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2014年11月 2日 (日)

キミノツミキ【演劇集団おわいそ】141102

2014年11月02日 イロリムラ プチホール (50分)

いつも見ていたものが、いつものように見えなくなってしまう。
そんな不思議な病気になった人の治療を通じて、今の当たり前を大切にするようなことを伝えているような話でした。
日々、変化しながら成長する自分の中で、いつまでも残しておきたい大切な人、こと、もの。そんなことを振り返る時間だったように思います。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は月曜日まで>

ある病院に深刻そうな顔をした男が訪ねて来る。
男曰く、彼女の解像度が徐々に下がっていっているらしい。
確かに、今の彼女はちょっとした箱が積み木のように積み上がって、どこか人間の形を作り上げているように見える。 
医者は、何か調子のいい人で、ヘラヘラして男をからかいながら応対しているが、彼女に起こっていること自体は信じている様子。そして、その原因に関しても何か知っていみたい。医者にしか見えていないウィルスと名乗る変な奴がウロチョロして、医者にどうにもならないだろうと好戦的な態度をとっている。医者はあの頃とは違う、必ず治してみせるとその時だけは真剣な表情を見せる。
男は、そんな医者の姿を見て、ウィルスが原因なら薬をくれとせがむが、医者はまず、男と女の出会いからこれまでを探ろうとする。

 

回想が始まる。
小学生。不登校になっていた彼女に届け物や学校のことを連絡することで知り合った。音楽会があるから来ればいいのになんて。もっとも、男はトライアングル担当で、一つもかっこいいところを見せられないのだが。
中学生。男が初恋。その相手は彼女ではない。彼女は、相手に彼氏がいるからダメだとうじうじしていた男に頑張って告白しろと励ましてくれた。結局、告白せずで終わるのだが。
高校生。違う学校だったのでずっと会っていなかったが、ファミレスで再会。めちゃくちゃ綺麗になっていた。LINEのアドレスを教えてもらい、がっつくのも何だからと翌々日に連絡。それまでの時間がまあ長く感じたこと。そして、ちょっとずつ仲をはぐくんでいく。
大学生。倦怠期が訪れる。そんな中、彼女がどこかの男の家で飲み会なんてするから、嫉妬からケンカに。最終的にはそんなものは浮気では無いと論破されて、謝るはめに。その頃からだっただろうか。どこか彼女がぼやけ始めたのは。
社会人。仕事が忙しかったりで、どんどん疎遠になる。LINEのやり取りも、途切れ途切れに。そして、気付いた時には彼女はドットの塊みたいになって、人間の形では無くなってしまっていた。

 

彼女とはぐくんできた二人の絆。大きく育てた二人の想いは、風船のように破裂してしまったようだ。
男は薬を求める。
でも、医者は薬は無いと答える。そして、真実を告げる。
彼女はそこにいる。解像度が低くなって見えるのは、あなたが彼女をそのようにしか見なくなってしまったから。そう、かつての自分のように。
男の前にウィルスが姿を現す。自分が生み出したウィルス。
男は彼女の前に近づき、その積み上がった積み木を崩し、一つを取り出す。ドクドクと彼女の心音が聞こえる。
それをそっと置き、崩れた一つ一つの積み木を自分の手で積み上げていく。彼女とのこと一つ一つを思い出しながら・・・

 

当たり前を当たり前に思い過ぎて、それを失ってしまうことを描いているようです。
大切だったものが、当たり前になっていく。その変化に自身は気付かない。
ウィルスは、そんな大切なものを想う気持ちを忘れてしまうと育つ悪いものなのかな。無関心の象徴のような感じがします。
男は自分のかつての想い一つ一つと向き合って、もう一度、彼女を形作ろうとする。その彼女は、もう一度、男の中で蘇るのでしょう。

 

解像度が低くなるなんて表現が斬新ですね。普通はぼんやりとか、薄くなるとかだと思いますが、パソコンが当たり前の世代だからの発想でしょうか。
確かにイメージはしやすい気がします。
ドットの概念。目がこうで口がこうで・・・。一つの荒い形の人間が出来上がるでしょう。そこから、優しいところがある、でもちょっと強気、すぐ泣くとか・・・。そんな自分が見詰める相手の要素を組み込むことで、その人にしか見えない一つの人間像が浮き上がるように思います。
そんな想いが、薄れてしまったら。残るのは単なるドットで形取られたものになってしまうのかもしれません。
物でもそんな感じでしょうか。同じペン一つにしても、父の形見と店に並ぶ物では、その人にとっては違う物として見えるでしょう。そこに、自分の父への想いがあるから。他人はそこに想いが無ければ同じにしか見えないのでしょうが。
そう言えば、以前付き合っていた大好きだった彼女からもらったガラスペン。今でも机の上に置いていますが、あの頃は素敵な形をしていると見ていたのに、今はあるのか無いのかも定かじゃないですね。きっと、もう私にはそれは単なるガラスペンとしてしか見れなくなっているのでしょう。
そう思うと、自分たちが普段見て、素晴らしいとか、美しいとか、汚いとか思うものは、その人の感情や想いを形にして物を見ているのかもしれません。人間にはそんな心を形にして見る力。もしくは形から心を取り出す力があるように感じます。

 

回想シーンが連続しますが、現実と回想の切り替えがとてもスムーズでした。
LINEのやり取りは、キャッチボールするような形で表現されていますが、そのボールの色が、緑から赤に変わり、やがて、赤に黒い部分が混じり、緑に黒混じり、最後は黒みたいに、その心情を綺麗に見せています。比較的、無機的な言葉のやり取りでのLINEの会話から、心情を引き出すのは難しいように思え、この演出はそれを補う巧妙な技だなあと感心。

ウィルスの服はその様々な色のボールが描かれており、刻んだ二人の時間から生み出された産物であるイメージを強くします。
そして、回想中の彼女はウィルスと医者の二人が担当します。この意味合いがよく分かりませんが、男が本当の彼女をしっかりと見ておらず、曖昧でブレていたようなことを表しているのかな。

 

かつての想いが当たり前になり過ぎて、こんな解像度の低いものに見えるようになってしまい、やがて、溶けてなくなってしまう。それ自体は悪いことだとは思わないが、一度は想ったものなのだから、その大切だった時の形をきちんと自分の中に刻んでお別れしたいですね。
失うことで成長する、前へ進めることもあるのでしょうから、その失ったものの一番素敵な姿を自分の心の中に留めておくことは大事なように思います。
大切な人を亡くしてしまった人が、その人の姿をいつまでも鮮明に像として浮き上がらせながらも、自分の生を全うしようとするように。

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