« ゴキかぶり【UNIT dy】141108 | トップページ | BIER -ビア-【モンゴルズシアターカンパニープロデュース】141109 »

2014年11月 9日 (日)

沈黙【Pカンパニー】141109

2014年11月09日 谷町劇場 (100分)

難しい作品です。
死刑制度をベースに命というものを私たちはどう捉えればいいのかを問うような。
人が人を殺しました。殺した人が悪いです。だから、その人を殺します。
そんな単純な公式で考えるのではなく、その事件に関わる人たちは、私たちと同じ社会の一員ですという絶対条件を考慮した上で、どう考えるべきなのか。
そして、そんな事件やらどうこうではなく、命が失われたということに対して、私たちがしなくてはいけないことは何なのかを考えるような作品でした。

田舎町の場末のスナック。外では自衛隊のパレードでお祭りのように騒がしい。
そんな日に、元ホステスのナオミの死刑が執行されたという新聞記事が。
5人の子供を抱え、嘘ばっかりついて、言葉巧みに客に貢がせていた。ママやホステス仲間だってその被害を受けたぐらいだったらしい。
その果てに、詐欺、窃盗、そして二人の客を金目当てで殺害する強盗殺人で捕まる。裁判では、裁判員制度の下、完璧に十分な証拠があったとは言えないが、状況証拠やそれを裏付ける証言から死刑が確定。判決確定後、2年。割と早い方だが、執行されたと新聞に報道されている。当時は結構、世間を騒がせたらしいが、今では覚えている人も少なく、同じく執行された死刑囚らと一緒になった記事で。

スナックのママさんは、自分も騙されたりしていたのだが、彼女の死を弔おうと古いアルバムの写真を飾ろうとするが、縁起が悪いとチーママに止められる。
それもそのはず。事件当時は、マスコミが押し寄せ、好き放題に記事にされ、近隣の人たちから店に数多くの嫌がらせをされたのだから。もう、これで済んだ。これ以上関わりたくないのが正直なところだろう。でも、ママは、若いホステスが漬物石にしようと持ってきた石を地蔵に見立てて、飾り始める。この地で、かつて、生活するため、生きるために罪状もよく知らない罪人の首を斬る仕事をしていた人たちが作った地蔵のように。

店にはママ、チーママ、若いホステス。
常連客に、生活保護を受けながら、ダラダラと飲むおっさん。若いホステスと以前、結婚していたらしい。若いホステスの生活保護の金目当てで結婚に至ったようだが、結婚したらその額が減らされ、あっさり離婚されたらしい。それでも、未練があるのか、毎日、店に通っているみたい。
そんな若いホステスは、今、もう一人の常連客とまずまずいい仲。この男は、以前にナオミといい仲だった。最初は本当に騙されていたみたいだが、途中からはナオミの嘘も知って、割り切った付き合いをしていた、結構、冷静に自分のことや状況を判断できる人みたい。
そんなスナックに、記者を名乗る女性がやって来る。ナオミの事件のことを聞きたいらしい。

ナオミに息子を殺された元ホステスの母親。息子はナオミから奴隷のような扱いをずっと受けていた上、最後は夜勤明けの疲れている中、海に連れて行かれ、溺死したらしい。脳梗塞を患い、左半身が麻痺。当然、なかなか職にありつけず、死んだ息子がナオミに騙されて購入した数々の電化製品をこのスナックにたびたび持ってきて、ママに買ってもらって生活している。近々、陸上自衛隊に入隊する予定の息子がいる。このスナックにも彼の車で来ている。母はそんな息子が今は唯一の生きがいなのか、自慢の種なのか。
死んだ兄は、母が生活保護を受けるために家を追い出された。働ける人が家にいたら、受給できないから。18歳で家を追い出された兄が、ナオミに頼らざるを得ない状態になったのは致し方ないこととも言える。そう、弟は考えているみたいだ。と言っても、それは家が貧乏だったから。母を責めることも出来ない。そんなジレンマに苦しみ、今は全てを過去のことにして、これからの自分の将来を考えていきたいような感じである。

ナオミの共犯だったが、それは詐欺や窃盗だけで、殺人には関与していないと不起訴になった男。ナオミはこの男が殺したと証言していたらしいが、それは認められなかったみたいだ。本当に違ったのか、それとも何かの力が働いたのか。今となってはもう分からない。出所後は、家に引きこもり、酒浸りの生活をしている。もはや、アル中の状態だ。ナオミの死刑執行を知り、このスナックにやって来る。それを連れ戻しにやって来る弟。兄のせいで、この狭い街だから、あらゆる人との付き合いが無くなって孤立することになった。妻が妊娠した時は、あれは兄の子供だなんて、風評を流され、結局、流産した。もう、むしかえして欲しくない。早く、時の流れと共に消してしまいたい。ナオミの死で決着がついた。だから、もうひっそりと暮らしたい。そんな思いでいる。

訪ねて来た記者が、こんな人たちと色々と接触する中で、事件の真相が浮き上がる。
実は、記者はその事件の裁判員だった。
自分の裁いた結果は本当に正しかったのか。真剣に、じっくりと吟味したつもりだった。でも、裁判のことを十分に知っている訳ではなかった。ナオミはずっと沈黙を保っていた。そのことを自分は批判的に捉えて、印象的にこいつが悪いと思ったりしたのは事実。でも、被告を裁く相手は国という巨大な組織。その沈黙を非難することは果たして正しかったのか。
あれだけの殺人を女一人で出来るわけは無いだろうという考えももちろんあった。でも、それは共犯の疑いをかけられた男の証言だけで、容易にくつがえされた。さも、そういう方向に導かれるように。ナオミだけを犯人に仕立てた方が都合がいいという、見えない力が働いていたのではないのか。

元裁判員は共犯の男を責める。いや、責めるというか、真実を知りたい意志の下で。
でも、その考えが更なる不幸を生み出す。
共犯の男は、ほぼ自供した。あの日から自分の中に押し殺していた事実。
生きている人は社会に守られている。これは嘘だ。何からも守られず生きていかないといけない人だっている。ナオミは、そんな社会を捨てていた。だから、彼女にとって法のルールなんて考えは希薄になっていたのだろう。そして、そんなナオミと同じように自分も社会を捨てて、共に時を過ごすことにした。でも、自分は最後の最後でもう一度、社会にしがみついた。
そんな共犯の男から吐き出された言葉。それに感謝する者もいる。息子を殺された母は、たとえどうであろうと、その共犯の男の言動が、ナオミの死を導いたのだから。
共犯の男は一人にしてくれと言って、二階の部屋に上がる。そして、数分後に首を吊っている姿で発見される。

元裁判員はこのことを全て告発しようとしていた。
でも、共犯の男の弟は、もう辞めて欲しいと願い出る。店だって、こんなことになってしまったら、もうやっていけない。常連客からは、もう忘れていいんじゃないのかと言われる。
このままでいいのだろうか。あの時、ナオミが何も言わなかったから、共犯の男が口をつぐんでいたから、そして、自分は何も出来ないからと声を発しなかったから。
正しい答えは分からない。
今は、ただ、ママがナオミのために地蔵として置いた単なる石の横に、共犯の男の小さな石、そして、同じように死刑で死んでいった数々の者たちの石を積み上げ、祈るだけ・・・

何か、本当に分からなくなって。
これはもちろんフィクションですが、実際の事件をモチーフにはしているのでしょう。
だから、それで裁かれた人がいるわけです。
どうやって裁いて、本当にそれが正しいなどと誰が言えるのだろうかという不安ばかりが残ります。
社会に絶望して、生み出されたような犯罪。その社会は国という組織が作り出す。その国がその犯罪を犯した人を裁く。そんな闇のかたわら、自衛隊のパレードみたいな明るい良き社会を見せる国。
私たちは沈黙していてはいけないことは分かっても、どんな言葉を発すればいいのだろうか。

死刑制度に関しては、感情的には人を殺しとるんだから、死んで当たり前ではあるわなあといった考えもありますが、それに固執してしまうのもおかしいなとも考えます。それは、冤罪のリスクとか、そんなものではなく、やはり人の命を人が奪うことに違和感がある。じゃあ、その人がやったことは、人が人の命を奪ったことじゃないのかと言われれば、その通りではあるのですが。
病気や災害や戦争で人が死んだ時、人はその悲劇を繰り返すまいと、研究に勤しんだり、対策を講じようとしたり、平和への考えを強めたりという建設的な考えをする。これは、亡き者への祈りのように感じます。失われた命を尊び、その命を失った者のため、自分のため、周囲の人たちのために、次にその命を繋げていこうとする。
本来はそんな考えで人は生きているように思うのです。命を一つでも失わないようにしていきたい。この考えが人間の世界を発展させてきたように思います。
それが、人が人を殺した時、罰する、その最高の罰として殺してしまうという破壊的な考えになる。
もちろん、病気や災害や戦争の死と殺人の死が同じ感覚で比較できるわけは無いとは思いますし、その憎しみをぶつける相手が神様や国みたいなものになってしまい、はっきりしないからということもあるのでしょうが。
では、人が人を殺した時は、その人だけを咎めて消し去ってしまえばいいのでしょうか。その人の悪意をなきものにすればいいのでしょうか。
でも、その人や悪意は、社会が生み出しているのかもしれない。そう思うと、結局、同じようなところに行きつき、やはり、それを繰り返さないためにすることは、その命を弔い、祈ることだけのような気もします。
この作品でママがしているような。
そして、それが正しいのか間違っているのか分からずとも、手を合わせるしか・・・

|

« ゴキかぶり【UNIT dy】141108 | トップページ | BIER -ビア-【モンゴルズシアターカンパニープロデュース】141109 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

お邪魔します。私は飽きっぽいのでブログはダメですね。今週末仰山行かれましたね~ ゴキかぶりだけが私のアンテナにはかからなかった作品ですね(物理的に。チラシがないと思う)。『沈黙』は笑の内閣を観に行ったときにくるみざわしんさんがゲストで来られていて一緒に石原さんがおられてチラシをもらったんです。公演数が少ないのであきらめました。『BEAR』も芸創でなければ。SAISEIさんの素晴らしすぎるブログで堪能します。ということはもしかして明日は子供金巨人行かれますか?

投稿: KAISEI | 2014年11月 9日 (日) 22時33分

>KAISEIさん

明日までに見てもらえてるかなあ。
私も、明日、子供鉅人を観劇する予定。17:30の回ですが。
終演後、しばらくエレベーターあたりに突っ立ってますので、見つけていただければ(゚▽゚*)

沈黙、BIER共にテーマががっつりした作品で疲れました。と言っても、そのテーマを感じ取りやすいように、巧い作品となっており、醍醐味をたっぷり楽しめる作品ではありましたが。
私は努力クラブを観逃したのが残念で・・・
逆に、大阪からは人間座が厳しいです。

投稿: SAISEI | 2014年11月10日 (月) 01時05分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 沈黙【Pカンパニー】141109:

« ゴキかぶり【UNIT dy】141108 | トップページ | BIER -ビア-【モンゴルズシアターカンパニープロデュース】141109 »