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2014年11月 8日 (土)

ゴキかぶり【UNIT dy】141108

2014年11月08日 十三Black Boxx (100分)

よくもまあ、こんなこと考えるなという設定で描かれる、生きるということを考える作品か。
綺麗過ぎるぐらいのハッピーエンドがとても心地よい。
色々なことが人生、降りかかり、立ち止まるどころか、もうここでお終いになんてことをふと思ったりすることもあるだろうが、好きなだけあがけばいいのだと思う。
本当にお終いにする時は、自分では決められない。誰が決めるのかは知らないが、その時が来るまで、自分の生を全うする。それこそ人生。
そして、そんな自分の人生には、自分だけでなく、親や家族をはじめ、色々な人たちが絡んでいることに気付けば、それがかけがえのない尊いものなのだと感じるはずだろう。
とんでもない生き物の生態から学ぶ人生論。受け入れ難いが、確かにそうかもと考えさせられる話だった。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

12歳の誕生日を迎えたアキラ。
お父さん、お母さん、妹。家族みんなに祝ってもらう。
バースデーケーキに、お父さんからプレゼントされた腕時計。幸せ一杯。
それから、時が経ち、アキラも社会人となりお勤め。
通勤電車では一時の現実逃避をするかのようにiPodで音楽を聴く。会社に着いたら、次から次へと書類が。我慢出来なくなって叫びたくなる。安らぎの時間なんて全く無い。そして、家に帰っても孤独。妹がいるが、最近では口も聞いてくれない。
あれから、色々とあったから。
お母さんが病気で亡くなった。悲しいけれど、残った家族で力強く頑張っていこう。みんなでそう決めた。でも、お父さんはやはりショックが大きく、お酒の量も増える。ほどほどにしないとダメだと諌める妹にお父さんは手をあげてしまう。お父さんなんか大嫌い。その日、お父さんは電車に轢かれて亡くなった。事故だったのか自殺だったのかは分からないが。
あの日から妹と話すこともなくなった。アキラも自分が邪険にされていることは分かっている。
今日はアキラの誕生日。もう、あんな12歳の時のような誕生日は訪れない。買ってきたケーキを一人寂しく眺め、バースデーソングを唄う。
もういいかな、死んでしまっても。アキラは薬瓶から錠剤を取り出し、酒で煽って飲み干す。

気付けば暗闇の中。
大きな鎌を持った可愛らしい女の子の死神がいる。
天国ではないらしい。現世とあの世の境目。
死神は、裁判の結果を通達する。
自殺という大罪。罰は、害虫へと生まれ変わること。
アキラは意味が分からぬままに、何とゴキブリになって現世へ。

ふと見ると妹がいる。隣には幼馴染。小さい頃はよく遊んだものだ。
一人になった妹を慰めてくれているみたいだが、妹はせいせいしたなんて言い草。
兄が死んだのにその態度はなんだと姿を見せたら、新聞紙で叩きのめされそうになる。そう、今はゴキブリなのだ。

途方にくれていると同じゴキブリと出会う。
親分のようなゴキブリは、アキラと同じ元は人間。借金を抱え、人生かけた投資も失敗して自殺したらしい。
そして、その子分のようにちょこちょこしている元気なゴキブリは本当のゴキブリらしい。親も兄弟もみんな人間に殺されて孤児だったところを親分に拾われたようだ。もしかしたら、自分もその親兄弟を殺したのかもしれないと思うと申し訳なく思うが、それがゴキブリの運命だと本人は割り切っているみたい。
3人は兄弟になる。アキラはとりあえず、一番下の弟。兄貴に、ゴキブリのお兄ちゃん、そして自分。失った家族をもう一度取り戻したような気分。ゴキブリだけど。

3人はゴキブリたちが集まるクラブに行く。油を煽って、踊りまくって楽しむところだ。
そこで出会った一人のおしとやかそうな綺麗な女性。いや、ゴキブリ。元はやはり人間らしいが。
ゴキブリのお兄ちゃんは、彼女にも兄弟になろうと誘いかける。出会ってすぐに失礼だよなんて言いながら、ちょっとアキラは嬉しい。
彼女も兄弟に。妹が出来た。実の妹も昔は、お兄ちゃんお兄ちゃんと可愛らしかったのだが。
彼女は引きこもりで、自分の存在価値が見いだせなくなって自殺したらしい。
ここでの生活を楽しく過ごしていこう。ずっとモノクロにしか世界が見えなかったという彼女。アキラだってそう大差ない。でも、これからは違う。外の世界も見てみよう。きっと素敵なカラフルな世界が待ち受けているはず。そう約束し合う二人。指切りしよう。
二人が小指を結び付けようとした瞬間、彼女は新聞紙で叩き潰される。見ると妹が新聞紙を持って立っている。その新聞紙は自分にも向けられている。
必死に逃げて、その場を凌ぐ。でも、彼女は無残にも潰れた状態で死んでいる。
兄貴は弔いと称して、彼女の体を食べる。他のゴキブリたちも。それがゴキブリの世界の習わし。そんなこと、自分に出来るわけがない。こんな世界、自分のいる世界ではない。

悲しみに暮れるアキラの下に死神が現れる。上司からの命令で良い知らせと悪い知らせを持って。
良い知らせは、四十九日までに人間に戻れるチャンスがあるということ。悪い知らせは、そのためには、ゴキブリとして死ななくてはいけないということ。
兄貴に相談するが、兄貴は今こうしてここにいるということは、ゴキブリでいることを選んだのだろう。兄貴には身寄りが無いから。じゃあ、自分はどうなのか。待っている人がいるのか。
兄貴はここの世界もなかなかいいんじゃないのかと言っている。
どうしたらいいのか。元の世界に戻っても、結局、また同じことの繰り返しなのではないか。
お父さんも、絶望して天国にいるお母さんに会おうとしたのだろうから。
そんなことを口にすると、兄貴はそれは違うと言う。お父さんは自殺なんかしていない。妹に手をあげて、それを悔やんでいた時に事故にあってしまったのだと。どうなのかは分からない。そんなこと、本人に聞かないと分からないはずだから。

四十九日の時が迫る。
決断できないアキラに死神は、アキラが生まれた時、妹とまだ仲良く遊んでいた頃の回想を見せる。
そんなものを今さら見せられても。
部屋に妹と幼馴染が入ってくる。
そこで、妹の本当の想いを知る。お母さんが亡くなり、自分のせいでお父さんが亡くなったと思っている妹。そして、兄まで自殺。たった一人残された妹がどれほど、感情を押し殺して今を耐え忍んでいるのか。
自分には待っている人がいる。兄貴はここにいてもいいんじゃないかと言っていたが、自分は帰らないとやっぱりいけない。ずっとお兄ちゃんだったから、ゴキブリのお兄ちゃんが出来た時はちょっと嬉しかった。まだ弟でいたいけど、妹のお兄ちゃんに自分は戻らないと。
アキラは二人に別れを告げて、妹と幼馴染の前に姿を現す。そして、幼馴染の新聞紙の一撃で見事に潰される。

死神が現れて、賢明な判断だねとアキラを現世に送る。
そして、ちゃんと言われたとおりに仕事をしましたよと上司に報告。ゴキブリの兄貴に。
いらぬお世話だけど、感動の再会はしなくて良かったのかという問いに、ゴキブリの兄貴は何も答えない。

妹に叩き起こされるアキラ。
目が覚めるといつもの部屋。サプリの薬瓶と酒の空瓶が転がっている。
昨日からすっかり寝込んでしまっていたらしい。全部、夢だったのだろうか。
もし、お兄ちゃんが死んだらどうする。そんな質問を妹に投げかけるが、いつものように邪険にキモイと言われるだけだ。でも、その目は自分をしっかり見てくれている。無意味な質問だった。
部屋に幼馴染が入ってくる。
こんな朝っぱらからどうしたんだろう。
妹と幼馴染がおめでとうの掛け声。昨日、自分がすっかり寝込んでしまったから出来なかった誕生日祝い。
とりあえず、仕事に行かないと。今晩は一日遅れで誕生日祝いをしてくれるらしい。昨日のケーキをみんなで食べよう。
いつものように出勤。心なしか、世界に色が付いているように見える。
そして、自分と同じように少し変わった世界にとまどいながらも、これからを楽しもうとする女性が・・・

といった、ゴキブリに生まれ変わるなんて奇抜な設定ながら、心温まる素敵な物語。
こうだったらいいなあ、こうなればいいなあと途中から思っていたことが全部、組み込まれたラストで自分の中では最高のハッピーエンドでした。
ゴキブリの世界では、人に不条理に叩き潰されてもそれは運命だと受け入れてしまう。いつ襲いくるか分からない死に逆らうことなく、それまでの生を全うする。もちろん、最後の最後までその死からあがこうと頑張るのだが。そして、その死を、残された生ある者は、いつまでも心に刻んで、自分の生を大切に育む。
アキラはそんなゴキブリの運命を呪い、異を唱えるが、本来、人生はそれが正しい姿なのかもしれない。人間だって、神様か何かは分からないが、突然、死を突きつけられたりするが、それには逆らえない。運命なんて簡単な言葉になってしまうが、数々の試練を与えられて、それに必死に抵抗して戦い、最後の最後に死が訪れる時まで懸命に生きるのだろうから。人間と神様の関係が、ゴキブリと人間みたいな感じで相関しているように感じる。
自分の人生に勝手に見切りをつけて、その生を止めてしまう。死という運命を自分で作ってしまう。神の領域に勝手に踏み込んだ愚かな行為だろう。
自分の人生は自分だけのものではない。その人生を生み出してくれた親、そして、その人生の中で出会った数々の人と共に創り上げてきたもの。そんな愛おしく尊い人生は、止めることなくいつまでも流れ続けるようにしていくことが生きる使命のように感じる。
ゴキブリから学ぶ人生論。何とも受け入れ難い気もするが、そんな生を考えさせられる話のように感じる。

ところで、ゴキブリはよく部屋に出没するが、たまにどう考えても殺されるだろうというタイミングで出てきたり、覚悟を決めて叩き潰されるのを待っているかのような奴がいるが、あれはそういうことなのかな。元の世界に戻りなさいと念じて、叩き潰してあげればいいわけだ。罪の意識が緩和される。

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