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2015年2月21日 (土)

Hospital of Miracle【BAC/OAS 2015 進級卒業公演(俳優・総合タレントコース 1、2年)】150221

2015年02月21日 ドーンセンター (115分)

いやあ、これは素晴らしい公演でした。
熱量が高いとか、卓越したエンタメを盛り込んで、作品のメッセージを力強く伝えているとか、色々と褒め言葉は書きようがあるけど、これだけの素晴らしさを綺麗に表現する言葉を私は持ち合わせていません。
最高だったという感想を残したいと思います。

学校でいじめをかばったばかりに、いじめのターゲットになってしまったエリカ。
助けて。
そんな言葉に先生は振り返ってくれない。
いつも一緒だった親友も、いつも助けてくれた自分のヒーローだった幼馴染も。
お父さんやお母さん、妹にはこんなこと言えない。
自殺を決行。でも、感極まった心に負担がかかったのか、軽い心臓発作を起こし、入院することに。

病院にはちょっと頼りなさそうだが生真面目そうな院長先生や、口うるさそうだったり、色気振りまくったり、ここは3年B組なのかと思わせるような個性豊かな看護師さんたち。
少々ボケ気味の老人もいれば、車椅子の女性、天然ボケなのか頭に障害があるのか変わった男の子もいる。小児病棟で病気と闘う子供たちは可愛らしくも元気いっぱい。ちょっと、本当はけっこうな歳だろうとか、病院に何しに来とるんだといったおませさんやお調子者なんかもいるが。
ちょうど、今、この病院にはホスピタルクラウンが滞在している。PとQと名乗る男と女の二人組。ピエロのようないでたちで、みんなに笑顔を取り戻してあげたいという信念で、日々活動している。

エリカは四人部屋に入る。
自称、ロッカー。過剰なまでのロック魂が今の時代に受けないのか、もう夢を諦めるしかないような状況みたい。
夜な夜な泣き叫びながら手紙をしたためる女性。別れた男のことが忘れられず、もう宛先も分からぬ彼に手紙を書き続けている。
生まれてすぐに親に捨てられて施設でずっと暮らしていたサトル。
このサトル、エリカに一目惚れ。というのもあるが、元々、人が悲しんでいるのを見るのが嫌みたい。ここに入院してから、一度も喋らず、笑顔を見せないエリカの悲しみを癒してあげたいという気持ちも大きいみたい。

サトルはホスピタルクラウンたちと共に、エリカを元気づけようとする。
最初は拒絶される。
だって、親や先生、友達が来たって、何も語らず拒絶し続けているのだから。
でも、真摯な想いは次第にエリカの凍った心を優しく溶かし始める。
ロッカーの友達が見舞いに来るが、それがかの有名なジャクソン5のパクリ、ハクション5だったり。
サトルの幼馴染の女の子が、ちょっとグイグイくる圧迫感たっぷりだけど、太陽のように明るい純粋な女の子だったり。
エリカの友達も、自分も辛かった、でも怖かったことを素直に語り、謝りと一緒にこれからもずっと大好きだという想いをぶつけてきたり。
そして、何よりも優しく、本当に心からエリカに言葉を投げ掛けてくれるサトル。

エリカは、徐々に笑顔を取り戻す。
そして、もうすぐしたら次の病院に行かなくてはいけないホスピタルクラウンの提案で、院内放送のDJをすることに。
誰かのために贈りたい曲をリクエストしてもらうという放送。もちろん、歌うのはロッカーだ。あと、なぜか、ヘルプでサトルの幼馴染も。
第一回の放送のリクエストはエリカの父から。そこで、エリカは父はずっとエリカや家族のことを想い続けていた、でもそれが少しズレてしまっていただけであることを理解する。
続いて、自分を育ててくれたのに疎遠になってしまっていた入院している祖母に贈る歌。
直にここを去るホスピタルクラウンがこの病院で頑張る子供たちに夢と希望の歌を贈る。
子供たちからは、ホスピタルクラウンに感謝と頑張る決意を込めた歌を。
みんなの心が繋がっていく。その間に立つエリカ。
自分が今、出来ることを見出し、生きるということにしっかりと向き合い始める。

でも、エリカの笑顔が消える日がやって来る。
サトルの容態が相当悪化し始める。病名は白血病。骨髄移植するにしても、ドナーがなかなか見つからない。一番確率の高い候補となる親がいないのだからどうしようもない。
何でこんな目に、あのいい子が合わないといけないのか。ほんの少しだけ長生きさせてください、神様。一緒にドライブして、食事して。大人になって、自由になって、ほんの少しだけ羽ばたいて生きる時間を。そんな切なるサトルの幼馴染の願いも叶うことは無い。
無菌室、ICUと病状の悪化と共に、サトルは遠いところに連れて行かれる。
看護師たちは、サトルの病状報告も込めて、曲をリクエストする。
でも、遂にその日はやって来る。

自分の死は伝えないで。みんな、不安になってしまうから。ここは病院だから、みんな死を感じているから。
こんなにみんなが悲しんでくれるなら、頑張って生きていてよかったと思う。ずっと頑張っていてよかった。でも、少しだけ弱音も吐きたい・・・
最後まで、本当に優しく最高に素敵だった男として、サトルはこの世を去る。
その日の放送で、エリカはサトルのことを伝える。急遽、転院することになってしまいました。きっと、転院先で手術して元気になると思います。
溢れる涙の中で、やはり、これは違うとエリカは真実を語る。
それでいいのだろう。彼の死を知って誰も不安になったりはきっとしない。
懸命に生きた誇りを感じ、きっと自分の中にある生を信じて、それと向き合って死を遠ざけるはずだ。

これからも、この放送は続ける。エリカはこれから、自分が出来ることを懸命にやり遂げて生きていく。その想いはロッカーも同じ。
サトルの真摯な想いはみんなの心、そしてこれからの生に強く宿る。
最後は、サトルが想いを込めて書いた歌。サトルの意志をくみ取り、ロッカーが最高の作曲を徹夜でして仕上げた歌でこの日の放送は終わる。
それは、人を想い、自分の生の尊さを知り、それと向き合い、ただ懸命に生を全うして、死へと旅立った男の力強さが溢れかえった歌で、聞く全ての人の心に響くものだった・・・

いじめという苦境の中にいて、辛さを発信しながら、それを受け取ってもらえず、生を見限ろうとしたエリカ。
そんな辛さは、人それぞれあり、自分の辛さを訴えるだけでなく、人の辛さを受け止めてあげることも出来るように成長したようです。
それは、常に周囲のことを想い、決して生から目を背くことが無かったサトルの強さ、優しさから得られた大切な想いのように感じます。
一人一人が自分たちが出来ることを見詰め、実行し、この得た生の喜びを見出していく。
私たちはどれほど素晴らしいのか。生きていること、それと向き合って辛い中でも頑張ることがどれほど素敵なことなのか。
そんな作品中のメッセージはこの公演を創り上げた方々の姿として、心に響いてくるようです。

魅力的な役者さんがいっぱいで。
顔と名前が一致していないので、ちょっと間違っているかも。
エリカ役の松久実代さんは、さすがに主役を張るだけあって、表情、心情表現が豊か。ダンスも注目して観ていましたが、私にはよく分かりませんがキレのある動きでした。
サトル役の前野将悠さん。この素朴な雰囲気の中から溢れる強い想い。人間の強さも弱さもしっかりと演じている見事さ。さらには、ちょっと笑いを取る絶妙の間も持ち合わせている。クラウンP役の横尾龍治さんとのしつこいまでの掛け合いも楽しく。
ロッカーは西田有希さんかなあ。見た目の怖さの中にある優しい男気。時折、そんなものが出てくるのがちょっと可愛らしくも見え。
ストーカー、馬越奈美さん。ちょっと狂気。執着した一直線の想い、執拗な男女愛の狂気が滲みます。
クラウンQの木下桜さん。自分たちの活動の精神を語る心のこもった優しい語りはとても心地いい。
サトルの幼馴染、中村來夏さん。この方は力あるなあ。切れ目のないグイグイ感に最初、圧迫感があったけど、歌を歌ったり、最後のサトルへの想いを語るシーンではまた別に丁寧に心情を積み上げられる。女優さんですね。
お父さん、村田翔さん。飄々と笑いを取ってました。この飄々さが魅力かなと思って見ていたら、ダンスはけっこう迫力ある動きをされる。
お母さん、石丸佳月さん。お母さんでしたね。懐深い優しさも感じられるし、ヒステリックな感情的なところも。
妹、宮城理美さん。弾けてるなあ。エリカ姉さんにその度胸を少しでも分けていれば、いじめなんてきっと。
コイケって患者さんだったかなあ。名前忘れる面白い人。大久保湧人さん。登場で空気を緩ませる力。何か持ってますね。
歌を歌った方は中西あかねさんかなあ。愛燦燦。綺麗な歌声だった。
あとは、印象に残る役もたくさんあるけど、どの方かよく分からない。
まあ、皆さん、キャラをしっかりと立たせていたのは間違いない。
これが、舞台の迫力にきっと繋がっている。そして、自分たちが出来ることを今、やるという作品のメッセージにも。
誰もが、この作品を愛して、創り上げたということの絶対的な証明でしょう。
素晴らしき公演でした。
いいものを観れて幸せです。
進級か卒業かは知りませんが、今後もご活躍を。

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コメント

これもチラシで気になったんですがやっぱり学生劇団系は後まわしになって押し出されちゃいますね。

投稿: KAISEI | 2015年2月25日 (水) 22時36分

>KAISEIさん

たまたま時間が合って観に行きましたが、これ、よかったですよ。
なかなか、全部はねえ・・・
どこかを犠牲にしないといけないところが、毎度つらいところです。

投稿: SAISEI | 2015年2月26日 (木) 17時18分

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