明日カレンダー【劇団伽羅倶梨】141101
2014年11月01日 KARAKURIスタジオ (105分)
本当に気持ちのいい作品。
作品というか、もうこの劇団自体がそうなのだと思う。
辛いことがあったり、どうしていいか分からなくなって、立ち止まってしまった時に、その人を動かす本当の想いと言葉。
そんなものが、ちょっとコミカルな旅館をベースに温かく描かれています。
そして、その人の心を動かす力が、この作品を創り上げる劇団自体にあることを感じさせる素晴らしい公演でした。
毎回、幸せな気持ちにさせてくれる。心がじんわりと温かくなり、優しい気分です。人のことが大好きになって、自分のことも大事に思えるような。
いい劇団、そしてそこで活躍する役者さんと出会えた幸せですね。とっても、いい気持ちです。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は月曜日まで。確か、日曜日は満席だけど、月曜日はまだ空席ありで、リピーター割引もあって1000円で観れるのだとか。土曜日に観終わった時点での情報なので、HPを確認してみてください>
海辺のお宿、日之出旅館。
旅館名どおり、その日の出の景色が一番美しいと言われる潮騒の間に、一人の男が宿泊している。
せっかくの部屋なのに、男は暗い顔して、ため息ばかり。旅館の人たちは、自殺でもされたら一大事と心配の様子。この潮騒の間は、掛け軸が勝手にゆがんだりして怪しい部屋だと噂されているので、これで人が死んだなんてなったら、宿の評判が悪くなる。ただでさえ、先代が亡くなって以来、宿泊客が少なくなっているというのに。
夜も更け、男は相変わらずため息ばかり。ところが、そのため息、男だけでは無い様子。
男が振り向くと、そこには、先代の幽霊が。
話を聞けば、この潮騒の間は、空き部屋になったことが無いくらいに人気の部屋なのに、ここ最近、ほとんど客がいないのだとか。
自分が突然、ポックリ死んでしまい、都会に働きに出ていた長男が戻ってきて若旦那をしているはず。でも、旅館のことを何も教えていないので、きちんとやっているのかが心配で成仏できない。本当は長女に婿養子をとらせて、女将をさせたかったのだが、幼稚園の先生になると言って聞かず。妻が女将としてみんなをまとめてくれているとは思うものの、やはり旅館のことが心配で。幽霊だと、この潮騒の間から出ることが出来ず、掛け軸の隙間からずっと様子を伺っていたのだとか。
そんな愚痴を男は先代の幽霊から聞かされるが、正直、知ったことでは無い。だって、ここには本当に死ぬつもりでやって来たのだから。
大衆演劇の一座に属していたが、同じ一座の女と恋に落ち、駆け落ち。当然、役者の仕事はもう出来ず。でも、役者じゃないあなたのことを好きになれないとフラれたらしい。
男は自分には関係無いと、持参していた薬を飲もうとするが、先代の幽霊に止められる。死ぬ前に一つだけ協力して欲しいことがあると。それは、男に憑依させてもらうこと。そうすれば、この潮騒の間から出られて、旅館の様子が分かる。男は渋々、了承する。
翌日、旅館の様子を探った先代は驚愕する。
フロントは散らかり放題で、宿において基本ともいえる掃除が全く行き届いていない。お客様へのおもてなしもいい加減。毎朝していた申し送りも辞めてしまっているから情報の共有化が全く出来ていない。
自分が死んでさぞがっくりしているだろうと思っていた妻の女将は、矯正下着なんてものを買ったりして、鼻歌交じりで平然としている。
長男の若旦那は、ヘッドホンで音楽を聴きながら、手には漫画。かかってきた電話もいい加減な対応。
長女は幼稚園の先生をしており、旅館のことは考えていない様子。以前は、客室で朝ご飯をゆっくり食べていただいていたはずだが、面倒くさいのか大広間にお客様を集めてさばいている。しかも、その場でお客様と一緒に長女が食事をしている。近くの有名ホテルの娘である長女の友人が毎日、迎えに来て、車で一緒に幼稚園に通っているみたいだが、その車をお客様の駐車場に平気で止めている。誰も注意しない。それどころか、長男は惚れているのかヘラヘラと愛想を振りまく。
しっかりしていた仲居も、すっかりたるんでしまっている。フロントで平気でお菓子をたべたりしてくつろいでいる。自分が死んでから入った仲居は、マイペースで好き放題だ。
唯一、頑張ってくれているのは、幼馴染で一緒に旅館を頑張ってきた板前ぐらいか。職人気質で料理酒一つにしてもこだわりがあるのに、その料理酒も適当な銘柄を長男は酒屋に頼んだりしている。さぞ、心苦しい思いでいることだろう。
街の観光課職員も、この旅館の有様を見て、あまり宣伝してくれていないようだ。
昔からお世話になっており、ずっと宿泊をしてくれている元大衆演劇の女座長は、この衰退ぶりをどう感じているのだろうか。
その夜、先代は男に嘆く。もう死んでしまいたい。これ以上死ねないのだが、そんな言葉しか出てこない。
死んでしまいたいのは私の方だと死のうとする男に、先代はある協力をもう一度願い出る。
それは、この旅館の立て直し。
旅館コンサルティングのふりをして、この窮地を救って欲しい。
田舎もんばかりだから、東京から来たと言えば、みんな食いつくはず。どんなことを言えばいいかは、自分があなたに伝えるから大丈夫だと
翌日から、先代をバックに、コンサルに扮する男の旅館立て直しの日が始まる・・・
この後は、本当にちょっとした当たり前のことをしていくだけで、旅館が活気づいていきます。
長男も若旦那っぷりが板に付いてくる。本来は師となる父が亡くなり、色々なことを教えてくれる人もおらず、どうしたらいいのか分からなかっただけで、コンサルのアドバイスをどんどんと吸収していく。元々、真面目ではあるみたいで、今では誰よりも旅館を盛り上げるという自覚を持つようになる。
仲居さんは、自分たちが頑張ることでお客様が喜んでくれることが嬉しくて仕方ないみたいで、より一層張り切り始める。観光課職員は、そんな生まれ変わった旅館の宣伝をしてくれるように。女将さんだけは相変わらずって感じだが、その底抜けの明るさがいいムードメーカーに。
長女も、色々とアイディアを出して、旅館のお手伝いをするように。元々はそうしたかったみたい。父への反抗心から違う道を進んでしまったが、幼き頃からずっと父の接客の姿に憧れ、自分自身もお客様から可愛がられ楽しかったことを思い出す。長女の友人も、自分の家が有名な高級ホテルだから、お客様と触れ合えるこの旅館が楽しいとお手伝いをしてくれる。
板前だけは、実はずっと先代の姿が見えていたらしく、死のうとしていた男、死んでしまった先代、残されて奮闘する板前の男の酒の酌み交わしなんて渋いシーンなんかも。
万事順調。
先代は未練が無くなって、成仏の日が近づいてきたのか、だんだん姿が薄くなって、声も聞きとりにくくなってくる。
これでお別れ。先代は、男に礼を言って、板前に後はよろしくと伝えて成仏しようとしていたら、大問題発生。
団体客の宿泊日を間違えて、空き部屋が無いという状況に。
どうしたらいいのかと、旅館の人たちは男にすがりつくが、男にはもう先代の姿は見えず、声も聞こえない。先代も、こんなことは初めてでどうしたらいいのか分からない。
そこで、男は全てを暴露する。先代の幽霊がここにいて、その人の言葉を自分はただ言っていただけだと。
そして、その姿も声も今は見えないし、聞こえない。でも、どこかにはいるはずなのだと。
先代がいることは分かったが、この問題をどうにか自分たちで解決しないといけない。
途方に暮れていた時、元大衆演劇の女座長がさっそうと活躍する。これまでの人脈を使って、他の旅館に家族連れの宿泊客をお願いする。そして、何とか団体客の部屋を確保する。
窮地を脱し、団体客も大満足で宿を後にすることに。
全てが落ち着き、見えない先代に、旅館の面々が語りかける。
これから旅館をみんなで盛り上げていくという決意表明。そして、生きている頃には伝えられなかった自分たちの本当の想い。
その一言一言に、みんなには聞こえないけど、感謝と励ましの言葉で答える先代。
翌日、死のうとしていた男は、宿を後にする。一座に頭を下げて、再び役者の道を進むつもりだ。怒られるだろうが、元大衆演劇の女座長の名前を出せば、許してもらえるだろう。男は大衆演劇の役者らしく、颯爽と歩き出す。
その後ろからは、生まれ変わった日之出旅館の心のこもったありがとうございましたの声が響く。
先代のポリシー、想いが、もう全てを諦めてしまっていたような男の口から発する言葉によって、周囲を変えていく。同時に、その男自身も変えていく。
単なる記号のような言葉では人の心は動かないはずですから、きっと、男自身も旅館の人たちに色々と語っていた言葉を自分のものとして受け止めていたのでしょう。本当の想いが言葉になった時の強さを感じます。
中盤のみんなの頑張りが形になっていく姿が心地よく、後半のトラブルを乗り越えようとするみんなの力の結集が頼もしく、これまで頑張ってきたからこそ、救世主が現れるといった、真摯に人と接する大切さを感じさせられます。
死んでもなお、その想いを汲み取ってくれる人がいる。別に死ななくても、その場にいなくても、その想いが残る。それだけ、真剣に真摯たる想いをずっとぶつけていたからそうなるのでしょう。そんな想いを残せる人になりたいものです。そのためには、懸命に頑張らないとね。
よし、自分も頑張りましょうみたいな気持ちになる作品ですね。劇場を後にする自分は、作品中の死のうとしていた男の新たな旅立ちみたいな気分になっていたように思います。
と、そんな気持ちよく劇場を後にして、歩いていた時に、わざわざ追いかけてきてくれた役者さんがいらっしゃいました。若旦那役の小川弦之介さん。3年ほど前にある作品で拝見して、前回のこの劇団の公演で初めてご挨拶させていただいた方。
顔を覚えていてくださったことも嬉しいですし、わざわざねえ。しかも雨降っていたのに。きちんとご挨拶してから帰れば良かったのですが、いつもすぐに劇場を後にしてしまうので。
感激です。まさに、日之出旅館の精神。
この作品の生まれ変わった日之出旅館は、この今の伽羅倶梨の姿そのものなのかもしれませんね。愛すべき方々が集まって、みんなでアイディアを出しながら、より、私たちに素敵な時間と空間を提供してくれるという。たくさん嬉しい気持ちをいただいて、益々、この劇団が大好きになりました。
とっても素敵な一日に感謝。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
前回の劇評、正確には「素晴らしい」ではなく「ステキな」でした。女心の部分や男心の部分とても共感してしまいましたw 女心は不可解やw ドラマなんかではようわかんのに自分のこととなると(笑)観劇されてたSAISEIさんの気持ちがとてもわかる劇評でした。私にとっては。脚本は土田さんでしたね? もしそうならやはり男目線の女心になるのかな?
さて今日「明日カレンダー」行きました。個人的には「本日快晴なり'14」よりも好きな作品です。一押し俳優は牛丸さんです。とてもカッコいいなと思いました。
AIホールも行くのですがハシゴしにくい劇場ですね。7月に「坊ちゃん」→「宵山の音」を観劇したさい「宵山の音」に遅れたことがありまして;芸創もそうですが離れてるところはねw
投稿: KAISEI | 2014年11月 4日 (火) 00時41分
スミマセン汗 名前コメント名マチガエました汗 なんでやろ? あ 訂正ついでなんですが「リンクス」の劇評を拝見したのですが追加ステージ観られてますか? 観られてる感じですが最前列におられました? 犬と串の時にバナナ渡されたはった方ですかね? この前書かれていた風貌でそう思ったのですが…
投稿: KAISEI | 2014年11月 4日 (火) 00時47分
>KAISEIさん
コメントありがとうございます。
お名前の方、訂正しておきました(゚ー゚)
男心と女心はねえ・・・
原案が女性の千葉さん、それを脚本化したのが土田さんみたいで、二人で一緒になって創り上げたみたいですね。
明日カレンダーは同意。
ああいう、感情を表面に出さずに、押し殺した中で深い想いを持つ男がかっこいいんですよね。
LINX'Sは追加ステージを観に行ったのですが、バナナの人では無いですね。事前に荒れると聞いていたので、中盤ぐらいの入り口近くの端っこに座っていました。あの時にいらっしゃったんですねえ。
投稿: SAISEI | 2014年11月 4日 (火) 14時35分
バナナな方ではありませんでしたかw 彗星マジックの劇評で最前列に座った、と書いたはったのでもしやと(笑)私はあのとき最前列にいました。若い女の子、バナナな男性、私の3人が最前列でした。ちなみにショウダウンさん26日に打ち上げされるようですね。
投稿: kAISEI | 2014年11月 4日 (火) 16時14分
>kAISEIさん
おっ、バナナな方のお近くにいらっしゃったとは。
と言っても、バナナな方もkAISEIさんのお顔も思い出せずで・・・
西院の奴ですよね。
水曜日は比較的、時間が空きやすいんですが、まだどうなるか。
どちらにしても、人見知りだから、ちょっとなあ・・・
行かれるなら、楽しんできてください。
投稿: SAISEI | 2014年11月 5日 (水) 10時09分