【evkk】120221
2015年02月21日 パシフィック・シアター (90分)
タイトル、劇団名だけになっていますが、題名を書き忘れたのではありません。この公演、題名が無いようです。
舞台は基本的に暗闇。というか、実際の明暗を反転させたような形になっているのかな。暗闇のシーンは照明が点き、昼間のような明るいところは暗闇みたいな。3話の短編集ですが、普通は合間は暗転ですが、明転になっているみたいでした。
視覚を閉ざした状態で、活性化される想像力の無限性から、題名は付けないということにしたようです。
実際に暗闇の中で観ていると、周囲は見えず、もしかしたらこの広い世界で自分は一人なんじゃないのかぐらいの気持ちになります。
そこで、求めるのが、役者さんの発する声や音。不思議なことに聴覚が研ぎ澄まされるようで、そんな声や音をより拾おうとします。役者さんが傍を通った後はいい匂いもして、嗅覚も同じような状態になっているのかな。
500円玉大ぐらいの小さな灯りを持たされます。観劇中は掌で覆って灯りを隠すように指示されますが、途中、別に開いて灯りを見せても構わないようでした。私は手が疲れるのでスイッチを切ってしまいましたが。
そんな掌から漏れ出す灯りも、そこに誰かいるという暗闇で失われた視覚の中でも、かすかにその視覚を蘇らせようとしているみたいな感じでした。
人はこうして、暗闇に放り出されて一人ぼっちにされた時に、自然と嗅ぎ取ろうとするのが人の存在、残痕みたいです。
3話の短編はどこか心理療法のような感じの話です。もちろん、それぞれ雰囲気は異なりますが、共通して何となく感じることが、この観劇中に自分が体験した感覚と同じような気がします。
何かを失い満たされぬ心。ぽっかりどこかへ抜け落ちてしまった心は何で埋めるのでしょうか。答えは人の心だと言っているように思います。
視覚を奪われた暗闇の中で不安や恐怖にさいなまれた時、私たちは人を求め、その人の声や音を聞き、匂いを嗅ぎ、触れ合って、凍った心を温めて溶かしたくなるんだといったような感じです。
人の病んでしまった心を治すのは、やっぱり人しかいない。私たちが持つ感覚全てを用いて、その人と通じ合う。その人の空虚な心の中に入り込んであげる。それが絆を生み出すことの全てのような気がします。
<以下、あらすじがネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで。珍しい形の公演なので、経験のためにも観劇しておくのをお薦め>
公演名と同じく、各作品の題名もありません。
・トラックとの事故で盲目となってしまった男。
最初はこの暗闇に戸惑うことばかりだが、やがて、自分の場所が固まり、自分の世界を創り上げていく。
しかし、妻は悲しみからか、私に出来ること、助けられることを執拗に求めてきて、私を避けていると自分を非難してくる。
今の自分の世界が単に殻に閉じこもっているだけであり、こちらの世界に戻ってきて欲しいと感情を高ぶらせて叫ぶ。
なぜ、今の自分の世界はダメなのか。
男は妻が仕事で外出している間に、黒いゴミ袋で窓を全てふさぎ、家の電球を全て外す。
帰宅してきた妻は、家の暗闇を恐れ、自分の名を叫びながら、自分を求める。
男はそんな妻の手に触れる・・・
男の身体的な治療は全て最善を尽くされて終わった。結局、視力を取り戻すことは無かったがそれこそ、今の医療の限界といったところだろう。
では、視覚を無くしたというショックからの精神的な治療は。それも、男は、治療なのか自分の力なのか、聴覚、触覚から再び、自分の世界を創り、そこで生きていくことが出来るようになったのだから大丈夫なのだろう。
これで、不幸な事故だったが乗り越えられた。といった訳ではないみたい。
夫を想う妻は、それこそ夫以上の闇の中にいる。
この話は、夫の妻への感謝と、大切な変わらぬ想いを寄せての妻への心理療法かのように映る。
男は一人だけで、この事故を乗り越えた。私にも出来ることをと言っていた妻を置いて。もちろん、それも夫の優しさだろうが、きっと夫婦だから一緒に乗り越えればいいのだろう。妻としては、自分を置き去りにして夫はどこかへ行ってしまったかのように思えたのだろう。
男は今の自分の世界を妻に見せる。そして、そんな闇の世界でも、あなたという大切な妻にいつでも触れられ、声を音を聞けるのだということを分からせたようだ。
同調して触れ合う。
闇の中で本当に心を触れ合わせる二人の美しき姿が浮き上がる。
・心理セラピーを実施している、とある施設。
自分自身を愛しましょう。こんなことを目指して、ちょっと疲れて病んでしまったかのような人たちが集まる。
まずは自己の解放なのだろうか。自己紹介の場が与えられる。
客席にもこのセラピーを受けている人が座ったりして、舞台は客席も巻き込んで施設そのものとなる。
私の隣にちょうど、虐待でも受けた人なのだろうか。自己紹介する人が感極まって大きな声になると身をすくめて怯える女性が座る。
一人のキャリアウーマン風の女性が語り出す。鉄道の大きな仕事を任されていた。二人のまだ手のかかる子を育てながら。
高まるプレッシャーとのしかかるストレス。
精神バランスを崩した時に自分を救ってくれたのが一匹の飼い始めた猫だった。
猫は幼い子供達に振り回される。でも、いつもじっと我慢。自分と同じ。二人っきりになれる時間はいつくるんだろうね。
女は心を取り戻しつつあった。でも、ある日、いたずらをした猫に怒りを抑えることが出来ずに、家から追い出してしまう。胸騒ぎがして探したが、そこには無残な姿となった猫がいた。強烈な自己嫌悪だけが残る。
自己紹介の時間も終わり、女は施設の中でいつものように蜂蜜を舐める。いつの頃からか舐めていないと不安で過ごせなくなってしまった。もちろん、普通の食事もする。でも、蜂蜜も一日三瓶は舐めないと生きていけない。
そんな女に興味を持ったのか一人の男が声を掛ける。
女はあまり男の自己紹介を覚えていない。インポとかのキーワードくらいは頭の片隅にあるみたいだが。
グループで治療を受けているみたいだが、二人が共に子供がいるという共通点があったからだろうか。会話は少々ズレて探り合いがある中で、交流を深めていく。
施設を抜け出してレストランで食事。かつて、夫と一緒に行ったらしい高速道路下にある隠れた温泉で文字通り、裸の付き合いも。
そんな中、男は離婚のためか、子供を失ってしまったのと同様の今の孤独が辛いことを告白する。慰めの言葉を掛け合い、二人の凍った心に温かさが宿り始めたかのように見えたが、女は施設から何も言わずに消えてしまう。
前半終了。
間に次に記す話の上演後、後半が始まる。
男は女を探し当てる。そこには、大学で心理研究をする女性教授の姿が・・・
女の騙しだったみたいなブラックオチかとも思ったが、やはりそうでは無いように思う。
女が蜂蜜を舐めないと生きていけないのは事実として残っている。
満たされぬ心を蜂蜜で補うしかないのだろう。
女の語ったことが本当なのか嘘なのかはよく分からないが、少なくとも今、女は子供と共にいないことはきっと確かだろう。一緒に暮らすとかではなく、心を通じ合わせていないという意味で。
そして、男は本当に子供を奪われてしまった。
その姿からは、共に孤独という言葉が浮き上がる。
女はそんな失ったことの悲しさを知っており、同じような男の心の中に潜り込めたのだと思う。ひやかしで治療施設に入り込んだのではなく、そんな自分と同じ心の人と出会い、その人の心を理解すると同時に、自分のことも理解してもらえることを望んだのではないだろうか。
女は男に蜂蜜を舐めさせる。
男にも女にも、今、自分たちに必要なものが蜂蜜なのだろう。
その姿は、分かち合い、そこから自分の心の隙間を埋め始めようとしている人の姿が浮かぶ。
・新聞社の社宅のある一室。
記者という仕事柄、帰宅するのはいつも明け方。
妻は本を読んで起きている。
おなかをすかせた夫にお茶漬けを作り、お酒を運んでくる。おちょこは二つ。いつも、自分も付き合って、二人の時間を過ごしているみたいだ。
私の理想の夫婦像じゃないかとちょっと羨ましさが湧いてきて興奮。まあ、それはどうでもいいことだが・・・
妻はすぐ上の部屋の奥さんの話をし始める。
奥さんから電話がかかってきてひどく焦っている。聞いたら、部屋にワニが出たのだとか。コタツの中から。子供たちをコタツの机の上に避難させ、今はコタツの中に抑え込んでいる。ペットで飼うような小さなやつじゃなくて、アマゾンとかにいるようなやつ。
親しくしている奥さん連中と一緒に訪ねると、奥さんはひどく青ざめた顔で部屋から出て来る。でも、コタツの中にはもうワニはいなかった。
それだけの話。
ここは社宅だから、夫は奥さんの旦那のことを知っている。そうなっても仕方ないような環境であることを知っているのか、不可解ながら精神病なのではないかと心配する。
話には続きがあるらしい。
そんなことを妻自身は信じていない。でも、その後もコタツからワニは出続け、今ではもう家族のようになったのだとか。
否定は出来ない。だって、奥さんは見たというのだから。いないということの証明は出来ないとかいう哲学的な考えだろうか。
神様はその人にとって、必要なものを与えてくれるのではないだろうか。そんな妻の言葉。
夜も明けてきた。明日も仕事。お酒も二人で飲み干した。
夫はいつの間にか眠り、妻もその横でゆっくりと床につき・・・
???
まあ、奥さんの満たされぬ心が生み出したワニって感じではあるが。
詳しくは語られないが、どうも上の階の夫婦はうまくいっていない。夫の仕事のせいか、奥さんは二人の子供を抱えて精神的に過度な負担を強いられているような感じだ。
ワニ。よく、ピンクのワニを薬中の人は妄想で見るとかいうけど、そんなイメージとして捉えるのかなあ。お酒を夫婦で飲んでいる姿から連想して、キッチンドランカーになっているようなことも考えながら見ていたのだが、よく分かりません。
仕事の忙しさはきっと、上の階の夫も同じ。
でも、ここの夫婦みたいな心を通わせるわずかな時間すら作らなくなってしまったのだろうか。
本当は、ここの妻だって、なかなか帰らない夫の代わりに、コタツからワニを生み出して、新しい家族として迎えることになってもおかしくはないはず。
でも、好きな本を読むということでその孤独を昇華し、かつ、夫との少しの触れ合う時間から、時折、空虚になる心を埋めているように感じる。
最後に共に眠る夫婦の姿は、言葉もあまり無く、長く共に過ごす時もないけど、確かに二人は繋がっていることを感じさせるように映ったのだが。
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コメント
これも気になってました。おもしろそうやな、と。それにしても激戦週でしたね。だいぶ悩みました。
投稿: KAISEI | 2015年2月25日 (水) 22時33分
>KAISEIさん
なかなか貴重な体験でした。
まだ、休みボケで情報が追い付かず、どのくらいの公演があるのか把握できておらず・・・
一度休むと復帰に時間かかりますわ。
投稿: SAISEI | 2015年2月26日 (木) 17時16分