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2014年11月11日 (火)

逐電100W・ロード100Mile(ヴァージン)【劇団子供鉅人】141110

2014年11月10日 HEP HALL (90分)

シェークスピアのマクベスを違う視点からの悲劇として描きながら、そこにある人が生きることを導こうとしているような作品だろうか。
人は裏切るし、騙すし、権力に執心するし、逃げるし、愛に狂うし・・・
生きることは、そんな人間の業を世に置いていくような、それこそ悲劇のようにも感じる。
でも、この作品は、それでも人は生き、そして必死に人生を駆け抜けていくということを認めようとしているように感じる。
以前に拝見したモータプールと同じように、繋がれていく命の美しさを描き出そうとしているような感じかな。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-7005.html

マクベスから追われて、島へ流れ着いた兄弟。
砂浜には白い砂粒では無く、マクベスによって虐殺されて流れ着いた祖国の人たちの死体が転がる。
逃げ切れた、ここで穏やかな生活を過ごそうとする弟のドナルベインを兄のマルカムは許さない。裏切り者のマクベスに必ずや復讐し、正当なる王位を系統することを誓う。そして、剣を捨てると言い張る腑抜けのドナルベインの左腕を斬る。

流れ出る赤い血に絶望を感じながら、ドナルベインはひたすら走り、力尽きたところを、ヤツカという女性に救われる。
父を亡くし、母、兄、妹と共に生きるヤツカ。あと、変な犬がいるが。そんな家族との一時は、ドナルベインに安らぎを与え、そして、ヤツカへの愛が生まれる。
二人は結婚。ドナルベインも家族の一員となり、これからの幸せへの光が挿す。
絶望し、再び生えてくることのなかった左腕は、春になれば桜の花が色づく枝となる。
しかし、砂浜にはマクベスによって殺された人たちが日々流れ着く。自分の知り合いがいるかもしれないと思うと、その顔を見ることも出来ない。結婚して、これからの希望を抱いているはずだが、どこかまだ変わり切っていない自分がいることに心を悩ませている。
ヤツカはそんな彼に母のような優しくさを見せて抱き締める。

一方、兄のマルカム。酒場で金に任せて、女を買う。
どいつもこいつもちんけで相性が合わない中、一人だけ魅了される女性がいた。ヤツカという女性。
マルカムは、王様に取り入り、この国の軍隊を率いて、マクベスのいる祖国に攻め入る決断をする。そして、自分こそが王位を継承し、彼女を妃として迎えるつもりだ。
ヤツカはそんな彼に女を見せて煽り発奮させる。

ある日、ドナルベインとヤツカが、マクベスの追手に襲われ、そこにマルカスが助けに入る。
ヤツカはさらわれ、ドナルベインはマルカスの手によって捕えられる。
牢獄の中のドナルベイン。そこにヤツカが、どうやってマクベスの追手から逃れたのか、やって来る。そして、共に脱走。
ヤツカの家族たちによってかくまわれるが、見つかってしまう。
家族も共に捕えられ、マルカスの下に。家族は惨殺。犬は震えている。
マルカスは考えを改め、共に戦えとドナルベインを説得しようとする。マルカスの横には女の影が。ヤツカ。
ドナルベインはヤツカの名を叫ぶが、彼女は無視。戦う意志の無いドナルベインを斬り捨ててしまうことにも異を唱えないつもりなくらいだ。

その時、犬が急にマルカスに剣を振るう。そして、ヤツカにお前はドナルベインを殺れと叫ぶ。
ヤツカはマクベスの愛人だった。マルカスとドナルベインはずっと見張られていたらしい。
ヤツカの目的は、マクベスを攻めさせて、自分以外のマクベスを愛する者たちを抹殺してしまうこと。全てはマクベスへの愛のために。
マルカスは犬もヤツカも斬り捨てる。
騙されていた悔しさをもって、ドナルベインにマクベスを共に倒そうと再び説得するが、彼は戦おうとしない。自分は逃げ続ける。逃げることこそ生きることだから。
そんなドナルベインをマルカスは斬り捨て、一人マクベスの下へと向かう。

といった話。
マクベス以上に男と女の愛憎、権力への陶酔が生み出す悲劇ですねえ。
話も分かりやすいし、めちゃくちゃ面白いと感激でした。
マクベス夫人がヤツカみたいな感じでしょうか。マクベス夫人は権力への執着でしたが、こちらでは愛への執着。権力のために愛を手段として用いるマクベス夫人よりも、ある愛のために別の愛を手段として用いるヤツカには恐怖も大いに感じますが、狂おしい心の苦しみをより強く感じます。

シェークスピアっぽい比喩の多い数々の言葉が飛び交い、いかにも演劇らしい雰囲気の舞台。
それだけでも十分面白味のある作品だと思うのですが、この作品、単なる悲劇を描いただけに留まっていないようです。
冒頭とラストに、魂のような者たちが語り合うシーンがあります。
彼らは、互いに人生を駆け抜け、そして、この地でまた出会う。そして、そこからまた走り始める。
ヤツカもそこで彼らと再会します。様々な仮面を纏い、自分の心に忠実にその生を全うした彼女。
その人生は一つの作品のようでもあり、また次の作品へと繋がっていく。永遠に巡り巡る命の運び屋としての人間みたいな存在を感じます。

戦争はそのままですし、砂浜に流れ着く失われた命は大震災を想像させます。
失われた命と、生き残る者たちの距離。
ドナルベインはそこから逃げることで距離を離そうとしたのか。それでも、その死は自分にも襲ってくるものであり、逃れることは出来ない。それでも、彼は逃げることで生きると言う。
マルカスはその死に立ち向かう。その敵は本当にマクベスなのでしょうか。マクベスを倒して手に入るものは単なる一時の権力。祖国の幸せには必ずしも通じないし、失われる命は止まらないようにも思う。それでも、彼は戦うことを選択する。

走っていたのを急に止められ、流され埋まりボロボロになって朽ちていく人たち。その死を見詰め、自分は生きるために各々の走り方で駆け抜ける人たち。
生きることは、やがて訪れる死を避けられない以上、悲劇。
でも、人は生きる。走る。そして、走り抜いた後、出会う。それが繋がって命は未来永劫、紡がれていくみたいな感覚を得ます。

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演劇」カテゴリの記事

コメント

キャスト表余計なお世話じゃなかったらいいのですが… 劇団子供金巨人初観劇です。クルージングアドベンチャー行きたかったのですが満席で内容をSAISEIさんのブログで確認したのを覚えています。今回の作品良かったことは良かったんですがそれを表現する言葉が私にはなくて… SAISEIさんの劇評には適いませんわ。適おうとも思ってないですが(笑)シェイクスピアの作品はたたみかけるような独白的な台詞が特徴的なようですね。杉原邦生『ハムレット』や劇団ひまわり大阪養成所『から騒ぎ』もそんな感じでした。服を敷き詰めるなど衣装を小道具としてうまく使いつつ言葉も言葉遊びを上手く入れた公演でした。

投稿: KAISEI | 2014年11月12日 (水) 02時31分

>KAISEIさん

いえいえ、キャスト表、ありがとうございます。
気になる子、正直に書くと可愛かった子をちょっと調べたりしましたわ(^-^;

確かに感想、書きにくくて。いいなあと思った気持ちを言葉にするのはなかなか難しいです。
シェークスピアは原著で読むと、その文章のリズムがより浮き上がるらしいですよ。柿喰う客の主宰の方が前にそんなことを言われていました。まあ、そのあたりに魅力があるのですかね。話自体は、そう面白いとは思えないのに、何か作品としては素晴らしいと感じるのは。

投稿: SAISEI | 2014年11月12日 (水) 14時04分

  いえいえ、キャスト表、ありがとうございます。 ← SAISEIさんにそう言っていただけると嬉しいです。関西小劇場界に多大なる貢献をされている方ですから(笑)

 気になる子、正直に書くと可愛かった子をちょっと調べたりしましたわ(^-^; ← このコメントでよけい好感もちました(笑) 私はよく言えば奥手,悪く言えばムッツリ○○○なのでしょうか? あまり口に出せない,出さないタイプで(笑) そういえばこのコメントで思い出しましたが【百々目色学園御戯レ部の女子がほぼ裸のチラシに釣ラレテ見に来たんだがもうダメ限界】の劇評でも

 本当に作品名どおりの感覚で足を運んでいるので、どんな話なのかとかは事前に全く把握せず。…こんな女優さん方が、ある話の設定の中で、様々なパフォーマンスで客を魅了する。大変、ありがたい公演形式で、これが単なるイベントだったら、足を運んでいない。いや、運びたいけど、何か気恥ずかしくて運びにくいのだ。こうした演劇公演ならば、何となく観に行きやすい。おかげで、すっかり楽しめてしまった。本当に可愛いからね。

と書かれていたなァ,と(笑)誰が可愛いと感じはったのか気になりますw こんどこっそり教えてください(笑)

 確かに感想、書きにくくて。いいなあと思った気持ちを言葉にするのはなかなか難しいです。 ← いやいや。そういう風に劇評のどこかでもそう書かれていましたがそんなことはないですよ。言葉を豊富にお持ちだなァ,と思います。私はいつも観劇後のアンケートで言葉が出てこなくてウンウン唸ってますから。

 シェークスピアは原著で読むと、その文章のリズムがより浮き上がるらしいですよ。 ← ドナルド・キーンさんが、日本語を覚えようと、英語を封印していた時期があったらしいのですが、ある時、偶然、英語で演じられたシャイクスピア劇を観に行った。そしたら、耳に飛び込んできた、シェイクスピアの英語の美しさに、知らずに涙が流れたそうです,と言うのを司馬遼太郎が書いていたのを思い出しました。この文章はhttp://www.shiomi-yasushi.com/blog/2011/02/22/740からパクリましたが(笑) 西洋演劇や西洋文学については造詣が深くないのでよくわからないですけど…

柿喰う客はまだ見たことがないです。

今週は仕事などの関係でしろみそ企画とドーンセンターはあきらめることになりそうです;最終週も調整に悩んでいます;現段階で予約確定したものを以下に列挙しますがかぶってますか? いずれにせよTHE ROB CARLTON行かれたら絶対お会いすることになりますが(笑)次はハートンホテルでするんですね。烏丸御池から徒歩5分くらいのところにあるのですが…

11/15 土 願わくばエゴ~ほっぷ!すてっぷ‼ギルティライダー~ 劇想からまわりえっちゃん 15:00~ 道頓堀ZAZA HOUSE
11/15 土 里見八猫伝 よろずやポーキーズ 19:00~ in→dependent theater 2nd
11/17 月 ピエールとリュース アトリエ劇研 14:00~ アトリエ劇研

11/22 土 超贋作オイディプス王~冒涜版~ 劇団衛星 11:00~ KAIKA
11/22 土 超贋作サロメ~冒涜版~ 劇団衛星 14:00~ KAIKA
11/22 土 突撃!ゴールデンチャイナタウン!!~暗黒霊幻道士VSドラゴンナリタ~ 劇団壱劇屋 19:00~ in→dependent theater 2nd
11/24 月 Amayadori café 何色南番 13:00~ 人間座スタジオ

12/2 火 火曜日の劇場 匿名劇壇×ブレザー少女 19:50~ in→dependent theater 1st
12/6 土 SANTA×CROSS 2014 劇団SE・TSU・NA 13:00~ HEP HALL
12/6 土 ロミオ&ジュリエット 劇団空組 12:00~ ABCホール
12/7 日 マーサムブラザーズ THE ROB CARLTON 18:00~ ハートンホテル京都 ホール「伏見」

投稿: kAISEI | 2014年11月13日 (木) 18時13分

>KAISEIさん

実はまだ全然、予約出来ていなくて・・・
12月中旬に学会があって、その準備でいつ打ち合わせが入るか分からずでイライラしています。
恐らく、12/2ですかね。ただ、私は多分、18:30から観て、仕事に戻るパターンですわ。
お薦めいただいているAmayadoriもどうなるか。京都ではしごを組みたいところですが、大阪、神戸で観に行きたいところがあり。
12/6はABC→HEPのはしごを検討していますが、もしかしたら逆?
ROBは予定抜けてました(^-^;
元立誠の日本海という劇団も観に行きたいし、厳しいかも。
日程調整は大変ですよね。
土日がいつも完全にフリーだったら楽なのですが。

投稿: SAISEI | 2014年11月15日 (土) 11時50分

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