補給、患者の容態管理を定期的に行っている。
リーダー格の男は元々、その派遣員。患者たちへの真摯な対応の中で、自分も感染してしまったわけだ。その部下の男は、リーダー格の男の命令で派遣員をさせられており、同じ目にあってしまっている。
そんな廃村に新しい仲間がやって来ることになった。
もちろん、ヨコガワ病の患者、女性3人。
明るく元気な女性を中心に、どう表現するべきなのか難しいが歓迎会を開くべく、みんなで準備をする。
一人は、ほんわかした人の妻。男がやたら嬉しそうにしていたのは、また再会できることへの喜びだったみたい。でも、実際はそんな感動の再会は果たされない。妻は好きな人が出来たからと夫を拒絶する。その好きな人とはもう会えないのだから、黙っていれば良さそうなものだが、こうなったからには全て自分に正直に生きるという気持ちの表れみたい。
もう一人は新婚間もなく感染が発覚し、夫と別れてここに連れて来られることになったらしい。あまりのショックに自暴自棄になって、泳いで戻るつもりだったのか海に飛び込んだりする。みんなでなだめて、少しずつ気持ちも落ち着いてきたみたい。
最後の一人は、同郷の男の知り合い。片方の男の姪にあたるらしい。差別や迫害を受けてきたことの反動なのか、少々、他の人に対して攻撃的な言動を見せるが、そのうち、ここではあまり関係なく、みんな穏やかに暮らしていることを知る。
仲間も増えて、死の恐怖はあるものの、みんなで穏やかに過ごそうとしていたが、なかなかそうもいかない。
遂に今の派遣員も感染して、ここにやって来ることになった。
それをきっかけに、派遣員制度は無くなり、月に一回ヘリで物資補給をすることになったみたい。これでは、こちらの情報を伝えることが出来ない。要は、見捨てられたということだ。
それに対して、リーダーは仕方ないと受け入れてしまおうとするが、部下だった男は国への抵抗を決意する。
戦うのか、妥協するのか。派閥みたいなものができ、亀裂が走り始める。
それとは別に、夫婦間の亀裂はさらに深まり、いつまでたっても進展しない恋へのジレンマは大きくなり、さらには勘違い男の自分勝手な恋愛に女性たちは振り回され始め・・・
各々の考えがぶつかり合い、バランスがおかしくなり始める。
そんな中でも病気の進行は待ってくれない。
同郷の男の一人が、何となく、記憶がおかしいと思い始め、ついに死を迎えることになる。
そのお別れをする日、同じように記憶がおかしくなって、赤い斑点の色も変わったという者が現れる。ほんわかした人の妻、そして、明るく元気な女性だ。
亀裂が深まりはしたが、夫婦として彼女を愛した夫。ここには未来が無いからといったネガティブな考えを基に女性との恋愛を発展させようとしなかったリーダーの男。
自分たちは今、何をしないといけないのか。
ここの患者たちはみんな、自分の記憶を綴ったノートを持っている。
記憶障害が起こり始めた時に見直すためか、先代から続けられていること。常に過去を振り返ることをしてきた。
ただ、一人の女性のノートだけ違っていた。それは、ここに来た当初は、あれだけ自暴自棄になっていた女性。
彼女のノートは、これからの未来が綴られていた。
仲違いしていた人たちも分かち合い、より良くなり続けるここでの生活。病気が治療されて、ここで出会った人たちとの別れ。本土での再会・・・
そんな、恐らくは起こることは無いであろう、未来の自分たちの姿を頭に思い浮かべた時、リーダーの抑えていた怒りが爆発する。
壊された自分たちの未来。戻ることの無い日常。
リーダーの男は・・・
最後はどう捉えるのかなあ。
冒頭の一シーンが恐らくラストシーンになってるようなのですが。
それは、もう誰もいなくなったかのような舞台となったみんなが集まっていた廃村のある場所から外の景色を眺めるリーダーの男の姿が描かれています。
上記していませんが、リーダーはどうもヨコガワ病を克服するみたいです。何か同郷の人たちは食べる風習があったのか、捕まえてきた気持ち悪い虫に刺されて高熱を出したから。
免疫が活性化されたんでしょうね。
ぶた草なんて何の効果も無かったわけです。国がこれ以上の混乱を避けるために撒いた偽情報だったのか、ヨコガワ病を何とかしたいという人たちの願いが生み出した救いを求める都市伝説だったのか。
どうにせよ、最後は自分たちの生活に密着していたものに救われたが、そこに至るまでの犠牲は避けることは出来なかったみたいな感じのように捉えられます。
そして、恐らく、そのリーダーの男を救うことになった貴重な情報は、本人が気付いているのかどうかは分かりませんが、国の隔離政策により、普及することなく、黙殺されてしまったように見えます。
病気を治すよりも、沈静化して、いつの間にか消えていき、忘れ去られる方が都合がいいのでしょう。
国の研究が招いた伝染病。でも、国は無責任な対応しかしない。患者を隔離して、世間から遠ざける。しかも、患者たちが一致団結でもして、国の責任を糾弾でもされたら困るので、なるべく仲違いした状況を作り出す。
古くは士農工商、えた非人みたいな感じでしょうか。
このある一部の人たちの体裁を守るために、格差を作りだして、各々の層で閉じ込めて過ごさせるような悪しき風習が、大切な人の命、日常の生活、未来を奪い去った。
それを受け入れてしまっていていいのでしょうかというメッセージなのかな。
でも、じゃあ、怒って抵抗しようと言ってるようにも思えません。
それは、国が派遣員制度を廃止して、より隔離を進めた時に部下の男が怒り、国に抵抗した姿が正しいようには思えないのです。
彼の怒りの原動力は、現状の不満を打開することにあり、それだけでは、物資をあげてるからいいだろうとか、他の人に迷惑になってしまうんだから仕方ないでしょといった正論に勝てないように思うのです。
リーダーの男は、臆病で、ネガティブな考えで、もう言われるがまま受け入れるしかないと思っていた。
でも、自分たちが生きる今日。その今日は、過去の今日でも、未来の今日でもある。
今日がより良き日であるように、私たちは生きていたし、生きているし、まだこれから生き続ける。
それを全て奪われてしまった。その怒りは、そんな正論では崩されるようなものではなく、人間の尊厳に通じる誰からも認められるべきことであるように感じます。
原発やら、移民などの今、抱える社会問題が時折、否が応でも思い浮かんでしまうが、あまりそこを深く掘り下げるようなことはしていない。
ただ、これは嘘の話では無く、起こり得る私たちの未来の姿かもしれませんよといったリアリティーからくる不安や圧迫感を終始感じさせているよう。
記憶が消えていくことが明白になってくる最後のあたりは、ゾクッとする恐怖を感じる。
生きていた証を消し去られ、これからの記憶の積み重ねの可能性も否定される。でも、今、その人は生きている。
今日を生きる懸命な人の姿。これを大切に考え、守るためにどうしたらいいのかを考えなくてはいけないような感覚を得ます。
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コメント
匿名劇壇の松原さんが出演されているので観に行きたいと思っているのですが完全にこの週末は調整に失敗しましたf^_^;今日は芸創→十三ブラックBOX、明日はドーンセンター→ピンク地底人は確定。
投稿: KAISEI | 2015年3月21日 (土) 09時33分
>KAISEIさん
厳しそうですね。
まあ、ここはDVDで観ても、生舞台に近いレベルで楽しめる作品創りをされているように思っているので、それでもいいかもしれません。
年に1回しか公演をされないので、私はなるべく優先するようにしています。
投稿: SAISEI | 2015年3月21日 (土) 18時11分