秘傘!雨の叢雲~傘を刺す、五月雨~【劇的細胞分裂爆発人間 和田謙二】141130
2014年11月30日 東山青少年活動センター 創造活動室 (115分)
今回、話題になっていた殺陣は、なるほど確かに見応えがある。傘はなかなか万能な剣であると思わせるアイディア豊富な技に魅せられる。
キャラの濃さは、ここではお手の物か。個性的で、様々な背景を持つ登場人物の絡みはなかなか面白い。
正義とは悪とは、復讐の連鎖を断ち切るといったメッセージ性の高い話も、しっかりしている印象が残る。
ただ、全体的な感想としては、どこか手放しで面白かったですとは書けないようなところがある。
説明がくどいのか、設定のボリュームが多過ぎるのか、理解は出来るが、そのうち、理解しようとするのがしんどくなるような話の展開や、ここまで個性的なキャラにするなら、もっとそれを誇張して殺陣などでもそれを活かして欲しい気がする。
後半は復讐に囚われるむなしさ、そんな復讐の連鎖はどこかで終わりにしなければ、そして誰のためでも無い、自分が幸せを掴むために道を進まないといけないといったメッセージを伝えるために、無理やり話を展開しているかのような感があり、正直、しんどかった気持ちが大きく残っている。
五三桐五月雨は、母の仇である葵村雨を討つべく旅をする。
彼の武器は傘。この特殊な秘技の数々を父から学び、その父を討ち倒して、殺法を相伝した。母の仇を討つため、同じ親である父を討つ。矛盾しているが、これが剣の道を進む宿命らしい。
村雨は裏の世界で生きている。村雨を倒すべく、そのシマを襲撃し、彼の仲間を抹殺していく。罪なき人たちだが、仇討ちのためには手段を選ばないし、感情も何もかも捨てている。
ある日、五月雨は無銭飲食をして、店主と揉めている時にある刑事と出会う。仇討ちに全て費やしているので、金が無いのだ。
その刑事は取引を持ちかけてくる。村雨のアジトや情報を教える代わりに、その仇討ちが終わればおとなしく逮捕されろと。
正義が全て。悪は滅ぼさなくてはいけない。でも、現実は葵組と警察は癒着していて手出しが出来ない。だったら、どういう理由であろうと代わりに倒してくれる人と手を組もうということみたいだ。
完全に信用したわけでは無いが、五月雨は村雨の情報が欲しい。彼と手を組むことに。
刑事曰く、村雨の周りには葵6人衆という女性たちが常にいるらしい。村雨を倒すには、まず、この6人衆から責めなくてはいけないようだ。
カスミ。リーダー格で最も村雨の寵愛を受けているみたい。村雨は妻を失っている。一人娘の時雨はこの裏の世界には一切関わらせずに育ててきた。その育ての母とも言える女でもあるようだ。戦いなどとは無縁な優しい空気を醸しているが、それだけに芯に潜む村雨への忠実な愛も感じさせる。
シズク。斬り込み隊長と呼ばれるように、武芸を極めるべく日々、鍛錬している女。凛とした袴姿でハイカラさんって感じだが、近づく者は全て斬り捨てるといった剣への異常な執着を見せる。
キリ。銃を片手に村雨のボディーガードを務める。黒づくめのスーツ姿は殺し屋のいでたち。村雨を自らの命に替えてでも守るといった熱い愛情を、冷たい残酷な雰囲気を醸す外見で覆う。
シモ。オカマである。剣の腕には自信があるようで、シズクとは折り合いが悪い。剣への執着といった点で似た者同士だからなのかも。ただ、シズクほど冷淡に人を斬り捨てる感情は持っていない感じ。その姿と同じく、迷いがあるってところだろうか。
ユキ。いわゆるギャルか。自由奔放に今の生活を楽しんでいる。武力には全く秀でていないが、美人な容姿を使って、色気で勝負する。警察幹部にもその虜になっている者がいるのだとか。
アラレ。ユキ同じく武力は無く、容姿もごく普通。その明晰な頭脳を使って、数々の情報収集、解析を行う。葵組は実質、この女が影で統率しているような状況らしい。その実績が認められていないのか、内に鬱積する不満を抱えている。
まずは、6人衆を順番に倒すべく、一人一人何とかおびき寄せないといけない。
五月雨は、どうするかと考えながら、公園を歩いていたら、女子高生が変態男に絡まれている。彼女の折りたたみ傘をいやらしい手つきで触り、匂いを嗅いで恍惚の表情を浮かべる。思いっきり殴り飛ばして追い払ったが、傘は取られてしまった。
それでも助かったと礼を述べて、女子高生は立ち去る。時雨と名乗る清楚で礼儀正しい女の子だった。
ふと気付くと、冷たい目で自分を見詰める女性がいる。仇討ちの旅が長いからか、ピンとくる。こいつは敵だ。しかも6人衆の一人のようだ。刑事から聞かされていたように確かに強い。傘が無いから対等に戦えない。その時、どこかから声がして、折りたたみ傘が投げ込まれる。さっきの女子高生の傘だ。
とりあえず、それを手にして、五月雨はその女を殺す。
葵組では大騒ぎ。
殺されたのはキリ。どうやら、村雨の娘、時雨の隠れたボディーガード中の悲劇だったらしい。
時雨とキリは仲が良かった
知らせを聞いて、時雨は深く落ち込む。
現場に残されていた血に染まった自分の折りたたみ傘。
時雨は公園であったことを話す。折りたたみ傘を自分から奪った変質者のこと、そして、それを助けてくれた男のこと。犯人はあの変質者に違いない。
とんだ勘違いなのだが、残りの5人は、キリに仇を討つべくその男を追う。
一方、五月雨は、戦いの際に折りたたみ傘を差し出してくれた男と会う。
さっきの変質者だ。でも、よくよく見ると、幼くして別れた自分の兄、秋雨。
仇討ちに執着する五月雨をいさめたい、もう忘れて自分の道を歩めということを伝えに来たみたいだ。
五月雨は、そんな兄に反発する。兄は武芸の才能が無かった。一子相伝の傘殺法の伝承者は五月雨がふさわしいと兄は幼き頃に家を追い出された。力が無いからそんなことを言うのだ。
でも、心の奥ではもっと違う生き方があるのではないかと揺れる。
その揺れる気持ちは、時雨との再会でさらに強まっていく。
時雨は自分がキリを殺した犯人であることを知らずに、その悲しみを打ち明けて来たのだ。
もちろん、五月雨も時雨が村雨の娘であることを知らない。
キリを殺した犯人が憎い。復讐したい。そんなことを言う時雨に、五月雨はあなたは優しい人だから、復讐には向いていない。あなたの道を進めばいい。きっとキリさんもそう思っている。
自分にも向けたような言葉を時雨に返す。
そんな五月雨の姿に刑事は不安を覚える。彼の復讐心が弱まってきている。このままでは、自分の計画が上手くいかない。
刑事はアラレに連絡を取る。刑事とアラレが実は繋がっていた。
アラレは村雨に替わって葵組を手に入れたい。それは、自分に愛情を向けてくれない村雨への不満から引き起こされた感情のようだ。
刑事はアラレに葵組を治めさせ、力の弱体化、そして、警察の管理下に置こうとしている。
正義という大義に取り憑かれ、手段を選ばす自分の目的を果たそうとしているみたいだ。
刑事とアラレは共謀して、秋雨を誘拐し、村雨のアジトに五月雨を誘い出す。
五月雨はそこで、秋雨の無残な姿を見ることに。そして、時雨の正体を知ることとなる。
時雨と過ごしたわずかな一時。自分の幸せを願って生きてもいいのではないか。
そんな心の迷いは全て拭われた。自分には復讐のみ。母を、そして兄を殺した村雨を倒す。
五月雨は、復讐の鬼と化し、葵組に戦いを挑むが・・・
この後、五月雨と葵6人衆、そして村雨との対決が繰り広げられます。
そこに、仲間うちでの裏切りや、村雨からの得られぬ愛情への歪んだ嫉妬なども絡ませて。
少々、説明がくどく感じる印象が強いかな。
話を展開するため、整合性を取るために、ずいぶんと設定をきちんと描こうとしているのが、逆にしんどくなったように思う。
常人では思いつかない設定のはちゃめちゃさの面白味がここにはあるのだから、そのまま何でそうなるんやといった感じでも構わなかったように感じる。そもそも、何で傘を振り回し取るんやといった前提なのだし。
復讐は復讐を呼ぶ。その連鎖を断ち切らないといけない。その結論に持っていくためのラストの村雨の過去の設定などは、かなり疲れる。ちょっと理屈っぽい方が好きな私でも、ちょっと理解するのが面倒臭く感じる。もちろん、なるほど、ちゃんと背景を作り上げているのだなと感心はするのだが。
最終的に、時雨は、五月雨と同じ立場になる。
五月雨は時雨の仇討ちの対象となり、新たな復讐の物語が始まる。
でも、時雨はその復讐の連鎖を止める。
それは五月雨が時雨にかけた言葉からだった。五月雨の胸の内にあった人など傷つけたくない優しい想いを引き出した時雨。それを信じたくなったのだろうか。
そして、もう一つは、父、村雨の生き様を感じとったのではないだろうか。
元はと言えば、人が人を冷淡に殺す研究から生まれたこの悲劇。そんな殺人マシーンのような血を引く村雨が娘には一切、それに関わらせないように育て、そこで悪しきこの繋がる血を浄化しようとしたかのように思える。
人を殺すことが当たり前、愛することが出来ない血を持つ村雨が、その心に少しだけ残る欠片のような愛する心を時雨に全てを捧げた。彼もまた、時雨を守るために戦った。そして、そのためなのか、愛されることの無かった葵6人衆。そんな葵6人衆は、村雨を守るために戦い続けた。
悲しきこの連鎖を、五月雨の傘が止める。
もう傘は必要ない。たくさんの犠牲を生み出した長き不幸の連鎖は終わりを告げ、ようやく二人に光が射し込み、晴れ間が戻るといったような終わりで話は締められる。
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