Amayadori cafe 滲色企画【何色何番】141124
2014年11月24日 人間座 (85分)
お宝発見ってところだろうか。
久しぶりに、なかなか好みの劇団が新たに見つかった。
最近、このブログにコメントを書いてくださる方が、かなりお薦めしていたので、ちょっと足を運んでみたが、このスタイルの作品はとても好き。
心温まる、素敵という言葉がはまる話の中で、日常に潜むふとしたむなしさや切なさ、不安を浮き上がらせながら、より良く生きようと頑張る人の姿が優しく描かれる。
なかなか巧妙でテンポのいいドタバタコメディーのスタイルがまた上手くはまっている。
母が倒れた。いの一番に飛んで駆けつけた。
それから、検査結果が出ては手術の繰り返しで付き添うようになる。
いつしか会社の上司からは睨まれ、同僚からも嫌がらせを受けるようになった。
疲れて寝込む。母からの腫瘍が見つかったというメールにも返信出来なくなった。
そして、母は発作を起こして亡くなった。
悲しい気持ちより、もうメールに返信しなくていいようになったと安堵の気持ちがあった。
今から3年前の話。
母のことはあまり好きでなかった。兄ばかり可愛がって。兄の誕生日プレゼントは仕事でいくら忙しくても探して買ってくる。自分にはお金を渡してお終い。借金や近隣の人とのトラブルなどの揉め事も兄には伝えない。いつも、嫌なことは自分ばかり。
私は母とは正反対の人間だと思っている。
そんな桜、厄年を迎える32歳、アラサー。彼氏無し。
今は、母が営んでいた喫茶店、陽だまりを改築して雑貨屋をしている。名前はAmayadori。さびれた商店街に若い人の店が出来たと周囲は喜んでくれているらしい。
店には、遺産相続などの手続きで色々と助けてもらった同級生の美波がよくやって来る。司法書士として頑張っている。美人だが、出来る女オーラが男受けしないのか、少々気がきつそうなところがダメなのか、桜と同じく彼氏無し。見合いの話もあるみたいだが、これまでも、あまりいい恋愛はしてこなかったみたいで拒否している様子。
兄は近くの工務店で働いている。結婚もしている。店の改築も協力してもらった。その後輩は、女子力が高い男。可愛らしい雑貨に詳しく、たまにクッキーを焼いて持ってきてくれたり。がさつでお調子者の兄とは大違いだ。もっとも、後輩もくだらない冗談ばかり言ったりしているが。まあ、男は幼稚ってところだろう。
桜はそろそろ、母が喫茶店をしていた頃の椅子やらカウンターやらを整理してしまおうと思っている。もう3年も経ったから。それに、私は母と同じことはしたくない。だから、ここが喫茶店に戻ることはもう無い。
でも、兄はそれに不服があるみたい。それでも、この家のことは全て、自分に任せられている。そう手続きをして、固定資産税も払っているのだから。
そんなAmayadoriに、一人の女性が訪ねて来る。
ちょっとズレていて、人とコミュニケーションを取るのが苦手なのか、いっぱいいっぱいで必死の様相。感極まるとちょっと怖く引いてしまうぐらい。
どうやら、母が喫茶店をしていた頃の常連だったらしい。
桜も美波も何となくは顔を覚えている。同い歳だったのも聞かされていたから。
いつも、母専用だったカウンター前の椅子に母が座り、彼女の話を聞いて、励ましたりして、我が子のように可愛がってもらっていたのだとか。
今日、ここに来たのは彼氏と話をするため。この店なら、自分が今、言わなくてはいけないことを言えると考えたみたいだ。
彼氏は最近、転職をして忙しいらしく、スレ違いが続く。本当に私を大事に思っているのか。私ももうそれなりの歳。要は結婚のことをどう考えているのかをはっきりさせたいらしい。アラサーだから焦る。もうここで勝負を決めないと。厄年チャンスだ。
彼氏とはもうここで待ち合わせの約束をしてしまっているらしい。
兄の提案で、ここを喫茶店として復活させることに。
桜は納得がいかない。ふてくされて、二階に上がってしまう。二階のベランダには兄が作ってくれた屋根がある。洗濯物が雨に濡れないので何かと便利だ。
今日も、ポツポツ降り出した雨を見ながら、一階で勝手に進む計画に腹を立てながら、想いを馳せる。
そんな桜に美波は、とりあえずカフェということで手を打てばどうかと提案。喫茶店とカフェは違う。カフェは女子力高いし、母と同じことをするわけではないのだからと。
まあ、騙されたような感じで、一応は納得。
彼氏が来るまで、みんなで臨時のカフェを作り上げる。
彼氏がやって来る。
とにかく、プロポーズの言葉を引きずり出す。女性は気合が入る。周囲も、少々頼りない男性陣もいるが、そんな雰囲気を作り出すべく協力は惜しまないつもりだ。
ところが、男は今回の転職はツアーの企画を立てるような仕事をするための第一歩だと言う。数年後にはまた転職をして、自分がしたい仕事を目指すつもりらしい。
女性は、その人生設計に自分はどう絡んでいるのかみたいな回りくどい聞き方をするが、忙しかったから心配させたならゴメン、大事には思っているみたいな返答を彼氏はする。
女性が勇気を振り絞って、結婚の言葉を出しても、タイミングが来たら、環境が落ち着いたらと煮え切れないことを言う彼氏。
ずっと黙っていた桜が声を出す。言いたいことをきちんと言わないとダメ。女性に対しても、彼氏に対しても。それは、ここが陽だまりだった頃に、誰にも真摯に相談にのっていた母がよく言っていた言葉。
女性は本音をぶつける。彼氏もそれに応える。
しっかりプロポーズをする。ただ、さすがはちょっと変わった女性だけあって、少々、無茶ぶりのプロポーズをさせられるのだが。
さらには、妊娠しているという、とんでもない武器まで隠していた。
幸せそうな二人を尻目に、すっかり疲れ切ったみんな。
おなかもすいた。ここの名物だった母のミックスサンドが食べたいものだ。
その味は、兄の後輩に受け継がれていたらしい。材料の買い出し。ついでに妊娠しているから果物も。
とんでもない一日だったが、女性はもちろん、桜や美波にも笑顔が戻っている。
やっぱり、自分は母と似ているのだろうか。母の想いをふと頭に思い浮かべてみる桜。
見合いでもしてみるか。アラサーでも厄年でも、負けずに仕事も恋愛も。決意をするものの、半ば神頼みになりつつあるのも事実な美波。
三人のアラサーに光が射し込む・・・
歩んでいた人生の道に迷いが見え始めたアラサー女性たちが、またその自分の道を進む気持ちになるまでを描いたハートフルドタバタコメディーって感じでしょうか。
ベースは面白く楽しくですが、妙齢とはよく言ったもので、人生の微妙な時期にさしかかった人たちの現実的な問題や漠然とした不安を狂おしく感じさせながらの話となっています。
ラストは特に何が解決したわけでもありません。女性は結婚を手に入れましたが、それでも、また違う問題や不安は生じることでしょう。
桜や美波に至っては、別にただ事件に巻き込まれただけの一日。朝と夜で何かが変わったことはありません。それでも、3人は話のラストと共に、最初とは異なる表情をしています。それは凛としていて、少しだけの勇気と希望を胸に、そしてちょっとだけ不安がかき消され安堵を得て、頑張ろうとしている素敵な表情。
きっと、それは、3人が各々、自分たちに向けられている人の想いに気付いたからなのだと思います。そして、同時に自分もそんな人たちのことを想っていたことにも気付いたのでしょう。
たったそれだけのことですが、それは大きな自分への誇りとなって、3人を前へと進ませる原動力になったみたいです。
明るく太陽のような母。
その光は、きっと桜がいたから輝いていたのかもしれません。
母が名付けた陽だまりと、桜が名付けた逆のような意味の雨宿り。
でも、この二つは互いに支え合って存在しているような言葉ですね。雨降る物悲しさを知っているからこそ、陽だまりは気持ちいいのであって、そして、いつか射し込む陽の光に想いを寄せながら待つからこそ、辛い雨も心地よく感じたりするわけで。
今、ここは雨宿りの場所。でも、それが止めば、陽だまりが現れる。
母のように寂しい人を照らす場所なのか、桜のようにそっと傘を差しだす場所なのかの違いだけで、二人はやっぱり似てる。
みんなを幸せにする力を持っている。
そして、そんな桜にも周囲の人たちがいつも、照らしてくれたり、傘を差し伸べてくれたりしている。ダメそうな兄だって、何もしていないようだけど、屋根を作ったりしているように。母だけのことを考えていれば、屋根なんか作らないですね。陽も遮りますから。それよりも、妹が雨に濡れないようにと雨宿りの屋根を作った優しさを感じます。
それにしても、なかなか鋭くアラサー女性や男の心情を突いてきますね。
女性の気持ちは、所詮、男だから分からないにしても、何となく、人生の中のふとした不安は、自分もそれなりのアラフォーの歳を迎えているので分かる気がします。そこに、女性特有の問題なんかも絡めており、男はそんな女性にどうしてあげればいいのかを考えてみたくなります。
彼氏の結婚に対する言葉一つ一つが非常によく分かる。こんなこと、よく言いますもの。そして、これを言っている間は結婚にまで至らないということもよく理解しているつもりですが。
照らしているつもりでも、全然その光を感じてもらってなかったり、傘を差し伸べているつもりでも、実はズブ濡れになったりしているのでしょうか。どうも、そうなっているようですね。
転職の細々した理由を言ったり、自分の仕事のことやらをあまり語らなかったりするのは、彼女を照らすことにはならず、環境が落ち着いてからと言うのも、それでしっかりあなたを輝かせられる男になれるはずだからみたいな気持ちもきっとあるんですけどね。自分がしっかりすることは、万が一の雨の時でも、差し出せるその傘を身につけられるということで、そうしないと彼女を濡らしてしまうから。
本当は二人で雨なら雨で濡れて、何とか傘を見つけ出して、どこかで雨宿りして、再び、陽だまりの中へと二人で歩いていく。それでいいとは思うのですが、やっぱり男は、女性にとって陽だまりでもあり、雨宿りの場所でもありたい。そのためには、そんな自分になってからという、叶いもしない望みに囚われるもののような気がします。
まあ、何とも楽しさの中に、責められているような感も残る話でした。
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コメント
もしお薦めした私に気を使ってコメントされているのではなくほんとうに気に入ってくださっているならば嬉しいです。25日13時に観劇。個人的には10月の染色企画の方が全体の調和が取れているうえテンポも良くて好きです。染色は演出家の選んだ配役、滲色は10月の投票で観客の選んだ配役でした。私はやはり演出家の眼は確かやなと思います。1ヶ月半でハードルが上がったのもあるかもしれませんが…染色は今年私の中でベスト5に入る作品になりそうです。京都の劇団レベル高いやんと笑の内閣に続いて思いました。この項続くw
投稿: KAISEI | 2014年11月28日 (金) 01時11分
>KAISEIさん
恐らく、年によくて2~3回見つけられる掘り出し物劇団だったように思っています。
調和という言葉がいいですね。
基本、ドタバタコメディーが好きですが、ドタバタで本当に終わってしまうことも多く、ここの全体的なまとまりになかなかの魅力を感じています。
染色の方も観ておきたかったように思っています。
京都はまだ隠れたいい劇団がありますよね。
もちろん、それは大阪もそうでしょうが。
定期的に観るかたわら、こうして発掘する観劇もしないと。
忙しい、忙しい・・・(゚ー゚;
投稿: SAISEI | 2014年11月30日 (日) 11時53分
過去公演でも女子3人は何回か共演。男子3人もスタッフなども含めて付き合いが長いようで染め色は息がピッタリあっていて現実世界のようでしたね。とにかく脚本がメリハリきいてて良かった上役者が作品世界をきっちり形作ってました。会話のテンポの良さは匿名劇団の『二時間…』を思い起こさせました。役者陣みんな気になりましたが一人と言われると村井春奈さんの滑舌の良いマシンガントークですかね~。演出の稽古場ブログなども覗いてみてください。演出のたかつさんの経験も生かされれてるみたいです。人間座のブログもうまく評したはりました。
投稿: KAISEI | 2014年12月 2日 (火) 01時50分
あ~そうそう。アラサー女子をうまく描いているみたいな劇評がありましたが私もそう思いました。そして結婚迫られている場面の男の台詞。あのときの男の台詞めっちゃわかるんですよね~
投稿: KAISEI | 2014年12月 2日 (火) 01時54分
>KAISEIさん
テンポの良さが一番、感じたところですかね。
言い回し、掛け合いもそうですが、それが展開のキレの良さに繋がっているように思います。
アラサー女子の想いも、客観的に聞いているとおかしいように思うけど、自分の現実でよくある男の言動など、経験に基づいた様々な想いが素直に表現されているところが、爽快に感じます。
投稿: SAISEI | 2014年12月 2日 (火) 09時24分