だいたい源氏物語【カミシバイ】150222
2015年02月22日 道頓堀ZAZA HOUSE (110分)
全8章から成る源氏物語を基盤にした作品。
当日チラシで、役名を拝見しても今ひとつ、どんな作品になるのか想像がつかない。源氏物語の作者をはじめ、登場人物らしき人もいるが、普通の世界にいるような人たちも混じり混んでいるし、抽象的に男や女としかなっていない役もある。
不安と期待。
よくありがちな、主人公が源氏物語の世界に入り込んでしまい、そこでの色恋事情に晒される中で、現実世界の直面している色恋を見詰め直すみたいな感じかなんて思って観ていたが、そんな想像を突き抜ける仕掛けがなされていることが2章に入ったあたりで、もう分かって感動。
これは確かに源氏物語だ。そして、確かにだいたいだわと。
漫画、あさきゆめみしを昔、読んで少しだけ覚えている程度。だいたいの知識で、だいたいと謳う源氏物語を観る。
意外に分かるものだ。メタを多用するので、混乱はするが、確かにと納得する話が紡がれて、源氏物語が出来上がっている。
凄いものだなあと感心する脚本ですね。
非常に面白く仕上がった作品でした。
第一章:上野葵の憤慨
漫才コンビの上野葵とコースケサンタマリア。
最近上映されている映画版源氏物語を批評するネタの練習。
その中で、コースケが知り合いの芝居に出演するつもりでいることを知る。だいたい源氏物語。コースケは主役のヒカルなのだとか。
それだったら、もうコンビは解消。
そんなことを言う葵にコースケは突然プロポーズ。二人は夫婦となる。
あ~、お家事情だったか、あんまり好きとかいう想いがはっきりしないで光源氏と葵の上は結婚するんだったなあ。
確か、夫婦仲が悪いから浮気するのか、浮気するから仲が悪いのかはよく分からないが、ここから光源氏の数々の女性遍歴が始まるんだよなあ。
ここで既に浮気をしていることを葵から疑われている。芝居の共演者みたい。後の章を見たら、六条とかいう役がいる。こいつに呪い殺されるんだなと納得。
第二章:藤宮蕾の教育
宮本ヒカルは母を亡くし、父との二人暮らし。
ヒカルは家庭教師の藤宮蕾に想いを寄せる。亡くなった母親の面影があるからだろうか。
自分は映画監督を目指している。昔、役者もしていたという蕾をヒロインにして作品を創れたら最高だなと思う。
勇気を振り絞って告白しようとした時、蕾から父と再婚するつもりだと言われる。
愛する人がお母さんになってしまう。
この章で感動。上記したように、凄い、これ源氏物語になっているわあと。
父の再婚相手、藤壺とも契っちゃって、子供まで生まれてしまうはず。
本当はこれぐらいでもけっこう満足。ここから、さらに様々な仕掛けを見せられるが、メタの深みにはまって、考え出すと混乱してしまった感の方が強く残る。
第三章:六条睦美の嫉妬
コースケはだいたい源氏物語の芝居の稽古。予定通り、ヒカルという光源氏の役みたい。
六条睦美が葵の上を演じている。コースケの浮気相手だ。
色恋を描いた作品だから、好きという言葉が飛び交う。
演出の村上式部は演じる役者にその好きという心情に厳しく演出をつける。
好き。本当に好き? あなたはヒカルが好き? あなたは葵が好き?
二人はその答えに窮する。
やがて、葵の妊娠が発覚する。葵の上ではなく、本当の妻の葵。
コースケの不穏な行動に不安を感じるのか浮気をしていないかと問い詰める。私のこと好き? コースケはそれにも答えられない。
六条は葵に、コースケとの仲を暴露する。
葵は宿した子供と共に、コースケの下を去る。
六条の御息所って、いわゆる男にとって窮屈な女だったみたいですね。嫉妬深くて、気位が高くて。
この章でも、同じ役者同士ってところもあるのか、互いのプライドが勝り合って好きを素直に言い合えない。といって、別れることもプライドが許されない。好きだから付き合っているのか、それとも別のものに付き合いを支配されているのか。
葵も似たところがあるのでしょうか。原作でもいいところの出だったはず。
何か、一緒になるって好きだからという当たり前が、実は実際の恋ではそれほど通用しないという恋の難しさ、厄介さがうかがえます。
第四章:若村沙紀の期待
映画のオーデション。
宮本ヒカルはオーディションを受けに来た若村沙紀を強く推す。
蕾のめいだから。
ヒカルは若村沙紀に様々な指導をして、彼女を女優として育てていく。演じることが出来る女性に。
紫の上。
実は、もうこのあたりで混乱しています。
一章のコースケは現実世界だろ。二章のヒカルは、既にコースケが演じるだいたい源氏物語の一シーンなの? いや、これはまた別のヒカルの現実世界の話なんじゃないのか。
三章は確実に一章のコースケが芝居をしている。いや、でも、演じる人、代ってるじゃん? 一章を現実にした仮定自体が実はもう崩壊しているんじゃないの。
って感じで。メタ構造になっている作品だなとは思うものの、いつの間にか現実、芝居、映画の入れ子構造がどんどん進行していたみたいで、もう頭の整理が追い付かず。
とりあえず、一章から三章。二章から四章に進んでいることにする。当日チラシにも暗転中に、後から見てもよく分からない矢印を書き込んでおく。
そして、社長の息子やコレミツって誰よ。社長の息子は次の章でだいたい意味合いが分かったけど。
第五章:月詠おぼろの挑発
ヒカルのずっと想いを寄せていた義母である蕾が亡くなります。
そんな中、映画の撮影は進み、ある女性と恋仲になります。
それはこの映画を支援してくれている社長の恋人。
ヒカルは左遷。愛する若村沙紀を残して。
朧月夜の君。兄の婚約相手を寝取ったという原作の部分でしょう。
ただ、ここで描かれる女は役名が無く、若村沙紀でもあり、朧月夜の君でもあるみたいな感じになっている。さらに、ヒカルも固定された人が演じず、4人の男で描かれます。
このあたりは、どうもこの章で、普遍的な男女の恋ってものを見せようとしているのかなといった感じでしょうか。
演じる女優は、男が愛する女性ともなり得るし、浮気相手の女性ともなり得る。どちらでも、好きということを演じ、言葉にすることもできる。それも、ヒカルというある一人の男ではなく、そこにいる男を見詰めながらも、自分が頭で描く想う人に向かって。
それに対して、ヒカルという男は今、目の前にいる女に対してしか言動を起こせない。
男女の恋愛の感覚の違い、ひいては演じることにおける男女のとらえ方の違いを掘り起こそうとしているように感じます。
第六章:明石美加多の別離
ヒカルは大阪に飛ばされ、そこで芝居を始めます。
演出家として。だから、ヒカルは今、村上式部となります。
数々の女性遍歴を持つヒカルですが、この地のせいなのか、元々そんなものなのか、あまり求心力を見せることができず、役者さんたちは言うことを聞きません。
そんな中、一人の女性、明石美加多だけは違いました。
彼女と共に芝居を創り始めようとしていたヒカル。しかし、若村沙紀は彼に京で再び活躍する場を用意し、彼を帰京させます。
明石美加多は、彼の意志を引き継ぎ、今度は自らが村上式部となって、作品を創っていく決意をします。
明石の御方のお話。
明石の御方は、確か、数々の光源氏の浮気相手の中でも、紫の上が認めた女性だったのでは。何か、あさきゆめみしで二人がこんな一人の男を好いてしまったことを悲しみ半分、喜び半分って感じで語り合うようなシーンがあったような。
映画女優、演劇役者としての表現は違えど、何か演じる、表現するということでの共通項があるような描き方がやはり巧いなあと思います。
第七章:三条野宮の無視
京に戻り、映画監督として活躍するヒカル。
やっぱり作品はだいたい源氏物語。
本来は、藤壺は若村沙紀にさせたい役どころであったが、諸事情で三条野宮という女優に任せる。
でも、彼女から好きという感情表現を引き出すことが全くできない。
そんな中、柏木という共演している男が、三条と恋仲に陥る。
どんな話だたったかな。
柏木は何か覚えていて、確かに寝取ったやらで、光源氏に殺されたような。
それが三条の宮だったか。
蕾に由縁があるけど、好きにはなれなかった人みたい。
でも、こんなことがあって、結局、ヒカルは若村沙紀への愛を確信するのだろうか。
ヒカルは、自分の世界が創り上げられないことを覚悟したのか、脚本を破り捨てながら去っていく。
ヒカルにとって、この作品は自分が数々の女性と恋に落ちる中で、本当の好きということを見つけ出そうとするんものだったのか。その作品に最愛の若村沙紀はいない。
自らは好きになり続けたが、もしかしたら一度も好きという想いを得ることが無かったのだろうか。
去っていくヒカルの背中には、手を伸ばし続けながら、一度も掴めなかった無念といった悲しみが宿っているように映ったが。
第八章:村上式部の告白
メタに深く入り込んでしまっているので、もう抜け出せなくなって、よく分からない。
この作品の創り手、しきぶ。
作品中のだいたい源氏物語の創り手、村上式部。
そこに登場するヒカルを演じるコースケ。
式部は自らの作品のヒカルを愛そうとする。それはコースケへの愛には繋がらない。
ヒカルが好きになった源をたどる話なのだろうか。
芝居ではなく、映画を作りたいヒカル。
好きだった証、好きという発した時の言葉を残しておきたかったのか。それくらい、自分の好きに不安を感じ、自信を持てなかったのだろうか。
それは、原作の紫式部が文学に残し、今でもその想いが語られる姿と通じているように感じる。
村上式部は演劇作品を創る。演劇。この一瞬に飛び放たれる好きという言葉。
演じる虚像、目の前にいるのがその人でなくても、それが誰であっても想いを寄せる人に放たれた言葉になる。
きっと、演劇にはフィルムや紙という媒体に刻み込める映画や文学作品には無い、この一瞬の言葉で、人に想いを伝える力がある。
刻みこまれるその受け止め先は、その人が、舞台に立つ姿、言葉を観て聴いた私たちの心なのかもしれない。
面白いなと思いながらも、さんざん迷走して頭を悩ませながらの観劇であったが、最後は、やっぱり演劇って凄い力があることを証明している話なんじゃないのかな、だから自分もこんなにはまっちゃったのかなと思いながら、帰路につく。
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コメント
これも気になっていた作品。はァ~っ。もう無理。これ以上観られない。1月12本、2月22本ペースで来てるのに…あわわ ところではるさんの観劇ブログもなかなか。アメンバー登録せな書き込めへんしまだコメしてませんが…
今週末は
(土)ステージプラス→シアターOM→HEP(日)芸創→(KAIKA)→壱坪シアター
という感じです。SAISEIさんは芸創はないかな(笑)私も少し躊躇いましたが昨年のえん魔アリスのアリス役の方が出られてるので行く感じ。可愛い女の子がいっぱい出てるみたいです。そう言えば劇団ズッキュン娘の藤吉みわさんの旗揚げ公演前インタビューを見つけて読んだんですがなかなか戦略もってやったはるみたいです。はるさんもアイドル系から小劇場に来はったクチみたいですね。3/14近辺はどちらに行かれますか~ 京都は文芸で劇団ZTONが公演を行います。稽古場見学に行ったのですが傑作の予感です。
投稿: KAISEI | 2015年2月25日 (水) 23時15分
>KAISEIさん
そんなハイペースで観られているんだあw(゚o゚)w
はるさんのブログはポイント絞りつつも、内容が詳細で非常に参考になりますね。
芸創、気になってますけどね。
日曜日が多分、仕事で厳しいので、今回はスルーかな。
ピンク地底人も観たかったけど・・・
四方加菜さんの一人芝居プロデュースも観ないといけないしで。
お互い、忙しいですなあ(o^-^o)
投稿: SAISEI | 2015年2月26日 (木) 17時26分