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2014年10月26日 (日)

衝突と分裂、あるいは融合【時間堂】141025

2014年10月25日 インディペンデントシアター1st (95分)

登場人物たちの意見のぶつかり合いに見入りながら、議論することや、それを活かすことを見出すような作品でしょうか。
テーマは原子力ですが、それだけではなく、あらゆることに共通して言えるようなことも含まれているようです。
科学も一つのベースになっていますが、自分も科学に携わる者として、この作品を観ると、今、新しい技術をやり遂げようとする時、次世代にその技術を繋げることの是非も考えなくてはいけないような気になりました。

<以下、ネタバレしていますが、公演が仙台、札幌、福岡、東京とずっと続くので、戻すのを忘れるから白字にはしていません。ご注意願います>

祖母が亡くなり、親戚たちが集まる通夜の席。
祖父はかつては原子力の研究をしていたみたいだが、今ではすっかりボケ気味。
息子たちや孫の顔もいまひとつ覚えていない模様。
そんな中、祖父は間違っていた、あの時、違う道を進んでいればという言葉を発する。みんなは、またいつものやつが始まったとうんざり顏だが、一番若い孫だけが、祖父の話を聞いてみたいと興味を示す。
祖父の回想が始まる。

戦後。敗戦から18年経つ1963年。
日本は、高度経済成長の中、これからの更なる国の発展のためにもエネルギー開発の必要性に迫られていた。
いずれは枯渇するであろう石炭や石油に替わるエネルギー源として、原子力を研究する施設では、ウランの核分裂によりエネルギーを生み出す原子力発電の研究を行っていた。
米国により既存の原子力研究施設を壊され、日本の量子力学の研究が遅れてしまうと泣いて抵抗した日本の原子力研究の祖である亡き仁科氏の意向を組んだ、日本の将来のエネルギー政策を担う重要な施設。
研究者たちは、危険も大きく、ちょっとしたミスが命取りになる肉体的にも精神的にも過酷な労働環境で日々働く。
ある日、本当にそのちょっとしたミスで、原子炉にトラブルが起こる。放置すれば、超臨界を起こし大爆発。所長は、内部弁の一時開放を決断する。これは、放射性物質の外部への拡散を意味する。爆発は避けられたものの、外部線量計は、すぐに被曝の危険性がある数値では無いとはいえ、明らかな放射能汚染を表す数値を示す。
この事態をどう報告するか。研究員たちの意見は分かれる。

そんな状況の中、原子力発電のことを子供達にも知ってもらおうと、研究員たちによる芝居の練習が行われる。披露する学校の先生も参加しているが、家族が長崎の原爆を体験しているので、原子力発電には否定的。先日から、急激に上がった線量計の数値に関しても神経質になっている。
さらに、政治家もやって来る。それは、原子力発電を推進している議員。日本のエネルギーに関する将来はもちろん考えているのだろうが、原子力発電所を稼働させることで得られるプルトニウムが、日本は原爆をいつでも作ることが出来るという世界各国への脅威や侵略に対する抑止力を与えることにも注目している。
さらに、現状のイギリス式の黒鉛減速炉から、米国式の軽水炉に切り替える可能性も探っている。もちろん、利権も絡んでいるのだろうが、日本の将来に、より期待できる方を、純粋な科学視点を持つ研究者に直接聞きたいところもあるみたい。
先生は絶対的に原子力発電に対して否定の態度を揺るがさない。研究者たちは、様々な意見を持つものの、スペースの問題や、資源の少ない日本において、冷却炭酸ガスを使用するこれまでの黒鉛減速炉より、日本の土地を活かして海水を使用できる軽水炉の道を薦める。
日本の原子力発電は軽水炉で進めていこう。そんな流れになり、トラブルもうやむやのままとなる。
祖父は、この研究所の一研究員として粛々と研究を続ける。

その行き着いた先が今。あの、震災の悲劇。
あの時、祖父は何も言えなかった。実際は、軽水炉にだって、いっぱい問題はある。その議論はなされぬまま、何かに誘導されるかのように日本の原子力発電はその道をたどることになった。
だったら、やり直してみれば。そんな孫の一言で、祖父は再び、あの日に戻る。

黒鉛減速炉か、軽水炉か。その質問に祖父は答える。
今の核分裂によるエネルギー抽出自体に問題がある。核融合がこれから開発される。それは、廃棄される放射線汚染物質も非常に少ない。
現に、この前だってトラブルが起こり、放射能汚染を引き起こしてしまっていることを内部告発。
このことが世間に知られたら、原子力の研究自体が否定されてしまうと隠蔽を促す者。自分たちの保身や私欲を満たすことだけを考えているのではない。日本の将来のため。科学を知らない一般の人は、科学的な理論など関係無しに少しのことで全否定しまう。そうなったら、日本のエネルギーはどうなるのか。
それでも、原子力研究の基本精神である、公開・民主・自主にのっとって、全てを公開すべきという者。
理屈じゃない。感情だけに任せて、ただただ原子力全てを否定し、その代替案にすら、何か陰謀が隠されていると否定していしまう人。
各々の立場、経験、考えに基づいて、自分のため、人のため、日本のために主張される意見の衝突。
結局は、核融合原子炉への道をこの時は進む。
祖父は核融合の研究の指揮を執る。しかし、その研究は成果を得られることは無かった。
枯渇するエネルギー。身近な生活に様々な支障が生じ、混乱する世の中。海外からの侵略に抵抗する術もなく日本の領土は今や半分になった・・・

祖父は何度も繰り返す。
ある時は、核融合に成功した。でも、それが日本にとって最善だったのかどうかは分からない。
そんな繰り返しを何度もする中、祖母が亡くなった数日後に祖父の命も終わりを迎える。
再び集まる親戚たち。孫は原子力の研究に携わりたいと考えているみたい。

作品名のとおり、衝突して分裂する人たちの議論が描かれます。融合はこれからということなのでしょうか。
様々な立場の人が主張する意見のぶつかり。
自分が医療に関わる研究者ですので、極論過ぎるところはあるとはいえ、この作品中の過激な研究者の意見に近いところがあるかもしれません。新しい医療にリスクがあることで、全否定してしまえば、いつまで経っても、その医療は現場に下りて来ず、私たちがその医療を受けることが出来なくなります。結局、自分で自分の首を絞めることになる。だからと言って、リスクなど無視して好き放題にしてしまえば、そのリスクが自分たちの命を脅かす。
難しい話です。基本的に、こういった議論はどちらが勝つとか負けるとかではなく、調整点を見出すことに意義があると思っていますが、これは正論で、そんなことになることはほとんどありません。
何かしらの結論を出して、道を進めなくてはいけません。衝突と分裂を好きなだけすると、核分裂のごとく、強大なエネルギーを生み出し、その道を進めるようになるのでしょうか。その時、放射性汚染物質のようなものが実は大量に廃棄されて、道は進めるけど、大きな問題を後に残すのか。だったら、融合の概念でしょうか。よくは知りませんが、廃棄物も少ないらしいですし。でも、そんなぶつかり合う意見の融合は難しそうです。現に、核融合はまだ実用化されていないみたいですし。

この作品は祖父がタイムリープして、何度も時間を繰り返します。
ちょうど、最近、タイムリープを扱った作品を観ていまして、タイムリープは、何かミッションが与えられるらしいです。そのミッションをクリアしないといつまでもタイムリープを抜け出せないという神様のいたずらで、そのミッションはタイムリープして戻った瞬間の時に隠されているのだとか。
この作品では、祖父が自分の意見を言うか言わないかといったシーン。黒鉛減速炉なのか軽水炉なのか。
そのミッションは何だったのでしょう。
何回ものやり直しの結末は、いつまで経っても最善の結果は得られていない。最後には祖父は死んでしまいます。そして、その意志はどうやら孫に託されたようです。
衝突も分裂も、一人の一つの意見や考えでは起こりません。たくさんの意見を持ち寄って、多くの人がぶつかり合う。そして、いつの日かそれを融合させる時を迎える。
科学というものを手にして、自分たちを発展させる力を持つ人類だからこそ、神様が世代を繋いで、いつの日かそのミッションをクリアしなさいと命題を出しているかのような気がします。
今を生きる私たちが出来ることは、時間を戻すことでは無く、次の世代にそのミッションをクリアしてもらうためにも、どうしたらいいのか、何を残せばいいのか、何を無くしておけばいいのか・・・を考えなくてはいけないような気がします。

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