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2015年2月26日 (木)

赤色エレジー【Quiet.Quiet】150225

2015年02月25日 KAIKA (105分)

1970年代。
革命という崇高な精神を掲げて生きるという時代背景の中で、実際はもがきながら今を必死に、それも人間の弱い本質を曝け出しながら生きる若者の姿を描いたような作品だろうか。
哀しく映りもするが、それこそが人であり、生きるということなのだという真正面から人とぶつかったような話にも感じられる。
どこかもどかしく、心モヤモヤとなるが、そんな中でも頑張って生きる人の姿に安堵を得たりもする。

<以下、あらすじがネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

時代背景は学生運動が盛んな1970年代。
田舎から東京に出てきて、左翼活動に身を投じるものの、それほど崇高な革命精神があるわけでもなく、内ゲバに怯えながら赤貧の日々を過ごす一人の若者の物語。

男は、熱き革命魂を持ったリーダー格のアラカワという男と、その精神・行動力に同志として誇りを感じているようなヨシダという女と共にメーデーに参加する。
行進中、道路に散乱している男の下宿先の部屋の荷物が見つかる。ちっぽけな茶だんすに、扇風機。ラジカセに、どんな食生活なのかマヨネーズとケチャップ。そして、数々の思想本。
家賃を滞納して遂に大家さんに放り出されたようだ。でも、大家さんも本気で追い出すつもりはなく、工面も出来ないくせにお金を借りれるとか嘘をついてその場をしのごうとする男の態度を改めさせたい気持ちの方が大きかった模様。
アラカワ、ヨシダの仲介で、大家さんに謝ってもう一度住まわせてもらおうとするが、男の方がそれを頑なに拒絶する。
もういいんだ・・・

もうすっかり荒んでしまっている男。
半年ほど前までは、ヨシダと同棲のような生活をしていた。
といっても、当時の思想を同じくする者と体を重ねるのが当たり前といったような感じだが。だから、その思想の熱が高いアラカワの存在が男の頭には常にあったような感じ。
一応、アラカワやヨシダの計らいで校正の仕事をもらっていたみたいだが、元々だらしないのか、締切を全く守らない。いつ洗ったのかも分からない服をだらしなく着て、インスタントラーメンをすする退廃的な生活をおくる。
そんな生活の中で、田舎の父が亡くなる。母と妹しかおらず、帰るべきであるが当然のごとくお金が無い。わざとらしく、電報をヨシダの目のつくところに置き、金を工面してもらう。別の仲間にはカバンとなけなしのお金も準備してもらうという妙なほどの用意周到さ。
田舎に戻ると、妹は東京に行きたいなあと呑気に憧れの言葉を発する。友達は東京で活動に身を投じる男に尊敬に似た興味を抱いている。こんな田舎でも革命を起こさなければと思っているのか、会を結成し何かしているらしい。そんな会の仲間たちはカンパしあって、東京での活動の現状を聞きたいと男にお金を渡す。当然のごとく、男が語れるようなことは何も無い。後日、手紙を出すとまたその場しのぎで対応。おまけに、受け取ったお金の領収書の名前にはアラカワの名を書く。

そんなことがあったこの半年。
男はヨシダと共に過ごしていた頃を思い出している。
でも、今の現実は下宿先も追い出されたというか、出ていき、路上生活。
警官に職務質問を受ける。
でも、どうしようもない。どうにかできるなら、逆に捕まって留置所にでも入れてもらいたい。
守る物が無い強さなのか、そんな身を曝け出した男の訴えには警官も成す術がない。いつの間にか、お金をむしり取られる始末。彼には妻も子供もいて、守る物があるのに。
男は路上生活をしながら、心のどこかであることを期待していたみたいだ。アラカワやヨシダが迎えに来てくれることを。
でも、それは無理なことを警官の口から聞く。彼らは酷い内ゲバにあったらしい。

男はどこかに部屋を借りたのか、プラレールを走らせて、それをうつろな目で眺めている。
田舎の友達が昔、持っていて、自分の子供には絶対、これを買ってやろうと思っていたらしい。
ヨシダが訪ねてくる。頭には包帯。アラカワはそれどころではないみたいだ。もう廃人ぐらいの状態らしい。
ヨシダはアラカワとの結婚を伝える。お腹の中の子供のため。
そして、男がアラカワの名を使って、方々からお金を工面していることを知り、絶縁を突き付けて部屋を去る。

路上では花見をしている若者たち。とにかく酒と歌で盛り上がる。
警官が来て注意をしても、強引な押しで軽くあしらう。
アラカワがやばいらしいみたいな声が聞こえるから、活動メンバーたちなのだろう。
男はボソボソとつぶやきながら、その輪に入り込む。
アラカワは死んではいけない。生きて欲しいと思っている。彼があの酷い姿でいることで、自分たちに復讐している。彼の不幸は私たちに、そして今の世の中へと拡がり続ける。
そんな言葉には全く耳を傾けず、花見で盛り上がる面々。
お腹が大きいヨシダが現れる。アラカワが死んだ。自殺だったらしい。廃人となって気が触れていたアラカワは最期に全ての力を振り絞って、私たちのことを想って死んだのだろう。
その言葉に、ただ立ち尽くすしか出来ない面々・・・

70年代の時代を感じさせる作りになっているが、若者の行き場の無い彷徨いは今にも通じるところがあるのだろう。
革命というあまりにも大きな未来への大義を背景に置きながらも、描かれているのは今を何とか生きる、今をとりあえず楽しむ若者の姿が横行する。
一応、ブルジョア階級となるのだろうか大家さんや、国家権力の代表である警官に対しては本来は否定の対象であるはずだが、お世話になったり、仲間に引き入れようとしたり、特にどうでもいい存在といった形で扱われている。
今が、掲げる革命に通じるということが全く見えてこないような感覚に行き詰った閉塞感を覚える。
革命という見えないくらいに大きなものと、現実に生きる私たちの目にする小さきものの対比が哀しく映る。

男はヨシダに想いを寄せる。ヨシダとの繋がりは革命への思想だけだと思っていたのだろうか。確かに情けない男だが、どこかに魅力を見出してくれて、自分と付き合いを始めているような感情は持てなかったのかな。その自信の無さが、男を活動から捕えて離さず、アラカワへの敬意や嫉妬の混雑した感情と共に男に退廃感を植え付けてしまったように感じる。
アラカワは確かに信念のある強き男だ。でも、それはこの活動の中での話。弱いところだってたくさんあっただろうし、情けない一面だってあったはず。そんなものを全部ひっくるめて、人間としてのアラカワと付き合えたなら、男にも別の道があったような気がする。
革命という言葉に惑わされ、世の中や周囲の人たち、そして自分自身を単一視点でしか捉えることが出来なくなってしまった哀れな男が浮かび上がる。それは、活動に執着し、全てを捨てての至上主義を貫いた中でたどったアラカワの悲しき末路にも同じことが言えるように思う。

希望があるとするなら、子を宿したヨシダは母となり、この経験も踏まえた上で世の中を多視点で見詰めながら、これからを生きる者を育てる。
アラカワの死に立ち尽くすだけの若者たちが立ち止った今から一歩、どこかに踏み出そうとする。
活動におけるエネルギーの源だった、周囲の人にそのエネルギーを送り続けたアラカワの生き様を感じ、もう一度、生きる力を男が得る。徐々に倒れ、遂には地面に横たわる電信柱にしがみつく男の最後の姿はそんなイメージを抱く。
普遍的とも思える人間の弱い本質を突っつかれたような話だったが、こんなことから人は変わっていくようにも思え、ダメながらも頑張って生きることの素晴らしさに通じているのかもしれない。

弱さをむき出しにしてもがく男を演じる佐々木誠さん(匿名劇壇)の姿が光る。それに、どこかこの時代の薄幸さを醸すヨシダを演じる呉城久美さん(悪い芝居)。時代に翻弄されながらも信念を貫く熱の塊、アラカワを少し誇張したキャラで面白く演じる高山涼さん。
別役作品らしい、不条理キャラなのか、大家さんの九鬼そねみさん(努力クラブ)、警官のすっ太郎さん(ドキドキぼーいず)の空気を変える力は相当なものだった。

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コメント

佐々木さん・高山さんに惹かれて今日観劇予定。前売券予約するの忘れてた…(^_^;)土曜日はユニットまいあがれ22時に行くか思案中。

投稿: KAISEI | 2015年2月27日 (金) 01時41分

>KAISEIさん

きっと気に入ると思いますよ。
まいあがれは、土曜夜から、そのまま日曜日まで仕事になりそうなので、19:30の回にしました。
またしても、すれ違い(^-^;

投稿: SAISEI | 2015年2月28日 (土) 10時35分

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